会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、世界各国の会計基準設定主体や財務報告関係機関が集まって、各設定主体が取り組んでいる研究プロジェクトに関する議論や国際会計基準審議会(IASB)の基準開発へのインプットやサポートを行うための会議である。年2回、春と秋に定期的に開催されている。なお、この会議体は、これまで各国基準設定主体(NSS)会議と呼ばれていたが、今回の会議から正式に上記のIFASSという名称に変更された。
なお、2011年3月の会議から、カナダ会計基準審議会(AcSB)前議長のTricia O’Malley氏が、この会議の議長を務めている。
今回の会議は、2012年3月29日と30日の2日間にわたりマレーシアのクアラルンプールで開催された。
日本、マレーシア(ホスト国)、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オーストリア、オランダ、ベルギー、ノルウェー、スイス、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、シンガポール、香港、台湾、サウジアラビア、パキスタン、シリア、メキシコ、ブラジル、南アフリカ、スーダンの計29か国・地域の会計基準設定主体に加え、IASB、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)、国際公会計基準審議会(IPSASB)、IFRS諮問会議(IFRS-AC)からの参加者を合わせ、合計で59名が参加して行われた。
なお、IASBからはHans Hoogervorst議長、Ian Mackintosh副議長、鶯地隆継理事、張為国理事等が参加した。
企業会計基準委員会(ASBJ)からは、西川郁生委員長、加藤厚副委員長が参加し、小賀坂敦主席研究員、井坂久仁子シニア・プロジェクト・マネジャー、吉岡研究員がオブザーバーとして参加した。
No | 議題 | 担当 |
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3月29日(木) | ||
1 | IASBと国際財務報告基準財団(IFRS財団)の最近の状況 | カナダAcSB |
2 | 各地域グループからの報告 | 各地域グループ |
3 | IASBアジェンダ・コンサルテーション | IASB |
4 | 基準設定主体のモデル | オーストラリア会計基準審議会(AASB) |
5 | 米国におけるIFRSに関する状況報告 | 米国財務会計基準審議会(FASB) |
6 | 各国の時事的な問題(Topical issue) | |
(1) 法人所得税 | EFRAG、英国会計基準審議会(ASB)、ドイツ会計基準委員会(ASCG) | |
(2) 共通支配下における企業結合 | EFRAG、イタリア会計基準委員会(OIC)、フランス会計基準審議会(ANC) | |
(3) 開発費 | ASBJ | |
(4) 外貨建転換社債の会計処理 | インド勅許会計士協会(ICAI) | |
(5) 各国の小規模企業の会計基準 | 韓国会計基準委員会(KASB) | |
7 | IFASSの運営について | オーストラリアAASB |
3月30日(金) | ||
8 | ベストプラクティス文書 | フランスANC、IASB |
9 | 適用後レビュー | IASB |
10 | 影響度分析 | EFRAG、英国ASB |
11 | 公的セクターの概念フレームワーク | IPSASB |
12 | 会計単位 | カナダAcSB |
13 | 各国の時事的な問題 | |
(1) のれんの償却と減損 | イタリアOIC | |
(2) 継続企業の概念 | 英国ASB | |
(3) 営業利益の表示 | 韓国KASB |
カナダAcSB及びIASBのシニアディレクターより、前回の会議(2011年9月)以降現在までのIFRS財団とIASBの状況について説明がなされ、議論が行われた。
IFRS財団の評議員会、モニタリング・ボード(MB)、デュー・プロセス監督委員会(DPOC)の主な取組みについて説明が行われた。
評議員会とMBについては、2012年2月に公表された次の報告書の説明がなされた。
前者では、4つの領域(①財団のミッション、②ガバナンス、③プロセス、④資金調達)におけるIFRS財団の今後の戦略の提言がなされていること、後者では、IFRS財団のガバナンスの3層構造(IASB、評議員会、MB)の維持やMBのメンバー資格の限定
(IFRSを「使用(use)」している国の規制当局とする)が示されていることなどの説明があった。
また、IASBのシニアディレクターから、DPOCについて、デュー・プロセス・ハンドブックの改訂に向けた作業や、IASBのウェブサイトの改善の取組みなどの活動状況が説明された。
IASBの最近のIFRSの開発・改善に関する取組みについて、IASBのシニアディレクターから、次のプロジェクトを中心に報告がなされ、議論が行われた。
参加者との間では、特にヘッジのプロジェクトについて議論があった。FASBの検討状況について参加者から確認があり、FASB理事からは次のような回答があった。
他の参加者からは次のような意見もあった。
次の4つの地域グループから、各地域における活動状況の報告がなされた。
AOSSG議長(オーストラリアAASB議長)より、アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)の活動報告が行われた。昨年11月にメルボルンで第3回AOSSG会議を開催したこと、また、それ以降も非公式会合などを実施し、年に3、4回は会議を行っていることが説明された。また、現在は次のような課題に取り組んでいるとの説明があった。
また、次回は2012年11月にネパールのカトマンズで開催予定であるとされた。IFASS議長から、IASBがグローバルな組織となるうえで非常に重要なグループであるとのコメントがあった。
EFRAG議長から、EFRAGのアクティブプロジェクトやIASBの優先プロジェクトへの対応、エンドースメント(承認)の助言プロセスについての最近の活動状況の報告が行われた。主な内容は以下のとおりである。
GLASSは、2011年6月に、ラテンアメリカ地域の12か国が参加する地域グループとして設立されている。このGLASSの理事会の理事を務めるメキシコの参加者から、最近の活動状況について報告が行われた。
IASBに対するラテンアメリカ地域の意見形成を図るため、各種のワーキング・グループを設置し、検討を行っていることが紹介された。
PAFAは、2011年5月に、南アフリカSAICAが中心となり設立されている。SAICAの参加者から、最近の活動状況について報告が行われた。
前回会議以降、組織の戦略を策定し、5月には全体会合も予定していることなどが説明された。
2011年7月に、IASBは今後3年間の活動の方向性に関する意見を募集する協議文書「アジェンダ・コンサルテーション2011-意見募集」を公表している。今回の会議では、IASBのシニアディレクターから、この意見募集に対して寄せられたコメントの概要が報告され、今後の予定についての説明がなされた。
コメントでは、4つの優先プロジェクト(金融商品、収益認識、リース、保険契約)の完了やIFRSの維持管理、概念フレームワークの取組みなどの重要性を強調する意見が多く、また、個別の領域で取り組むべきとの意見が多かったものとして、次の項目が挙げられた。
さらに、今後の戦略として、概念フレームワークの進め方(資産や負債の定義など個別プロジェクトと関連性の高い問題から取り組むか)やIFRS解釈指針委員会のプロセスの見直しを通じたIFRSの維持管理の強化、証拠(evidence)に基づく基準設定プロセスの構築、NSSの支援や外部の調査研究の活用などを検討しているとの説明があった。
参加者からは次のような意見があった。
オーストラリアAASBは、各国のNSSがグローバルな会計基準の開発に貢献し、効果的な活動を行うのに役立つ基礎を提供することを目的として、NSSが備えるべき特性などを示したNSSの「モデル」の開発を行っている(*1)。モデル案は次の項目で構成されている。
例えば、基本的な特性には、①公益のための行動と中立性、②独立性、③客観性が、補強的な特性には、④能力(広範な専門能力の保持)、⑤有効性、⑥効率性が挙げられている。
モデル案の内容は、プロジェクトチームにより事前に検討が行われてきており、日本もそのメンバーに参加している。今回の会議では、前回の会議(2011年9月)からの主な変更点や事前の検討において課題とされたいくつかの論点(NSSが独自にIFRSの解釈を出す可能性のある状況の記述など)が説明された。
このモデル案について、ASBJからは、ベストプラクティス文書(後述8.参照)における検討事項との共通点が多いため、両者を合わせて検討する必要があると指摘している。AASBから、モデルの最終化はベストプラクティス文書の改訂の完了後に行うものとし、現段階ではあくまで草案として公表したいと考えているとの説明があった。
他の参加者からの主な意見は次のとおりである。
IFASS議長からの提案もあり、再度、IFASSメンバーに回付して必要な修正を行ったのち、「草案」としてモデル案をウェブサイトに公表する方向で概ね合意された。
FASB理事より、米国における最近のIFRSの動向について、特に、米国証券取引委員会(SEC)スタッフの現在の作業状況と今後の予定を中心に報告がなされた(*2)。
IFRSの適用に関するワークプラン(2010年2月にSECが公表)に基づく作業が行われており、フィールド・ワークを終え、SECスタッフは現在、次の2つの作業を進めている状況にあると説明された。
前者の公表が最短でも5月となり(*3)、その後に後者の提案が行われる予定であること、米国における大統領選挙の影響を受ける可能性もあることなどが説明された。現在、FASBの実質的な役割を含んだエンドースメントのメカニズムの検討が行われており、次のような点を促進するメカニズムの構築が課題と考えられているとの説明があった。
参加していたIASBの議長からは、次のような発言があった。
他の参加者からは、以下のような意見もあった。
その他、フランス、オーストラリア、英国の参加者などからもSECの意思決定時期の遅延に対する懸念が示されていた。FASB理事からは、SECのスタッフも懸念を十分理解しているはずだが、財務報告の改善が目標であり、品質を無視はできず、コストが便益に見合う仕組みを見つけ出していくことが必要であろう、との意見が述べられた。
本セッションは、2010年4月のNSS会議以降、議題として取り上げられている。IFRSの適用に際して、各国で直面している問題や懸念等について参加者間で情報共有を図り、IASBに対して情報のインプットを行うことを目的としたセッションである。
今回の会議では、各国から次の論点が挙げられ、議論が行われた。
EFRAGは、英国ASB、ドイツASCGとともに、プロアクティブ・プロジェクトとしてIAS第12号「法人所得税」の見直しを検討してきている。今回の会議では、2011年12月に公表した討議資料「法人所得税の財務報告の改善」の概要について説明がなされた。
討議資料は2部構成となっており、第1部では、現行のIAS 第12 号の改善として、利用者の視点から、税率調整に関する開示の充実や繰延税金の割引、不確実な税務ポジションの取扱いなどの検討が行われている。第2部では、より根本的な問題として、法人所得税の会計処理について、以下の5つのアプローチが提示され、比較検討が行われている。
一時差異アプローチ | 現行IAS第12号のアプローチ |
---|---|
フロースルー・アプローチ | 各期の利益に課される税金をその期の税金費用とし、配分を認めないアプローチ |
部分的配分アプローチ |
将来の追加的な税金支払につながると予想される範囲内で期間差異の影響を認識する |
評価調整アプローチ | 期間差異の影響を、繰延税金という別建ての項目とはせず、関連する資産・負債の調整として扱うアプローチ |
アクルーアル・アプローチ (期間差異アプローチ) |
報告期間のすべての取引(一時差異でないものも含む)の税効果を反映し、税金費用を算定するアプローチ |
本討議資料は、法人所得税の会計処理の議論の出発点として、論点とその分析を提示して議論を促すことを目的としていると説明された。参加者からは、このような複雑な論点への取組みを称賛する意見などがあった。
EFRAGから、2011年10月に公表した討議資料「共通支配下における企業結合の会計処理」の概要について報告がなされた。
現行のIFRSでは、共通支配下の企業間の企業結合を扱う明示的な基準がなく(IFRS第3号「企業結合」は範囲から除外)、実務において多様な会計処理が生じているといわれている。EFRAGは、イタリアOIC、フランスANCとともにこのテーマをプロアクティブ・プロジェクトとして検討してきており、討議資料はその成果として公表されたものである。
この討議資料では、共通支配下の企業結合の会計処理について、主に、IFRS第3号の取扱い(取得法)の類推が適当かどうかという視点から、①常に類推できる(取得法)、②類推は適切ではない(簿価引継又はフレッシュ・スタート法)、③意思決定に有用な情報となる場合のみ類推できる、といった3つの見解が示されている。
また、類推可能かどうかの検討に影響する可能性のある共通支配下の企業結合に固有の特徴として、次のような点が挙げられている。
なお、討議資料における検討の範囲は、譲受企業の連結財務諸表における当初の認識と測定のみとされており、個別財務諸表は対象とされていない。
参加者からの主な意見や質問は以下のとおりである。
ASBJから、IFRSに基づく開発費の資産計上に関する調査結果の報告を行った。
現行のIAS第38号「無形資産」では、開発局面の支出について、所定の要件(*4)をすべて立証できる場合に限って資産の認識を要求している。この取扱いについて、ASBJは、IASBのアジェンダ・コンサルテーションに対するコメントの中で、適用後レビューを実施し、適用上の問題の有無の調査が必要であるとの意見を述べている。
今回の会議では、IFRS適用企業における開発費の資産計上の開示事例を用いてASBJが行ってきた調査の結果報告を行った。この調査は、2007年度から2010年度までのIFRS適用企業63社のアニュアルレポートを用いて各社の「資産化率」(*5)などを調査し、資産計上について、業種間及び業種内の企業間の比較分析を行ったものであり、分析の補完のため、日本の企業数社へのヒアリングも行っている。
調査の結果、資産化の傾向等から、企業を次の4つのグループに分類できるとし、分類Ⅲの業種について企業間の資産化率等のばらつきが特に見られたこと、ヒアリング等も通じて、資産化のための要件(「技術上の実行可能性」など)の立証の困難性も見られたことなどの説明を行った。
分類 | 業種 | 開発費の取扱い |
---|---|---|
I | 製薬、食品・ |
資産計上を全く行っていない、又は、ほとんど行っていない。 |
Ⅱ | 自動車 | 資産計上を行っている。資産化率は高いものの、企業間で多少のばらつきが見られる。 |
Ⅲ | 自動車部品、電機、重電 | 資産計上を行っている企業と行っていない企業が混在している。前者の企業では、資産化率にかなりのばらつきが見られる。 |
Ⅲ | その他 | 業種としての傾向を特定できず、ⅠからⅢのいずれにも該当しない。 |
ただし、資産計上の判断プロセスや根拠、「立証」の解釈、事後の測定、費用対効果などの分析には、既存の開示情報のみでは調査に限界があるため、適用後レビューの実施を通じて検証していくことが適当であるとの提案を行った。
参加者からの主な意見は次のとおりである。
ASBJからは、補足として、公正価値による開発費の資産化は、自己創設のれんの認識や将来利益の計上につながりかねず、避けるべきと考えていると述べ、また、IAS第38号の資産化の定めを実質的なオプションと捉える意見も過去に聞いてきたが、オプションと扱ってよい問題とは考えておらず、検討していく必要があるとの意見を述べた。
IFASS議長からは、このテーマのさらなる調査について支持があるだろうとの意見があった。また、オーストラリアAASBから、ASBJの作業とも関連した作業として、企業結合における無形資産の取得に関する当初の会計処理の調査結果について、次回の会議で報告したいとのコメントがあった。
インドICAIより、外貨建転換社債の発行者側の会計処理に関して直面している問題の報告がなされ、改善案が提示された。
このインドの外貨建転換社債は、発行者の自国通貨以外の通貨で発行され、発行者の資本への転換権を伴う負債と資本の混合商品である。IAS第32号「金融商品:表示」では、通常の転換社債であれば、社債部分を負債、転換権部分を資本として分離処理することになるが、この外貨建転換社債については、IAS第32号の負債と資本の区分に関する原則(いわゆる固定対固定の原則(*7))を満たさず、全体として金融負債に区分され、会計処理される(転換権部分の評価損益が毎期純損益で認識される)と解されている。このため、利益のボラティリティが増し、企業の業績評価に際して誤解を招く数値となっているとの説明があった。
インドの国内会計基準では、IAS第32号の規定を導入しつつも、当該社債については、より実質を考え、転換価格が固定されている限り、転換権部分を資本として扱うよう修正しているとされ(いわゆるカーブアウト)、IASBもそのような修正を検討すべきとの提案がなされた。
IASBの理事からは、過去にIFRS解釈指針委員会でこの問題を検討した際には、別途、資本の特徴を有する金融商品のプロジェクトで対処する問題と考え取り上げなかったが、アジェンダ・コンサルテーションの結果、再度当該プロジェクトが取り上げられれば検討されることになろう、とのコメントがあった。
韓国KASBから、各国の小規模企業向け会計基準の調査結果について報告が行われた。
韓国では2011年から、会計基準の適用について次の2階層の仕組みに移行している。
①上場企業の会計基準 - IFRS(K-IFRS)
②非上場企業の会計基準 - 従前の韓国会計基準(K-GAAP)
しかし、韓国の小規模企業の間のK-GAAPでも過度な作成負担があるとの懸念から、小規模企業団体や関連政府機関による会計基準の簡素化の動きが生じており、小規模企業向けの会計基準を新たに設けるか(3階層とするか)、KASBも加わって、現在検討を行っているとの説明があった。
会議では、各国の状況の調査結果が、小規模企業の定義、外部監査の有無、基準設定権限の所在、基準の主な特性等に整理されて提示された。小規模企業の定義は各国でさまざまであるが、ほとんどの国で、基準の簡素化や開示規定の削減が行われていること、設定権限はNSSに限定されず、立法機関の場合もあることなどが示された。
参加者からの主な意見は次のとおりであった。
オーストラリアAASB議長より、今後のIFASSの運営に関して、議長選任のプロセスの確認などが行われ、主に次のような点が概ね合意された。
ASBJからは、議長選任の投票プロセスを構築するのであれば、IFASSのメンバーシップ、母集団の確立もある程度必要であるとの意見を述べた。
また、IFASS会議の開催場所についての意見交換がなされ、次々回(2013年上期)はブラジルで開催することが合意された(なお、2014年上期と2015年上期では、それぞれインドと日本が候補に挙げられている)。
IFASSでは、2006年2月に公表された「ベストプラクティス文書(Statement of Best Practice):IASBとその他の会計基準設定主体との協力関係」の見直し作業を昨年より行っている。当該文書は、各国基準設定主体(NSS)とIASBとの関係について記述したものであり、IFRSとの関係の中で、IASBが行うべき活動、NSSが行うべき活動などが示されている。見直し作業は、フランス、ドイツ、イタリア、英国、日本で構成されるワーキング・グループが中心となり見直し作業が行われている。
今回はIASB側から、新たな検討文書として、覚書(Memorandum of Understanding)形式の草案が提示され、IASB副議長から内容の説明が行われた。この覚書は次の項目から構成されている。
IASB副議長からは、IASBと各国のNSSとの関係をより正式なものにするため、互いの関係をより現実的な形で記述したとの説明があった。
続いて、ワーキング・グループのフランスANC議長より、覚書の内容についていくつかの懸念事項が示された。NSSはIFRSの開発に際しての機械のパーツではなく、よりバランスのとれたパートナーシップの関係が必要であること、サプライチェーンや補完的役割といったものでなく、NSSの多様性を尊重した「ネットワーク」の構築が重要であること、などが述べられた。
その他、参加者からは、主に次のような発言があった。
IFASS議長から、草案を出発点として、参加者の意見を踏まえて、不足や修正すべき点の検討作業をワーキング・グループに依頼したいとの提案がなされた。また、地域グループに特有の論点については、EFRAGやAOSSGなど各地域グループで追加が必要な項目等を検討し、ワーキング・グループに提案することとされた。
IASBのシニアディレクターより、適用後レビューの取組み状況について説明がなされた。IASBの適用後レビューは、基準の開発段階で議論のあった論点や、予想外のコストや適用に際して生じている問題を対象に見直しを行い、解決策を提供するための枠組みである。最初の項目として、IFRS第8号「事業セグメント」に関する手続が現在進められている。
現在は、具体的に検討すべき論点の把握や、論点の調査のための計画の策定段階にあるとされ、現段階までに把握されたIFRS第8号の論点などが示された(例えば、企業間のセグメントの不整合、地域別情報の欠如、セグメントの集約規準の主観性・複雑性など)。
また、今後、意見募集やワークショップの開催、学術研究の調査などを通じて、把握した論点に関する証拠を集め、分析していく予定であると説明された。
参加者からは次のような意見があった。
EFRAGから、2011年1月に英国ASBと共同で公表した討議資料「会計基準の影響に関する検討」に寄せられたコメントの概要報告が行われた。
この討議資料では、会計基準の設定プロセスにこれまで以上に影響度分析を組み込むことが提案されている。コメントでは、基本的にこのプロジェクトを支持する意見が多かったとされ、また、個別の論点に対する関係者の意見が紹介された。主な意見は次のとおりである。
EFRAGでは、現在、これらのコメントに基づき、フィードバック文書とポジションペーパーを作成中であるとの説明がなされた
参加者からは次のような意見があった。
IPSASBから、現在取り組んでいる公的セクターの財務報告に関する概念フレームワークの開発状況について報告が行われた。
この開発は、2006年にIFASSなどとの共同プロジェクトとして検討が開始されたものであり、公的セクターにおける主体(entity)の一般目的財務報告の作成と表示に適用される概念フレームワークの開発を目的としている。IPSASBでは2009年にこの取組みを主要な戦略項目と位置付け、現在、次の4つのフェーズの検討を進めているとの説明があった。
フェーズ | 項目 | 公表物(2012年3月末現在) |
---|---|---|
第1フェーズ | 公的セクターによる一般目的財務報告 | ED(2010年12月公表) |
第2フェーズ | 構成要素と認識 | CP(2010年12月公表) |
第3フェーズ | 測定 | CP(2010年12月公表) |
第4フェーズ | 表示 | CP(2012年1月公表) |
ED:公開草案、CP:協議文書
各フェーズの公表文書には、IASBの概念フレームワークとの比較も示しており、基本的にはIASBと異なる立場を追求するものではなく、IASBの同プロジェクトの早期再開を期待しているとの意見が述べられた。
個々のフェーズでは、それぞれ公開草案等に寄せられた意見を検討中であり、例えば、構成要素と認識のフェーズでは、「強制力(enforceability)」を負債の定義の基本的特性とすべきかどうか、測定のフェーズでは、公正価値について、IASBの定義ではなく、より一般的に議論していくかどうかなどを検討しているとの説明があった。
参加者からは、公正価値の定義を一般的に議論する理由について質問があった。これに対しては、IFRS第13号「公正価値測定」の公正価値の定義が非常に具体的なものであったためとの回答がなされた。ただし、関係者の意見も踏まえ、そうした方向性が適当か引き続き議論していく予定であるとの説明がなされた。他の参加者からは、次のような意見もあった。
カナダAcSBから、「会計単位」の問題に関する現在までの検討状況が報告された。
このプロジェクトの目的は、会計処理すべき単位を決定するための原則の開発であり、IASBとFASBの概念フレームワーク・プロジェクトにおける「構成要素及び認識」と「測定」のフェーズに密接に関連するものと位置付けられている。プロジェクトチームも組成され、英国、オーストラリア、カナダ、ブラジル、韓国、シンガポール、南アフリカに加え、日本もメンバーとなっている。
今回の会議では、会計単位の定義として、次のような暫定的な定義が示され、それに関連して、航空事業と採掘事業を題材に、事業の各場面において会計単位をどのように考えるかについての設例が示された。
「会計単位とは、単一の構成要素として認識される一組の権利又は義務であり、一般目的財務報告のためにそれらの構成要素を集約(aggregation)又は分解(disaggregation)する水準である」
参加者からの主な意見は次のようなものであった。
参加者からの意見を踏まえ、IFASS議長から、どのような場合に会計単位が重要となるかを全般的な原則の中に含め、個別に関係する項目をリストアップして、ASBJの提案のようにボトムアップによる検討も行っていくことが提案され、締めくくられた。
前日の同セッションに続き、IFRSの適用に関連した次の論点が取り上げられ、議論が行われた。
イタリアOICから、現行のIFRS第3号におけるのれんの事後測定の取扱いについて、適用後レビューの実施を求める提案が行われた。
2004年改正前のIFRS第3号では、のれんの20年以内の償却が求められていたが、償却額の恣意性などを理由に改正され、厳格な減損テストの実施を前提にのれんの償却は廃止されている。しかし、この取扱いについて、ここ数年の国際的な研究の中には異論を唱える議論も見られ、また、イタリアでは、金融危機の影響の防止に十分でなかったとして疑問視する意見も関係者から寄せられている。
このような状況から、イタリアOICでは、プロジェクトを立ち上げ、IASBのIFRS第3号の適用後レビューの実施に合わせて十分なインプットを提供するため、IFRS第3号当時の改正が適当であったか(のれんを非償却とする理由が妥当であったか)、調査を実施しているとの説明がなされた。会議では、次の4つの観点から、イタリアにおける研究やこれまでの経験について、説明が行われた。
例えば、のれんの減損の情報価値については、一般に、その情報の公表前に市場は織り込み済みであることが知られており、会議では、金融危機の前後の市場の株価とのれんの減損情報の関係を示した図などを用いてそうした点の説明が行われた。
また、今後のプロジェクトの進め方が示され、欧州その他の国や地域の利用者への質問状の送付を行うことを予定しているとされた。
参加者からの主な意見は次のとおりである。
英国ASBから、現在英国で行われている継続企業と流動性リスクに関する作業について、特に、現在、英国財務報告評議会(FRC)から行われているシャーマン調査(Sharman inquiry)の内容と寄せられたコメントを受けた検討状況について報告がなされ、参加者との間で意見交換が行われた。
このシャーマン調査とは、2011年3月にFRCの専門パネルが公表したもので、継続企業と流動性リスクに関する企業のプロセスの見直しの提案について、関係者の意見を求めるものである。2008年金融危機の当時、一部の銀行などが無限定の監査意見を受けた直後に財政難に陥ったことが議会などから注目されたことが背景にある。FRCは、調査に対するコメントを踏まえ、2011年に予備的な報告書を公表しており、例えば、次のような項目が検討されている。
参加者からの主な意見は以下のとおりである。FASBでも、金融危機後、継続企業の開示の議論を行っている。継続企業の開示
韓国KASBから、韓国においてK-IFRSの適用に際して生じている「営業利益」の表示の問題についての報告がなされた。
従前の韓国基準(K-GAAP)では、営業利益の表示が強制されており、持続的な利益を示すものとして、利用者にも広く使われていた。しかし、IFRSでは営業利益の表示の強制がなかったため(*8)、K-IFRSへの移行時に、IFRSへの準拠に反しない範囲で、財務諸表又は注記での営業利益の開示の要求が追加された。ただし、営業利益の定義や内訳は定めなかったことから、現在では、営業利益は開示されることになったものの、その内訳にばらつきが生じ、企業間の比較可能性の懸念という別の問題が生じていることが説明された。
韓国KASBからは、この問題への対処策として以下の3つの案が示された。
案A:IASBにおいて独立のプロジェクトとして対処する。
案B:各国のNSSがガイダンス(定義、含めるべき項目など)を定め対処する。
案C:各国の規制当局がガイダンスを定め対処する。
参加者からの主な意見は次のとおりである。
IFASS議長から、次回の会議におけるテーマとして、次のような候補が示された。
次回のIFASSの会合は、2012年10月にスイスのチューリッヒで開催予定である。
以上