ASBJ 企業会計基準委員会

2015年上期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、毎年春秋の2回会合が開催される、各国会計基準設定主体及びその他の会計基準に関連する諸問題に対する関心の高い組織による非公式ネットワークである。議長は、元カナダ会計基準設定主体の議長であり元国際会計基準審議会(IASB)メンバーであるトリシア・オマリー氏が務めている。

今回の会議は、2015年3月23日と24日の2日間にわたりアラブ首長国連邦のドバイで開催された。参加者は、英国、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、日本、韓国、香港、インド、米国、カナダなどの各基準設定主体からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)からの代表者及びその他の地域グループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)からの代表者など総勢69名であった。IASBからはイアン・マッキントッシュ副議長他が参加した。

企業会計基準委員会(ASBJ)からは、小野委員長、小賀坂副委員長、関口常勤委員が出席し、太田専門研究員がオブザーバーとして参加した。

Ⅱ 今回の会議の概要

No 議題 担当
2015年3月23日
1 IASBワークプラン及びIFRS財団の最近の状況について─プロジェクトの状況に関する議論 IASB、カナダ(*1
2 地域グループからの報告
⑴アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)
⑵欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)
⑶ラテンアメリカ会計基準設定主体グループ(GLASS)
⑷全アフリカ会計士連盟(PAFA)
各地域グループ
3 国際公会計基準審議会(IPSASB)からのアップデート IPSASB
4 IAS規則のレビューについて ドイツ
5 IFRS第3号「企業結合」の適用後レビュー─今後の取組み IASB
6 メンバーによるプロジェクトの報告
 のれんの減損及び償却に関するプロジェクト 日本、EFRAG、イタリア
7 IFASS会議の運営について IFASS議長
2015年3月24日
8 概念フレームワーク
⑴純利益とその他の包括利益(OCI)の表示及び事業モデル 日本、米国財務会計基準審議会(FASB)
⑵測定
英国
⑶報告企業 オーストラリア
⑷負債の定義及び認識 FASB
9 時事的な問題
⑴IFRS第10号「連結財務諸表」の適用─第4 項⒜(ⅳ)への懸念 香港
⑵債務不履行事象による非流動負債への分類─IAS第1号「財務諸表の表示」及び負債の分類についての公開草案 インド
10 影響度調査レポート IASB
11 メンバーによる新たな取組み
⑴韓国における作成者の観点によるIFRSの適用のコストと便益 韓国
⑵IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の適用に関する開示(IASBの開示に関する取組みの一部) イタリア

1. IASBワークプラン及びIFRS財団の最近の状況について

⑴プロジェクトの状況に関する議論

IASB及びカナダ会計基準審議会(AcSB)から、IASBの作業計画について、主に次の項目について各プロジェクトの状況が説明された。

  • 基準設定プロジェクト(保険契約、リース)
  • 概念フレームワーク、開示に関する取組み
  • リサーチ・アジェンダ(共通支配下の企業結合、持分法等)
  • IFRS第3号「企業結合」の適用後レビュー
  • 収益の移行リソース・グループ(TRG)会議参加者から示された見解及びIASB関係者からのコメントの概要は次のとおりである。

(開示に関する取組み)

  • 開示に関する取組みに関しては、どのように修正すべきか、全体像を示すことが重要であると考える。(EFRAG、オランダ)

(持分法)

  • 未実現損益の消去は、概念的に検討が必要であるため、短期的な取組みにより対処することは難しいのではないかと考えている。(ASBJ)
  • 個人的な意見としては、持分法を測定基礎と位置付けるのであれば、他の会計処理との整合性を踏まえ、未実現損益の消去の規定を削除し、減損モデルに依拠することになると考える。(IASBスタッフ)

(収益の移行リソース・グループ(TRG))

  • TRGへ今まで多くの質問が寄せられているがその大部分が基準の適用時に判断を用いることにより解決可能だと考えている。(IASB副議長)
  • 収益基準は、適用の遅延を防ぐためにも、致命的な欠陥がない限り修正すべきではない。(ドイツ)
  • IASBは、6月の公開草案で提案する論点に対処した後は、致命的な欠陥がない限り修正することを予定していない。(IASB 副議長)
  • 多くの論点が米国から示されているが、米国だけの問題ではないと考える。また、対処すべき論点は多くなく、基準を適切に理解するための論点である。(FASB)
  • 発効日について米国では、比較情報が2期間求められることから、他の法域よりも適用が困難であるという側面がある。発効日については4月に議論を行うが、当初の発効日を維持するのは困難かもしれない(*2)。(FASB)

2.地域グループからの報告

アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)、ラテンアメリカ会計基準設定主体グループ(GLASS)、全アフリカ会計士連盟(PAFA)から、それぞれ、近況について説明がされた。とりわけ、EFRAGからは、新たに開発又は改訂された国際財務報告基準(IFRS)をエンドースメントするにあたって、新たに、次の点を考慮しつつ、それらが欧州の公益に寄与するか否かに関する検討を行うことが要求されることとされた旨が説明された。

  • IFRSにより、財務報告が改善し、透明性が高まり、投資家保護が改善されるか
  • 便益がコストを上回っているか
  • ネガティブな副次的な影響がないか(例えば、経済成長や金融の安定性を阻害)

3.国際公会計基準審議会(IPSASB)からのアップデート

このセッションでは、IPSASBから、主なプロジェクトの状況のほか、次の新たに公表された国際公会計基準(IPSAS)の概要について説明が行われた。

  • 他の企業に対する持分(2014年12月に承認、2017年1月1日に発効)
  • 発生主義のIPSASの初度適用(2014年12月に承認、2017年1月1日に発効)

4.IAS規則のレビューについて

欧州委員会(EC)は、規則1606/2002(通称「IAS規則」という。)のレビューを実施している。ECは、レビューにおいて、すべての利害関係者からIAS規則に関する経験についての意見を募集するためにアンケート調査を行っており、IAS規則の目的適合性、IFRSの長所、エンドースメントのメカニズムと要件、IFRS財務諸表の品質などについて質問をしている。このセッションでは、アンケート調査の主要な点に対して示されたフィードバックの概要が紹介された。

5.IFRS第3号「企業結合」の適用後レビュー、のれんの減損及び償却に関するプロジェクト

このセッションでは、IASB関係者からIFRS第3号「企業結合」の適用後レビュー(PIR)の概要が説明された後、ASBJ、EFRAG、イタリア会計基準委員会(OIC)がのれんの減損及び償却に関するプロジェクトの概要の説明を行った上で、各項目別に参加者による議論が行われた。

⑴背景

①IASBスタッフによるIFRS第3号の適用後レビューに関する説明

IASBは、IFRS第3号のPIRにおいて公表された「情報要請」に対して寄せられたコメント・レター、アウトリーチ活動において受けたフィードバック及び学術文献のレビューの結果を踏まえて、2014年12月会議においてリサーチ・アジェンダに追加することを暫定的に決定している。これに関して、IASB関係者から、リサーチ・アジェンダとして、次の内容について取り組んでいく予定である旨について説明がされた。

  • IAS第36号「資産の減損」における減損テストを改善する方法
  • のれんの事後の会計処理(減損のみアプローチと償却及び減損アプローチの相対的利点)
  • 事業の定義を明確化する方法
  • 顧客関係やブランド名などの無形資産の識別及び測定

②のれんの減損及び償却に関するプロジェクト

IFRS第3号のPIRの動向などを踏まえ、ASBJ、EFRAG、OIC は、リサーチ・グループ(*3)を結成した上で、のれんの償却及び減損に関するリサーチを行っている。ASBJ、EFRAG 及びOIC は、2014年7月にディスカッション・ペーパー(DP)「のれんはなお償却しなくてよいか」(*4)を公表した後、2015年2月に寄せられた主要なコメントを記載したフィードバック・ステートメント(*5)を公表した。

これらのコメント提出者の過半数は、のれんの償却を再導入すべきであるという見解に同意したが、同時に、コメント提出者は、減損テストを改善する分野があることを指摘していた。また、多数のコメント提出者は、のれんの償却を再導入する場合には、実質的にすべての無形資産に同様の要求事項を設けるべきであると考えていた。

リサーチ・グループは、受け取ったフィードバックを踏まえ、今後、次の点について検討を行っていくことを予定している。

  • のれんの償却期間の見積方法
  • 減損テストの改善(テストの頻度、資本生成単位(CGU)の概念及び識別する方法、割引率など)
  • のれんの償却が再導入される場合に必要と考えられる開示要求の変更点
  • のれんの償却が再導入される場合に必要と考えられる無形資産の要求事項に関する変更点
⑵議論

上記概要の説明に対して、参加者からは主に次の発言がなされた。

(プロジェクトの進め方について)

  • まずは、減損テストを改善した上で、のれんの事後の会計処理を検討すべきである。(英国)
  • 米国では、企業結合に関する適用後レビューの結果、IASBがリサーチ・アジェンダとして特定した項目と同様、4つの項目を最優先項目として特定した。我々は、できる限りIASBとのコンバージェンスを維持したいと考えており、IASBに対して、リサーチにどのくらいの時間を要するかを確認したいと考えている。(FASB)
  • FASBが、公開企業及び非営利組織へののれんの会計処理について、最終的な結論に至る前に予備的な投票を行った際には、4名のFASBメンバーが減損テストの簡素化を支持し、3名のFASBメンバーが償却を支持していた。しかし、FASBが減損テストの簡素化で進めるのかどうかについては現時点では不明である。(FASB)
  • IFRS第3号のPIR に対するフィードバックとDPに対するコメント数を踏まえると、のれんの事後の会計処理がリサーチ・アジェンダに追加されたからといって、改めてディスカッション・ペーパーを公表する意義は少なくとも乏しいのではないか。(ASBJ)
  • IASBのデュー・プロセス上、リサーチ・プロジェクトの対象であるからといってディスカッション・ペーパーを公表しなければならないとされていないものの、減損テストの改善とのれんの事後の会計処理を並行してリサーチを進めた上で、最初の成果としてディスカッション・ペーパーの公表が想定される。IASBは十分なフィードバックを受けているが、意見が二分されていることを踏まえると、ディスカッション・ペーパーへのフィードバックによって、プロジェクトをどのように進めるかについての有用な示唆が得られるものと考えている。(IASB副議長)
  • ディスカッション・ペーパーといっても大小があり、このトピックに関しては、今までの議論を取りまとめた上で、比較的短い期間で対応することが有用ではないか。(IFASS議長)

(学術文献のレビューについて)

  • IASBのスタッフによって行われたのれんの事後の会計処理に関する学術研究のレビューの結果は、次の理由により、学術研究の発見事項が過大評価されている可能性が高い。(FASB)
    • (IASBが示した)学術研究の発見事項は、減損のみのアプローチにおいてのれんの減損が市場でどのように評価されるのかを示しているのであって、償却及び減損アプローチにおいてのれんが償却された上でのれんの減損が報告された場合の市場の評価と、いずれが価値関連性が高いかが示されていない。
    • 従前の会計基準からIFRSに移行したことにより、のれんに関して価値関連性が高まったとされているが、価値関連性が高まるかどうかは、執行又は監査の状況とも関連しているため、必ずしも会計基準の変更のみによる訳ではない。

(のれんの事後の会計処理について)

  • 減損のみアプローチにおいては、購入のれんの帳簿価額と自己創設のれん及び購入のれんが比較されているため、減損損失の計上が遅れるのが当然であり、減損のみアプローチが概念的に優れているかどうかは不明である。(FASB)
  • のれんの償却は、費用が二重計上されるという懸念があったため、廃止されたのではないか。(IFASS議長)
  • のれんの償却により、費用が二重計上されるとは考えていない。取得のれんが事後の期間において減価する費用とのれんを維持するための費用の2種類の費用が存在するため、これらの2種類の費用は区別する必要があると考えている。(ASBJ)
  • のれんの償却は、理論的ではなく実用的な方法と考えている。(英国)
  • のれんの償却は実用的なアプローチであり、慣習である。無形資産は元々、償却期間及び償却方法を決定することは困難である資産と考えられる。(ドイツ)
  • 概念的な議論は別として、(市場への)シグナルとして情報価値があるのは、減損のみアプローチである。投資者は、一部の(識別可能な)無形資産を含めて、のれんを償却しないことを望んでいる。(英国)
  • 投資によっては、最終的に成功する投資もあり、その場合には、のれんの償却を吸収するという昔の学術証拠もある。(IFASS議長)
  • のれんを償却するにしてもしないにしても、実用的でシンプルな解決策がより良いと考えている。したがって、のれんが償却される場合の、償却期間の再評価や償却方法など複雑性が生じる可能性がある提案には同意しない。(FASB)
  • のれんを償却する場合に、減損のみアプローチより複雑にしないことに留意する必要がある。(IFASS議長)

(のれんの償却期間について)

  • のれんの償却期間に関しては、最長20年以内の償却を求める各国基準があるが、取得のれんは、3年から7年くらい、最長10年程度で減価すると考えられる。(FASB)
  • CEOの交替時に減損損失が早く計上されるという証拠があるようである。CEOの在任期間が平均5年であることを踏まえると、償却期間も5年が妥当である可能性がある。(IFASS議長)

(無形資産について)

  • IAS第38号「無形資産」の要件を満たす識別可能な無形資産は、減価せずに、最終的に売却できるものもあるため、すべてを償却するように要求事項を変更することは妥当ではない。(IFASS議長)

6.IFASS会議の運営について

このセッションでは、次回会議の開催場所等について確認がされたほか、トリシア・オマリーIFASS議長から、2016年3月のIFASS会議をもって、議長を辞任する意向が表明され、新議長の選挙のプロセスについての提案がなされた。

7.概念フレームワーク

IASBは、2013年7月に公表したディスカッション・ペーパー「『財務報告に関する概念フレームワーク』の見直し」に寄せられたコメントを踏まえ、2014年3月より再審議を行っており、2015年5月に公開草案が公表されることが見込まれている。このセッションでは、IASBによる公開草案化に向けた暫定合意を踏まえ、各基準設定主体代表者から、公開草案へのコメント形成にあたって留意すべきと考えられる事項について説明がなされた上で、議論がされた。

⑴純利益とその他の包括利益(OCI)の表示及び事業モデル

ASBJ代表者から、2013年12月の会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)会議に提出されたペーパー「純損益/その他の包括利益及び測定」(*6)及び2015年3月のASAF会議に提出されたペーパー「会計基準の設定における『企業の事業活動の性質』の役割」(*7)(以下、これらを総称して「ASBJのペーパー」という。)及び関連するIASBによる暫定合意について、概要の説明が行われた上で論点の提起がされた。これに続き、FASB代表者から、これらを踏まえつつ、純損益及びOCIの表示について、次の点を含む論点が示された。

  • 現在の測定方法により別個に認識した未実現の損益項目が、純損益の目的適合性を高めるか否かを決定する基礎は何か。
  • どのような場合に、財政状態計算書において現在価値で資産又は負債を測定及び表示し、財務業績計算書における純損益から未実現の損益を除外することが財務報告の目的を高めるか。
  • 経営者が、資産を売却するのではなく、保有することにより、受託責任を遂行しているかどうかを評価するため、財務諸表利用者は、現在経営者が回収するために保有している資産の公正価値を知る必要があるか。

ASBJのペーパーに対して、参加者から、次の意見が示された。

  • 報告期間に発生した事象を純損益として認識すべきであり、事象が特定できないものは純損益として認識すべきではないのではないか。(英国)
  • 過去に、特別損益項目を設けることにより財務業績が不明瞭となったという経緯がある。同様に純利益とOCIを分けることにより業績が不明瞭となるのであれば、実現利益の注記を検討した上で、OCIが必要かどうかを検討した方がよい。(香港)
  • 事業モデルに関しては、資産又は負債が複数の使用を目的とした複数の選択肢を有する場合や資産の価値増加を目的として事業を行っている金融業等に適用することは困難である。(ドイツ)
  • 経営者が、資産又は負債を複数の使用目的で保有する場合に、どのような測定基礎を選択するのか、及び、経営者が使用目的を変更した場合にどのように会計処理を行うのかを検討した方がよい。(米国)
⑵測定

英国財務報告評議会(FRC)より、概念フレームワークの測定に関して、取得原価、取得原価の限界及び取得原価の代替についての見解が示された。特に取得原価の代替については、検討し得る多くの代替的な現在の測定基礎があるが、各測定基礎の強みや弱みを議論するよりも、測定基礎の特徴(企業固有と市場の測定基礎、出口価値と入口価値を含む。)の識別がより重要であるとの見解が示された。

⑶報告企業

オーストラリア会計基準委員会(AASB)代表者より、「報告企業」の提案に関する含意について議論をすることを目的として、次の項目の論点が示された。

  • 一般目的財務報告を作成すべき企業を識別するため、概念フレームワークに報告企業の章が必要か
  • 報告企業の章において、連結財務諸表が作成される観点や非連結の個別財務諸表が強制的に連結財務諸表に添付されるべきかについて明らかにされるべきか
  • 報告企業の章において、持分法の概念が明確にされるべきか
  • 報告企業の章において、結合財務諸表が作成される状況が明確にされるべきか

これに対して、参加者からは次の意見が示された。

  • 概念フレームワークには、IFRSを適用するかどうかを規制するのではなく、IFRSの適用することを許容するかどうかについて、記述した方が良いと考える。また、概念フレームワークには、誰の観点から連結財務諸表が作成されるかを記載した方が良いと考える。(ドイツ)
  • 支配しているからといって必ず連結することが有用な情報を提供するとは限らないと考える。例えば、投資企業のプロジェクト等で検討したことがあるが、特別目的会社(SPE)で資産が特定の負債のために保有されている場合に、それを連結すると重要な条項に関する情報が失われるかもしれない。(FASB)

ASBJ代表者から次の発言を行った。

  • 概念フレームワークの目的を踏まえると、概念フレームワークにどの企業がIFRSに基づいた財務諸表の作成が必要かを記載する必要はないのではないか。
  • 企業の観点から財務諸表を作成するということが概念フレームワークに記載されていることを踏まえると、企業の観点と所有者の観点のいずれによるべきかについては、概念上の議論は生じないのではないか。
⑷負債の定義及び認識

FASB代表者より、IASBによる公開草案化に向けた暫定合意を踏まえて、負債に関する次の論点が提示された。

①負債の定義

  • 未確定の年金給付と累積的優先株式の配当はともに、負債の定義を満たすと考えられるか。

②過去の事象の結果

  • 負債の定義を満たすためにある義務が現在のものでなければならない場合、「過去の事象の結果として」との文言は不要ではないか。

③負債/資本の区分

  • 「経済的資源」に、企業自身の株式が含まれない場合、資本には、企業自身の株式で決済する現在の義務と、現在の義務でない請求権の両方から構成されないこととなるが、この点について、どう考えるか。

これに対して、参加者からは、主に次の意見が示された。

  • 未確定の年金給付の問題は、従業員がすでに勤務を提供しているため、無条件の債務か条件付き債務かという問題はあるが、負債は発生していると考えられる。(IFASS議長)
  • 特定の状況においては、認識の問題なのか測定の問題なのかを区別することは困難である。(FASB)
  • 負債の認識で難しいのは、推定的債務の認識である。例えば、利益目標の達成の有無に左右されるボーナスを考えた場合、まだ利益水準に達していない場合であっても従業員が勤務を提供している場合には、負債が生じているのかどうか判断が難しい。(FASB)
  • 資本を狭く定義するか広く定義するかによって、負債、特に推定的債務に波及効果があると考える。なお、資本に関しては、かなり狭く定義をすることは、支持されないと考えている。(ドイツ)
  • ある企業の観点からは負債である場合がある一方、別の企業観点からは負債ではない場合があるため、負債かどうかは、どの企業の観点からみるのかを検討することが有用ではないか。(ドイツ)

8.時事的な問題

時事的な問題として、香港公認会計士協会(HKICPA)から、 IFRS第10号「連結財務諸表」の適用─第4 項⒜ⅳへの懸念が示されたほか、インド勅許会計士協会(ICAI)より、2015年2月に公表された公開草案「負債の分類」(IAS第1号の修正案)について、問題提起がなされた。

9.影響度調査レポート

2012年の戦略レビューの結果として、IFRS財団評議員会は、IASBのデュー・プロセスにおける影響度分析を支援するため、2013 年に影響度分析協議グループ(EACG:Effects Analysis Consultative Group)を組成した。影響度分析協議グループは、2014年11 月に、IASBがデュー・プロセスの中に影響度分析をさらに組み込むことを支援することを意図した一連の提言を含む報告書を公表している。

今回のIFASS会議では、主に影響度分析協議グループによる次の提言等が紹介された。

  • IASBは、一般目的財務報告書が新たな要求事項によってどのように変更される可能性が高いのかや、それらの変更が一般目的財務報告書の品質をなぜ向上させるのかを評価し説明すべきである。
  • IASBは、それらの変更について正当化できると考える理由を説明し、新たな要求事項を満たすことが作成者の直接的コスト及び利用者の関連コストに及ぼす可能性の高い影響をどのように評価したのかを示すべきである。
  • IASBは、フィールドワークの計画を、提案している財務報告の変更の程度を勘案して決定すべきである。
  • IASBは、地理的に広範囲の協議を行うことを通じて、グローバルに適用できる原則に従って基準を草案すべきである。
  • 他の会計基準設定主体は、自身の法域に特有かもしれない要因及び考えられる影響に関する分析及び情報をIASBに提供することによって、IASBによる作業を支援することができる。

10.メンバーによる新たな取組み

⑴韓国における作成者の観点によるIFRSの適用のコストと便益 

IFRSの適用の影響に関しては、利用者の観点から多くのリサーチが行われているが、作成者の観点からのリサーチは限定的である。このような状況を踏まえて、韓国会計基準委員会(KASB)は、IFRSの導入による作成者のコストと便益を識別するために、韓国の上場企業に対して、アンケート調査を実施している(回答者数:245、回答率:14%)。

このセッションでは、KASBより、アンケート調査の結果について、主に次のような報告がなされた。

①便益

  • 韓国では、概ね、IFRSの適用による事前に期待された便益(会計の透明性や信頼性などの改善)が達成されていることを示している。
  • しかし、資本コスト及び信用格付けへの影響は、肯定的ではなかった。これは、実証研究と反した結果となっている。

② コスト

  • IFRSの適用による一回限りのコストは主に、会計システムの構築(450千ドル以下(80.8%))、外部コンサルティング会社への支払い(90千ドル以下(69%))及び教育(2年以下)に関連している。
  • IFRSの適用による継続的なコストの増加は主に、注記開示及び連結財務諸表の作成に関連している(公正価値測定:45千ドル以下、財務諸表作成時間:20%から40%増加、外部監査報酬:10%から20%増加)。
⑵IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」の適用に関する開示(IASBの開示に関する取組みの一部)

OICは、開示に関する取組みの一部としてIASBが行っているIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」のレビューを支援するため、作成者、投資者及び監査人等を対象として、アンケート調査を実施している。このセッションでは、OIC代表者から、次のように、アンケート調査の概要が示されるとともに、アンケート調査への回答を踏まえてOICスタッフの所見が示された。

(アンケート調査の概要)

①アンケート調査における質問事項

  • IAS第8号に基づく会計方針の変更事例(よくあるか、実務上不可能な場合の遡及適用の免除が実務で使用されているのをみたことがあるか)
  • 会計上の見積りの変更(よくあるか、会計方針の変更と区別することが困難な状況があるか、IAS第8号第35項(会計方針の変更と区別することが困難な場合に見積りの変更として処理される)が適切か)
  • 誤謬の訂正(よくあるか、実務上不可能であることによる遡及適用の免除が適用されているか、誤謬と会計上の見積りの変更とを区別することが困難であると発見したことがあるか)

②アンケート調査において示された考え得る代替的アプローチ

  • IAS第8号への代替的アプローチとして、測定に関する変更とその他の変更を区別する方法についてどう考えるか。
  • 代替アプローチを適用するにあたって、測定基礎の変更とその他の変更について、どのような方法(完全遡及適用、将来に向かっての適用、限定的な遡及適用、キャッチアップ調整、将来に向かって適用し開示を拡充、その他)が変更を表現するための最善方法になるか。

(OICスタッフの所見)

  • 会計方針の変更と会計上の見積りの変更を区別することが困難な場合が時々ある。
  • 投資者にとっては、財務諸表の過去の期間の修正再表示は重要と考えられる。
  • 代替的アプローチについては、作成者の過半数が次のような見解を示していたものの、投資者の見解は分かれていた。
    • 測定基礎の変更は、遡及適用すべきであるが、見積りを行うために使用するインプット及び仮定の変更、その他測定に関連する変更は、将来に向かって適用すべきである。
    • その他の変更は、将来に向かって適用すべきである。 

上記の説明に対して、ASBJ代表者からは、わが国の作成者及び監査人から聞かれている見解について、次の発言を行った。

  • 会計方針の変更と会計上の見積りの変更を根本的に見直すことが必要であると考えてはおらず、会計方針の変更と会計上の見積りの変更の区分を判断するための判断規準についてさらなる検討が必要である。
  • IAS第8号第36項では、会計上の見積りの変更による影響を、変更の期間の純損益に含める方法と、変更の期間及び将来の期間の純損益に含める方法の2つの方法を特定しているが、当該2 つの方法の適用のあり方について明確化の検討をしてはどうか。

 


  1. 本報告書中、便宜的に、国名は各国基準設定主体を指すものとしている。
  2. FASBは2015 年4 月29 日、ASU案「顧客との契約から生じる収益(Topic 606):発効日の延期」を公表し、新収益認識基準の発効日を公開企業と非公開企業のそれぞれについて1年延期し、当初の発効日以後の早期適用を認める提案を行っている。また、IASBも2015年5月19日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の発効日を1年延期し、2018年1月1日とする提案を公表した。
  3. リサーチ・グループは、Tommaso Fabi(OICのディレクター)、Marco Mattei(OICのプロジェクト・マネジャー)、Filippo Poli(EFRAGのリサーチ・ディレクター)及び関口智和(ASBJの委員)により構成される。
  4. https://www.asb-j.jp/jp/opinion/discussion/2014-0722.html 
  5. https://www.asb-j.jp/jp/opinion/discussion/2014-0722/feedbackstatement.html
  6. https://www.asb-j.jp/jp/iasb_activity/asaf/y2013/2013-1205/2013-1227.html
  7. https://www.asb-j.jp/jp/iasb_activity/asaf/y2015/2015-0326/2015-0305.html