ASBJ 企業会計基準委員会

2015年下期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)会議は、各国会計基準設定主体及びその他の会計基準に関連する諸問題に対する関心の高い組織による非公式ネットワークであり、元カナダ会計基準設定主体の議長であり元国際会計基準審議会(IASB)理事であるオマリー氏が議長を務めている。毎年、春秋の2回、会議が開催され、今回の参加者は、英国、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、オーストリア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、スペイン、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、日本、韓国、香港、シンガポール、マレーシア、インド、インドネシア、パキスタン、レバノン、シリア、イラク、米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、スーダン、ケニア、ジンバブエ、南アフリカの各基準設定主体等からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)からの代表者など総勢71名であった。IASBからはマッキントッシュ副議長他が参加した。

企業会計基準委員会(ASBJ)からは、小野委員長、小賀坂副委員長、関口常勤委員、川西シニア・プロジェクト・マネージャーの4名が出席した。

Ⅱ 今回の会議の概要

No 議題 担当
2015年9月29日
1 グローバルなIFRSの論点  プラダIFRS財団評議員会議長
2 各地域グループからの近況報告 各地域グループ代表者
3 国際公会計基準審議会の活動状況 IPSASB
4 前回会議の評価、新議長選出のプロセスとスケジュール等 IFASS議長
2015年9月30日
5 IASBの作業プログラム及びリサーチ・プログラムIASB IASB
6 IFASSメンバーによるプロジェクト
⑴のれんの減損と償却 日本、イタリア
7 IFRSの適用に係る論点 IASB
8 非営利組織の財務諸表の表示に関する改訂提案の概要 米国
9 時事的な問題
⑴コア棚卸資産 インド
⑵英国会計基準における財務報告の枠組み 英国
⑶非伝統的な市場において資金調達を行っている企業が使用する財務報告の枠組みの種類 カナダ
10 IFASSメンバーによる新規プロジェクト
⑴キャッシュ・フロー計算書─金融機関に対する論点 EFRAG
⑵収益及び費用の純損益又はその他の包括利益への報告 EFRAG
⑶投資家による財務情報の使用─学術的調査の予備的な結果 EFRAG

1.グローバルなIFRSの論点

会議の冒頭、IFASS議長から開会の辞が述べられたうえで、プラダIFRS財団評議員会議長から、「会計基準設定の役割及び責任」という題目で、3つの主なトピック(IFRSに対する主要な戦略的課題、体制とその有効性に関するIFRS財団のレビュー及びIFRSの世界における会計基準設定主体の役割と責任)についてスピーチが行われた。

IFRSに対する主要な戦略的課題については、IFRSが多くの国で採用されており、またIFRSに対する評価も好意的な結果が出ていることから、日本も含めIFRS適用に向かっている国をより支援することができる旨が説明された。体制とその有効性に関するIFRS 財団のレビューについては、従来よりレビューを行っており、現在のIFRS財団は良い状態であると考えているが、改善の余地を探るため、特にIFRSの有用性の維持、IFRSの首尾一貫した適用、IFRS財団のガバナンスなどに対して何をするべきかフィードバックを得たいと考えている旨が示された。IFRSの世界における会計基準設定主体の役割と責任については、会計基準設定主体の知見を得るために、IASBが会計基準設定主体と協働していくことが重要であると考えており、さらに何を行っていくべきか考えていきたいとの説明がなされた。

2.各地域グループからの近況報告

次の組織の代表者より、近況報告が行われた。

  • アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)
  • 欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)
  • ラテンアメリカ会計基準設定主体グループ(GLASS)
  • 全アフリカ会計士連盟(PAFA)

3.国際公会計基準審議会の活動状況

本セッションでは、国際公会計基準審議会(IPSASB)から、近況及び社会給付について説明がなされた。

近況として、新しい枠組みに基づくIPSASBのガバナンス・レビューが実施されていることや公会計の概念フレームワークを作成したことなどが紹介された。また、公会計において重要性がある社会給付(公的年金などの社会保険や生活保護などの社会保障)については、その義務の認識及び測定に関する協議文書が公表されており、その内容について説明があった。

4.前回会議の評価、新議長選出のプロセスとスケジュール等

本セッションでは、前回会議の評価について報告がなされたうえで、今後の計画について説明があった。また、次のIFASS議長の選出に向けてその立候補の方法について説明があった。

5.IASBの作業プログラム及びリサーチ・プログラム

本セッションでは、IASBエグゼクティブ・テクニカル・ディレクターのシールズ氏からIASBの現在のアジェンダ・プログラムについて説明があった。特に保険契約のプロジェクトについては、有配当契約やヘッジ、経過措置など難しい論点があるが、2015年中に審議を完了し、2016年に新基準を公表したいと考えている旨が示された。また、IFRS第9号「金融商品」の強制適用日に保険契約の新基準を適用することは困難であり、IFRS第9号を先行適用すると会計上のミスマッチが発生する可能性があるため、そのような問題を克服する方法を提案する公開草案が公表される予定があることも説明された。

IFASSメンバーからは、リサーチ・プログラムのうち、動的リスク管理や資本の特徴を有する金融商品は難しいプロジェクトであるとの意見が示された。ASBJからは、開示に関する取組みが重要であるとの発言を行った。

また、IFASSメンバーによるIASBのプロジェクトへの貢献という点では、オーストラリアと韓国がIFRSにおける蓋然性の用語に係る会計上の判断について共同リサーチを行っており、今後発表するとの発言があった。

6.IFASSメンバーによるプロジェクト

⑴のれんの減損と償却

本セッションでは、ASBJがイタリアの会計基準設定主体(OIC)とともに、のれんの減損と償却プロジェクトの最近の状況について報告した。のれんの減損と償却プロジェクトは前回のIFASS会議においても説明を行っており、その進展状況が説明された。

2014年7月にASBJは、EFRAG及びOICと共同でディスカッション・ペーパー(DP)「のれんはなお償却しなくてよいか」を公表しており、ASBJ、EFRAG及びOICの委員及びスタッフから構成されるリサーチ・グループの見解として、のれんについては償却及び減損アプローチを再導入することが適切としている他、減損テスト及びIAS第36号「資産の減損」における開示要求について改善の余地があるとしている。前回のIFASS会議では、DPに対するフィードバックは様々であり、のれんの償却に焦点を当てるべきという意見もあれば、減損テストの改善に焦点を当てるべきという意見もあった。

2015年5月にASBJは、リサーチ・ペーパー(RP)第1号「のれんの償却に関するリサーチ」を公表しており、次のようなリサーチ活動の結果を要約している。

  • 日本基準に準拠した実務におけるのれんの償却期間のあり方に関する開示情報のレビュー
  • のれんの償却に関する会計実務を調査するために、日本の大手上場企業の一部に対して実施したアンケート調査
  • 学術文献の限定的なレビュー
  • のれんの償却に関する見解についての日本の財務諸表利用者との議論

OICものれんの償却に関する作業を継続し、超過収益力が費消される期間を示唆する学術文献をレビューしている。リサーチ・グループによるリサーチ活動から次のような考察が得られたことが説明された。

  • のれんの償却年数に関連して、業種によって異なる部分もあるが、超過収益力が影響する期間は平均して5年から10年であるという結果が得られた。
  • のれんの償却パターンに関連して、逓増償却によると減損に関する情報が失われるリスクは軽減されると考えられる。
  • のれんの減損テストに関して主に改善すべき分野としては、減損テストの頻度と資金生成単位の認識及びのれんの配分であると考えられる。

ASBJは、これまでのリサーチ活動を受けて、のれんの償却を支持していることを説明した。IFASSメンバーからは、のれんの償却へ基準を大きく変更するよりも減損テストの改善を目指すべきではないかという意見が聞かれた。また、財務諸表利用者の見解をさらに検討するべきではないかというコメントも示された。

7.IFRSの適用に係る論点

本セッションでは、IASB適用活動担当ディレクターのスチュワート氏より、IFRS解釈指針委員会の役割や各法域でのIFRSの適用に係る論点について説明があった。IFRSに対する批判として、世界中でIFRSの適用に対する各国の相違が多くあるということが聞かれるが、法域プロファイルによると、各法域におけるIFRSの修正は稀であるということが示されている。ただし、各法域によってIFRSが異なって適用されているというコメントも聞かれるため、各法域における適用上の論点の把握を改善したいとの考えが示された。

本セッションでは、各法域でのガイダンスの開発につながる論点も含め、各法域における適用上の論点をIASBがどのように把握することができるかについて見解を聞きたいという話があり、IFASSメンバーからは、監査法人間の見解の相違を取り扱うのが良いのではないかという意見があったが、IASBとしては、それは各監査法人の本部の問題であり、各法域での相違ではないため、今回の把握対象ではないというコメントが示された。また、IFASSメンバーからは、各論点に対する首尾一貫した適用を確保するのは困難な場合があるのではないかという意見もあった。ASBJからは、IFASSメンバーや世界会計基準設定主体(WSS)会議メンバーからコメントを入手するのが良いのではないか、また各国の会計基準設定主体において、適用上の論点を把握するフォーラムを設けるように勧めるのが良いのではないかと提案した。

8.非営利組織の財務諸表の表示に関する改訂提案の概要

本セッションでは、米国財務会計基準審議会(FASB)から、米国における非営利組織の財務報告及びその財務諸表の表示を改訂する公開草案(2015年4月公表)の概要が説明された。米国では、政府機関に対する会計基準については別の会計基準設定主体が担当しているが、非政府機関の非営利組織についてはFASBが検討しているとのことであった。米国の非営利組織に対する会計基準は、認識、測定及び開示という分野では、営利企業と類似したものとなっているが、表示については情報ニーズも異なるため、営利企業とは異なったものとなっている。

財務諸表の表示を改訂する公開草案に対する米国の利害関係者からのフィードバックとしては、現在のモデルを修正するという目的は一般的に支持されていたが、細部については賛否が分かれていたという説明があった。IFRS財団による「体制とその有効性に関するIFRS財団評議員会のレビュー:レビューにあたっての論点」において、IASBの活動範囲を非営利組織に対する会計基準に拡大すべきかどうかという質問が含まれていることもあり、IFASSメンバーからは、国際的にも非営利組織の会計基準を設定するべきではないかという意見が聞かれた。

9.時事的な問題

⑴コア棚卸資産

本セッションでは、インド勅許会計士協会(ICAI)から、コア棚卸資産に関する論点について説明があった。ここでコア棚卸資産とは、物理的には通常の在庫として識別され、かつ、有形固定資産の操業のために必要とされ、一会計期間以上にわたって有形固定資産項目として表示される最低限の金額であるとされている。このような資産がIAS第2号「棚卸資産」に従って会計処理すべきか、IAS第16号「有形固定資産」に従って会計処理すべきかが論点として説明された。ICAIの見解としては、コア棚卸資産は、次の2つに区分して会計処理すべきであるとしている。

  • 技術的な設計上の理由で維持されなければならない在庫は有形固定資産として分類(例:-162℃で保存するLNG(液化天然ガス)プラントのパイプラインや貯蔵タンクは、それらが廃棄される場合を除き、熱膨張による損傷を避けるために、常に最低限の量のLNGをその中に恒常在庫として維持される必要がある。)
  • 輸送又は貯蔵の手段としてのみ機能するパイプラインやタンクなど、プラントを通常の方法で操業を継続させるために最低限の量の在庫を維持する技術的な設計上の理由がない場合には、棚卸資産として分類(例:原油又は石油製品はパイプラインを通じて輸送されタンクに貯蔵されるが、輸送目的のためにパイプライン全体が原油又は石油製品で満たされている必要がある。ただし、パイプラインの中の石油は、清掃するために排出し再び注入することができる。)

ICAIの見解に対して、本論点はIFRS解釈指針委員会が2014年にアジェンダから削除した項目であったものの、IFASSメンバーから強く反対する意見はなかったが、固定資産として会計処理する場合、減価償却の耐用年数をどのように決定するのかについては、事実及び状況を考慮する必要があるというコメントがあった。

⑵英国会計基準における財務報告の枠組み

本セッションでは、英国財務報告評議会(FRC)から、国内のニーズに応えるためのIFRSの適用方法について説明があった。英国
において、中小企業による資金調達が増えており、中小企業に対する会計基準は、中小企業向けIFRSより要求事項を追加する方向性とするのが良いのか、若しくはIFRSより要求事項を削除する方向性とするのが良いのかという議論があったことが本セッションの背景にあり、英国においては公開協議の結果、旧英国会計基準でもIFRSでもない基準として、財務報告基準第101 号「簡易化された開示のフレームワーク」(以下「FRS第101号」という。)と財務報告基準第102号「英国及びアイルランドにおける財務報告基準」(以下「FRS第102号」という。)という基準が作成されている。FRS第101号は個別財務諸表に適用可能な基準であり、IFRSから一定の開示免除規定があるため、IFRSより要求事項が削除されている基準である。FRS第102号は、中小企業向けIFRSの対象範囲を拡大し、英国特有の状況を考慮した基準である。したがって、英国では連結財務諸表に対するものでない場合に、IFRS、FRS第101号、FRS第102号という基準の選択肢が存在することになっている。

IFASSメンバーからは、英国ではなぜ連結財務諸表以外の財務諸表を作成する必要があるのかという質問があり、基本的には英国の税法で要求されているためであるとの回答があった。また、のれんについては、FRS第101号では償却は認められず減損のみであるが、FRS第102号では償却が認められるという説明もあった。

⑶非伝統的な市場において資金調達を行っている企業が使用する財務報告の枠組みの種類

本セッションでは、カナダ会計基準審議会(AcSB)から、新しい形態の市場において資金調達を行っている企業が使用するべき財務報告の枠組みの種類について説明があった。カナダでは、特に企業の開業時において、クラウドファンディングや私募のクローズド・エンド型ファンドなどによる資金調達が増加している。多くの法域で、公開企業はIFRSが、非公開企業は中小企業向IFRS 又は現地基準が適用されており、公的な説明責任がある企業には中小企業向けIFRSを使用することはできないとされているが、IFRSを適用することはコストが大きいため、このような伝統的でない市場における資金調達企業の財務報告の枠組みの種類について議論が起きているという説明があった。

このような議論について、IFASSメンバーからは、各法域においては、規制当局が財務諸表に適用すべき財務報告の枠組みを決定していることが多いとのコメントがあった。

10.IFASSメンバーによる新規プロジェクト

⑴キャッシュ・フロー計算書─金融機関に対する論点

本セッションでは、EFRAGが2015年7月に公表したEFRAGショート・ディスカッション・シリーズ「キャッシュ・フロー計算書─金融機関に対する論点」( 以下「本DP」という。)について、EFRAGから説明があった。本DP公表の背景として、IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」は金融機関にも適用されるが、金融機関にとっては、キャッシュ・フロー計算書の有用性は限定的であるとの主張があり、本DPで代替案が検討されている。

金融機関の経営者はキャッシュ・フロー計算書の情報を経営管理上重要視しておらず、また当該計算書は流動性リスクに関する情報を提供しないため、金融機関にとってキャッシュ・フロー計算書はあまり有用でないという意見がある。また、金融機関の資産及び負債は代替可能であるため、キャッシュ・フロー計算書における営業活動、投資活動、財務活動の3区分は有用でないとの批判がある。そのような状況を考慮して、本DPでは次の2つが代替案として示されている。

  • キャッシュ・フロー計算書を廃止して、流動性の高い資産や満期に関する情報など流動性に関する情報を拡充し、資産及び負債の変動に関する情報を要求する。
  • キャッシュ・フロー計算書は維持するものの、営業活動、投資活動、財務活動の3 区分を廃止し、税金に係るキャッシュ・フローを区分掲記するなどの修正を行う。

IFASSメンバーからは、活動の3区分に関するものを含む、キャッシュ・フロー計算書に対する批判や懸念に対して同意するコメントが聞かれたが、キャッシュ・フロー計算書は流動性リスクのためだけのものではないというコメントが聞かれた。ASBJからは、キャッシュ・フロー計算書の基本財務諸表としての有用性に疑義はあるが、EFRAGの代替案は流動性リスクの観点が強く、IAS第7号の目的と整合しないのではないかとの発言を行った。

⑵収益及び費用の純損益又はその他の包括利益への報告

本セッションでは、EFRAGが2015年7月に公表した報告書「純損益かその他の包括利益(OCI)か」(以下「本報告書」という。)について、EFRAGから説明があった。本報告書は、IASBが2015年5月に公表した公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」(以下「概念ED」という。)に関連して公表されたものである。

概念EDでは、第7章「表示及び開示」において、原則として、すべての収益及び費用は純損益計算書に含められるべきとしつつ、純損益から収益又は費用を除外することによって、当期における純損益の目的適合性が高められる場合にのみ、OCIに表示され得るという考え方を示している。しかし、どのようにして純損益の目的適合性が高められるのかに関するガイダンスは概念EDには示されていないため、本報告書がEFRAGから公表されている。EFRAGは、2015年3月の会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)会議で議論されたASBJによるペーパー「会計基準の設定における『企業の事業活動の性質』の役割」等も参考にして
いる。

本報告書では、測定基礎の決定にあたっては、財務業績の観点と財政状態の観点に区分して検討することが重要としたうえで、まず財務業績の観点から測定基礎を決定する(これにより、純損益が決定される)ことが必要であり、財政状態計算書と純損益計算書において異なる測定基礎を使用することがあると説明されている。また、純損益の決定方法やどのような場合にOCIが使用されるかについて整理するため、事業モデルを分類することが提案されている(価格変動事業モデル、変換型事業モデル、長期投資事業モデル、負債主導型事業モデル)。

IFASSメンバーからは、事業モデルをどのような単位(例えば、企業単位、セグメント単位)で考えるべきなのか明確ではないというコメントや、業績報告という観点からは、営業利益や非営業利益という区分も検討することが良いのではないかというコメントが示された。

⑶投資家による財務情報の使用─学術的調査の予備的な結果

本セッションでは、EFRAGが投資家によってどのように財務情報が使用されているかについて取りまとめているところであるということが口頭で報告された。