ASBJ 企業会計基準委員会

2016年下期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;FASS)は、各法域の会計基準設定主体及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織による非公式ネットワークである。今回から、ドイツの会計基準設定主体の元委員長であるクノール氏がIFASSの議長を務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されており、今回は2016年9月27日及び28日の2日間、ロンドン市内の会場で開催され、各法域の会計基準設定主体(*1)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)からの代表者など約70名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはフーガーホースト議長ほかが参加した。

企業会計基準委員会(ASBJ)からは、小野委員長、小賀坂副委員長、川西常勤委員、ほか1名が出席した。

Ⅱ 今回の会議の概要

No 議題 担当
2016年9月27日
開会の挨拶 IFASS議長
1 IASBとIFASSや各法域の会計基準設定主体との協働 IASB議長
2 今後のIFASSについて IFASS議長
3 IFRSにおける蓋然性の用語に係る会計上の判断 韓国、オーストラリア
4 (任意のセッション)IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の改善 英国
2016年9月28日
5 今後のIFASSについて(続き)  IFASS議長
6 IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の改善 英国
7 企業報告に関するフレームワークへの取組み英 英国
8 IASBのアウトリーチ
・IAS第26号「退職給付制度の会計及び報告」に対する今後の対応
・IFRS第13号「公正価値測定」の適用後レビュー
IASBスタッフ
9 料金規制対象活動 カナダ、韓国
10 非営利組織の財務報告 英国勅許公共財務会計協会(CIPFA)等
11 IPSASBの活動状況 IPSASB
閉会の挨拶 IFASS議長

1.IASBとIFASSや各法域の会計基準設定主体との協働

フーガーホーストIASB議長からは、IASBが各法域の会計基準設定主体と協働することは、各法域における緊急的な問題や首尾一貫したIFRSの適用に関する課題を把握することができるため、重要であると考えており、特に会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)はよく機能しているということが説明された。公的セクターの財務報告等、IASBが検討していない領域を取り扱っているIFASSを含め、各法域の会計基準設定主体とコミュニケーションをとって協働するために、IASBはスタッフを配置しているということが説明された。

2.今後のIFASSについて

本セッションでは、IASBとの協働という観点でIFASSは何をすべきかについて議論が行われた。本セッションの背景としては、国際的な財務報告基準を開発し維持するために協働するという目的に基づきIFASSが活動を開始して約10年経過していることや、今回からIFASSの議長が交代したことから、IFASSの役割について改めて議論することが必要ではないかと考えられ、またIASBはアジェンダ・コンサルテーションを経て、今後は取引固有の基準レベルのプロジェクトではなくIFRSの導入及び首尾一貫した適用を支援することに注力するとしており、さらにリサーチ・プロジェクト等において各法域の会計基準設定主体と協働することが強調されていることがある。

まず、IFASSはIASBが検討していない論点について取り扱うべきかどうかについて議論され、IFASSの参加者からは、各法域において重要と考えられるもののIASB が検討していない論点があるため、IASBと共通の論点について協働することのみならず、IASB が検討していない論点についても実務上の解決策を検討するために、IFASSはより積極的な活動を行うべきであるとの意見が多く示された。また、IASBとの協働においては、IASBに情報を提供するとともにIASBからのフィードバックも受領することがよいのではないかというコメントも示された。

IASBのリサーチ・プログラムについては、IFASSの参加者からは、IFASSを通じてどの法域で同様の論点が存在するのかということを収集することが有用であるというコメントや、積極的にIASBと協働して、各法域において共通の関心があることを示すことが重要であるというコメントが示された。

IASBによるIFRSの適用及び維持活動については、IFASSの参加者からは、IFRS解釈指針委員会はガイダンスの公表に至らないことが多く、またIASBが検討中の会計基準について対応しないことによる懸念が示されたが、一方で、IFRSは原則主義の会計基準であるため、解釈を作ることは容易ではなく、細かく断片的な修正は不要であるとの意見も示された。

今後のIFASSの活動については、IFASSの参加者からは、年2回の会議がないときにおいても、適用上の論点等についてよりコミュニケーションをとることが必要であるため、作業グループを設置して、ペーパーを作成して活発に議論すべきであるという意見や、情報共有のためウェブサイトを活用すべきであるというコメントが示された。また、IFASS会議において議論される課題については、公的セクターや非営利組織の財務報告等、すべてのIFASSの参加者が関与しているとはいえない課題があるとのコメントが示され、ASBJからは、IFASSは参加者の関心について調査を行ったうえで、課題の内容によっては任意のセクションとする
ことが考えられるとの意見を示した。

3.IFRSにおける蓋然性の用語に係る会計上の判断

前回のIFASS会議において、韓国とオーストラリアの会計基準設定主体が共同で、IFRSにおける蓋然性(likelihood)の用語に係る会計上の判断がどのように行われているかという観点で、蓋然性の用語に対する両国の財務諸表作成者及び監査人の理解について調査が実施され、両国の会計基準設定主体からその内容が説明された。当該調査によると、IFRSにおいて使用されている蓋然性の用語について、韓国とオーストラリアでは複数の用語に対して解釈(何パーセント程度か)が相応に異なっており、文脈によっては(例えば、対象が資産なのか又は負債なのか)、同じ用語でも異なる解釈がなされているという結果が示され、蓋然性の用語
を英語から自国語に翻訳する際の困難さがあることも説明された。

本セッションでは、当該調査について韓国とオーストラリアの会計基準設定主体が共同で公表したリサーチ・ペーパーに寄せられたコメントが紹介され、主要なメッセージと今後の調査に対する説明が提案された。まず、両国の会計基準設定主体から、当該調査を踏まえ、IASBに対して次の提言を行うことが説明された。

  • 基準開発を行う際に蓋然性の用語がさまざまな法域においてどのように解釈され翻訳されるかについて相応に配慮すべきである。
  • 会計基準に使用される蓋然性の用語の数を減らすべきである。
  • 蓋然性の用語に関する原則及びガイダンスの開発を検討すべきである。
  • 概念フレームワークにおける中立性や慎重性、資産及び負債の認識規準に対する再審議において、当該調査から得られた結果を考慮することが考えられる。
  • 基準開発に関するアウトリーチや協議プロセスにおいては、さまざまな法域における翻訳上及び解釈上の論点に係るインプットを入手することを明示的に要求すべきである。

また、リサーチ・ペーパーに寄せられたコメントは、概ねリサーチ・ペーパーの記述に同意するものであり、会計基準に使用される蓋然性の用語の数を減らすことに同意があったことが説明された。さらに、各国において自国語への翻訳の困難さがあることが示されたことや、ガイダンスの開発にあたってはIFRSが原則主義であることを考慮すべきであるという意見が紹介された。韓国とオーストラリアの会計基準設定主体からは、IASBに対してより有用な洞察を提供するために、首尾一貫しない用語の解釈による財務報告への影響を調査することや、他の法域における蓋然性の用語の解釈を調査することが今後考えられるということが説明され
た。

IASB理事及びIASBスタッフからは、会計基準に使用される蓋然性の用語の数を減らすことは考えられるが、単純に減らすだけでは実務において影響があるというコメントや、蓋然性の用語のみならず重要性の用語に関しても検討が必要となる可能性があるというコメントが示された。IFASSの参加者からは、蓋然性の用語の解釈によって実際の会計結果が異なっているのかどうかが重要であるとのコメントが示された。

4.IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の改善

本セッションでは、英国の会計基準設定主体から、会計基準設定主体とIASBの協働の一環として、キャッシュ・フロー計算書の改善を検討しており、IASBにおける「基本財務諸表」プロジェクトに対するインプットを提供することを目的として、ディスカッション・ペーパーを作成しているということや、キャッシュ・フロー計算書に対する次の提案が説明された。

  • 営業活動は、投資活動及び財務活動ではないものと定義されるのではなく、積極的に定義され、3つの活動のいずれにも該当しない項目は別掲する。
  • 有形固定資産の取得は営業活動として、営業活動によるキャッシュ・フローにおいて、有形固定資産の取得に係る支出前の小計を表示する。
  • 金融負債から生じたキャッシュ・フローは、支払利息も含めて財務活動によるキャッシュ・フローとして表示する。
  • 法人所得税から生じたキャッシュ・フローは、キャッシュ・フロー計算書において独立したセクションで表示する。
  • 現行の現金同等物の定義は主観的であるため、キャッシュ・フロー計算書には、現金預金のフローのみを表示し、流動資源の管理方針を開示するとともに、流動資源の管理に関するキャッシュ・フローの区分を追加する。
  • キャッシュ・フローの純額報告は、実質的に同一の投資でロールオーバーしている投資のキャッシュ・フローにのみ適用される(*2)。
  • 純損益計算書における営業利益の小計と営業活動によるキャッシュ・フローの調整表を注記事項として開示する。

上記の説明を受け、IFASSの参加者からは、純損益計算書における営業利益の小計と営業活動によるキャッシュ・フローの調整表の作成にあたっては、営業利益の定義と営業活動によるキャッシュ・フローのいずれが、営業活動という言葉の意味を定めることになるのかを検討する必要があるというコメントや、キャッシュ・フロー計算書における区分を変更するにあたっては投資家の見解を確認すべきであるというコメントが示された。

5.企業報告に関するフレームワークへの取組み

本セッションでは、英国の会計基準設定主体から、IFASSにおいて企業報告に関するフレームワークの開発に向けた議論を行うことを目的として、企業報告に関するフレームワークに対する課題が説明された。

投資家は投資の意思決定を行うために、年次報告書も含めたさまざまな企業報告における情報を利用するが、最近は財務諸表の情報のみでは十分でないと考えられており、広範囲の業績報告として、非財務報告や代替的業績指標が注目されている。英国には非財務報告に関する包括的な原則があるが、国際的にもさまざまな非財務報告に関するフレームワークが急増しており、代替的業績指標については証券規制当局やIASBの関心が高まっている。また、テクノロジーの発展により情報の利用方法が変化している。このような状況を受けて、企業報告に関するフレームワークの開発にあたっては、次を考慮する必要があることが説明された。

  • 企業報告の利用者の範囲
  • 年次報告書の目的。これは年次報告書の利用者の範囲や開示負担に対する懸念への対応方法にも影響を受ける。
  • 会計基準設定主体が担うべき役割。重要な役割を担うと考えられるが、非財務報告に対する関与方法の検討が課題となる。

上記の説明を受け、IFASSの参加者からは、非財務情報については、統合報告に関するものも含め、さまざまな組織がすでに関与しているため、協働が重要であるというコメントや、会計基準設定主体は非財務情報により関心を持つべきであるという意見が示された。また、デジタル報告の仕組みと企業の開示負担との関係を整理すべきであるとの意見も示された。

6.IASB のアウトリーチ

本セッションでは、IASBスタッフから、IAS第26号「退職給付制度の会計及び報告」に対する今後の対応とIFRS第13号「公正価値測定」の適用後レビューについて説明があり、IFASSの参加者の意見が求められた。

(IAS第26号に対する今後の対応)

退職給付制度を持つ事業主の財務諸表における退職給付コストの決定はIAS第19号「従業員給付」で取り扱われているが、退職給付制度の会計及び報告はIAS第26号で取り扱われている。IAS第19号はその公表以来重要な改訂がなされているが、IAS第26号は、1987年の公表以来、他の基準による結果的修正を除き、見直しがなされていない(*3)。IASBスタッフは、IAS第26号を廃止するか維持するか検討しており、IAS第26号を廃止する理由としては次の理由が考えられるとしている。

  • 退職給付制度の会計及び報告について、多くの国では自国における要求事項があり、IAS第26号が必要とされていない。
  • IAS第26号は古い基準であり、他の基準と不整合となっている可能性があるが、この基準を見直すことはコストが便益を上回る可能性がある。
  • IAS第26号を維持することは、営利企業の会計基準を開発するIASBボードの目標に必ずしも合致するものではなく、国際的な比較可能性を考慮する必要がほとんどない。

一方、いくつかの国では自国の要求事項がなく、IAS第26号に欠陥がある可能性があるとしても、基準が存在しないよりは存在する方がよいため、IAS第26号を廃止しないことも考えられるとしており、IASBスタッフはIFASSの参加者に意見を求めた。

上記の説明を受け、IFASSの参加者からは、一部の国ではIAS第26号が適用されており、当該基準が廃止されると財務諸表がIFRS に準拠したことにならないことになるという懸念が示された。IASBスタッフは、一部の国で適用されていることを理解した上で、IAS第26号を見直す可能性も含め、今後の対応を検討するとのコメントを示した。

(IFRS第13号の適用後レビュー)

IASBスタッフから、本セッションは、IASBがIFRS第13号を適用する際における主な論点を初期段階で識別するという適用後レ
ビューの第1フェーズの一部であることが説明された。IFRS 第13号は、他の基準が公正価値測定又は公正価値測定に関する開示について要求又は容認する場合に適用される基準であり、その要求事項が適用後レビューの対象となるが、他の基準において取り扱われる「どの資産及び負債」を「どの時点で」公正価値測定すべきかについてはIFRS第13号の適用後レビューの対象とされていないことが説明された。

米国会計基準においては、IFRS第13号と実質的に同一の内容であるTopic 820「公正価値測定」について、すでに適用後レビューが2014年に完了しており、Topic 820は投資家の意思決定に有用な情報を提供するものであり、便益がコストを上回るものであるとされた。ただし、開示の十分性及び網羅性並びに特定の業種における目的適合性に対して疑問視する意見もあり、開示に関するプロジェクトで対応することが考えられている。

IFRS第13号の第1フェーズのアウトリーチの結果がIASB及びASAF会議で議論された後、IASBが情報要請を公表し、各法域におけるインプットを入手することが予定されており、IASBスタッフは、IFRS第13号における主な適用上の課題についてIFASSの参加者にコメントを求めた。IFASSの参加者からは、次のようなコメントが示された。

  • 「最有効使用」の概念も含め、非金融資産の公正価値測定の考え方をより明確化すべきである。
  • 公正価値測定を行う際の会計単位の考え方について明確化すべきである。
  • 金融危機の際の公正価値測定の考え方について明確化すべきである。
  • 資本市場に厚みがない場合において、金融商品について信頼性のある公正価値測定を行うことは困難である。
  • IAS第41号「農業」において要求されている生物資産又は農産物に対する公正価値測定を行うことは困難な場合がある。
  • 第三者の価格付け情報を使用する場合において、レベル区分判定に多様な実務がある可能性がある。
  • レベル3に関する情報等に対する開示負荷が高く、コストと便益を比較考量して注記事項を検討すべきである。

7.料金規制対象活動

本セッションでは、IASBの料金規制対象活動プロジェクトにインプットを行う目的で、カナダ及び韓国の会計基準設定主体がそれぞれ作成したペーパーを説明し、IFASSの参加者の意見が求められた。

(料金規制対象活動の経済的実質を反映した財務情報の意思決定有用性に関する調査結果)

カナダの会計基準設定主体から次のようなペーパーの概要が説明された。

  • カナダで実施されている料金規制(強制可能な権利又は義務を創出し、規制繰延勘定残高を創出する規制)を前提に、カナダの資本市場において重要である料金規制対象企業を主たる調査対象としている。なお、カナダの料金規制対象企業は、2011年までは一定の条件に基づき規制繰延勘定残高を計上する米国会計基準と同様の会計処理を採用しており、2011年のカナダのIFRSへの移行後も、米国会計基準又はIFRSに基づき、多くの料金規制対象企業が規制繰延勘定残高を計上している。
  • 利用者(債券及び株式のアナリスト)及び信用格付機関は、料金規制の枠組みを重要視しており、料金規制の枠組みは、料金規制対象企業が規制対象商品又はサービスを顧客に提供するためのコストを回収し、合理的なリターンを得る能力に影響を与えると考えている。
  • 料金規制の枠組みが強固なものであるかどうかは、料金規制から発生する権利及び義務の強制可能性に影響を及ぼす。電力会社に対する調査では、規制繰延勘定の借方残高に対する償却額(回収不能額)の割合は極めて僅少であり、当該残高に対する不確実性がほぼないことが示されている。
  • 上記を踏まえて、ペーパーが提示しているデータは、料金規制対象活動の経済的実質を反映する財務情報が有用であることを示すものであり、当該財務情報には利用者が行う意思決定に違いをもたらすことが可能な確認的価値及び予測的価値があると結論付けている。

上記の説明を受け、IFASSの参加者からは、料金規制の枠組みが強固なものであるかどうかはそれぞれの料金規制により異なるため、カナダのケースが他の法域に当てはまるとは限らないというコメントや、料金規制対象活動については開示についても考える必要があるとの意見が示された。

(料金規制対象活動の収益認識)

韓国の会計基準設定主体から次のようなペーパーの概要が説明された。

  • IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」は供給者と顧客の間の契約に基づいており、供給者は、顧客に対する履行義務を充足したときに、顧客への財又はサービス提供の対価を収益として認識する。料金規制対象活動においては、供給者、顧客、規制機関の三者関係は顧客への財又はサービス提供の対価を決定するメカニズムに影響を与え、料金規制の合意は供給者と顧客の間の契約の性質を変更する。
  • 規制繰延勘定の資産を認識することは、2015年5月に公表された公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」における支配の概念と整合的であり、規制繰延勘定の負債を認識することは、当該公開草案における現在又は条件付き義務の概念と整合的であると考えられる。
  • 顧客との契約に加えて料金規制の合意を反映させるには、料金規制対象活動の収益認識としてIFRS第15号をそのまま適用することはできないため、IFRS第15号の進行基準による収益認識及び変動対価の規定を準用して、次のような新たな収益モデル又はIFRS第15号の修正が必要であると考えられる。

  ・収益認識の時期は、財又はサービス提供の対価を顧客に請求した時点又は契約上請求可能になる時期ではなく、顧客への
   財又はサービスを提供する履行義務を充足したときである。

  ・収益認識の金額は、当期に顧客へ請求する金額ではなく、料金規制の合意で定められる調整を反映した収益必要額である。

  • 料金規制対象活動として、顧客へ財又はサービスを提供するアウトプット活動に加え、それ以外のインプット活動(例えば、顧客に財又はサービスを提供するための工場の建設)を行うことも規制機関から要求されることがあるが、インプット活動は、別の履行義務とはせずアウトプット活動と結合し、インプット活動により建設した資産が費用化されたときに収益必要額を収益に認識することが考えられる。

上記の説明を受け、IFASSの参加者からは、料金規制対象活動の収益認識については、IFRS第15号における履行義務の概念と整合しないと考えられるため、IFRS第15号を多少修正しても適切な会計基準を開発することにはならないという意見や、IFRS第15号を料金規制対象活動のために修正することは、IFRS第15号の考え方が変容する可能性があるとの意見が示された。

8.非営利組織の財務報告

本セッションでは、CIPFAから、非営利組織の財務報告の動向として、IFRS財団がIASBの役割を非営利組織の財務報告に拡大しないことを決定したことや、前回のIFASS会議の議論を踏まえ、国際的な観点から非営利組織の財務報告に関心のある9つの法域の会計基準設定主体によって作業グループが組成され、短期的又は長期的にどのような論点を検討すべきかについて議論していることが説明された。検討すべきと考えられている論点は次のとおりである。

  • 短期的(1年から5年)に検討する論点:寄付金の評価及び認識、非営利組織の結合に関する会計処理
  • 長期的(5年超)に検討する論点:非営利組織の財務報告が適用される非営利組織の定義、補助金の認識及び契約収益の認識時期

また、米国財務会計基準審議会(FASB)からは、アフリカにおける非営利組織の資金調達に関する取組みが紹介された。IFASS の参加者からは、非営利組織の財務報告について国際的な観点から協働することに対する賛意が示された。

9.IPSASB の活動状況

本セッションでは、IPSASBから最近の活動状況について説明がなされた。IPSASBは、主にリース、収益及び非交換支出、社会給付(公的年金などの社会保険や生活保護などの社会保障)の基準開発に取り組んでいることや、リースについては、最近、基準開発作業を開始し、IPSAS内の整合性を勘案しつつIFRS第16号「リース」とのコンバージェンスを検討していることが説明された。

 


  1. 今回は、英国、オランダ、ベルギー、ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、日本、中国、韓国、香港、台湾、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ネパール、インド、パキスタン、イラク、オーストラリア、ニュージーランド、米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、コロンビア、スーダン、シエラレオネ、ジンバブエ、南アフリカから参加があった。なお、本報告において、各法域の会計基準設定主体の表記は、定義のない限り、国若しくは地域名のみを記載している。
  2. 本提案においては、金融機関におけるキャッシュ・フロー計算書については検討の対象外としている。
  3. IAS第26号には制度資産の評価も規定されているが、IFRS第9号「金融商品」が公表された時もIAS第26号は見直しがなされなかった。