会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各法域の会計基準設定主体、及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織による非公式ネットワークである。2016年秋から、ドイツの会計基準設定主体の元委員長であるクノール氏がIFASSの議長を務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されており、今回は2017年3月2日及び3日の2日間、台北市内の会場で開催され、各法域の会計基準設定主体(*1)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループからの代表者など約80名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはスー・ロイド副議長ほかが参加した。
企業会計基準委員会(ASBJ)からは、小野委員長ほかが出席した。
No | 議題 | 担当 |
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2017年3月2日 | ||
開会の挨拶 | IFASS議長 | |
1 | 「大型」基準の適用 | IFASS、米国 |
2 | 配当に対する法人所得税の取扱い | インド |
3 | IFASSの戦略(首尾一貫した適用のための支援) | IFASS |
4 | 高インフレーション | GLASS |
5 | (任意のセッション)英国財務報告評議会(FRC)による英国会計基準の3年ごとのレビュー | 英国 |
6 | (任意のセッション)マクロ・ヘッッジ | EFRAG |
2017年3月3日 | ||
7 | (任意のセッション)IFRSタクソノミ | IASB |
8 | (任意のセッション)韓国におけるIFRSの適用─5年間の経験と教訓 | 韓国 |
9 | リサーチ活動:会計基準設定主体は何を取り扱うべきか? ・経済基盤理論に基づく財務報告:投資家のニーズを満たす貸借対照表及び損益計算書の設計 ・証拠に基づく会計リサーチ及び基準開発 ・仮想通貨 ・OCIの役割及び未来 |
IFASS 香港 EFRAG、マレーシア オーストラリア フランス、ASBJ |
10 | 適用:IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」及びIAS第37 号「引当金、偶発負債及び偶発資産」のケース・スタディ | IASB |
閉会の挨拶 | IFASS議長 |
本セッションでは、米国財務会計基準審議会(FASB)の代表者より、収益認識、リース及び金融商品(現在予想信用損失モデル)の「大型」基準の適用に関する主要な活動に加え、収益認識及びリースについて、当該活動を通じて適用上の課題として聞かれた主な論点の説明がなされた。また、適用に要する期間と発効日について、公開草案への回答等で聞かれた意見が紹介された。
説明後の質疑応答では、FASB及びIASBにおいて、リースについての移行リソースグループ(以下「TRG」という。)を組成しないこととした理由について、FASBの代表者より新基準の要件が既存のものと大きく異なるものではないと考えている旨の説明があり、IASBの代表者からも、新しいリース基準の主な変更はファイナンス・リースの適用範囲の変更と考えている旨の回答があった。
さらに、IASBの新たな保険契約基準についても質問がなされ、IASBの代表者より、TRGのメンバーを募集する予定があるとするコメントとともに、IASBは当該TRGにおいてどういった論点を扱うべきか、継続して検討する必要があると考えている旨のコメントがあった。
また、本セッションでは、「大型」基準の各国の適用準備状況や主な適用上の論点についてグループ・ディスカッションが行われた。ディスカッション後、発表された主なコメントは下記のとおりである。
本セッションでは、インドの会計士協会の代表者より、IAS第12号「法人所得税」(以下「IAS第12号」という。)に関する論点の紹介がなされた。インドでは、利益に対する課税に加え、株主に対する配当の分配について分配企業に対して税務当局へ税金の支払を求める配当分配税(Dividend Distribution Tax)が設けられている。論点は、当該配当分配税を、企業が支払った所得税として扱うか、企業が株主に代わり支払った源泉所得税として扱うかであった。
会議では、本論点を取り扱うための十分な基礎がIAS第12号により提供されておらず、見直しが必要だとする多くのコメントが聞かれた。また、当該配当分配税を資本に直接認識するとするインドの会計士協会の見解を支持するコメントや、法人所得税についての情報の目的適合性の観点から、会計処理を検討すべきとするコメントも聞かれ議論がなされた。
本セッションでは、IFASSの戦略として、首尾一貫した適用をどのように支援していくべきか議論が行われた。また、本セッションの背景として、IFRSの解釈及び適用に対する支援がIFRS財団の戦略的優先事項とされていることや、IFRS財団のプレス・リリースの中で、IFRS解釈指針委員会には、アジェンダ決定に含まれる教育的なガイダンスの作成や、必要とされる場合には、解釈指針の開発や基準書の修正を行うことによって、関係者からの質問に対処する役割があることに言及していることなどが紹介された。
議論では、「首尾一貫した適用」の意味、各国の会計基準設定主体が首尾一貫した適用のために果たすべき役割、IFRS解釈指針委員会への期待、決定規制当局や監査人等との関係などについて、意見交換がなされた。
会議の参加者からは、原則主義であるIFRSの首尾一貫した適用は、必ずしも同一の会計処理を意味するものではないとする見解が多数聞かれた。原則主義の会計基準の適用のためには、IASBの意図を含む基準書の正しい理解が重要であり、基準書の共通理解を基礎とすることで、比較可能性が担保されるとの認識が共有された。さらに、規制当局のような執行を担う機関ではない各法域の基準設定主体の役割について、基準書の正しい理解のための関係者の教育の主導、各国で生じた解釈上の論点をIFRS解釈指針委員会に紹介する際のゲートキーパーとしての役割、フィールドテストの実施過程での法域内の論点の識別、規制当局による執行上の解釈やルールの調整などが挙げられた。
IFRS解釈指針委員会の活動については、品質を維持した上でのより迅速な見解形成、アジェンダとして取り上げない決定をする場合の明確な理由の提示(問題が広範囲に及ぶものであるか否かの評価の根拠や、却下された選択肢の特定を含む。)、IFRS解釈指針委員会の決定が実務に影響を与える場合の移行に関するガイダンスの提供などに対する要望や期待が示された。
本セッションでは、ラテンアメリカ基準設定主体グループ(GLASS)の代表者より、高インフレーションの影響の会計処理に関する発表が行われた。発表の中では、高インフレーションの影響について、財務諸表を修正しない場合の主なインパクトとして、次の事項が紹介された。
GLASSの代表者は、上記の観点から、高インフレーションの状況において財務諸表が修正再表示されないリスクを指摘し、解決案として、財務諸表のすべての数字を同一の購買力通貨で測定する方法を提案した。さらに、その影響を財務諸表に反映すべきインフレーションのレベルとして、3年間の累積インフレ率が26%(約8%/年)を提案した。これは、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」(以下「IAS第29号」という。)において修正再表示の契機となる3年間の累積インフレ率が100%の閾値を置き換えることを意味している。
議論では、参加者よりIAS第29号で超インフレの指標とされている他の4つの特徴と、累積インフレ率の指標を引き下げる提案との関係について質問され、GLASSの代表者より、実務においては累積インフレ率が他の指標よりもより着目される傾向があることが示された。また、他の法域の代表者より、利益分配への影響に関連して、配当規制の中でインフレーションの影響を反映させる例もあることが示された。
本セッションでは、英国の会計基準設定主体の代表者より、自国の会計基準へのIFRSアドプションに関する発表が行われた。英国では、上場企業の個別財務諸表や非上場企業の財務諸表の作成において適用される会計基準を、IFRSと整合させる目的において、新たな英国会計基準が公表され、2015年より適用されている。新たな英国会計基準の枠組みの中には、IFRSの認識及び測定の要求事項を基礎としつつ一部の開示の減免を認めるもの(FRS第101号)や、中小企業向けIFRS(IFRS for SMEs)に一定の修正を加えて作成されたもの(FRS第102号)が含まれる。
発表では、新たな英国会計基準の適用のための取組み、適用後レビューを踏まえて提案されている主な修正の内容、IFRSの新基準や基準の修正に対応した英国会計基準の見直しの方向性などが説明された。発表者は、非上場企業のための国内のニーズが国際的な整合性に優先され得ること、IFRS for SMEsは検討の出発点としては良いが、追加の明確化や修正が必要であること、英国会計基準の今後の改善のための幅広い関係者からのフィードバックが重要であることなどを強調した。
上記の説明を受け、会議の参加者からは、FRCが検討しているIFRS for SMEsに対する修正について、他の法域でも同様の論点が識別されていることが想定されることから、IFRS for SMEs自体のレビュー過程の中でも意見発信すべきではないかというコメントなどが示された。
本セッションでは、EFRAGの代表者より、2017年1月にEFRAGが公表した「動的リスク管理 銀行は金利リスクをどのように管理しているのか EFRAGの2016年アウトリーチからの発見事項」(以下「EFRAGレポート」という。)の概要が報告された。
EFRAGレポートは、マクロ・ヘッジ会計ともいわれる動的リスク管理のプロジェクトをIASBが進めていくことを支援するために、欧州における15行の銀行に対するアウトリーチを実施した結果を纏めたものである。支援の背景には、EUが、市場金利より低いコア要求払預金の金利要素をヘッジすることができないというIAS第39号「金融商品:認識及び測定」の要求事項について、金利リスクのポートフォリオに対する公正価値ヘッジを可能とする目的で、記述の一部を削除していることが挙げられる。EFRAGは、IFRSにおける動的リスク管理に対する包括的な解決策の開発において、前述の削除の対象となっている論点に対応することが必要であると考えている。
EFRAGの代表者より紹介されたアウトリーチの主な結果は、次のとおりであった。
アウトリーチの結果を受け、EFRAGの代表者からは、金利の動的リスク管理の会計処理を検討する上では、現在のヘッジ会計が主に静的なポジションを基礎としていることや、金利リスクが実務において純額ポジションで管理されていること、さらには、リスク管理の観点と会計をどのように関連付けるか等を検討する必要があるとする見解が示された。
会議の参加者からは、ポートフォリオのヘッジには潜在的に恣意性が生じる懸念があり、厳格な指定が困難であるという見解や、それに対して、為替リスクの管理は実務上厳格になされていると考えられ、当該リスク管理を表現できる会計基準を検討すべきとする見解等が示された。
本セッションでは、IFRS財団アジア・オセアニアオフィスの代表者及び台湾証券取引所の代表者により、IFRSタクソノミの基本情報及び台湾のXBRL導入事例について紹介がなされた。
冒頭、IFRS財団アジア・オセアニアオフィスの代表者より、現在少なくとも14の証券規制当局がIFRSタクソノミを使用していることや、今後は新基準の反映、作成者及び規制当局に対する教育活動に加え、企業特有の報告項目をどのように反映するか等の検討を継続して実施していく予定であることが紹介された。
続いて、台湾証券取引所の代表者より、台湾資本市場へのXBRLの導入事例についての説明がなされた。台湾では、まず研究機関や大学により77の上場企業に対する導入テストを実施し、その後本導入に至っており、業種によって連結財務諸表に適用できる6種のタクソノミを作成していること等が紹介された。
なお、説明後の質疑応答を通じて次のような補足説明がなされた。
本セッションでは、韓国の会計基準設定主体の代表者から、韓国におけるIFRSの適用が、当初の目的を達成するものであったのかを調査し、適用プロセスについて改善すべき点を識別する目的で行われたレビューの結果が報告された。
発表では、韓国におけるIFRSの適用の経緯が説明された後、IFRSの適用に対する期待と効果に関する質問事項と、質問に対する回答の分析結果が示された。さらに、韓国の会計基準設定主体が識別した分析結果から導かれる教訓についても紹介された。発表者は、IFRSの適用により、国際的な会計基準との整合性及び比較可能性の向上や、政治及び規制からの独立に関連する便益が認められた一方で、資本コストの低下については明確な証拠が得られず、短期的には予想される便益をコストが上回っているとの認識を示した。
会議の参加者からは、投資家を啓蒙するなどにより、透明性の向上がより高く評価されたり、海外からの投資を呼び込んだりすることができるのではないかとの見解が示された。韓国の基準設定主体の代表者は、投資家の教育の難しさを強調し、韓国では、IFRSの適用により拡充された開示について作成者の負担となる一方で、投資家が情報を有効に活用していないとする見解があることも紹介した。
(経済基盤理論に基づく財務報告:投資家のニーズを満たす貸借対照表及び損益計算書の設計)
本セッションでは、香港の会計基準設定主体の代表者より、学識経験者としての個人的な見解とした上で、投資家のニーズを満たす財務諸表の設計に関する学術研究の結果と、当該結果を踏まえた場合のIASBの基準設定への示唆が発表された。
発表者は、貸借対照表を支える経済的概念は、企業の事業に対して金融資源を提供する投資家に対するコスト(インプット)であり、損益計算書を支える経済的概念は、報告期間に行われた事業から生じ、投資家のものとなる創出されたベネフィット(アウトプット)であるとするモデルを提案した。また当該モデルに基づくと、資産及び負債は、現在価値ではなく歴史的原価で測定されるべきであり、収益(income)は、実現した事業に関連し、投資家に消費され得るものに限定したものであるべき(資産の再測定から生じる会計上の利得又は損失を含めるべきではない。)との見解を主張した。
会議の参加者からは、資産の価値や成果に関する不確実性をどのように表現するのか、企業が資産の保有目的を使用から売却に変更した場合にも歴史的原価による測定を継続するのか、資産のほとんどが人的資源であるサービス業への適用などに関連して、発表者が提案したモデルに対する様々な疑問や懸念が示された。
(証拠に基づく会計リサーチ及び基準開発)
本セッションでは、EFRAG及びマレーシアの基準設定主体の代表者より、証拠に基づく会計リサーチ及び基準開発について発表が行われた。当該発表は、会計リサーチ及び基準開発における証拠の役割について議論することを目的としており、発表者から、いつ、どういった状況で、何を証拠として収集すべきかについて議論し、共通理解を得ることが重要である旨の見解が示された。
説明後、会議の参加者から聞かれた主なコメントは次のとおりであった。
(仮想通貨)
本セッションでは、オーストラリアの基準設定主体の代表者から、同基準設定主体の仮想通貨に関するリサーチ・プロジェクトの検討について紹介がなされるとともに、仮想通貨をどういった資産として取り扱い、どのように測定すべきかについてグループ・ディスカッションが行われた。
冒頭で、代表的な仮想通貨であるビットコインについては、多くの法域で存在が把握されているものの、実際の使用はまれであることが発表者より触れられ、現金、金融商品、棚卸資産、無形資産などの取扱いの適用した場合に、それぞれどういった整理となると見込まれるか、これまでのリサーチを通じた見解について説明がなされた。
なお、会議では前述の会計上の整理の説明の前に、グループ・ディスカッションを通じた参加者の見解の確認がなされた。測定については、歴史的原価を採用すべきとする意見は聞かれなかったものの、どういった資産として取り扱うかについては様々な見解が聞かれ、多くの参加者は仮想通貨を現金として取り扱うべきと考えていたが、金融商品や棚卸資産とすべきとする少数の意見もあった。
また、発表者より、2016年12月の会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)会議での議論の内容に加え、IASBが高い優先度合いを持って仮想通貨の論点に取り組む可能性は低い認識である旨の見解が示され、IASBの代表者より、2015年のアジェンダ・コンサルテーション時における関係者の関心が大きくなかったことも補足された。
(OCIの役割及び未来)
本セッションでは、フランスの会計基準設定主体とASBJの代表者より、現状、純損益とその他の包括利益が、概念的に十分に区別されていないことを論点として、IASBの概念フレームワークの議論を紹介した上で、それぞれの財務諸表に目的を設け、その他の包括利益の使用を2重の測定基礎(Dual Measurements)の観点から整理すべきである旨の提案が示された。
2重の測定基礎とは、例えば財政状態計算書上で公正価値測定を要求し、損益計算書上で取得原価ベースの計算を要求する場合を指し、発表者は、両計算書の測定基礎の差を埋めるものとしてその他の包括利益を用いることを提案し、さらにすべてのその他の包括利益は将来のいずれかの時点で純損益として認識すべきとする見解を示した。
発表について、多くの参加者より、現在の純損益とその他の包括利益の区別が曖昧であり、概念的に区別することに困難さがあるとするコメントが聞かれた。なお、主なコメントは次のとおりであった。
本セッションでは、IASBの代表者より、各国基準設定主体との適用支援のための共同作業に関連する発表が行われた。冒頭では、IASB副議長でありIFRS解釈指針委員会議長でもあるスー・ロイド氏より、2016年にIFRS解釈指針委員会が議論した論点及びそのうち回答に至った論点に関する統計数値を示し、活動の状況を報告するとともに、より迅速な対応に対する要望も含め、前日の適用に関するセッションで得られた洞察をIASBの関係者と共有し、今後の作業に反映させるであろうと述べた。
また、適用支援のための各国設定主体とIASBとの共同作業の経験として、英国の会計基準設定主体及び香港の会計基準設定主体による、各法域に特有の論点に対するIFRSの適用に関する教育文書の作成の経験、及び韓国の会計基準設定主体による、IASBのテクニカルスタッフとの適用上の論点に関する非公式なコミュニケーションの実績などが共有された。
なお、本セッションでは、新興経済グループ(EEG)で議論された個別の取引を題材とするグループ・ディスカッションも行われた。議論された取引の特徴と識別された論点は、次のようなものであった。
会議の参加者の見解は、プロジェクトの全体を会計単位と考え、全体としては不利な契約に該当しないため負債の認識は不要であり、安価な住宅の販売から想定される損失は高級住宅のコストに配分できるとする見解や、個別の住宅が会計単位となり安価な住宅の建設による損失の発生が回避できなくなった時点で損失を認識すべきとする見解、当局、住宅の販売先、建設会社との個々の契約条件によって会計処理が異なり得るとする見解など様々であった。また、基準書が想定しているあるべき会計単位の考え方が明確であることが重要であり、将来の検討課題となり得るとする意見も示された。