ASBJ 企業会計基準委員会

2017年下期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各法域の会計基準設定主体及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織による非公式ネットワークである。2016年秋から、ドイツの会計基準設定主体の元委員長であるクノール氏がIFASSの議長を務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されており、今回は2017年9月26日及び27日の2日間、ロンドン市内の会場で開催され、各法域の会計基準設定主体(約30団体)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)の代表者など約70名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはハンス・フーガーホースト議長ほかが参加した。

企業会計基準委員会(ASBJ)からは、小賀坂副委員長ほかが出席した。

Ⅱ 今回の会議の概要

No 議題 担当
2017年9月26日
開会の挨拶 IFASS議長
1 IFASSの運営 IFASS議長
2 IFASS参加者の連携 IFASS議長
3 (任意のセッション)中小企業向け国際財務報告基準(IFRS for
SMEs)
IASB
4 (任意のセッション)公会計 IPSASB
5 (任意のセッション)非営利ワーキング・グループ(及び他の関心のある参加者) 非営利ワーキング・グループ
6 (任意のセッション)IFRS第9号「金融商品」の個別財務諸表への適用 イタリア
2017年9月27日
7 共通支配下の企業結合 香港、イタリア
8 より幅広い財務報告 英国、ドイツ、デンマーク
9 年金に関するリサーチ:ハイブリッド制度 カナダ
10 適用上の論点
・IAS第24号「関連当事者についての開示」
・IAS第12号「法人所得税」
インド
閉会の挨拶 IFASS議長

1.IFASSの運営

本セッションでは、IFASS議長より、参加者とオブザーバーとの区分の継続や、現議長の任期と次期議長の選任プロセスなどに関する提案などが示された。IFASSの参加者からは、オブザーバーが参加者間のテーブル・グループ・ディスカッションも含めて議論の内容を確認できるように、座席の配置を工夫することなどが提案された。

2.IFASS参加者の連携

本セッションでは、IFASS議長より、IFASS参加者間の情報共有と連携を可能にするための方法を検討するために組成されたワー
キング・グループの活動について報告された。また、ワーキング・グループで議論された、IFASS参加者間の連携の強化を目的とする施策の案として、次の事項が紹介された。

  • IFRS財団のホームページに掲載されている各法域のプロフィール情報の内容の拡充
  • 各国基準設定主体が識別したIFRS適用上の論点(IASBが実施するアウトリーチに対する各国基準設定主体の回答を含む)や、各国基準設定主体が実施したリサーチ活動に関する情報等を共有するためのデータベースの構築

IFASSの参加者からは、各国基準設定主体が検討しているIFRS適用上の論点が共有される場合には有用であるとの意見が聞かれた一方で、データの維持管理を誰が行うのかなど、情報を共有するためのハードルも識別される中で、情報共有は必須というレベルではないとの意見も聞かれた。また、各国基準設定主体がIFRS適用上の論点の検討結果として公表するものの多くは教育的な性質の文書であり、解釈ではない点を強調する意見や、法域特有の論点に対する検討結果の別の法域における有用性を疑問視する意見も聞かれ、データベースを構築するよりも、IFASS参加者間のメーリングリストを活用し、経験の共有を募る方が現実的ではないかとの意見を示す参加者もあった。

3.共通支配下の企業結合

本セッションでは、香港及びイタリアの会計基準設定主体の代表者より、共通支配下の企業結合に取得法とは異なる会計処理が要求されるべき場合と、取得法が適用されない場合のあるべき会計処理を評価することを目的とした議論が行われた。本セッションは、テーブル・グループ・ディスカッションの形式で実施され、次の質問事項に関する各国基準設定主体の見解が共有された。

  • 質問1:共通支配下の企業結合に取得法とは異なる会計処理を要求すべきか否かを、取引の経済的実質の有無によって判断する場合、どのような要因が経済的実質の有無を評価する際に役立つと考えるか。
  • 質問2:共通支配下の企業結合において、どのように取得企業の識別を行うべきか。

質問1について、IFASSの参加者からは、経済的実質があるために取引が実行されたのであり、通常の企業結合取引と同様に、あらゆる共通支配下の企業結合について経済的実質があることを前提とすべきという意見や、利用者の情報ニーズを考慮する観点から、支配株主とは情報ニーズが異なる少数株主の存在が、あるべき会計処理に違いを生じさせるかもしれないという意見などが聞かれた。

質問2については、共通支配下の企業結合がIFRS第3号「企業結合」の範囲外であるために、取得企業の識別のためにIFRS第3号が類推適用される範囲などについて、選択の幅が生じ得ることを指摘する意見や、あるべき会計処理と同様に、取得企業の識別においても、報告企業の財務諸表の利用者を考慮した検討が重要であるとの意見などが聞かれた。

    4.より幅広い企業報告

    本セッションでは、英国、ドイツ及びデンマークの会計基準設定主体の代表者より、より幅広い企業報告(Wider corporate reporting)に関するIFASS参加者の経験の共有と、IASBの今後の方向性に関する議論が行われた。本セッションは、テーブル・グループ・ディスカッションの形式で実施され、次の質問事項に関する各国基準設定主体の経験及び見解が共有された。

    • 質問1:より幅広い企業報告の分野におけるIFASS参加者の経験(参加者の法域において、非財務報告が論点となっているか。IFASS参加者の基準設定主体としての役割には、より幅広い企業報告の分野における基準開発又はその他の役割を担っているか。)
    • 質問2:より幅広い企業報告の論点についてIASBはどのような役割を担うべきか。

    質問1について、IFASS参加者からは、非財務報告に関する制度は法域によって異なっており、非財務情報の提供が要求されている場合もあれば、企業が自発的に開示している場合もあることが示された。また、各国基準設定主体の非財務報告の分野における役割も様々であり、基準開発が役割に含まれる法域は少数であった。

    質問2について、複数のIFASS参加者が、投資家の非財務情報に対するニーズは、当該情報が財務意思決定に有用と考えられているためであるとの認識を共有した。また、比較可能性の観点からは、この分野に関する基準やフレームワークが望まれるという認識が示される一方で、どの組織が国際的な非財務報告の基準の開発を主導すべきかという点については、IASBが主導的な役割を担うべきという意見もあれば、IASBは財務報告のための基準開発に集中すべきという意見もあるなど、意見が分かれた。

    ハンス・フーガーホーストIASB議長は、より幅広い企業報告はそもそも定義することが難しく、誰に対する情報提供かを識別することも困難であることを指摘した。また、仮に、財務情報の中に投資家が財務意思決定に必要な情報が十分に含まれていないということが問題の本質なのであれば、この問題をより幅広い財務報告(broader financial reporting)と呼び、財務情報に関連のある情報の提供に関する論点をIASBが取り扱うことであれば、検討に値するかもしれないとの見解も示された。

    5.年金に関するリサーチ:ハイブリッド制度

    本セッションでは、カナダの会計基準設定主体の代表者より、ハイブリッド年金制度(典型的な確定拠出制度と典型的な確定給付制度の性質を併せて有している制度)について、カナダ、ドイツ、日本、英国、米国において現在までに行われたリサーチ結果の要約が示され、ハイブリッド年金制度に適用される国際的な会計基準の必要性に関するIFASS参加者の見解、及び本リサーチへの参加に対するIFASS参加者の関心を確認することを目的とした議論が行われた。本セッションは、テーブル・グループ・ディスカッションの形式で実施され、次の質問事項に関する各国基準設定主体の経験及び見解が共有された。

    • 質問1:経済特性をよりよく反映するために、ハイブリッド年金制度に関するIFRS基準が必要と考えるか。
    • 質問2:リサーチ・グループが提示したハイブリッド年金制度の可能性ある会計処理のアイデアについて、どのように考えるか。

    質問1について、IFASS参加者からは、純粋な確定給付制度に該当せず、リスクの一部を雇用主から分離する制度が増加している傾向にあることが示された。IFRS基準の開発の必要性については、現行のIAS第19号「従業員給付」では二極化した制度の区別が求められているため、ハイブリッド制度のためのガイダンスがあれば有用であると考える意見もあれば、現行IAS第19号の範囲において、会計方針として既に適用されている会計処理が変更される可能性を懸念する意見も聞かれた。

    質問2については、拠出ベースの約定からの保証又はリスク要素の分離に関する論点などが議論され、分離により精緻な会計処理が達成される可能性がある一方で、保証又はリスクの要素の価値の測定が困難と考えられることも指摘された。

    6.適用上の論点

    本セッションでは、インドの会計基準設定主体の代表者より、次の2つのIFRSの適用上の論点が紹介された。

    • IAS第24号「関連当事者についての開示」:インドの法令により設置が求められる社外取締役が、経営幹部の範囲に含まれるか。
    • IAS第12号「法人所得税」:インドの税法に従って企業が最低代替税(Minimum Alternative Tax)を支払う場合に、当該支払により生じる税額控除に対する繰延税金資産を認識すべきか。

    1つ目の論点について、多くのIFASS参加者は、提示された事実に基づくと、社外取締役は経営幹部の範囲に含まれるとの見解を示した。2つ目の論点については、背景となる事実関係を確認するための議論が行われ、最低代替税がIAS第12号における「法人所得税」の定義を満たすのであれば、原則的には税額控除は将来減算一時差異を生じさせるのではないかとの見解が示された。