ASBJ 企業会計基準委員会

2018年上期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各法域の会計基準設定主体及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織によるネットワークである。2016年秋から、ドイツの会計基準設定主体の元委員長であるクノール氏がIFASSの議長を務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されており、今回は2018年4月12日及び13日の2日間、ムンバイ(インド)の会場で開催され、各法域の会計基準設定主体(約25団体)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループからの代表者など約50名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはスー・ロイド副議長ほかが参加した。

企業会計基準委員会(ASBJ)からは、小野委員長ほかが出席した。

Ⅱ 今回の会議の概要

No 議題 担当
2018年4月12日
開会の挨拶 IFASS議長及びインド
1 IFASSの運営 IFASS議長
2 IFASS参加者の連携 IFASS議長
3 のれん及び減損 IASB
4 IFRS適用に係る活動 IASB
5 連結財務諸表が作成される場合における親会社及び子会社の個別財務諸表の目的適合性 オーストラリア
6 IASBワークプラン及びリサーチ・プロジェクト IASB
7 非営利企業ワーキング・グループの活動 米国
8 IFRS第15号:支払を受ける強制可能な権利 韓国
9 IFRS第16号に関する課題の共有 全参加者
10 (任意のセッション)IFRS第17号に関する課題の共有 全参加者
11 (任意のセッション)IFRS第10号における非営利企業の連結 インド
12 (任意のセッション)タクソノミ・アップデート IASB
13 (任意のセッション)NFRSの適用 ネパール
2018年4月13日
14 資本性金融商品:減損及びリサイクリング EFRAG
15 無形資産に関する考察(FRCのリサーチ・プロジェクト) 英国
16 共通支配下の企業結合(BCUCC)  イタリア
17 基本財務諸表:IASBにおける最近の論点 英国
閉会の挨拶 IFASS議長及びインド

1.のれん及び減損

本セッションでは、IASBの代表者より、のれん及び減損について、IASBで暫定合意されたヘッドルーム・アプローチの説明がなされ、当該アプローチに関連して、以下の点について参加者の間で議論がなされた。なお、本セッションは、テーブル・グループ・ディスカッションの形式で実施され、各国基準設定主体の見解が共有された。

  • ヘッドルームの減少を帰属させるために使用した基礎の開示は、財務諸表利用者に有用な情報を提供すると考えられるか。
  • ヘッドルーム・アプローチの適用において、企業に生じる可能性があるコストの性質及び程度を指摘してほしい。

なお、ヘッドルーム・アプローチのもとでは、資金生成単位(CGU)の回収可能価額を毎期算定し、当該回収可能価額とCGUに含まれるのれん以外の純資産の帳簿価額との差額をトータル・ヘッドルームとし、トータル・ヘッドルームが減少した場合には、当該減少額に相当する購入のれんの減損が生じたものと推定するアプローチである。ただし、当該推定は反証可能な推定であり、企業が当該推定を反証する場合には、トータル・ヘッドルームの減少の一部又は全部を購入のれんに帰属させるべきではないと判断した理由を開示することとしている。

IFASSの参加者からは、トータル・ヘッドルームを毎期計算し、当該計算結果を比較し続けることは、追加の手続を要し、コストがかかるため課題も多いという認識が示された。また、トータル・ヘッドルームの減少がのれんの減損であるという反証可能な推定については、適用上の判断を伴うため、より詳細な検討がなされなければ適用は困難であるという意見が聞かれた。その他、単一のCGUの中に複数の企業結合によって取得された事業が含まれる場合や、取得後にリストラクチャリングが行われた場合などにおいて、ヘッドルーム・アプローチがどのように適用されるかが不明瞭であるという意見が聞かれた。また、このような複雑なアプローチを適用するのであれば、償却を導入することがより実務的ではないかという意見が複数聞かれた。

    2.IASBワークプラン及びリサーチ・プロジェクト

    本セッションでは、IASBの代表者からIASBにおけるプロジェクトの進捗状況について説明がなされ、今後数か月以内に、引当金、採掘活動、変動対価及び条件付対価、資産のリターンに依存する年金給付、並びに子会社である中小企業に関するプロジェクトが開始されることが報告された。また、今後は料金規制対象活動、のれん及び減損、並びに基本財務諸表について、次のコンサルテーション文書を、ディスカッション・ペーパーにするか公開草案にするか議論が必要である旨が報告された。

    IFASS参加者からは、持分法については未解決の論点もあることから早期にプロジェクトとして取り組む必要があるのではないかという意見が聞かれ、これに対してIASBの代表者から、IFRS第11号「共同支配の取決め」に関する適用後レビューと合わせて早急に取り組みたいとの考えが示された。

    3.IFRS第15号:支払を受ける強制可能な権利

    韓国の基準設定主体の代表者から、マンションの建設及び販売から生じる収益について、IFRS第15号第35項に定められている「企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利」を有しているか否かの判断に係る課題が設例を用いて説明された。当該設例では、建設期間が長期にわたり、建設開始時に顧客と契約を締結するとともに顧客から返金不要の前受金を受け取ること、及び顧客はある特定の期間のみ契約を解約する権利を有することが前提とされていた。

    このような契約において、前受金の金額が解約可能期間における工事の進捗度に見合わない場合には、IFRS第15号第35項の⒞の要件を満たさず、一時点で収益認識されるものと考えられる。これは、IFRS第15号第37項に、第35項の要件(この場合、企業が支払を受ける強制可能な権利を有すること)は契約期間にわたって満たされなければならない旨の定めがあるためであるが、当該要件を満たさない期間がごく短い場合でも、一定の期間にわたって収益を認識できない点について懸念が示された。

    複数のIFASS参加者から、当該設例の事実関係に関する確認がなされ、設例で与えられた条件が、企業が支払を受ける強制可能な権利を有するか否かを判断する上で十分なのか否か等の質問がなされた。また、IFRS第15号第37項は第35項の判断に資するために設けられた具体的な規定であり、当該規定に従って一定期間にわたり収益を認識する要件を満たすか否かを判定する必要があるため、支払を受ける強制可能な権利を有する期間が異なる等、経済実態が異なれば結論が変わることも妥当な結果であろうという意見も聞かれた。

    4.IFRS第17号に関する課題の共有(任意のセッション)

    本セッションでは、IFASS議長からIFRS第17号「保険契約」の適用に関する課題への対応として、移行リソースグループ(TRG)の活動や、EFRAGが実施する事例研究、並びにインド及びドイツの会計基準設定主体による取組が紹介された。

    その後、各国における取組について情報が共有された。ドイツでは、ワーキング・グループを形成し、TRGの論点も含めた適用上の課題を検討しており、フランスやカナダも独自に適用上の課題を検討するグループを有している旨の報告がなされた。次に、日本、中国及び韓国から自国の状況が報告された。日本からは、保険会社によるIFRSの任意適用が進んでいないことから、自国に特有の適用上の課題よりもTRG等における議論に関心が寄せられている旨が報告された。中国では現在、IFRS第17号を自国の言語に翻訳しているところであり、各企業は翻訳が完了してから検討を開始する見込みとのことである。また、韓国からは、各保険会社が同時に新基準を適用し、システム改修が必要となることから、保険数理人やシステムの専門家の確保が課題となっているという報告がなされた。

      5.資本性金融商品:減損及びリサイクリング

      本セッションでは、2018年3月にEFRAGが公表したディスカッション・ペーパー「資本性金融商品─ 減損及びリサイクリング」(以下「本DP」という。)について、EFRAGの代表者から説明があり、その後、本DPに関連するいくつかの質問について、テーブル・グループ・ディスカッションの形式で議論された。

      IFRS第9号「金融商品」では、資本性金融商品に対する投資について、FVOCIオプションの選択を認めている。当該オプションを選択した場合には、公正価値の変動をその他の包括利益(OCI)に認識し、金融商品の認識を中止してもOCIをリサイクリングせず、また、減損の評価も行わないこととされている。この点について、グループ・ディスカッションでは主に、純損益が主要な業績指標である場合に、FVOCIオプションを選択して計上されたOCIをリサイクリングすることが長期投資を行う企業の業績表示を改善するかどうかについて議論がなされた。リサイクリングを行うべきか否かについて、IFASS参加者の見解は分かれており、投資の売却時期によって純損益に反映される時期が変わることは経営者の恣意性が高まるとして、リサイクリングに反対する意見が聞かれる一方で、概念フレームワークにおいてもリサイクリングが前提とされていること等から、リサイクリングを支持する意見も複数聞かれた。

      また、リサイクリングと減損の関連性についても議論がなされた。本DPでは減損モデルの改善案として2つのモデルが提示されており、1つは公正価値が当初取得原価を下回る金額を純損益に認識し、上回る金額をOCIに認識する再評価モデルであり、もう1つはIAS第39号の減損モデルにおける「著しい又は長期にわたる」の適用に関するガイダンスを追加した減損モデルである。IFASS参加者からは、前者のモデルについては、損失のみを純損益に計上するモデルにニーズが見られないのではないかという意見や、後者のモデルを検討するにあたっては、どのように追加の要件を設定するかが肝要であるという意見が聞かれた。

      6.共通支配下の企業結合(BCUCC)

      本セッションでは、イタリアの代表者から共通支配下の企業結合(BCUCC)に関して、イタリア及び香港で実施された調査結果の報告がなされ、その後、テーブル・グループ・ディスカッションの形式で、設例を用いて参加者の意見が交換された。

      イタリア及び香港では、共通支配下の企業結合と、第三者との企業結合との間に実質的な相違があるかどうか、またどのようにそれらを評価しているのかを理解するために、それぞれの法域の利害関係者に対してアンケートを実施した。アンケートの結果、税務上の便益を得ることを目的としているか否か等が、BCUCCの実質を検討する際に重要な考慮要因と捉えられていることが分かったが、なぜそうした要因が重要と考えられているかについては追加の調査が必要である旨が報告された。

      グループ・ディスカッションでは、BCUCCの取引の事例について、取得法と簿価引継法のいずれが適切と考えられるかについて議論がなされた。非支配持分が存在する事例や、BCUCCの後に株式公開をする事例、及び非支配持分が存在しない代わりに銀行から融資を受けている事例など、複数の事例について議論が行われた。IFASS参加者からは様々な意見が聞かれたが、一般的にBCUCCにおいては持分プーリング法が適切ではないかという意見が複数聞かれる一方で、BCUCCがIPOを前提として行われるケースにおいては、フレッシュ・スタート法のような公正価値測定に基づく方法も将来の投資家の観点を反映し得るのではないかという意見や、処理方法をオプションとすると比較可能性の観点から望ましくないといった意見が聞かれた。

      Ⅲ.おわりに

      次回のIFASS会議は、2018年10月にロンドンでの開催が予定されている。