ASBJ 企業会計基準委員会

2018年下期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各法域の会計基準設定主体及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織による非公式のネットワークである。2016年秋から、ドイツの会計基準設定主体の元委員長であるクノール氏がIFASSの議長を務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されており、今回は2018年10月2日及び3日の2日間、ロンドン市内の会場で開催され、各法域の会計基準設定主体(約30団体)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)の代表者など約70 名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはハンス・フーガーホースト議長ほかが参加した。

企業会計基準委員(ASBJ)からは、小賀坂副委員長ほかが出席した。

Ⅱ 今回の会議の概要

No 議題 担当
2018年10月2日
開会の挨拶 IFASS議長及びインド
1 共通支配下の企業結合に関するフォローアップ:香港及びイタ
リアにおける簿価引継法の経験
香港、イタリア
2 年金に関するリサーチ:ハイブリッド制度に関するフォロー
アップ
カナダ
3 IFRS第3号「企業結合」─ 企業結合で取得した有形固定資産
に関連する印紙税その他のコストの会計処理
インド
4 (任意のセッション)公会計 IPSASB
5 (任意のセッション)会計方針と会計上の見積りとの間の概念
的な線引き
韓国
6 (任意のセッション)非営利ワーキング・グループ会議 非営利ワーキング・グループ
7 (任意のセッション)IFRS第17号「保険契約」の適用 IFASS議長、カナダ、香港、韓国
2018年10月3日
8 次期IFASS 議長の選任プロセス IFASS議長
9 「企業による公開の報告のためのEU 版フレームワークに関す
るフィットネス・チェック」に対する見解及び洞察
オランダ
10 ・採掘産業:IASBの2010年のディスカッション・ペーパー及びリサーチ・プロジェクトの今後の進め方
・IFRSの新基準(IFRS第9号「金融商品」、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」及びIFRS第16号「リース」):新基準による改善及び適用開始の結果を踏まえた評価
IASB
11 IASB の資本の特徴を有する金融商品に関するディスカッショ
ン・ペーパー
EFRAG、英国
12 経営者による説明:英国FRC のアプローチ 英国
13 業績指標報告に関するフレームワークに向けて カナダ
閉会の挨拶 IFASS議長

1.IFRS第17号「保険契約」の適用

本セッションでは、カナダ、香港及び韓国の会計基準設定主体の代表者より、IASBが2017年5月に公表したIFRS第17号「保険契約」(以下「IFRS第17号」という。)の適用について、各法域における適用準備のためのアプローチ、及び適用上の課題として識別されている論点が紹介された。

カナダ、香港及び韓国の会計基準設定主体は、それぞれの法域において2021年1月1日の発効日を含めたIFRS第17号のエンドースメント手続が完了していることに言及した。一方、IASBボードが、IFRS第17号の年次改善プロジェクトを通じた小規模な変更を暫定決定したことや、2018年9月にEFRAGがエンドースメント・アドバイス案の作成中に識別された懸念をIASBへのレターとして指摘したことなども背景として、IASBによるIFRS第17号の考えられ得る修正の範囲や、発効日の延期の可能性について関係者からの懸念が寄せらせていることも紹介した。

カナダ、香港及び韓国の会計基準設定主体を含むIFASS会議の参加者からは、発効日の延期の可能性について、IFRS第17号は、内部管理の変更やシステム対応を伴う大規模なプロジェクトであるため、プロジェクトを延期する場合には追加的なコストがかかることが指摘された。また、延期される期間が長く、適用準備のためのプロジェクトがいったん中断される場合には、リソースの再配置のためにさらなるコストが発生することが予想されることも指摘された。

参加したIASB理事からは、2018年10月のIASBボードにおいて、EFRAGによって指摘された項目を含むこれまでに関係者から提起された懸念の要約を報告し、仮に基準変更する場合のフレームワーク及び発効日の延期の可能性について議論する予定であることが示された。(*1

    2.次期IFASS議長の選任プロセス

    本セッションでは、IFASS議長より、次期IFASS議長の選任のための今後の手続及び日程が報告された。現議長の任期は2019年春のIFASS会議(2019年3月にブエノスアイレスで開催予定)までであり、今回のIFASS会議の終了後に次期議長の選任プロセスが開始される予定である。

    3.「企業による公開の報告のためのEU版フレームワークに関するフィットネス・チェック」に対する見解及び洞察

    欧州委員会(EC)は、2018年3月に協議文書「企業による公開の報告のためのEU版フレームワークに関するフィットネス・チェック」を公表した。本協議文書は、企業による公開の報告のためのEU版フレームワークが、その目的を果たしてしているかどうかに関する関係者の意見を募ることが目的とされており、EUにおけるIFRSのエンドースメント手続に関する意見も求められていた。なお、コメント期限は、2018年7月12日までとされていた。

    本セッションでは、オランダの会計基準設定主体の代表者より、EUのエンドースメント・メカニズムやエンドースメント規準の説明、フィットネス・チェックの経緯、及び寄せられた見解を踏まえた洞察などが紹介された。EUにおけるIFRSのエンドースメント手続におけるカーブ・イン及びカーブ・アウトの可能性については、賛否両論が聞かれているものの、IFRSに対する変更を行うべきではないとする見解が多数であったことも紹介された。

    IFASS会議の参加者からは、特定の法域又は地域における政治的な決定が、国際的な会計コミュニティーに重大な影響を与え得ることを考慮すべきであるとの見解が示された。また、議論の中で、IASBのフーガーホースト議長は、IASBの基準開発のプロセスでは、関係者の見解に耳を傾け、彼らの見解を反映するために多くの修正が行われていることに言及し、カーブ・イン及びカーブ・アウトの選択肢は、そのようなプロセスの必要性に疑問を抱かせるものであるとの見解を述べた。

    4.IASBの資本の特徴を有する金融商品に関するディスカッション・ペーパー

    本セッションでは、EFRAGの代表者より、IASBが2018年6月に公表したディスカッション・ペーパー「資本の特徴を有する金融商品」(以下「DP」という。)に対する予備的な見解を共有することを目的とした議論が行われた。本セッションは、グループ・ディスカッションの形式で実施され、次の項目に関する各国基準設定主体の予備的見解が共有された。

    • IASBの「資本の特徴を有する金融商品」のプロジェクト(FICEプロジェクト)の範囲及びIAS第32号「金融商品:表示」の修正のためのアプローチについて
    • DPで提案されている負債及び資本の区分モデルについて
    • DPで提案されている区分モデルに基づく既存の金融商品の区分結果について
    • 企業自身の資本に係るデリバティブの区分に関するDPの提案について
    • その他の包括利益(OCI)の使用について
    • 純損益及びOCIの各クラスの資本性金融商品への帰属について

    IFASS参加者からは、負債及び資本の区分を行う目的に関して、利用者は、流動性やソルベンシーを判断する際に、負債又は資本の区分とは別の情報を利用している場合もあり、流動性やソルベンシーに関する情報の提供が必ずしも負債及び資本の区分の目的とはならない可能性があるとの見解が示された。また、概念フレームワークでは、持分参加者からの出資又は分配に関連するもの以外の持分の増加又は減少として収益及び費用が定義されているが、当該定義の中で使用される「持分」の概念とDPで提案されている負債及び資本の区分との関連性に関する議論が十分でないとする見解も聞かれた。

     


      1. 2018年11月のIASBボード会議において、IFRS第17号の発効日を2022年に1年延期することが暫定合意されている。保険会社に認められているIFRS第9号「金融商品」の適用免除についても、2022年まで延長されることが暫定合意された。