ASBJ 企業会計基準委員会

2019年下期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(InternationalForum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各法域の会計基準設定主体
及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織による非公式のネットワークである。今回の会議より、IFASS議長を企業会計基準委員会(ASBJ)の川西副委員長、事務局長をASBJの丸岡アシスタント・ディレクターが務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されており、今回は2019年10月1日及び2日の2日間、ロンドン市内の会場で開催され、各法域の会計基準設定主体(約35団体)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)など約80名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはハンス・フーガーホースト議長、スー・ロイド副議長ほかが参加した。ASBJからは、小賀坂委員長及び矢農委員が出席した。

Ⅱ 今回の会議の概要

議題 担当
2019 年10月1日
歓迎と開会の挨拶 IFASS議長
1 採掘活動 カナダ、オーストラリア、ノルウェー、IASB
2 英国における動向 英国
3 非営利組織向け国際財務報告基準─プロジェクト・アップデート 英国勅許公共財務会計協会(CIPFA)
4 国際公会計基準審議会アップデート IPSASB
2019年10月2日
5 (任意のセッション)政府補助金債権と政府補助金収入(IAS第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」) インド
6 環境・社会・ガバナンス(ESG)及びインタンジブルズ 韓国、IASB
7 テクノロジーの利用を通じた利害関係者との関係 米国、IASB
8 のれん 米国、日本、香港
9 IFRS第16号「リース」の適用 イタリア
10 学術研究を支援するボランティア募集 ドイツ
閉会の挨拶 IFASS議長

1.採掘活動

本セッションでは、IASBの採掘活動プロジェクトにおけるアウトリーチ活動を支援したカナダ、オーストラリア及びノルウェーの会計基準設定主体の代表者及びIASBの担当スタッフをパネリストとしてパネルディスカッションが実施された。

本プロジェクトは、IFRS第6号「鉱物資源の探査及び評価」を置き換えるか、または修正する提案を開発するプロジェクトに着手すべきかどうかをIASBが判断するために再開されたことがIASBスタッフにより紹介された。今後のステップとして、追加のアウトリーチを実施した上で、プロジェクトの範囲を決定することが計画されていることも説明された。

カナダ、オーストラリア及びノルウェーの会計基準設定主体の代表者は、2010年のIASBによるディスカッション・ペーパー「採掘活動」公表以降の変更を含め、各基準設定主体が実施したリサーチ結果について議論した。リサーチ結果には、⑴採掘活動を行う報告企業数の変化、⑵産業または企業の規模による、探査及び評価活動に関する会計方針の選択の多様性、⑶減損及び減損の実務上の課題の増加、⑷非GAAP指標を含む財務諸表外で開示される情報、⑸気候変動と環境問題の影響、埋蔵量及び資源量及び先進的な取引等に対する財務諸表利用者による情報ニーズ、並びに⑹政府への支払いに関する財務諸表外での規制上の開示要等が含まれていた。さらに、プロジェクトの範囲と、今後行うべき活動についても議論が行われた。ここでは、⑴首尾一貫性のある会計処理の必要性、⑵本プロジェクトに対する基準設定活動の必要性に対する利害関係者の見解の相違、⑶探査及び評価を資産認識する実務に関するさらなる分析の必要性、⑷企業結合か資産の取得かの判定、リスク分担契約、減損テストの会計単位等のガイダンスが必要な領域、⑸開示の改善等について議論が行われた。

    2.英国における動向

    本セッションでは、英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の代表者及び英国財務報告評議会(FRC)の代表者により、英国の監査改革及び欧州連合(EU)離脱後の英国のIFRSエンドースメントに関する状況が紹介された。現在、英国におけるIFRS採用の判断はEU で行われている。EU 離脱後の英国におけるIFRSのエンドースメントに関して、⑴EU が採用したIFRSをEU 離脱日時点で凍結し、⑵ IFRSをエンドースメントして採用するEU の権限を、BEISの国務大臣(Secretary ofState)に移管し、さらに、⑶これらの権限をエンドースメント審議会に委任するメカニズムを設定する法制がすでに整備されていることが紹介された。エンドースメント審議会の設立が現在進められており、十分に独立性がある機関になる点も説明された。IFASS会議の参加者からの質問への回答として、エンドースメント手続においては、エンドースメント審議会には、カーブアウトの選択肢のみが認められ、カーブインは認められない予定となる点が説明された。

    3.ESG 及びインタンジブルズ

    本セッションでは、最初に韓国会計基準委員会(Korea Accounting Standards Board;KASB)の代表者により、KASBで現在行われている「インタンジブルズの財務報告」に関するリサーチが紹介された。KASBは、財務諸表の有用性を高めるため、学術専門家及び評価専門家と協力して、インタンジブルズの報告に関する提案を開発している。現在のIFRS基準で認識されないインタンジブルズの報告は、財務諸表の他の要素と同様に重要であり、投資決定に資するとして、暫定的に「コア・インタンジブルズの報告書」と名付けた別個の報告書において、コア・インタンジブルズの貨幣的価値を報告することが提案されている。コア・インタンジブルズは、独立した将来のキャッシュ・フローを生成するインタンジブルズの単位であり、これによって、企業がインタンジブルズに評価手法を適用することができるようになると説明されている。

    続いてIASBスタッフにより、IASBの「経営者による説明」プロジェクト並びに「経営者による説明」におけるインタンジブルズ及びESGの開示に関するスタッフ提案が紹介された。IASBスタッフは、企業が依存する特定のインタンジブルズ及びそれを管理する企業の戦略に関する財務諸表利用者の情報ニーズに応えるために、インタンジブルズの情報開示に関する原則ベースでのアプローチを提案した。

    IFASS会議の参加者は、財務諸表で提供される情報を改善するためのKASB及びIASBの取組みを評価した。IASBスタッフが提案する原則と思考プロセスが役立つという意見も聞かれた。さらに、⑴提供される情報は企業特有である必要があるが、同時に比較可能性を考慮する必要があること、⑵企業特有の情報が機密情報である場合に、企業により開示が行われない懸念があること、⑶企業が現在要求されている開示を考慮する必要があること、⑷監査の困難性等が議論された。

    4.のれん

    本セッションでは、米国財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board;FASB)の代表者によるプレゼンテーションと、ASBJの代表者及び香港公認会計士協会(Hong Kong Institute of Certified Public Accountants;HKICPA)の代表者によるプレゼンテーション及びグループ・ディスカッションが実施された。

    FASBの代表者からは、FASBが公表した、コメント募集「識別可能な無形資産及びのれんの事後の会計処理」(ITC)の内容が紹介された。のれん及び無形資産の会計処理に関する変遷や財務諸表利用者からのメッセージなど、ITCの公表にいたった経緯が説明された。スタッフの文書であるITCにおいては、⑴のれんの事後の会計処理を変更すべきか、⑵企業結合における無形資産の認識を修正すべきか、⑶のれん及び無形資産に関する開示を追加または変更すべきか、並びに⑷比較可能性及び範囲に関してコメントが求められている。

    ASBJの代表者は、ASBJスタッフとHKICPAスタッフが共同で作成したのれん及び減損に関する定量的調査の報告を行った。本報告は、のれん及び減損に関する定量的データを共有することにより、のれんの性質と事後の会計処理に関する議論を促すことが目的とされ、調査された株式市場においては、のれんの合計額及び企業ごとののれんの金額が増加する傾向にあり、純資産の100%を超えるのれんを認識する企業も確認されたことが報告された。

    HKICPAの代表者は、適切な会計処理を決定するために、のれんの性質を理解することの重要性を強調した上で、IFASS会議の参加者に⑴取得したのれんが減耗する資産であるかどうか、及び⑵関連する償却期間を決定できるかどうかを質問した。

    多くのIFASS会議の参加者により、のれんが資産であるという意見が共有された。一方で、のれんが減耗する資産であるかどうか、及び関連する償却期間を決定できるかどうかについては、様々な意見が聞かれた。また、⑴のれんが、自己創設のれんに置き換えられることを根拠として償却すべきかどうか、⑵のれん全体が減耗するのかどうか、⑶のれんは時間の経過とともに価値を失うのかどうか、⑷購入のれんと自己創設のれんの区分の困難性、⑸財務諸表利用者にとっての情報価値、⑹取得した識別可能な原資産に対応する償却期間の使用、⑺ビジネスサイクルの短期化の償却期間への影響、⑻急激な減価を反映する償却方法等、様々な議論が行われた。

      Ⅲ.おわりに

      次回のIFASS会議は、2020年4月にワシントンD.C.での開催が予定されている。