2020年下期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters; IFASS)は、各法域の会計基準設定主体及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織による非公式のネットワークである。2019年秋から、IFASS議長を企業会計基準委員会(ASBJ)の川西副委員長、事務局長をASBJの丸岡アシスタント・ディレクターが務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されているが、新型コロナウィルス感染症(COVID─19)パンデミックにより、2020年春にワシントンD.C.で予定されていた会議は中止となり、2020年秋にロンドンで予定されていた会議は9月30日及び10月1日の2日間、ウェブ会議の形式で開催された。会議には各法域の会計基準設定主体(約37団体)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)など約119名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはスー・ロイド副議長ほかが参加した。ASBJからは、小賀坂委員長及び矢農常勤委員が参加した。

Ⅱ 会議の概要

議題 担当
2020年9月30日
歓迎と開会の挨拶 IFASS議長
1 個別財務諸表をめぐる問題点 ブラジル、イタリア、韓国
2 基本財務諸表 EFRAG、韓国
3 暗号資産 EFRAG
4 無形資産 カナダ、日本、ドイツ、米国、英国
2020年10月1日
5 継続企業 ニュージーランド、オーストラリア
6 非営利組織向け国際財務報告基準―プロジェクト・アップデート 国際非営利会計基準(IFR4NPO)プロジェクトチーム
7 国際公会計基準審議会アップデート IPSASB
8 フィンテックの適用と会計基準 台湾
9 スリランカにおけるCOVID─19の影響 スリランカ
閉会の挨拶 IFASS議長

1.基本財務諸表

本セッションでは、2019年12月にIASBが公表した公開草案(ED/2019/12)「全般的な表示及び開示」(以下「本公開草案」という。)に対して、EFRAG及び韓国会計基準委員会(KASB)の見解が紹介された。

最初に、EFRAGの代表者から、本公開草案に対するEFRAGの予備的見解と、フィールドテスト及びアウトリーチ結果が紹介された。EFRAGは本公開草案に対するコメントレターのドラフトを公表しており、財務諸表における情報伝達の方法を改善するIASBの取り組みを歓迎しているとの説明がなされた。そのうえで、⑴新たな小計と区分、⑵不可分の及び不可分でない関連会社及び共同支配企業、⑶営業費用の分析、⑷経営者業績指標(MPM)、及び⑸通例でない収益及び費用、に関して、フィールドテストのフィードバックやアウトリーチで聞かれた意見が報告された。

続いて、KASBの代表者から、韓国ではIAS第1号「財務諸表の表示」の要求事項に加え、損益計算書上で営業損益の表示が義務付けられ、本公開草案の営業損益と異なる定義の営業損益が存在していることが紹介された。そのうえで、KASBの分析によれば、本公開草案の営業損益は残余の概念であり、企業の主要な事業活動と主要でない(残余の)事業活動から生じる損益が区分されずに表示される一方で、関連会社及び共同支配企業から生じる損益は、不可分の(準主要な)事業活動と主要でない事業活動から生じる損益が区分して表示されるため、本来的には持分法投資に係る損益よりも有用な情報であるはずの営業損益が十分に強調されていないことが説明された。KASBは営業損益を持分法投資に係る損益に比べて、より強調すべき(少なくとも対等に表示すべき)であると考えており、⑴どちらも区分表示する方法、⑵どちらも区分表示しない方法、⑶営業損益を区分表示し、持分法投資に係る損益を区分表示しない方法、の3 つの代替案を紹介した。

その後の質疑応答において、IFASS参加者は、⑴本公開草案で提案されている顧客へのファイナンスを主要な事業活動とする企業への会計方針の選択の提案に対するより明確な選択基準の必要性、⑵損益計算書の区分を営業・非営業の2 区分とする提案、及び⑶営業損益を残余の利益と定義することの適切性等について議論を行った。

    2.無形資産

    本セッションでは、カナダ会計基準審議会(AcSB)、ASBJ、ドイツ会計基準委員会(DRSC)、米国財務会計基準審議会(FASB)、及び英国財務報告評議会(FRC)が共同で作成した無形資産に関する論文が紹介された。企業の純資産の簿価と市場価値の間に著しい差が生じており、これは無形資産の会計処理に起因する問題であると考える見方がある一方、簿価と市場価値の間の差は問題でないとする見方があり、本論文は、会計コミュニティがこの問題をより広範に検討するための材料を提供し、関連する学術分野での研究を刺激するために、バランスの取れた議論を提供することが目的であると紹介された。

    FASBの代表者より、無形資産の会計処理に関する沿革が紹介され、純資産の簿価と市場価値の間の差を問題とする人々の見解として、⑴重要な無形資産を認識しないことは総資産の簿価と業績を過小評価することとなり、⑵財務諸表の目的適合性を損ねるものであり、⑶測定の課題及び検証可能性の課題はこれらの無形資産の認識を妨げるものでなく、何らかの金額で無形資産を認識することは、何も認識しないよりも望ましいとの説明がなされた。認識にあたっては、資産の種類によって関連する測定基準は異なるとされ、使用(in-use)無形資産と交換(in-exchange)無形資産の区分とともに、各々の測定基準と測定における課題が紹介された。

    続いて、AcSBの代表者から、純資産の簿価と市場価値の間の差を問題としない人々の見解として、貸借対照表は財務報告の一側面に過ぎず、貸借対照表において無形資産を認識することは、企業の価値創造や将来キャッシュ・フローの予測に関する情報を伝達する手段として必ずしも最良のアプローチとはいえないこと等が紹介された。このような見解の人々も、無形項目の価値を評価するために開示は有用であると考えており、強制的な開示と任意の開示に区分したうえで、強制的な開示は、監査対象となる可能性があり、比較可能性と首尾一貫性が高まる一方で、任意開示は、柔軟性があり、適合性のある開示を可能とすることが説明された。また、企業価値を生み出す要因に関する投資家の理解を深めるための考えられる開示として、次の提案がなされた。
    ・知的資本への支出に関する情報の分解(「未来志向の無形資産(future-oriented intangibles)」)
    ・キャッシュ・フロー計算書における「無形活動(intangible activities)」区分の追加
    ・無形資産又は知的資本の流れ(intellectualcapital flows)の報告書
    ・注記における無形項目への支出の性質の説明
    ・財務諸表の外で提供される記述的説明における、無形活動と組織戦略及び目的の議論の結び付け、人的資本指標による補足説明

    その後の質疑応答において、IFASS参加者は、⑴貸借対照表上の無形資産と注記において説明される無形資産の情報の質の違い、⑵純資産の簿価と市場価値の間の差を生じさせる要因、⑶のれんの定義と性質、⑷無形資産を認識するために資産の概念を変更することの要否、⑸損益計算書における無形資産の影響の反映の可否、⑹認識の代替案としての非財務情報の提供、⑺無形資産を多く保有する企業の増加により、近年は財務諸表利用者が貸借対照表より損益計算書やキャッシュ・フロー計算書を重視しているという見解、及び⑻企業の持続可能性や価値創造に対する意識の高まりが無形資産の測定に与える影響について議論を行った。

    3.継続企業

    本セッションでは、ニュージーランド会計基準審議会(NZASB)及びオーストラリア会計基準審議会(AASB)の代表者より、継続企業に関連する論点が紹介された。

    最初に、NZASBの代表者より、COVID―19パンデミックによって、継続企業の開示の適切性について財務諸表利用者の懸念が生じており、NZASBはIAS第1号における現行の開示要求事項に加えて、新たに⑴企業の継続企業としての存続能力に関する結論を形成する際に経営者が適用した重要な判断についての具体的な開示、及び⑵企業の継続企業としての存続能力に関する結論を形成する際に経営者が認識した重要な不確実性に関する開示、を要求する会計基準を公表したことが紹介された。

    IFASS参加者は、⑴継続企業の開示に関する各法域の懸念、⑵より具体的な継続企業の開示を会計基準で要求することの是非、及び⑶ IASBが継続企業の開示を検討するプロジェクトに着手すべきか、について議論を行い、COVID─19パンデミックに対応するために実施された各法域の取り組みなどがIFASS参加者から共有された。

    次に、AASBの代表者より、継続企業の前提がもはや適切でない場合に、その作成基礎の要求事項がないことが指摘され、現状は様々な見解や実務が存在していることが報告された。AASBはIASBに対し、継続企業の前提がもはや適切でない場合の要求事項と関連する開示に関する根本的な見直しを行うプロジェクトの作業計画への追加と、基準設定活動の必要性評価のリサーチの実施を求めたことが紹介された。

    その後の質疑応答では、IFASS参加者は、⑴各法域において継続企業の前提がもはや適切でない場合の作成基礎に関する追加的なガイダンスの公表の有無、⑵追加的なガイダンスの不足から生じる懸念、⑶継続企業の前提がもはや適切でない場合の作成基礎に関する要求事項を検討するプロジェクトをIASBが着手すべきとするAASBの提案等について議論を行った。

      Ⅲ.おわりに

      次回のIFASS会議は2021年3月に予定され、対面形式で開催可能であればASBJがホストを務めて東京での開催、引き続き渡航制限が適用されている場合はウェブ会議形式(又はこれらのハイブリッド形式)による開催が検討されている。

      ページの先頭へ