ASBJ 企業会計基準委員会

2021年下期 IFASS会議報告

Ⅰ はじめに

会計基準設定主体国際フォーラム(International Forum of Accounting Standard Setters;IFASS)は、各法域の会計基準設定主体及び会計基準に関連する諸問題に対する関心の高いその他の組織による非公式のネットワークである。2019年春の会議後から、IFASS議長を企業会計基準委員会(ASBJ)の川西副委員長、事務局長をASBJの丸岡アシスタント・ディレクターが務めている。IFASS会議は、毎年、春と秋の2回開催されており、新型コロナウィルス感染症(COVID─19)パンデミックにより、ウェブ会議形式で開催された。会議には各法域の会計基準設定主体(約34団体)からの代表者に加えて、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)や他の地域グループの代表者、国際公会計基準審議会(IPSASB)など約150名が参加した。国際会計基準審議会(IASB)からはアンドレアス・バーコウ議長及びスー・ロイド副議長ほかが参加した。ASBJからは、小賀坂委員長ほかが参加した。

Ⅱ 会議の概要

議題 担当
2021年9月29日
歓迎と開会の挨拶 IFASS議長
1 アンドレアス・バーコウIASB議長からのメッセージ IASB議長
2 気候関連開示 ニュージーランド
3 規制資産及び規制負債 カナダ、EFRAG、香港、インド、
ノルウェー
4 国際公会計基準審議会─ワーク・プログラム・アップデート IPSASB
5 非営利組織向け国際財務報告基準─ プロジェクト・アップデート 国際非営利会計基準(IFR4NPO)
プロジェクトチーム
2021年9月30日
6 持分法 日本
7 会計上の見積り 韓国
8 個別財務諸表 個別財務諸表ワーキング・グループ
9 無形資産 EFRAG、オーストラリア
閉会の挨拶 IFASS議長

1.アンドレアス・バーコウIASB議長からのメッセージ

本セッションでは、アンドレアス・バーコウ氏のIASB議長への就任以来、IFASS会議での初めてのスピーチが行われた。

最初にバーコウ氏は、本会議の2日前に実施された世界会計基準設定主体(World Standard─Setters;WSS)会議での自身の就任演説を振り返り、改めて各国の会計基準設定主体の重要性を強調し、IASBと各国会計基準設定主体がさらなる協力関係を構築できる方法を現在検討していると述べた。

続いてIFASS参加者からの事前質問に回答する形で、バーコウ氏の現在の見解が示された。まず、IASBの今後の活動に関して、バーコウ氏は「基本財務諸表」プロジェクトや「のれん及び減損」プロジェクト等、IASBの現在の作業計画を終了させることを強く意識していると述べた。また、バーコウ氏が新たに開始することを望むプロジェクトとして、WSS会議での就任演説でも述べた無形資産を挙げ、短期的に考え得る対応として、無形資産に透明性をもたらすための財務諸表での開示や記述的報告の検討と、既存のIAS第38号「無形資産」の見直しの検討を挙げた。また、中長期的な対応として、知的資本や人的資本等を含む、より包括的な基準設定の可能性の検討を挙げ、その一環として、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)との協働についても述べた。

ISSBに関しては、バーコウ氏は、IASBとISSBが共に関連し得る分野では、両者が協力して、関連性があり、首尾一貫した基準を提供するための方法の検討を始めていると述べた。同氏は協働できる分野として、上述の無形資産のほか、概念フレームワークや経営者による説明(マネジメント・コメンタリー)を挙げた。これらの分野では、IASBとISSBがそれぞれの独立性を前提に、共同で基準を設定する方法を議論すべきとの見解が示された。

その後、IFASS参加者との質疑応答を行い、COVID─19パンデミック後のIASBとのコミュニケーションの方法や、米国会計基準とのコンバージェンス等に対するバーコウ氏の見解が共有された。

    2.気候関連開示

    本セッションでは、ニュージーランドの外部報告委員会(XRB)の代表者から、ニュージーランドにおける気候関連の開示に関する基準開発の取組みが紹介された。XRBはニュージーランドの金融セクター(気候関連開示等)修正法案に基づいて、基準設定に取り組んでおり、この法案は、高いレベルの公的説明責任を持つと考えられる一定の組織に対して、気候関連の情報開示を義務付け、排出集約型の活動から低排出でレジリエンス(耐性)のある開発経路に投資をシフトすることに貢献するとの説明がなされた。

    基準の開示要求は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づいて開発されており、4つのセクション(ガバナンス、戦略、リスク管理、及び指標と目標)に沿って構成されるとの説明がなされた。IFRS財団の技術的準備ワーキング・グループ(TRWG)による気候関連開示に関するプロトタイプの開発やISSBの設立等、活発化する国際動向と並行しながら基準開発を行うことがXRBにとっての課題であるとも説明された。XRBは2022年7月に正式な公開草案を公表し、2022年12月に基準を発行することを計画していることが紹介された。

    その後のIFASS参加者との質疑応答では、⑴基準開発における専門家の関与やTCFDスタッフとの協力、⑵ ISSBの基準が公表された場合の対応、⑶会計基準とサステナビリティ基準の一貫性、⑷法案の適用対象となる範囲、⑸開示される情報の範囲と情報の保証、及び⑹開示情報のデジタル化、等について議論がなされた。

    3.持分法

    本セッションでは、ASBJの牧野専門研究員から、ASBJが2021年9月に公表したショート・ペーパー「持分法会計についての視点」の紹介がなされた。本ペーパーは、IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」における既存の要求事項が、持分法会計の適用から生じる多くの実務上の論点に対処できるようにするため、一行連結と測定基礎の両方の側面を有することを理解したうえで、どのような場合に一行連結の側面を重視し、どのような場合に測定基礎の側面を重視すべきかを明確にする原則を提案したものであるとの説明がなされた。牧野専門研究員は、重要な影響力や共同支配は偶然に獲得されるものではなく、経営者による意図した決定の結果として獲得されるものであり、そのような重要な影響力や共同支配は、IFRS第9号「金融商品」に従って会計処理される投資と比較して、より連結に近い会計処理を正当化するため、持分法の会計処理は、少数の例外を除き、原則として一行連結と整合させるべきであると説明した。また、提案する原則を採り入れるために、現行のIAS第28号の要求事項の一部を変更する必要があるとの説明がなされた。

    IFASS参加者からは、ショート・ペーパーの一行連結と測定基礎に基づく原則がどのように識別されるかを明確にすることが提案された。

    4 .無形資産

    本セッションは、⑴ EFRAGとオーストラリア会計基準審議会(AASB)によるプレゼンテーション、⑵ IFASS参加によるグループディスカッション、及び⑶各グループの議論内容を共有する全体会議、の3部構成で実施された。

    最初に、EFRAGの代表者が、EFRAGディスカッション・ペーパー「インタンジブルズに関するより良い情報─ 最善の方法はどれか(Better Information on Intangibles─Which is the best way to go?)」(DP)を紹介した。DPでは、多くの企業にとって重要性がより一層高まっているインタンジブルズに関する情報が財務諸表に十分に反映されていないことで、⑴財務諸表の価値関連性が低下し、⑵自己創設のインタンジブルズと取得によるインタンジブルズの比較可能性が低下し、⑶業績指標の歪みが生じていることが指摘されている。

    DPでは、インタンジブルズに関するより良い情報を提供する方法として、⑴基本財務諸表におけるインタンジブルズの認識及び測定、⑵財務諸表の注記又はマネジメント・レポートにおける特定のインタンジブルズの情報開示、及び⑶財務諸表の注記又はマネジメント・レポートにおける「将来に向けた費用(future─oriented expenses)」と「将来の業績に影響を与える可能性のあるリスク又は機会の要因に関する情報」の開示、の3つのアプローチを検討していること等が紹介された。

    続いて、AASBの代表者から、現在取り組んでいる無形資産のリサーチ・プロジェクトの紹介がなされた。プロジェクトの目的は、⑴未認識の自己創設無形資産、⑵認識済み無形資産の再評価の未実施、及び⑶開示の不足に関して、情報ギャップが存在するか識別し、どのようにしてその情報ギャップを減らすかについて検討することであると説明された。様々なフィードバックから支持された3つのアプローチ(⑴何もしない、⑵認識及び測定の改善、及び⑶開示のみの改善)のうち、開示の改善を支持する利害関係者が多かったことから、プロジェクトは開示のみを改善することに当面は焦点を当てることとしている。現在実施中である利害関係者への調査の後に、IAS第38号の開示要求に関して、⑴原則、⑵開示目的、及び⑶適用ガイダンスに関する提案を含む報告書を公表する予定であることが紹介された。

    続いて実施されたグループディスカッションでは、IASBがインタンジブルズに関するプロジェクトを実施するとした場合の範囲及び目的について、議論がなされた。

    その後の全体会議では、各グループのファシリテーターから、⑴無形資産の定義の見直しの必要性の有無、⑵自己創設無形資産に関する認識、測定及び開示に関する見解、⑶情報の記載場所、⑷プロジェクトの進め方、等に関して、IFASS参加者の様々な意見が共有された。

      Ⅲ.おわりに

      次回のIFASS会議は2022年3月に予定されており、対面形式での開催が可能であればASBJがホストを務めての東京での開催が、COVID─19パンデミックの影響により対面での開催が困難な状況であれば、引き続きウェブ会議形式での開催が検討されている。