ASBJ 企業会計基準委員会

IASB、中小企業向けIFRS案を公表

IASBプレスリリース 2007年2月15日

国際会計基準審議会(IASB)は本日、一般のコメントを募集するために、中小企業向け国際財務報告基準(IFRS for SMEs)の公開草案を公表した。

本基準案の目的は、小規模の、非上場会社にとって適切となる、基本的には上場会社に向けて策定されている完全版の国際財務報告基準書(IFRSs)を基にした、単純で、自己完結の会計原則のセットを提供することにある。会計処理上の選択肢を取り除き、一般的には中小企業には関連しないトピックを削除し、認識及び測定の方法を単純なものにすることで、本基準案では、完全版IFRSsと比較して、中小企業に適用する会計ガイダンスの量は85%以上減少している。その結果、本公開草案は、実行可能で、自己完結の会計基準のセットを提供することになり、投資家ははじめて、全世界の中小企業の財務業績について、同じ基準で比較することができるようになる。

会社が、中小企業向けIFRS案を基に財務諸表を作成することを支援するように、IFRSの規定については、可能であれば単純化し、簡単な英語を用いて記述し直している。しかし、完全版IFRSsも中小企業に対するIFRSsも同じ基本原則を基にしており、完全版IFRSsへの移行を決定する中小企業は、完全版IFRSsへの移行が容易にできるようになっている。

本公開草案の紹介として、IASB議長であるDavid Tweedie卿は、次のようにコメントした。

「我々の目標は、作成会社の負担を減らしながら、完全版IFRSsに匹敵する、小規模の、非上場の企業が使用する基準を提供することにある。完成すれば、中小企業に対する基準には、先進国および新興経済国の小規模の作成者が、より容易に適用することのできる会計規定が盛り込まれることになる。今回公表する草案に関し、多すぎてはいないか、または少なすぎてはいないか、あるいは適切か否かの判断を行うための広範な協議の一環として、企業、銀行、監査法人及びその他の関係者の見解を、積極的に求める。」

中小企業向けIFRSsを適用するか否かは、それぞれの国又は適用する地域が決定する事項である。たとえば、EUでは、上場企業は国際財務報告基準(IFRSs)を遵守しなければならないが、中小企業についてはどの基準を遵守しなければならないかは、加盟国の判断に委ねられている。IASBは、小規模であっても上場企業であれば、中小企業向けIFRSの利用が適格となるものではないことを提案している。

eIFRS購読者は本日から公開草案を入手することができ、2007年2月26日以降、ウェブサイトから無料で入手可能になる。IASBは本公開草案に対して、2007年10月1日までコメントを募集している。より広範な協議が促進されるように、IASBは初めて基準案を翻訳して公表する。公開草案は2007年4月にフランス語、ドイツ語、及びスペイン語で公表される。詳細についてはIASBウェブサイトを参照のこと。

eIFRSの購読希望者は、www.iasb.orgのオンライン・ショップを見るか、又は下記に問い合わせていただきたい。

IASCF Publication Department,
30 Cannon Street, London EC4M 6XH, United Kingdom.
Tel: +44 (0)20 7332 2730,
Fax: +44 (0)20 7332 2749,
Email: publications@iasb.org
Web: www.iasb.org

「中小企業向け国際財務報告基準」の公開草案の印刷版(3冊セットISBN 978-1-905590-16-2)は、IASCF出版部から£18.00でまもなく購入可能となる予定である。

お問い合わせ先

Mark Byatt, Director of Corporate Communications, IASB,
Telephone: +44 (0)20 7246 6472,
Email: mbyatt@iasb.org

専門的な問い合わせ先

Warren McGregor, IASB member
Telephone: +44 (0)20 7246 6410,
Email: wmcgregor@iasb.org

Patricia O’Malley, IASB member
Telephone: +44 (0)20 7246 6410,
Email: tomalley@iasb.org

Paul Pacter, Director of Standards for SMEs, IASB,
Telephone:+852 2852 5896,
Email: ppacter@iasb.org

編集担当者への注釈

本公開草案について

どのような企業が、中小企業向けIFRS案を使用できることになるのか。

中小企業向けIFRSは、一般への説明責任を有しない企業を念頭に置いたものである。以下に該当する場合には、企業には一般への説明責任を有することになる(完全版IFRSsを使用しなければならない)。

  • 公開市場で負債証券または持分証券を発行している。
  • 銀行、保険会社、証券ブローカー/ディーラー、年金基金、投資信託又は投資銀行のように、幅広い外部の資産を受託者として保有している。

公開草案に反映されている完全版IFRSsからの変更点 

本中小企業向けIFRS案では、中小企業の財務諸表利用者のニーズ及びコスト・ベネフィットの観点から、完全版IFRSsに盛り込まれている原則に関し、3種類の変更がもたらされている。

1.省略されたトピック

典型的な中小企業に関連しないIFRSのトピックについては省略されており、必要に応じて、該当するIFRSを参照するようになっている。省略されたトピックは以下のとおりである。

  • 超インフレ経済環境での一般的物価水準への調整を行った上での報告
  • 持分決済型株式報酬(計算の詳細はIFRS第2号「株式報酬」に規定されている)
  • 農業資産の公正価値の決定(IAS第41号「農業」を参照することになるが、審議会は、農業に従事する中小企業に関しては公正価値の使用を減らすことを提案している)
  • 鉱業(IFRS第6号「鉱物資源の調査及び評価」を参照する)
  • 中間財務報告(IAS第34号「中間財務報告」を参照する)
  • ファイナンス・リースの貸手側の会計処理(ファイナンス・リースの貸手は、中小企業向けIFRSの使用が適格とならない金融機関である可能性が高い)
  • のれんの回収可能額(中小企業は、IAS第38号「無形資産」に定められているよりも低い頻度でのれんの減損についての判定を行うことになるであろうが、当該判定を行う必要がある場合にはIAS第38号の計算に関するガイダンスを参照することになる)
  • 1株当たり利益及びセグメント別報告。両方とも中小企業に対しては要求されない。及び保険契約(保険会社は中小企業向けIFRSの使用が適格とならない)
2.盛り込まれているより単純な処理方法

完全版IFRSsが会計方針の選択を提供している場合には、より単純な選択肢のみが中小企業向けIFRSには盛り込まれている。中小企業は、関連するIFRSを参照の上、その他の選択肢を用いることが許容されている。選択された単純な選択肢には以下のようなものがある。

  • 投資不動産に関する取得原価・減価償却モデル(IAS第40号「投資不動産」を参照して損益を通じての公正価値も許容される)
  • 有形固定資産に関する取得原価・減価償却モデル(IAS第16号「有形固定資産」を参照にして再評価モデルも許容される)
  • 借入費用を費用として処理する(IAS第23号「借入費用」を参照して資産化も許容される)
  • 営業活動によるキャッシュ・フローの報告に関する間接法(IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」を参照して直接法も許容される)
  • すべての補助金に対して1つの方法(又は、中小企業は、IAS第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」に定められる処理方法であれば、どのような方法も使用することができる)

中小企業向けIFRSを適用するとき、個々の地域は、完全版IFRSを参照して適用する選択肢については許容しないことを決定することも可能である。

3.認識および測定の単純化-いくつかの例
  • 金融商品
    • 金融資産について、4つのカテゴリーではなく2つのカテゴリーとする。これにより、「意図的な」満期保有ルールのすべて、又はそれに関連する「罰則」について取扱う必要がなくなり、売却可能資産の必要がなくなり、その他の多くの単純化がもたらされる。
    • 認識の中止に関する明確かつ単純な原則。譲渡企業に重要な継続的関与がある場合には、認識の中止を行わない。IAS第39号「金融商品:認識及び測定」の複雑な「パス・スルー・テスト」および「支配留保テスト」は回避される。
    • より単純化されたヘッジ会計
  • のれんの減損-強制的な毎年の減損の計算ではなく、兆候アプローチの採用
  • すべての研究開発費を費用として認識する(IAS第38号では、商業的な実行性が評価された後に資産化しなければならない)
    関連会社およびジョイント・ベンチャーに関する原価法(持分法又は比例連結法ではない)
  • 農業に関して公正価値の使用が少なくなる-不当な費用と労力を必要とせず、容易に算定できる場合のみ公正価値とする
  • 給付建制度-IAS第19号の詳細な計算および繰延ルールではなく、原則アプローチ。複雑な「コリドー・アプローチ」は除外されている。
  • 株式報酬-本源的価値法
  • ファイナンス・リース-借手の権利と債務の単純化された測定
  • 初度適用-IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」より、少ない過年度のデータの修正再表示となる。

中小企業向けIFRSの更新の頻度

審議会は、包括的な公開草案を約2年に1度更新する予定としている。

本公開草案の構成

本公開草案は3つの文書で公表される。中小企業向けIFRS案、適用ガイダンス(財務諸表の例示と開示のチェックリストで構成される)および結論の根拠である。中小企業向けIFRSは、IAS/IFRSのような基準書番号が付いている訳ではなく、トピックごとの構成となっている。38のセクションと用語集で構成される。

次のステップ

  • 本公開草案に関するコメント期限は2007年10月1日である。
  • 本公開草案に関するコメント期間中に、審議会は中小企業及び小規模の監査法人と、本提案について討議するための円卓会議を開く。審議会は、公開草案に盛り込まれている提案に関するフィールド・テスト及び/又はフィールド・ビジットを行う。
  • 基準書の公表は2008年中頃を想定している。
  • 中小企業向けIFRSを適用する各国・地域の決定に従って発効することになる。

IASBについて

国際会計基準審議会(IASB)は、ロンドンに本拠を置き、2001年に活動を開始した。同審議会は、IASC財団の評議員会によって集められる拠出金で運営されている。この拠出金は、世界中の主要会計事務所、民間金融機関及び事業会社、中央銀行及び開発銀行、ならびにその他の国際的専門団体からのものである。 現在の14人の審議会メンバー(うち12人は常勤)は、9か国から選ばれ、幅広い職務上の経歴を有している。IASBは、公共の利益のため、一般目的の財務諸表において透明で比較可能な情報を要求する、高品質かつ世界的な会計基準の単一のセットを開発することを公約している。この目的を追求するため、IASBは、全世界の会計基準の収斂を達成するために各国の会計基準設定主体と協力している。