ASBJ 企業会計基準委員会

第6回NSS会議報告

I.はじめに

会計基準設定主体会議(NSS)会議は、以前は国際会計基準審議会(IASB)がその運営方針等を世界の主要会計基準設定主体(いわゆるリエゾン国若しくはリエゾン・ボディ)(*1)と議論する場として機能していた。しかし、2005年9月以降、その役割はIASBが主催する世界会計基準設定主体会議(WSS会議、毎年9月開催)に移ったことから、旧リエゾン国等の各国会計基準設定主体の主催のもと、各主体が行っている研究プロジェクト、IASBのプロジェクト・作業計画に対するインプット及びサポートなどを議論する会議として、毎年春と秋の2回開催されているものである。

2008年9月10日にパリで開催された今回のNSS会議は、英国ASBのイアン・マッキントッシュ議長が議長を務め、旧リエゾン国のうち、米国財務会計基準審議会(FASB)を除く7カ国、欧州財務報告アドバイザリー・グループ(EFRAG)、韓国、香港、台湾、マレーシア、インド、サウジアラビア、スウェーデン、ノルウェー、ルーマニア、チュニジア、南アフリカ、メキシコの会計基準設定主体及びIASB、国際公会計基準審議会(IPSASB)が参加し、全22の会計基準設定主体による40名ほどの会議となった。日本からは、企業会計基準委員会(ASBJ)の西川郁生委員長、豊田俊一主任研究員、石原研究員の3名が出席した。以下会議の概要を紹介する。

Ⅱ. NSS会議の模様

今回の議題と担当は以下のとおりである。

議題の内容 担当
1 開会
2 IASBの作業計画、IASCFの定款レビュー、 ベストプラクティス文書 英国ASB
3 無形資産 オーストラリアAASB、日本ASBJ
4 概念フレームワーク(フェーズB) IASB
5 連結 IASB
6 複雑な金融商品 フランスCNC
7 税金 ドイツDRSC、英国ASB
8 前回の議題の報告
  • 測定
  • IFRS第2号
  • 非連結財務情報
  • 退職給付制度
英国ASB
フランスCNC
カナダAcSB
ニュージーランドFRSB
 9 閉会

1.IASBの作業計画、IASCFの定款レビュー、ベストプラクティス文書(英国ASB) 

英国ASBのスタッフによるペーパー及び8月14日現在のIASBの作業計画をもとに議論が行われた。内容は以下のとおりである。

  • 作業計画の多くの論点及び達成可能であるかについて懸念が示された。今後数年以内にIFRSを採用することを計画している地域のために、新しい「安定なプラットフォーム」を創設するためいくつかの変更が必要であることは受け入れられる。しかし、多くの地域がすでにIFRSを採用していることを前提とすれば、継続的な変更による負担及び変更の速度について懸念がある。
  • (NSSによってどれを主要に優先させるかついては異なる見解があるが、)IASBが作業計画のアジェンダ項目についてできる限り優先順位付けをするべきである。
  • IASBが、どのように作業計画での優先順位を決定するか、及びどのように計画を改善できるかについて、より透明性を高める提案を支持する。IASBが1年に1回将来の作業計画を正式に意見を求めるべきであるという提案がなされた。

また、国際会計基準財団(IASCF)の定款変更案「定款の見直し:公的説明責任の強化とIASBのメンバー構成に関する変更案」、及び2006年2月に公表された「ベストプラクティスに関する文書:IASBとその他の会計基準設定主体との協力関係」についても議論を行った。参加者は、ベストプラクティスに関する文書が現在も目的に合致していること、IASBとIPSASBとがより緊密な関係を築いていることについて確認した。

2. 無形資産(オーストラリアAASB、日本ASBJ)

無形資産については、オーストラリアAASBが研究プロジェクトとして進めていたが、昨年の12月にIASB及びFASBは正式な議題として取り上げないことを決定した。

AASBでは、研究プロジェクトの成果としてディスカッション・ペーパー「内部創設の無形資産に関する当初の会計処理」(DP)をドラフトしているが、3月のNSS会議で提示したドラフトからNSSメンバーのコメントを受けて更新したドラフトを今回の会議で提示した。NSSメンバーは、AASBスタッフを主著者としてDPを公表することを支持した。DPには、NSSメンバーが議論への貢献としてDPの公表を歓迎するが、DPの結論を承認したものではないことを明確にするNSS議長の序文を含めることも合意した。

また、今回の会議では、今後のNSSでのプロジェクトの進め方について議論が行われた。明確な結論には至らなかったものの、公正価値(そのレリバンス及び信頼性を含む)や無形資産に対する利用者の見解の理解のリサーチが有用であるという見解が述べられた。

なお、今回のNSS会議では、ASBJの「社内発生開発費のIFRSのもとにおける開示の実態調査」もアジェンダ・ペーパーとして提示されたが、今回の会議では、本実態調査の内容を紹介する時間がなかった。次回の会議にて、AASBや他のNSSによる無形資産に対する作業の報告と共に、改めて本実態調査についてASBJからプレゼンテーションを行う予定である。

3.連結 (IASB)

IASBスタッフから提示された、連結プロジェクトで検討中のIAS第27号「連結及び個別財務諸表」及びSIC第12号「連結-特別目的事業体」を置き換える公開草案のスタッフ・ドラフトをもとに議論が行われた。本スタッフ・ドラフトは、IAS第27号及びSIC第12号は、根本的にはだめになっておらず、規定を裏付ける原則はしっかりしていることを前提としている。NSS会議での議論は、スタッフ・ドラフトの見直しに反映されることとなる。

なお、本スタッフ・ドラフトは、翌日のWSS会議でも使用され、翌週にIASBで開催された円卓会議では更新されたバージョンのスタッフ・ドラフトを用いて議論が行われた。なお公開草案の公表は、年内に予定されている。

NSS会議では、以下のような議論が行われた。

  • プロジェクトの目的及び大まかな方向性に対しては、全般的な支持があるが、全くもって仕掛中であることが認識された。
  • ある当事者が、「それらから発生するリターンからの便益を受けるために、当該企業の個別の資産及び負債を管理することが可能な十分なパワーを現在保有している」場合としている、企業に対する支配の定義案にいくらかの懸念が示された。特に、多くの問題を生じかねないように思えるので、「個別の資産及び負債を管理する」に懸念が示された。IASBスタッフからの代替案である、定義が「経済活動の管理」を参照することについては、さまざまな見解が寄せられた。
  • ドラフト案の「事実上の」支配をより明確にするべきという意見があった。
  • 開示規定案は、非常に負担になるものと思われるという意見があった。
  • 支配していないが「重要な関与」をもつ企業に関連する性質、リスク及び便益を企業が開示しなければならない規定に懸念が示された。「重要な関与」とIAS第28号「関連会社投資」で用いられている「重要な影響」との関係が不明確である。
  • IASBのプロジェクトとは別に、米国FASBでは独自の連結プロジェクトがあり、現行基準を改訂する公開草案を公表す(*2)。どのようにIASBとFASBのプロジェクトを調整し、コンバージェンスするのか、特にコンバージェンスした提案が原則ベースであり続けるのかについて懸念が示された。

4. 概念フレームワーク (IASB)

概念フレームワークの8つのフェーズ(*3)のうち、現在4つのフェーズ(*4)が、アクティブである。今回のNSS会議では、そのうちフェーズB(構成要素及び認識)の、作業中の負債の定義案を取り上げた。現在の作業中の負債の定義は、「企業に対して強制することができる現在の無条件の経済的義務」である。負債の定義に関連した、「負債とビジネスリスクの区分」と「不確実性に対処するアプローチ」の2つの問題を中心に議論を行った。

議論の内容は以下のとおりである。

  • 定義から、企業からの資源の流失の可能性(likelihood)を参照することが削除されていることに対して、日本をはじめ多くの参加者から懸念が示された。
  • また定義の改訂案が貸借対照表に認識される負債を少なくするのかどうかに対しても、多くの参加者から懸念が示された。
  • IASBが資産及び負債の定義について正式にコメント募集する前に、認識規準を取り扱う必要があることが認識された。
  • 「無条件」及び「強制可能」の用語により定義がどのような意味になるかより明確にするべきという意見もあった。

5. 複雑な金融商品の会計 (フランスCNC)

フランスCNCのワーキング・グループのメンバーが、複雑な金融商品の会計について検討したリサーチ・ペーパーについて説明を行った。本ペーパーの目的は、シンセティックCDOの例を用いて、複雑で流動性のなくなった金融商品についてIAS第39号の公正価値規定を適用した場合に、財務諸表作成者が直面する会計上の論点を分析することである。会計上の論点には、以下のものがある。

  • 活発な市場の存在及び性質-特注のCDOに対する「市場」の概念は複雑であり、市場参加者の視点に強く依存する。
  • 評価技法の選択-IAS第39号は、公表されている相場価格がない場合の技法の選択に関する明示的なガイダンスを提供していない。IAS第39号は、評価技法の例を提供しているが、それら評価技法の1つを選択することが、黙示的なヒエラルキーを遵守するべきであったかどうかについては示していない。
  • 評価モデルの選択-IAS第39号は、市場参加者により「共通に使用されている」評価技法が存在する可能性を参照しているが、特に非常に薄く未発達の市場では、どのように評価されるかについて取り扱っていない。銀行は、内部リスク管理目的と外部財務報告目的の2つの別個のモデルを使用する義務を負いかねないことにも懸念がある。
  • インプットの選択及びモデルの修正の可能性-評価技法の選択の際に何が「市場のインプット」を構成するのか、観察可能なインプットを選択する際にどのように作成者が「最も有利な市場」の概念に対処し得るか、観察可能でないパラメーターの選択、及びどのタイプのリスクファクター及び評価の修正を検討するべきかを含む、多くの論点が発生している。
  • インプットが観察可能でなくなったことにより生じる問題-IAS第39号は、公正価値測定を見積もるために選択され得る観察可能でないパラメーターの性質に関するガイダンスを提供しておらず、使用し得る代替的な情報源のヒエラルキーを与えてもいない。

議論は、関係する論点の範囲及び判断の行使に集中したが、IASBが、これらの論点に対するさらなるガイダンスを提供すべきかについても、作成者にさらなるルールを負わせるリスクがあり得るという点から懸念が示された。このセッションで提起された論点は、IASBの公正価値測定ガイダンスのプロジェクト、及び市場がもはや活発でない場合の公正価値測定に関するIASBの専門家諮問パネルがIASBのために取り組んでいる作業と明確にリンクしている。

6.税金の会計(英国ASB)

英国ASBのスタッフが、税金の会計基準を見直すプロジェクトの提案に関するペーパーを説明した。現行のIAS第12号は複雑であり、適用及び理解の双方が困難である。IASBがまもなくIAS第12号の改訂公開草案を公表するにもかかわらず、IASB議長は、法人所得税はNSSによる根本的な見直しを歓迎する分野であることを示唆している。

現在の計画では、プロジェクトは英国ASB及びドイツDRSCが共同で進める予定である。他の組織が参加するのか、特にプロジェクトがPAAinE(*5)の一部となるかどうかについては更なる議論が行われる。本プロジェクトの目的は、IAS第12号を置き換えることとなる新しい会計基準の原則を識別し提案するディスカッション・ペーパーの開発である。

NSSメンバーは、提案を支持し、プロジェクトが税金の会計に対して「白紙」アプローチを取ることに合意した。NSSメンバーは、会議以外を含め、関連がある可能性のあるインプットを提供することを求められている。

7. 前回の議題の報告

前回3月のメルボルン会議で議論された議題等に関して以下のとおり報告があった。

1. 測定

英国ASBから、測定に対する概念フレームワークに向けたいくつかの見解及び議論のための結論を示すペーパーの開発の進捗についての報告があった。ペーパーは英国ASBの承認の後、年内に公表したい意向である。

2. IFRS第2号

フランスCNCから、IFRS第2号「株式報酬」の適用後レビューのプロジェクト計画の概要の報告があった。フランスCNCの計画では、把握されている論点及びIFRS第2号の適用の難しさに関する報告を、次回のNSS会議で報告する予定である。

なお、IASBでも9月会議にてIFRS第2号の見直しを検討したが、新規議題としない決定を行っている。

3. 非連結財務情報

カナダAcSBから、連結グループ内の企業に関する非連結財務情報を利用者が入手できない懸念に関する更新の報告があった。現行のIFRSでは、親会社及び子会社間の関係を利用者が理解するための情報を提供する必要はない。IASBの新しい連結基準の公開草案(3.連結参照)では、非連結情報に関する開示規定が盛り込まれる予定である。

4. 退職給付制度

ニュージーランドFRSBから、IAS第26号「退職給付制度による会計及び報告」の世界での利用に関するリサーチの更新、及びIAS第26号の廃止を支持するいくつかの指摘を受け取ったという報告があった。ニュージーランドFRSBは、ニュージーランドでのIAS第26号の利用の経験に関するリサーチをいまだ行う必要があることを認識している。多くのNSSメンバーから、本論点に関するさらなる作業に対して支持があり、次回会議の議題とすることにも合意した。

8.閉会

次回の会議は、来年4月に南アフリカでの開催が予定されている。来年9月の次々回の会議については、ドイツDRSCからフランクフルトにて主催することの申し出があった。次回の会議での議題の候補は以下のとおりである。

議題の内容 担当
IASBの作業計画(毎回議論する項目) 英国ASB
無形資産 オーストラリアAASB・日本ASBJ
概念フレームワーク(毎回議論する項目) IASB-FASBプロジェクト・チーム
税金の会計処理 英国ASB及びドイツDRSC
IFRS第2号の適用 フランスCNC
退職給付制度 ニュージーランドFRSB
(オーストラリアAASB及び英国ASBのインプットも)

以上


  1. 日本、米国、英国、カナダ、ドイツ、フランス、オーストラリア及びニュージーランドの8か国を指す。2004年からは、これにEFRAGが加わっている。
  2. FASBから9月15日にSFAS第140号「金融資産の移転に対する会計」改訂公開草案及びFIN第46(R)号「変動持分事業体の連結」改訂公開草案が公表され、11月14日までコメントを募集していた。
  3. フェーズA(目的及び質的特性)、フェーズB(構成要素及び認識)、フェーズC(測定)、フェーズD(報告企業)、フェーズE(表示及び開示)、フェーズF(GAAPヒエラルキーにおけるフレームワークの目的と地位)、フェーズG(非営利セクターへの適用可能性)、フェーズH(その他の論点)
  4. フェーズA(目的及び定性的特徴)、フェーズB(構成要素及び認識)、フェーズC(測定)、フェーズD(報告企業)
  5. PAAinEとは、EFRAGとヨーロッパの設定主体が共同で行っているプロジェクトであり、概念フレームワーク、業績報告、収益認識、負債と資本の区分、退職給付についてディスカッション・ペーパーを公表している。