ASBJ 企業会計基準委員会

第7回NSS会議報告

I.はじめに

各国基準設定主体(NSS)会議は、世界中の会計基準設定主体が行っている研究プロジェクト、国際会計基準審議会(IASB)のプロジェクト・作業計画に対するインプット及びサポートなどを議論する会議として、議長を英国ASBのMackintosh議長が務め、毎年春と秋の2回開催されているものである。

今回のNSS会議は、南アフリカSAICAの主催により2009年4月8日と9日の2日間にわたりヨハネスブルグで開催された。日本、米国、英国、カナダ、ドイツ、フランス、オーストラリア、ニュージーランド、欧州財務報告アドバイザリーグループ(EFRAG)、南アフリカ、韓国、香港、台湾、インド、イタリア、スウェーデンの会計基準設定主体及びIASB、国際公会計基準審議会(IPSASB)が参加し、全18の会計基準設定主体から、約40名が参加した。また、本会議は、東・中央・南アフリカ会計士連盟(ECSAFA)及び南アフリカの関係者が多数傍聴した。企業会計基準委員会(ASBJ)から、加藤委員と石原研究員が出席した。

Ⅱ.今回のNSS会議の概要

今回の議題と担当は以下のとおりである。

議題の内容 担当
4月8日(水)
1 概念フレームワーク IASB・カナダAcSB
2 世界的な金融危機 英国ASB
3  IASBの作業計画とIASC財団の定款レビュー 英国ASB・カナダAcSB
4 不動産に関連する会計の側面 南アフリカSAICA
5 IFRS2のレビュー・プロジェクト フランスANC・南アフリカSAICA
6 退職給付制度 ニュージーランドFRSB
7 無形資産 オーストラリアAASB、日本ASBJ
4月9日(木)
8 業績報告 EFRAG・英国ASB
9 自由経済における外貨換算取引会計 韓国KASB
10 会計基準の影響の分析:モデルフレームワークの提案 英国ASB
11 法人所得税の会計 英国ASB
12 法人所得税の会計とフロー・スルー株式 カナダAcSB
13 13.NSSグループの運営及び手続 英国ASB

1. 概念フレームワーク

カナダAcSBのスタッフからの、概念フレームワークの8つのフェーズ(*1)のうち、現在活動中のフェーズAからDまでの4つのフェーズの状況に関して、説明の後に議論が行われた。議論の内容は以下のとおりである。

  • IASBとFASBは、フェーズA「目的及び質的特性」の章の最終文書を2009年第3四半期に公表し、現行のIASBフレームワークのうち当該章を置き替える。ASBJからは、既存の概念フレームワークとの置替えは、概念フレームワーク全体の体系的な見直しが完了した段階で行うべきであるという意見を述べた。
  • 金融危機を受けて、フェーズAで議論されている財務報告の目的に金融システムの安定の観点を含めるべきという議論があるが、目的を変更する必要はない。
  • フェーズB(構成要素)はほとんど進捗していないが、負債と資本プロジェクトとの連携が強調された。また、「支配」の用語に関連して、収益認識と資産の定義案に関する議論も行われた。
  • フェーズC(測定)では、単一の測定属性とならない可能性が高く、IASBとFASBでは、測定基礎の選択に検討される要素に関する検討を行っている。
  • フェーズD(報告企業)は、公開草案に向けて進捗しているが、公開草案第10号「連結財務諸表」に対するコメントも考慮する。また、親会社単体財務諸表の位置付け(一般目的財務諸表となり得るか)についても議論された。

2. 世界的な金融危機

英国ASBによる、G20や金融安定化フォーラム(FSF)からの発表の紹介ののち、(1)会計基準と健全性規制との関係、(2)FASBの公正価値測定及び減損に関するスタッフポジション案を受けてのIASBの対応に関する説明の後に議論が行われた。

(1) 会計基準と健全性規制との関係

ここでは、会計基準と健全性規制との関係として景気振幅性(procyclicality)の議論がなされていたが、その中でその影響を抑える貸倒引当金の計上方法として、以下の2つが議論されていることが説明された。

  • ダイナミック・プロビジョニング:経済サイクルの予測による貸出損失の計算方法で、これに基づき、損失を計上する。
  • 景気循環リザーブ(ECR):資本の中で分配できない追加の準備金を要求する。

その後、以下のような議論がなされた。

  • 総意として、会計基準と健全性規制とは異なっている必要があり、異なる目的があることを認識するべきあることが合意された。IASBから、FASBとともにこの点に関して、バーゼル銀行監督委員会と議論を行ったことが報告された。
  • 参加者の過半数は、ダイナミック・プロビジョニングに基づいて損益計算書上引当金を計上することを、支持しなかった。
    ASBJを含め、何名かからECRに対する支持があった。しかし、さらにリサーチとフィールドテストが必要であることも認識された。
  • 参加者は、IFRSと米国会計基準の下での貸倒引当金における現行の発生損失モデルの検討の必要性を認識した。なお、IASBとFASBはすでに貸倒引当金に関して検討を開始している。
(2) FASBの公正価値測定及び減損に関するスタッフ意見書案を受けてのIASBの対応

3月18日にFASBから公正価値測定及び減損に関するスタッフ意見書(FSP)(*2)が公表され、4月1日までコメント募集後、4月2日に最終FSPの公表が決定されている。IASBでは、これを受けた今後の方向性を検討するために、3月18日にコメントの募集を公表し、4月20日まで募集している。なお、FASBからの参加者からは、今週中に最終FSPが公表される予定(*3)であることが説明された。その後、以下のような議論が行われた。

  • IASBは、FASBと同様のアプローチではなく、IAS第39号を置替えるための包括的なプロジェクトを優先させる意向を示しているが、ASBJを含め参加者から強い支持があった。
  • 多くの参加者は、非常に短期間にピースミールな変更を行うことは、マイナスであることを強調した。ASBJからは、3月末の株価、為替レートが最悪でなかったこともあり、市場関係者から特別の手当ての要請は来ていない旨も述べた。
  • デュー・プロセスの期間が短縮されるかもしれないが、IASBが適切なデュー・プロセスに従うことが重要であることが強調された。(*4
  • IASBはIAS第39号の置替えのプロジェクトに関して課題に直面しており、IASBからNSSに対して支援を求めた。

3.IASBの作業計画とIASC財団の定款レビュー

(1) IASBの作業計画

英国ASBから、IASBの作業計画に対して事前に質問したNSSメンバーの優先順位の見解をまとめたペーパーの説明を行った。

  • 概念フレームワークプロジェクトに対して高レベルの支持があった。
  • 上位の5つは、公正価値測定、連結、認識の中止、収益認識、現行の金融商品会計基準の置替えであった。

その後、以下のような議論が行われた。

  • ASBJから、作業計画には、論争の多いプロジェクト(財務諸表の表示、保険契約、リース、収益認識)が含まれているが、2011年までに十分議論を尽くして基準を作るには無理があるのではないかとの懸念を表明した。それに対して、Tweedie IASB議長から、そのように自覚しているが、他のプロジェクトを遅らせたり、これらの難しいプロジェクトにもっと人材を投入してでも、FASBとの覚書(MOU)の項目を2011年までに完了するつもりである旨を述べた。
  • 公的説明責任のない企業のためのIFRS(IFRS for NPAE)(以前の中小企業向けIFRS(IFRS for SMEs)、プライベート企業向けIFRS(IFRS for Private Entities))の名称に関する質問に対しては、「中小企業向けIFRS」に最も支持が集まった。
(2) IASC財団の定款レビュー

カナダAcSBから、IASC財団の定款レビューに関する事前の質問への回答結果をもとに説明を行い、議論が行われた。

  • IASBのアジェンダ設定に関して、改善が必要という意見が大半であった。
  • 過半数は、定款に原則ベースの目的を参照するべきという見解であったが、どのような意味であるかは含める必要がないというのが総意であった。
  • 過半数は、稀な状況の場合の、fast-trackの手続を支持した。ASBJからは、fast-track 手続きを定款に明記することは、政治家が自身の目的のために使われかねない懸念を表明したが、同意する意見も出された。

4.不動産に関連する会計の側面

南アフリカSAICAから、同国における不動産のタイムシェアの会計について、子会社の個別財務諸表、エージェント関係、リース会計との関係等の側面から論じたペーパーをもとに説明があった。その後の議論では、他の参加者から類似の論点に直面している例がないことが示された。

5. IFRS2のレビュー・プロジェクト

フランスANCから、IFRS第2号「株式報酬」を見直し、現行基準の基礎となる基本原則を明確にした基準改訂案を開発するプロジェクトの説明を行った。ANCでは、以下のようなIFRS第2号の論点を識別している。

  • 権利確定期間にわたっての費用の認識
  • 権利確定条件及び条件変更の会計処理
  • 個別財務諸表におけるグループ内株式報酬取引
  • 注記開示
  • 非上場企業に関する論点

また、フランスですでにワーキング・グループを創設して検討し、IASB、EFRAGのPAAinE(*5)を通じて欧州の関係者、及び他のNSSとの連携を考えていることが説明された。その後の議論では、参加者から、プロジェクトに関する支持が表明されたが、何が基本原則か、出発点をどのように設定するか(課題となるものならないものの識別)や望む結果が何であるかを明確にすべきという指摘が行われた。

最後に、南アフリカSAICAから、南アフリカでの特定の取引に関するIFRS第2号の適用の論点に関する説明が行われたが、特段の議論は行われなかった。

6. 退職給付制度

ニュージーランドFRSBから、各国でのIAS第26号「退職給付制度の会計及び報告」の利用に関するリサーチを説明した。これは、前々回のNSS会議での、IAS第26号が、時代遅れで、IAS第19号「従業員給付」と異なる規定がある等適切なガイダンスではなく、多くの国で適用されていないため、IASBに廃止を提案するかの議論を受けてのものである。リサーチでは、ニュージーランド、韓国、マレーシア、シンガポール等、21カ国でIAS第26号が利用されているが、オーストラリア、カナダをはじめとして多くの国では各国の基準が維持されている。ASBJからは、IAS第26号に相当する会計基準はなく、年金基金は、厚生労働省の規則に従って処理している旨を説明した。

このリサーチでは、IAS第26号の廃止の影響を検討しているが、結論として廃止することを提案している。
その後の議論では、参加者からIAS第26号の廃止が支持されたが、ニュージーランドFRSB主導で、さらに廃止の影響を検討するべきという結論となった。

7. 無形資産

ASBJから、前回の会議で紹介する時間のなかった、欧州企業50社の2007年度のアニュアルレポートをもとにした「社内発生開発費のIFRSのもとにおける開示の実態調査」の説明を行い、この調査を2008年のアニュアルレポートをもとに継続する旨を述べた。また、現在中期プロジェクトとして、包括的な無形資産の基準制定に向けて作業を進めており、2010年にディスカッション・ペーパー(DP)を公表する予定であることを発言した。

オーストラリアAASBでは、内部創設の無形資産の当初の会計に関するDPを2008年11月に公表し、5月15日までコメントを募集している。オーストラリアAASBからは、今後のNSS会議でこのコメントの分析を提供すること、無形資産プロジェクトの次のステップとして、IFRS第3号「企業結合」の下での企業結合により取得された無形資産の識別、認識、測定等に関する、基準の適用後レビューを行うことが提案された。

今後の作業に関して、Mackintosh議長から共同で行ったらどうかという提案が議長からあったが、ASBJ、AASBともに明確な意思表示をしなかったので、今後、両者で検討する。

8. 業績報告

EFRAGから、PAAinEのプロジェクトの一環として、EFRAG及び欧州の基準設定主体から3月25日に公表されたDP「業績報告:ヨーロッパのディスカッション・ペーパー」の概要についての説明を行った。本DPには、以下のような昨年10月にIASBとFASBが共同で公表したDP「財務諸表の表示に関する予備的見解」では扱われていない論点が示されている。

  • 「業績」とは何か。純利益はそれをとらえているか。
  • 純利益の行は維持するべきか。
  • (維持した場合に)ある項目が純利益の内外かを決定する基礎は何か。
  • 業績報告におけるリサイクリングの役割は何か。

また、英国ASBからも業績報告に関する論点に関して作成したペーパーの説明があった。その後、以下のような論点が議論された。

  • 業績報告と経営者の説明(MD&A)と合わせての財務報告としての位置づけ
  • 1計算書方式対2計算書方式と純利益
  • マネジメント・アプローチ、コア・ノンコア、一体性の3つの原則
  • その他包括利益(OCI)とリサイクリング

ASBJからは、マネジメント・アプローチに関して基本的には賛成するが、B/Sの区分の比較可能性を損ねるとの少数意見があること、コア・ノンコアは支持しないこと、一体性に関して基本的には同意するがIASB/FASBのDPは、この点に重点を置きすぎであり、目的ではなく手段と位置づけるべきであることを発言した。Mackintosh議長からは、一体性に関して英国も同じ見解であるという発言があった。 

また、ASBJから、純利益が業績を表すKey lineであると考えられていること、純利益と剰余金のクリーンサープラスが必要である旨を、その理由と共に説明した。リサイクリングに関しては、さまざまな見解が述べられたが、フランスが近い意見を述べていた。なお、ASBJからは、純利益とリサイクリングが維持される限り、1計算書か2計算書かには、こだわらない旨も発言した。

9. 自由経済における外貨換算取引会計

韓国KASBから、韓国等の新興国で直面している通貨安とそれに関するIAS第21号「外国為替レートの変動の影響」の問題、その解決として、長期貨幣性項目を取得日レートで換算する、長期貨幣性項目の為替差損益をOCIで認識する等、IAS第21号の改訂を検討するべきという意見が述べられた。

これに対する参加者からの支持はなかった。

10. 会計基準の影響の分析:モデルフレームワークの提案

英国ASBから、開発された会計基準の影響を検討するためのより体系的なアプローチを提供するモデルフレームワークの提案が説明された。アプローチ案の下では、会計基準の影響の可能性に関する証拠を求めることが、デュー・プロセスに組み込まれ、会計基準の影響の可能性に関する仮定は、適用後フェーズにてテストされる。

その後、以下のような議論が行われた。

  • 参加者の過半数は、透明性、説明責任及び基準設定プロセスを強化するという意味でアプローチ案を支持した。世界的な金融危機下での現在のような政治的な環境では特に重要であるという参加者もいた。
  • 別の参加者は、基準設定主体がどれだけ広範な影響を考慮するのか、意思決定に影響させるべきか、基準開発プロセスにおいてチェックリストの遵守となるだけになり得るかどうかについて懸念を示した。
  • いずれにしても、難しい分野であることが認識された。

英国ASBからは、モデルフレームワークを開発する作業を継続し、参加するNSSを募集することが示された。

11.法人所得税の会計

英国ASBが、ドイツDRSCと進めている法人所得税の会計基準を見直すプロジェクトの提案に関するペーパーを説明した。参加者は、全般的にプロジェクトを支持し、長期の繰延税金負債、国ごとの異なる税金システム、IFRIC第12号「サービス譲与契約」のような公的セクターサイド等の論点を議論した。

12. 法人所得税の会計とフロー・スルー株式

カナダAcSBから、カナダで採掘産業や石油ガス産業への投資促進のために行われている、特定の当該産業の株式を保有することで税金の減額される権利を得るフロー・スルー株式に関する論点が説明された。ここでの論点は、フロー・スルー株式の発行者が、IAS第12号に基づき繰延税金負債を計上するか否かであり、そうであれば資本項目に関して繰延税金が計上されることとなる。

他の参加者は、類似の将来の税金に対して影響するような持分商品は承知していないが、英国から、ハイテク産業の創業に関して投資を促進するための類似の投資があるかもしれないことが発言され、調査することとなった。

13. NSSグループの運営及び手続

英国ASBから、NSSのウェブサイトを設置するかどうかに関するペーパーが説明された。ASBJからの、コスト次第なので最終決定前に見積もりコストを教えてほしいというコメントもあり、コスト等を調査することを条件に提案が、全般的に支持を得られた。
NSS会議の回数を増やすかどうかについても検討されたが、これまで通り3月又は4月と9月のWSS会議の前後の年2回のままとし、双方とも2日間とすることを検討することで合意した。

最後に次回の会議は、9月8日(火)午後と9日(水)の1日半、ドイツのフランクフルトにて開催することの確認があった。次回の会議での議題の候補は以下のとおりである。

議題の内容 担当
毎回議論する項目
IASBの作業計画 英国ASB
概念フレームワーク 未定
グループの運営及び手続 英国ASB
再度報告する項目
会計基準の影響の分析 英国ASB
無形資産(可能性あり) オーストラリアAASB・ASBJ
IFRS第2号の再検討 フランスANC
IAS第26号の廃止の可能性 ニュージーランドFRSB
世界的な金融危機 英国ASB
外国為替(IASBと韓国の議論の結果次第) 韓国 KASB
その他の項目
年金(2008年に公表されたPAAinEのDPの再審議の報告) 英国ASB
企業報告の複雑性 英国ASB
開示に対するフレームワークの開発に関する可能性のあるプロジェクト カナダAcSB
現行の金融商品基準の置替に関するプロジェクトの進捗及び論点 IASB


以上


  1. フェーズA(目的及び質的特性)、フェーズB(構成要素及び認識)、フェーズC(測定)、フェーズD(報告企業)、フェーズE(表示及び開示)、フェーズF(GAAPヒエラルキーにおけるフレームワークの目的と地位)、フェーズG(非営利セクターへの適用可能性)、フェーズH(その他の論点)
  2. FSP案FAS 157-e号「市場が活発でない及び取引が投げ売りでないか否かの決定」、及びFSP 案FAS 115-a、 FAS 124-a、及びEITF 99-20-b号「一時的でない減損の認識及び表示」である。
  3. 4月9日にFSP FAS 157-4号「資産又は負債の活動のボリュームと水準が著しく減少している場合の公正価値の決定、及び、秩序立っていない取引の特定」、FSP FAS 107-1及び APB 28-1号「金融商品の公正価値に関する期中財務諸表における開示」、FSP FAS 115-2及びFAS 124-2号「一時的でない減損の認識及び表示」の3つのFSPが公表された。
  4. この点については、2008年11月のNSSメンバーによるコミュニケでも示されている。
    (https://www.asb-j.jp/jp/archive/convergence/2008-1114.html)
  5. PAAinEとは、EFRAGとヨーロッパの設定主体が共同で行っているプロジェクトであり、概念フレームワーク、業績報告、収益認識、負債と資本の区分、退職給付についてディスカッション・ペーパーを公表している。