ASBJ 企業会計基準委員会

第9回NSS会議報告

Ⅰ. はじめに

各国基準設定主体(NSS)会議は、世界各国の会計基準設定主体や財務報告関係機関が集まって、各設定主体が取り組んでいる研究プロジェクトに関する議論や国際会計基準審議会(IASB)の基準開発へのインプットやサポートを行うための会議である。年2回、春と秋に定期的に開催されており、現在、英国会計基準審議会(ASB)のIan Mackintosh議長が、この会議の議長を務めている。

今回のNSS会議は、韓国の会計基準委員会(KASB)主崔により2010年4月14日と15日の2日間にわたりソウルで開催された。日本、米国、英国、カナダ、フランス、ドイツ、スペイン、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、イタリア、インド、オーストリア、シンガポール、マレーシア、スウェーデン、スーダン、台湾、香港、韓国、南アフリカの計21か国の会計基準設定主体と欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)、国際公会計基準審議会(IPSASB)、IFRS諮問会議(旧基準諮問会議)及びIASBから、約50名の参加があった。企業会計基準委員会(ASBJ)からは、西川委員長、加藤委員及び吉岡研究員が参加した。

Ⅱ. 今回のNSS会議の概要

冒頭、Machintosh議長による挨拶に続き、IASBのDavid Tweedie議長からIASBのMoUプロジェクト全般の最新動向及び論点についての説明がなされた。

その後、各議題について議論が行われ、各参加者から忌憚のない積極的な意見発信が行われた。この第9回NSS会議の議題と担当は以下のとおりである。

AP 議題 担当
4月14日(水)
1 グローバルな金融危機と金融商品 英国ASB
2 無形資産:IFRS第3号適用からの経験 オーストラリア会計基準審議会(AASB)
3 IFRS第2号のレビュー・プロジェクト フランス会計基準委員会(ANC)
4 コーポレート・レポーティング・フレームワーク David Phillips(PricewaterhouseCoopers)
5 開示フレームワーク 米国財務会計基準審議会(FASB)
6 会計基準の影響分析 英国ASB、EFRAG
7 共通支配下取引 韓国KASB
4月15日(木)
8 測定に関する概念フレームワーク カナダ会計基準審議会(AcSB)
9 IASB/FASB 概念フレームワーク・プロジェクト 英国ASB、オーストラリアAASB
10 IASBの作業計画 英国ASB
11 各地域からの報告 EFRAG、マレーシア会計基準審議会(MASB)及び日本ASBJ
12 基準設定の望ましい質的特性 オーストラリアAASB
13 各国の時事問題(topical issue) 各国

1.グローバルな金融危機と金融商品

英国ASBから、グローバルな金融危機への対応としてIASBで行われている基準開発等の直近の状況について説明がなされた。昨年9月のNSS会議以降の主要な取組みとして、IFRS第9号「金融商品」や公開草案「金融商品:償却原価及び減損」(以下「減損ED」)の公表、金融負債やヘッジ会計などの検討状況が説明され、特に減損EDについては、採用されている予想損失モデルに関して、参加者の間で様々な議論が行われた。主な意見や議論は以下のとおりである。

  •  提案モデルの優位性について、概念的には発生損失モデルより適切であるとする意見があった。一方で、概念的にも予想損失の配分の観点から不整合が見られ、かえって主観性を増し、財務報告のボラティリティを増す結果になるといった懸念も示された。発生損失モデルの問題はモデル自体というよりは適用上の問題であるといった意見があった。
  • 提案モデルについては、過去のデータやモデル分析ツールなどを持たない多くの企業にとって適用が困難であり、実務上の簡便法の更なる開発を進めるべきといった意見があった。また、その場合、基準そのものの開発がコストに見合った便益が得られるものとなっているのかといった意見も示された。
  • ASBJからは、IASBの提案は資産の入れ替えを想定しないクローズドポートフォリオを前提としていると考えられるが、金融機関などではそのような管理は通常行っていないこと、予想損失の見積りの処理について当初測定と事後測定で取扱いが異なり首尾一貫していないことなどを指摘した。 
  • いくつかのNSSや関係機関において検討されている代替的なモデルについても意見が交わされた。ASBJからは、予想損失の配分について当初測定と事後測定の処理の整合性という観点からはプロスペクティブに配分していく処理がより適切と考えられることや、FASBで検討している既存の発生損失モデルの改善についても検討の必要がある、といった意見を述べた。

この減損EDにおける提案モデルについては、会議に参加しているほとんどすべての国で検討が行われており、様々な面で問題が提起されていることが会議を通じて確認された。

2. 無形資産:IFRS第3号適用からの経験

オーストラリアAASBでは、従来より自己創設の無形資産の会計処理について研究を進めており、2008年10月には研究成果としてディスカッション・ペーパー「自己創設の無形資産に関する当初の会計処理」(DP)を公表している。

前回のNSS会議では、このDPについて受領したコメント概要の報告とIFRS第3号「企業結合」における無形資産の会計処理に関する基準適用後のレビューの提案がなされており、今回の会議では、AASBから後者のレビューに関する具体的な計画と質問表が提示された。この質問表は、各国の作成者、利用者、監査人等を対象にIFRS第3号の無形資産に係る規定の適用状況を調査するためのものであり、DPの自己創設の無形資産に関する結論が、IFRS第3号の考え方に大きく依拠していることから、DPにおける提案の実行可能性に関する示唆を得るため行うものであると説明された。

ASBJからは、企業結合における無形資産と自己創設の無形資産とは状況が異なるものであるため、自己創設の無形資産の会計処理を企業結合から導き出すという今回のレビューの方向性については懸念があるとの意見を述べた。

その他、参加者からは、以下のような意見があった。

  • 質問表の内容についてはより分かりやすく記述すべき
  • 利用者の個別の関心に直接対応するような質問も別途含めた方がよい
  • IASBのアウトリーチ活動を担当しているスタッフなどにも相談すべき

一定の懸念は示されたものの、そのような質問表を用いて計画を進めることについては概ね参加者から支持が表明され、AASBは、今後、この質問表を完成させ、基準適用後レビューとしてNSSの協力のもとで調査を行い、その結果を2011年の会議で再度報告することとされた。

3. IFRS第2号のレビュー・プロジェクト

現行のIFRS第2号「株式報酬」は、権利確定期間にわたる費用の認識や権利確定条件及び条件変更の会計処理などについて必ずしも首尾一貫した取扱いがなされていないといわれている。フランスANCは、2009年から継続してこのIFRS第2号の見直しに取り組んでおり、現行基準の大きな枠組み(付与日を参照した測定など)の範囲内で検討するというIASBとの合意を前提に、現行基準の基礎となる原則を明確にし、上記のような処理の取扱いをより整合的なものとするため基準の改訂案を開発している。

今回の会議では、ANCから、株式報酬に関する測定アプローチとして、IFRS第2号で採用されている修正付与日法に代わる2つのアプローチが示された。

  • 勤務単位アプローチ(Unit of service approach)
    このアプローチは、実際に支払いが発生するか否かにかかわらず、報酬費用を付与日の公正価値で測定された実際の期間のサービスとして表現する方法である。権利確定期間中の権利失効、条件変更及び取消しは、それまでの期間のサービスには影響させない。これは、IFRS第2号の目的を、株式報酬取引において受け取ったサービスを表現することにあると見る場合に最も適切な方法であるとされる。
  • 支払アプローチ(Payment approach)
    このアプローチは、報酬費用を権利確定が見込まれる商品の公正価値として表現する方法である。権利失効、条件変更及び取消しは累積報酬費用の修正として取扱われる。これは、IFRS第2号の目的を、株式報酬取引において有効に支払われたサービスを表現することにあると見る場合に最も適切な方法であるとされる。

ANCからは、複雑ではあるものの勤務単位アプローチが、株式報酬取引において受け取ったサービスを最も良く表現する方法であると結論付けたことが説明された。

会議では、このプロジェクトのこれまでの検討状況について概ね支持が表明される一方で、上記のアプローチのいずれが適切かについては明確なコンセンサスは得られなかった。また、ANCの取組みについて、IASBとの間で合意した前提に制約されすぎているといった意見や、従業員に対する株式報酬とインセンティブに関する会計処理間の整合性の検討やより新しい種類の株式報酬制度にもIFRS第2号の適用が可能かどうかの検討も行うべき、といった意見もあった。ASBJからは、現在のIFRS第2号は、権利失効の会計処理などについて改善すべき点もあると指摘し、MoUプロジェクト終了後に取り上げられる可能性のあるプロジェクトのため、検討を進めることへの支持を示した。

議長からの提案もあり、ANCは、まずは当初予定している範囲でIFRS第2号プロジェクトを完了させ、その後により広範なプロジェクトとして開始するかどうかについての詳細な検討を行うよう提案がなされ、次回のNSS会議で更なる進捗が報告されることとなった。

4.コーポレート・レポーティング・フレームワーク

PricewaterhouseCoopersのDavid Phillipsパートナーから、近年注目を集めている持続可能性(サステナビリティ)に関する会計について説明がなされた。特に、当該領域で提案されている「結合報告(Connected Reporting)モデル」を中心に説明がなされ、議論が行われた。

現在、様々な国の組織が関与している持続可能性に関するプロジェクト(A4Sプロジェクト)があり、持続可能性を意思決定と報告のプロセスに組み込むための実務指針と手法を開発することを目的に活動が行われている。今回の会議で説明された「結合報告」は、企業の経済活動だけでなく、天然資源などの希少資源の消費や気候変動といった問題の企業の継続性や長期的な発展への影響を利害関係者に伝えるための手段として、年次報告書に財務情報などと統合して報告する試みである。

この統合報告の範囲や内容について現在検討しており、政府や規制当局、企業や投資家など様々な利害関係者と共に協調し、G20にも支持を求めていくことなどが説明された。

会議では、概ね取組みに対する支持が表明されていたが、以下のような意見もあった。

  • 対象範囲が広いことから、実行可能性の問題やその情報の保証に関する実務上の困難性が懸念される
  • 統合報告の内容が環境問題をあまりに意識しすぎたものとなっている
  • 何を年次報告に含めるべきかという点だけでなく、XBRLなどの様々なツールを用いて何が透明な報告を確保することになるかについても焦点があてられるべきである

この取組みについて、NSSとして、どのように関与していくことが可能かPhillipsパートナーに検討が依頼され、将来のNSS会議で再度取り上げることが検討されることとなった。

5. 開示フレームワーク

FASBスタッフより、FASBで検討されている開示フレームワーク・プロジェクトについて説明がなされた。当該プロジェクトは、投資家専門的諮問委員会(ITAC)(*1)による提案や米国証券取引委員会(SEC)諮問委員会の提案などを受け、2009年7月からFASBのアジェンダとして追加されたものであり、2010年10月にディスカッション・ペーパーを公表すべく検討が進められている。

このプロジェクトの目的は、開示の複雑性を低減し、より効果的かつ重複のない包括的なフレームワークを開発することであり、財務諸表とその注記、経営者によるディスカッション(MD&A)及び公表資料のその他の部分における開示をどのように統合することが適切か探究することにあるとされている。投資家と作成者のそれぞれのニーズを踏まえ、ITACで提案された3階層のフレームワーク(表示に関する全般的な方針、財務諸表項目の内訳と変動分析、主要な見積り等の詳細)をベースに検討が進められていることが説明された。会議における主な議論は以下のとおりである。

  • 各国において開示フレームワークが必要かという質問に対して、ASBJも含め、多くの参加者から必要であるといったコメントがなされていた。
  • ある参加者から、財務諸表の注記における開示にとどまらず、前述のコーポレート・レポーティング・フレームワークとも結びつけるべきといった意見があった。
  • IASBとFASBの概念フレームワークのプロジェクトにおけるフェーズE(表示と開示)の作業とも関連させて行うべきといった意見や、EFRAGでも類似のプロジェクトが立ち上げられているため、両者の協調の必要性も検討すべきといった意見もあった。
  • ASBJから、当該プロジェクトの推進については支持するが、協調の可能性については現在のプロジェクトの目途がつき次第、協調していく意欲があるとの意見を述べた。

上記のような様々な意見を踏まえ、次回のNSS会議でも再度取り上げられることが示唆されていた。

6.会計基準の影響分析

2009年のNSS会議では、英国ASB及びEFRAGから、開発された会計基準の影響についての体系的な分析のためのフレームワークの提案がなされていた。

今回の会議では、前回までの議論を踏まえ、ASBによって見直された提案内容について説明がなされた。影響分析に際しての「影響」の具体的な意味や、影響分析における原則に関する実行可能性を確保するための修正(すべての影響を自ら検討することに代えて、予想される影響へのインプットを求めることへの変更など)を行ったことが説明され、今後の方向等を記述したディスカッション・ペーパー(DP)を公表することが提案された。会議では参加者から以下のような意見があった。

  •  原則に関する表現の検討や、「影響」と「結果」の違いの明確化を図るべき
  • 影響分析の対象となり得る影響の範囲(ある影響が結果的に他の影響をもたらす場合にそれも対象とするかどうかなど)を明確にしておくべき
  • 会計基準の開発においては、生じることが予想される影響の検討に留まり、実際の影響の検討は、基準適用後のレビューの一環としてのみ評価し得る

また、ASBJから、影響分析は難しいことは理解しているが、グローバルな設定主体となる以上、影響分析を行う方向で努力を続けて欲しいとの意見を行った。

会計基準の影響分析は実際の適用が難しいという問題があるものの、作業を今後も継続すべきという点については会議を通じて概ね参加者の支持が得られ、英国ASBとEFRAGは会議での意見を反映し、次回の会議でDPの草案を提出することとされた。

7. 共通支配下取引

IFRSには、現在、共通支配下取引の会計処理に関する指針が整備されていない。しかしながら、2011年からIFRSを採用する予定の韓国では、企業結合取引について共通支配下取引が多いことから、韓国KASBは当該問題に対処すべく積極的に取り組んでいる。今回の会議では、現在までのKASBの取組みや調査の状況について説明が行われた。

KASBからは、当該取引の会計処理方法について決定すべき以下の2つの論点があるとされ、事前にKASBがNSS参加者に対して行った調査に基づき、実務では様々な処理が行われていることが説明された。

  •  いずれの会計処理方法を用いるべきか(帳簿価額を基礎とする方法か、公正価値を基礎とする方法か)
     
  • 帳簿価額を用いる場合には、いずれの帳簿価額を用いることが適切か(親会社、中間の親会社又は子会社の帳簿価額のいずれか)

会議では、KASBの2つの論点への明示的な回答やコンセンサスは得られなかったものの、当該取組みは2011年後のIASBのアジェンダの候補としての優先度も高く、参加者からは当該取組みについて支持する意見が多くあった。また、ASBJからは、KASBの調査結果の説明に関する補足として、日本では共通支配下取引に対応する会計基準を整備しており、現時点では親会社説を前提に、当該取引をグループ内の取引として扱っていることについて説明を行った。

また、同様のプロジェクトについて検討を行っているイタリアの会計基準設定主体(OIC)からもその検討状況について説明がなされた。OICもまたヨーロッパにおいて同様の調査を行っており、その結果の概要が説明され、2010年末までにEFRAGのプロジェクトとしてDPの草案を開発する予定であると説明された。さらに、IPSASBの議長からも、当該問題は、公共セクターにおいても大きな問題となっており、IPSASBでも調査を開始しているとの説明があった。

議長からは、KASBとOICが緊密に作業を行い、できるだけ作業を統合しひとつの報告書として、次回のNSS会議に提示してはどうかといった提案がなされていた。

8. 測定に関する概念フレームワーク

カナダAcSBは、財務報告目的の基本的な測定原則の基礎を構築し、IASBとFASBの共同プロジェクトにおける検討のために報告書を提出することを視野に、財務報告における測定に関する概念フレームワーク開発のためのアプローチを検討している。AcSBから、現在までの検討状況について説明がなされ、いくつかの前提(事業資産を対象とするなど)を置きつつ、測定の概念フレームワークに関して、以下の3つの原則を設けることについて提案がなされ、議論が行われた。

  1. 原則1:企業の事業資産は、現金生成過程におけるインプット資産又はアウトプット資産を基礎として認識され、測定されるべきである。
  2. 原則2:現金生成過程における付加価値は、市場価値が表現の忠実性にとって実際的となる、純額のアウトプット資産(現金生成過程における資産マイナス負債)が生み出された時に認識されるべきである。
  3. 原則3:現金生成過程に投入される資産は、取得すると期待される市場の価格で測定されるべきであり、そのような価格が表現の忠実性にとって実際的でない場合には、他の合理的な方法を基礎として測定されるべきである。

AcSBのアプローチや上記の原則について、会議では参加者から以下のような様々な意見があった。

  •  「市場価値」が何を意味するかについて明らかでない
  • 提案の支柱となる資本の概念や、提案している原則がハイテク産業などの価値創造プロセスにも適切であるといえるかどうか、提案が金融資産に拡張し得るるものかどうかなどについてより詳細な検討を提供すべきである
  • 原則1は、現金生成過程がどのように決定されるかについてより詳細な記述が必要
  • 現金生成過程を過度に強調することにより現金主義的な意味合いが強くならないか懸念する(ASBJから指摘)
  • 原則2は、収益認識と結びついており、IASBの収益認識プロジェクトにおける履行義務の充足という考え方とここでの現金生成過程の違いが明確でない(ASBJから指摘)
  • 原則3は、IASBでの特に保険における考え方と多くの面で不整合となる可能性がある

AcSBによる作業自体を継続することについては参加者から広い支持があり、検討を続けることとされた。また、IPSASBの議長から、IPSASBでの概念フレームワーク・プロジェクトでも測定について検討しているとされ、今後はその作業についてもNSS会議で取り上げることが提案されていた。

9. IASB/FASB概念フレームワーク・プロジェクト

英国ASB及びオーストラリアAASBから、IASBとFASBの共同プロジェクトである概念フレームワーク・プロジェクトの最近の進捗状況について説明が行われた。また、IPSASBでも概念フレームワーク・プロジェクトを行っており、IASBとFASBのプロジェクトよりも進んでいること、そのため2つの異なるフレームワークが開発される可能性があり、懸念が生じてきていることが説明された。各参加者からの主な意見や議論は以下の通り。

  •  IASBとFASBの概念フレームワーク・プロジェクトについて優先的に取り組むべきかという問いに対して、各参加者からは、一貫して、当該プロジェクトを優先的に取り上げるべきということが示された。 
  • IASBとIPSASBで2つのフレームワークを持つことについては、多くの参加者から懸念が示され、IPSASBの議長自身も同様に懸念していることが示された。IPSASBとしては、両者のフレームワークが整合することを望んでおり、IPSASBのプロジェクトへのNSSの関与が重要であるとされた。 
  • 議長から、特に2つのフレームワークの問題について、NSSとしての積極的な役割をASBとAASBで検討していき、検討成果についてIASBとFASBに送るよう提案があった。

10. IASBの作業計画

英国ASBから、IASBにおける現在のプロジェクトや2011年6月後に取り組むべきプロジェクトの優先順位について、事前にNSS参加者に対して行われた調査の結果が示された。当該調査は、IASBにおける作業計画の議論のための材料を提供することを目的として行われたものである。

会議では、調査の結果を踏まえ、各参加者から以下のような意見や議論があった。

  •  ASBJから、金融危機関連プロジェクト等、調査において高い優先順位とされた項目について、IASBとFASBの間で適切なコンバージェンスが図られることを期待していること、排出量取引についても優先度は高いと認識しているといった意見を述べた。また、様々な面で困難があるとされるヘッジ会計の見直しについて、作業計画の進捗の遅れを懸念しているとの意見を述べた。 
  • 他の参加者から、現在のIASBのプロジェクトについては、多くの関係者、特に今後2、3年の間にIFRSに移行する予定の関係者がその進捗について関心を持っており、それと同時に重荷を感じているといった意見があった。
  • 2011年6月後のプロジェクトについて、IFRS諮問会議の副議長から、2010年6月の諮問会議で、このテーマが主要な議題となり、IASBに提出するための見解をまとめる予定であると説明された。また、諮問会議では、沈黙期間(a period of calm)や基準適用後のレビュー、アウトリーチの強化、財務報告の将来の在り方などについての検討などを求める予定であるとされた。
  • ASBJからも、無形資産など改善すべき個別項目はあるものの、MoUプロジェクト終了後は、全般的に一旦基準作りのスピードを緩めるべきであると述べた。
  • 2011年6月後のプロジェクトの候補として、XBRLやIAS第41号の農業を加えることが提案された。前者は、シンガポールASCからの提案であり、財務諸表の表示だけでなくXBRLと基準設定の関係といったより一般的な論点について検討が必要であることが示され、後者は、マレーシアMASBなどから、生物資産の公正価値測定に関するIAS第41号の規定について、マレーシアやインド、南アフリカなどで深刻な問題となっており取り上げるに値する重要な論点であると説明された。

この調査により2011年6月後のプロジェクトの候補として高い優先順位とされた項目の多くはNSS会議でも取り上げられている項目(概念フレームワーク、共通支配下取引、開示フレームワーク、無形資産など)である。議長からは、次回のNSS会議では、XBRLや農業について取り上げることが提案された。なお、この調査の結果や会議での議論の内容は文書に反映され、議長からIASBに書面で送付することとされた。

11. 各地域からの報告

(1)欧州地域の活動報告

欧州地域の活動状況として、EFRAGから、活動に際しての戦略と、現在取り組んでいる具体的な活動について説明がなされた。グローバルな会計基準に影響を与え、会計基準の問題等の理解のためヨーロッパの関係者と共に活動し、IFRS開発を支援するためのオピニオンリーダーの役割を果たすなどの戦略を掲げ、現在、以下のようなプロジェクトに取り組んでおり、NSS会議で取り上げられている議題と多くが関連していると説明された。

  • 共通支配下における企業結合
  • 法人所得税の会計
  • 開示フレームワーク
  • 会計基準の影響分析
  • ビジネスモデルの財務報告への含意
(2)アジア・オセアニア地域の活動報告

続いてアジア・オセアニア地域の活動状況として、MASBとASBJが共同で、アジア・オセアニア基準設定主体グループ(AOSSG)の活動に関する報告を行った。MASBからは2009年11月にマレーシアのクアラルンプールで開催された第1回会議の概要、会議の目的、ワーキンググループの設置や覚書(MoU)の締結などのこれまでの活動状況が説明され、ASBJからは、今年9月に東京で開催を予定している第2回の会議の紹介を行った。

NSS参加者からは議論された内容について共通の見解をどのように得るのか質問がなされ、それに対して、現在のところはできる限りコンセンサスによって意見の集約を図り、異なる意見についても文書に反映するよう検討していく旨、説明を行った。IASBの参加者からも、様々な国から幅広い意見をインプットとして提供して欲しいとの意見がなされ、また、南アフリカなど異なる地域からの参加者からも高い関心が寄せられ、議長から、定期的にNSS会議で報告するよう提案がなされた。

12. 基準設定の望ましい質的特性

各国における最近のIFRS採用の増加により、各国の基準設定主体(NSS)とIASBとの関係だけでなく、NSS自体の役割についても改めて検討すべき時期にきているのではないかといった問題意識のもと、オーストラリアAASBの議長から、基準設定で求められる可能性がある質的特性について説明が行われた。

基準設定に際しての一定の質的特性を各国NSSで共有することは、基準設定に対する様々な圧力からの一定の防御的な役割を果たし得るともされ、AASBの議長からは、基準設定に際しての質的特性として、「独立していること」、「公共の利益のために行動し中立であること」、「説明責任を有し透明であること」、「客観的であること」、「有能であること」、「効率的であること」、「効果的であること」という7項目を設けることが提案された。

会議では、ASBJも含め、NSS参加者から概ねこの方向性と更なる調査について支持が表明された。ある参加者からは、このような質的特性は、既存の基準設定主体を有する国だけでなく、まだ基準設定主体が整備されていない発展途上の国にとっても役立つであろうとの意見があった。

AASB議長からは、調査や開発を続け、今後のNSS会議で再度修正した資料を提示するとされた。

13. 各国の時事問題

今回の会議から取り上げられることとなった項目であり、英国ASBにより、参加者が現在直面している問題や懸念等についてNSS参加者と情報共有を図ることを目的として設けられた議題である。以下のような寄せられた論点について議論が行われ、一部はIFRS解釈指針委員会にすぐにでも持ち込むべきといった意見がなされるなど、有益な議論となり、この議題は今後の会議でも取り上げる候補となることが議長からも示された。

  • ジンバブエの超インフレ経済におけるIAS第29号適用上の問題点(南アフリカSAICA) 
  • IFRSの導入に際しての経験の共有(日本ASBJ)
  • NSSグループとIFRS解釈指針委員会の間のコミュニケーションプロセスの改善結果と評価について(フランスANC)
  • 初度適用の論点(IFRS第1号の複数回の使用について)(オーストラリアAASB)
  • 建設中の有形固定資産の論点(公正価値測定の可否)(オーストラリアAASB)
  • 関連当事者に係る論点(主要な役員に事業体も含まれるか)(オーストラリアAASB)
  • 企業のビジネスモデルに基づく情報の開示の再検討(シンガポールASC)
  • システマティックリスクの会計処理(シエラレオネ)
  • 社会的コストの会計処理(シエラレオネ)
  • IASBのコンサルテーション文書のコメント期限の延長について(韓国KASB)

なお、ASBJからは、IFRSの初度適用に際して他国で直面した問題やその解決策についても参加者に尋ねたところ、特にその解決策や取り組みについて多くのNSS参加者から意見があり、以下のような取り組みが有用であるとの回答が得られた。

  • 様々なテクニカルグループやアドバイザリーグループの設定や教育セッションの実施 
  • IFRS解釈指針委員会で議論されている論点についての詳細な把握

今回の会議で議論された多くの項目が次回の会議でも再度取り上げられる予定であり、また、会議の中で提起されていたXBRLや農業などについても議題に追加されることが見込まれる。次回の会議は、2010年9月にイタリアのローマで開催される予定である。

以上


  1. 投資家の視点から、FASB 及びそのスタッフに専門的な助言を与える目的で設立されたFASB の常設委員会