ASBJ 企業会計基準委員会

第12回 各国基準設定主体(NSS)会議報告

Ⅰ はじめに

各国基準設定主体(NSS)会議は、世界各国・地域の会計基準設定主体や財務報告関係機関が集まって、各設定主体が取り組んでいる研究プロジェクトに関する議論や国際会計基準審議会(IASB)の基準開発へのインプットやサポートを行うための会議である。年2回、春と秋に定期的に開催されている。

2011年3月の会議から、カナダ会計基準審議会(AcSB)前議長のTricia O’Malley氏が、この会議の議長を務めている(なお、2010年9月の会議までIASBのIan Mackintosh副議長が議長を務めていた)。今回の会議は、2011年9月12日と13日の2日間にわたりオーストリアのウィーンで開催された。日本、オーストリア(ホスト国)、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、ノルウェー、スイス、スウェーデン、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、シンガポール、マレーシア、香港、台湾、サウジアラビア、スーダン、南アフリカ、レバノン、パキスタン、メキシコ、ブラジルの計29か国・地域の会計基準設定主体に加え、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)やIASBからの参加者を合わせ、合計で63名が参加して行われた。過去最多の参加国・地域となり、また、IASBからは、Hans Hoogervorst新議長が初めて参加する会議となった。

企業会計基準委員会(ASBJ)からは、西川委員長、加藤副委員長が参加し、野村委員、小賀坂主席研究員、吉岡研究員がオブザーバーとして参加した。

Ⅱ 今回のNSS会議の概要  

今回のNSS会議で取り上げられたテーマは次の表のとおりである。

No 議題 担当
9月12日(月)
1 IASB作業計画 カナダAcSB
2 各国の時事的な問題(Topical issue)
(1) 金融商品関係 米国会計基準審議会(FASB)、香港会計士協会(HKICPA)、EFRAG
(2) 概念フレームワーク-会計単位 カナダAcSB
(3) IFRSの修正に関する経過措置 韓国会計基準委員会(KASB)
(4) 新興経済グループ(EEG) IASB
3 法人所得税 英国会計基準審議会(ASB)、ドイツ会計基準審議会(GASB)、EFRAG
4 IASBアジェンダ協議 IASB、カナダAcSB、インド勅許会計士協会(ICAI)
9月13日(火)
5 NSS会議の運営について O’Malley議長
6 ベストプラクティス文書 オーストラリア会計基準審議会(AASB)、フランス会計基準審議会(ANC)
7 真実かつ公正なる概観 英国ASB
8 各地域グループからの報告 ASBJ、EFRAG他
9 会計基準の評価:意欲的なアプローチの必要性 フランスANC
10 基準設定主体のフレームワーク オーストラリアAASB

1.IASB作業計画

カナダAcSB及びIASBのディレクターより、前回のNSS会議(2011年3月)以降現在までのIASBの基準開発等の状況について、新たに公表された会計基準や検討されている優先プロジェクトの現状を中心に説明がなされ、議論が行われた。

新たに公表された会計基準について

IASBは、2011年5月に連結と公正価値測定に関連する一連の基準を公表し、6月には、包括利益の表示と退職後給付に関する基準の修正を公表している(*1)。これらの概要説明が行われた後に、参加者との間で意見交換が行われた。参加者からは主に次のような意見があった。

  • 欧州では現在、これらの基準の承認(エンドースメント)プロセスを進めている。関連する影響分析の資料がIASBから公表されたことを歓迎する。(EFRAG議長)
  • これらの基準では早期適用を認めているが、イタリアの規制当局は、比較可能性の観点から、銀行に対して基準の早期適用を禁止している。(イタリア会計基準委員会(OIC))
  • 早期適用についてはカナダも同様の状況にある。利用者は、あらゆる基準について、遡及適用とすべての企業による同時適用を望んでいる。(カナダAcSB)

また、各国におけるIFRS第10号の適用については、EFRAGのほか、オーストラリア、カナダ、香港、ニュージーランド、ブラジルの参加者から、適用の検討を進めているとの意見があった。ASBJからも、日本における現行の連結基準の変更を行うかどうか検討中であるとの説明を行った。

収益認識プロジェクト

IASB及びFASBは、2011年6月に収益認識の提案の再公開を行うことを決定している。IASBディレクターから、優先プロジェクトの中でも最も進捗しているプロジェクトであるが、あらゆる企業に関連する基準であることから再公開を決定したこと、10月に再公開草案の公表を予定していることなどが説明された(*2)。参加者からは次のような意見があった。

  • 減損の戻入れなどでIASBとFASBで取扱いが相違しているのは理解しているが、グローバルに収斂した基準を強く望む。(カナダAcSB)
  • 現行の米国会計基準における多くの収益認識の規定は、基本的にはすべて削除して入れ替えることになる。また、関係者に対し、削除した規定を新たな基準の解釈に使うべきではないと周知していく予定である。(FASB理事)
リースプロジェクト

IASBとFASBは、2011年7月にリースに関する提案についても再公開し意見募集を行う意図を発表している。IASBのディレクターから、貸手の会計処理が懸案事項であったが、両者の間で合意に至り、基本的には単一の公開草案として公表できる予定であるとの説明がなされた。参加者からは次のような意見があった。

  • アウトリーチでは、ヨーロッパの関係者のメッセージは非常に否定的であった。すべてのリースを貸借対照表に計上することへの懸念がある。再公開自体は望ましいものの、理解を得るのは難しいであろう。(EFRAG議長)
  • 再審議で修正したリースの定義が適当か意見を聞きたい。定額の損益認識パターンについては利用者間でも意見が分かれているが、依然それを望む声があることも理解している。また、サービス要素の分離についても検討が必要と考えている。(FASB理事)
  • 貸手の会計処理(債権・残存資産アプローチ)について多くの懸念があり、より慎重な議論が必要であろう。(香港HKICPA)
  • 貸手の会計処理を懸念している。初日利益の問題があり、また、不動産関係者からも多くの反対を聞く。また、借手についても、定額の損益認識パターンの検討が中途に終わったことを関係者は懸念している。再公開を出すにしても混乱を招かないよう進め方を慎重に考えるべきである。(ASBJ)
保険契約プロジェクト

IASBのディレクターから、保険契約のプロジェクトでは、マージンや短期契約の測定、契約獲得コストの扱いなど、IASBの提案とFASBの提案との間に、依然重要な差異があり、この差異にどう対処していくか検討中であるとの説明がなされた。参加者からは次のような意見があった。

  • 差異の主な理由は、米国において提案モデルに対し基本的な面で多くの反対があるためである。保険契約の会計は専門家が見るとユニークでないというが、そうでない人から見ると非常にユニークである。表示や測定、収益認識など、なぜ保険だけ他の会計と異ならなければいけないのか関係者は疑問に思っている。(FASB議長)
  • IFRS諮問会議(IFRS-AC)でも、10月に教育セッションを設け議論する予定である。2つの審議会が協力して検討を進め、同じ時間軸で動くことを望む。(IFRS-AC議長)
  • IASBの方向性はサポートしているが、保険会社との間で円卓会議を行った結果、残余マージンとミスマッチという2つの問題が挙がっている。(オーストラリアAASB)
  • 非常に複雑なテーマであり、ヘッジよりも複雑に感じている。困難ではあるが、現在基準のないIASBにとって重要なプロジェクトである。(IASB議長)
金融商品プロジェクト

IASBのディレクターから、金融商品プロジェクトについて、減損、ヘッジ、相殺を中心に現在の検討状況について説明がなされた。

減損については、両者で見解を修正し、3つのカテゴリーに基づくモデルとして検討を進めていること、ヘッジについては、一般ヘッジに関して公開草案から考え方を大きくは変えておらず、ほぼ完了段階にあること、相殺については、FASBとの間で意見が分かれ、開示で対処することになったことが説明された。

なお、ASBJから、IASBで直近に開催された金融商品ワーキンググループの減損に関するフィードバックの状況とマクロヘッジの今後の検討の方向性について質問したところ、減損についてはバケット間の移転の方法について、相対的(relative)モデルはオペレーショナルではなく、絶対的(absolute)モデルを支持するとの意見が多かったこと、マクロヘッジについては、一般ヘッジを完了させ次第開始する予定であるとの説明があった。

2.各国の時事的な問題(Topical issue)

本セッションは、2010年4月のNSS会議以降、議題として取り上げられている。IFRSの適用に際して、各国で直面している問題や懸念等について参加者間で情報共有を図り、IASBに対して情報のインプットを行うことを目的としたセッションである。

今回の会議では、各国から次の論点が挙げられ、議論が行われた。

  • 金融商品関係(FASB、香港HKICPA、EFRAG)
  • 概念フレームワーク:会計単位(カナダAcSB)
  • IFRSの修正に関する経過措置(韓国KASB)
  • 新興経済グループ(EEG)(IASBディレクター)
(1) 金融商品関係

FASBの検討状況

 IFRS第9号「金融商品」は、金融資産の分類及び測定について、金融資産を管理する事業モデルと契約上のキャッシュ・フローの特性に基づくモデルを採用している。一方、FASBは、金融商品に関する公開草案(*3)の見直しを行ってきており、IFRS第9号のモデルとの類似性も見られるようになってきている。

このような中、FASB議長から、金融商品の分類及び測定に関する現在までの暫定決定の概要とIFRS第9号との比較について説明がなされた。商品特性と企業の事業戦略に基づき、3つのカテゴリーに分類するアプローチとし、基本的な銀行勘定などは公正価値としないモデルに変えたこと、組込デリバティブは現在の分離規定を維持するとしたこと、OCIを通じて公正価値で測定するカテゴリー(FV-OCIカテゴリー)は保険契約との相性も良いことなどが説明された。今後、10月に審議を完了し、再公開を行う予定であるとされた。

参加者との間で次のような意見交換が行われた。

  • 配当収益を目的とした長期の持分投資であっても常に純利益を通じて公正価値で測定するカテゴリー(FV-NIカテゴリー)でよいか疑問であるとの意見(オーストラリアAASB)に対し、トレードオフの問題であり、減損の困難さを解決できればFV-OCIカテゴリーも考えたいとの回答があった。
  • 商品特性の要件は、IFRS第9号の要件とあまり変わらないように見えるとの意見(香港HKICPA)に対し、FASBの暫定決定には、利息の内容に関する要件はなく、中身は異なるとの回答があった。

また、参加者からはIASBに対し、FASBの提案モデルにどう対応するかとの質問がなされ、IASB議長からは、それぞれにいい面があり、慎重に取り上げるつもりであるとの回答があった。

EFRAGの提案に関する検討

IFRS第9号では、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」の組込デリバティブの分離規定の複雑性に対処すべく、金融資産について分離規定を削除し、契約全体で償却原価又は公正価値のいずれかで測定するモデルを採用している。

前回の会議(2011年3月)では、EFRAGから、この分離規定の削除により、これまで組込デリバティブを分離したうえで償却原価としていたものが公正価値となる場合が生じるとの懸念が示され、組込デリバティブの分離に関する代替案(IFRS第9号の事業モデルの考え方などを踏まえた原則ベースの分離規定)が示された。

この代替案については、IFRS第9号を既に採用している香港のHKICPAが、追加調査の実施を引き受けており、今回の会議ではその調査結果が報告された。調査結果では、EFRAGの提案を支持する意見(主に、南アフリカ)、支持しない意見(主に、オーストラリア、香港)があることが示され、支持しない意見の主な理由として、IFRS第9号は既に確定した基準であり、早期適用企業もいるなかで、再検討(リオープン)を行うべきでないという点が挙げられた。参加者からは次のような意見があった。

  • IFRS第9号は既に完了した基準であり、オーストラリアや香港の意見は正しいが、一方で金融商品の基準は重要であり、FASBの提案との差異はできるだけ最小化すべきである。組込デリバティブの扱いは、IFRS第9号でシンプルにはなったが、関係者が納得していないのも事実であり、十分な調査が必要であろう。(ASBJ)
  • IFRS第9号のリオープンに対して明らかなニーズがある。減損やヘッジもあり、IFRS第9号は未完成の基準である。組込デリバティブの扱いは複雑であるが、分離すること自体が複雑なのではなく、従来の分離のルールが複雑なだけである。(EFRAG議長)
  • IFRS第9号の契約キャッシュ・フローの要件は厳格すぎる面もあり、場合によっては必要以上に公正価値で測定される可能性があることは理解しており、EFRAGの懸念も理解できる。(ASBJ)
  • 高品質で収斂した基準を望んでおり、EFRAGの提案は、事業モデルに沿った提案であり、概念的にも妥当である。リオープンは必須である。(フランスANC)
  • IAS第39号の分離規定は非常に複雑であり、検討するにしてもその規定には戻るべきではない。(ドイツGASB)
(2) 概念フレームワーク:会計単位

カナダAcSBから、IASBとFASBの概念フレームワーク・プロジェクトにおける「構成要素及び認識」と「測定」のフェーズに密接に関連する「会計単位(unit of account)」の問題について、現在までの検討状況が報告された。

会計単位の問題とは、何を会計処理の単位として考えるかという問題であり、会計上の認識や測定などに際して使用すべき集約(aggregation)又は分解(disaggregation)の水準をどのように決定するかという問題である。これを決定するための原則の開発がこのプロジェクトの目的であり、2010年9月のNSS会議では、「トップダウン」と「ボトムアップ」という2つの視点から検討することとされた。プロジェクトチームも組成され、英国、オーストラリア、カナダ、ブラジル、韓国、シンガポール、南アフリカに加え、日本もメンバーとなっている。

今回の会議では、カナダAcSBから「トップダウン」と「ボトムアップ」の両方の視点からの分析が示された。IFRS第9号の組込デリバティブや事業モデルの例を用い、何が会計単位の決定に影響を及ぼすか、適切な会計単位はどのようなものであるべきかなどについて、例えば、次のような予備的な見解が示された。

  • ある項目の性質や分類、事業目的や意図は会計単位に影響を及ぼすが、ある項目への測定基礎は会計単位には影響を及ぼさない。
  • 適切な会計単位とは、将来のキャッシュ・フローの金額、時期、確実性に関する情報を最適化する単位である。

ただし、今回はプロジェクトチームでの事前の検討はなされておらず、カナダAcSBによる分析や予備的見解について、今後、チームからのインプットを得て検討していく予定であると説明された。また、米国会計基準も含めたより詳細な分析を行い、利用者の意見も聴取したいとの説明がなされた。

参加者からは次のような意見があった。

  • 財務報告の目的を満たす方法で会計単位が常に決定されているとは思わず、この問題を考えることは生産的である。会計単位は、認識、測定、表示、開示で異なり得る。どのように異なり、なぜ異なるかを考えることが有益であろう。(FASB理事)
  • 財務報告の目的が何かという点が重要である。EFRAGでは、事業モデルの役割を検討しており、このプロジェクトとの間でシナジーもあるだろう。(英国ASB)
  • 例えば、保険契約では個々のキャッシュ・フローが資産・負債の定義を満たすとしても、それらを集約したときにどう考えるかは難しく、そうした視点でも検討すべきである。(IASBディレクター)
  • このプロジェクトを進めることを支持する。ただし、分析している例示の他にもさまざまな例が考えられ、より詳細な検討が必要である。また、具体的なテーマを各チームメンバーに担当させ検討していくことが有益である。(ASBJ)
  • 会計単位は概念フレームワーク・プロジェクトを進めるための単なる道具であり、その主たる項目となるべきではない。また、常に会計単位が測定基礎を決めるとは限らず、逆の場合もあり得る。(オーストラリアAASB)
(3) IFRSの修正に関する経過措置

2011年から、韓国ではIFRSの適用が強制となる。これに関連して、韓国KASBから、最近の年次改善によるIFRSの修正に伴い生じている問題について説明がなされた。 

最近の年次改善による修正では、いくつかの修正項目について、既存のIFRS適用企業に対して遡及適用を求めないとする経過措置を設けている。しかしながら、IFRSの初度適用企業に対して同様の措置が設けられておらず、この点について韓国KASBから問題提起がなされた。特に、一部の修正項目(*4)は遡及適用が初度適用企業にとっても困難であり、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」を修正し、同様の措置を設けるべきであるとの提案がなされた。

IFRS解釈指針委員会の議長からは、解釈指針委員会でもこの提案について議論したが特段反対はなく、審議会で限定的な修正として検討することになるであろうとの説明がなされた(*5)。 

会議では、この提案自体への意見は少なかったが、ASBJからは、より全般的な意見として、既存のIFRS適用企業と初度適用企業との間を等しく検討し、取扱いを決定していくことの重要性を述べ、また、NSS議長からも、もう少し明確な規律があるべきでありIFRS第1号の再検討も必要であろうとの意見があった。

(4) 新興経済グループ(EEG)

IASBディレクターより、2011年7月に設立された新興経済グループ(EEG)についての設立経緯と活動内容の報告がなされた。

新興経済グループは、IFRSの開発に際して、新興経済国の影響を強化し、新興経済国のIFRS導入を促進することを目的とし設立されたものである。IASBのディレクターから、第1回目は中国で開催し、公正価値測定について議論したこと、16個の論点が挙げられ、今後これらにどう対処すべきか検討していること、EEGのメンバーの選定には苦心したものの、まずはG20の新興経済国とマレーシアで構成することとしたことなどが説明された。

参加者からは、公正価値測定については、新興国でなくとも多くの議論があり、EEGのメンバーに限らず、広く意見を求めるべきとの意見があり(南アフリカ勅許会計士協会SAICA)、ASBJからも同様に、日本でも非上場株の問題など、公正価値測定については難しい面があると述べ、EEGでの検討結果の共有を望むとの意見を伝えた。IASBのディレクターからは、管理しやすさの観点から便宜的にG20のメンバーとしたものであって、公正価値に関して把握した論点の中には新興国に限らないものもあり、排他的なものとするつもりはないとの説明があった。

3. 法人所得税

EFRAG、英国ASB、ドイツGASB から、IAS第12号「法人所得税」の見直しに関するプロジェクトの現在までの検討状況について報告がなされた。EFRAGのプロアクティブプロジェクトの1つであり、これまでも何度かNSS会議で議論されているテーマである。今回は、現行基準の限定的な改善と抜本的な改善の2つに分けて、検討結果が報告された。

前者の限定的な改善は、既存のIAS第12号の枠内(一時差異アプローチと包括的な配分方法)で、短期的に対処すべき欠陥を把握し、対応策を検討するものである。利用者のニーズを考慮し、次の2つの領域の対処が必要と考えていると説明された。

  1. ①表示及び開示規定の改善(税率調整に関するより透明な開示の整備)
  2. ②認識及び測定の改善(繰延税金の割引や不確実性のある税務上のポジションの規定の整備)

後者の抜本的な改善は、現行のIAS第12号で採用されている一時差異アプローチでは、現在の義務を表わさない繰延税金負債の計上を招くなどの概念的な問題があるとの認識のもと、いくつかの代替的なアプローチを検討するものである。フロースルー・アプローチ、部分配分アプローチ、評価アプローチ、発生主義アプローチなど、いくつかのアプローチが提示され比較検討が示された。ただし、いずれも一長一短があり、結論は出ていないと説明された。参加者からは次のような意見があった。

  • IAS第12号の基本的な原則は妥当と考えているが、不確実性のある税務上のポジションなどの改善は必要であろう。開示に関する提案は過剰に見える。(オーストラリアAASB)
  • 繰延税金の割引は議論のあるところであり、強制的な割引は適当でない。(ノルウェー)
  • 二重計上の問題が解決できるなら、繰延税金の割引にも反対はしないが、複雑なテーマである。また、根本的な問題への対処としての各アプローチについては、一時差異アプローチが包括的であり、妥当なアプローチと考えられる。(ASBJ)
  • 後者の検討に際しては、各アプローチによって生じる項目が資産・負債の定義を満たすのかといった検討も討議資料に含めるべきである。(ニュージーランド)

  上記の意見を踏まえ、EFRAGは、提案内容を修正し、再度NSSに対して意見を求めることとされた。

4. IASBアジェンダ協議

 IASBディレクターから、2011年7月にIASBから公表された「アジェンダ協議2011-意見募集」(協議文書)について、意見募集の背景と内容の説明が行われ、意見交換が行われた。

この協議文書では、今後3年間のIASBの戦略的な方向性とその作業の全体的なバランスについてのインプットを求めており、戦略的な方向性については、IASBの暫定的な見解として、財務報告の開発と既存のIFRSの維持管理という観点から、次の5つの戦略的分野を提示していることが説明された。

  1. ①概念フレームワーク(表示と開示のフレームワークを含む)
  2. ②財務報告に係る戦略的論点の調査研究
  3. ③基準レベルのプロジェクト
  4. ④適用後レビュー
  5. ⑤適用上のニーズへの対応

会議では、これらの戦略的分野を中心に、参加者から次のような意見が述べられた。

  • 問題に対処する「必要性(Needs)」があるかどうかと、問題に首尾一貫して対処するための「概念(Concepts)」に焦点を当てる
  • 戦略的な分野の中には、例えば、調査研究は長期であるが適用後レビューは比較的短期というように時間軸が異なるものがあり、資源配分をどう行うべきかという問いに答えづらい。また、適用後レビューと影響分析との関係なども明確にすべきである。(ASBJ)
  • 基準レベルで首尾一貫した取扱いを定めるためにも概念フレームワークの改善は重要である。(メキシコ)
  • その他の包括利益のリサイクリングの問題は、解決しないと米国とのコンバージェンスもできないと考えられ、早急に対処すべきである。(スウェーデン)
  • ある問題がさまざまな国や地域で広範に生じているかをIASBが知ることが重要であり、その際に、各国のNSSは重要な役割を担う。例えば、イスラム金融の会計などは、特有の地域グループの力を頼る必要があろう。(IASBディレクター)
料金規制活動プロジェクトについて

アジェンダ協議の基準レベルのプロジェクトに関わる論点として、カナダAcSBとインドICAIから、料金規制活動に関するプロジェクトの重要性について報告が行われた。

当該プロジェクトは、ガスや電力等の規制業種において、企業による毎期の一定の支出・収入について、将来期間の料金変更に関する権利・義務に着目し、各期の費用・収益ではなく規制資産・規制負債として認識すべきかどうかを検討するものである。過去にIASBでアジェンダとして取り上げられ、2009年7月には公開草案「料金規制活動」を公表するなど、検討が進められていたが、規制資産・規制負債の定義付けの困難さや、検討当時におけるIASBの資源不足から、2010年7月にプロジェクトの中断が決定されている。

インドICAIからは、インドの電力業界の料金規制をモデルに説明が行われた。料金規制に従う企業では、将来価格の変更の裁量は規制当局が有しており、そうした規制当局の行動に依存した支出・収入は規制資産・規制負債として認識すべきであると説明がなされ、このプロジェクトをアジェンダとして取り上げるべきとの主張がなされた。

カナダAcSBからも、カナダ国内のIFRS適用に際して生じている問題に触れ、同様にアジェンダとして取り上げ、規制資産・負債の問題を検討すべきとの主張がなされた。

カナダでは、2011年1月1日から上場企業にIFRSの適用が強制されているが、IFRSに料金規制活動の基準がないことから、従前の基準で料金規制活動に関する規制資産・規制負債を認識してきた多くのカナダ企業に対し、IFRSの1年適用延期の選択肢や、米国会計基準に準拠した報告を例外的に認める措置を取らざるを得ない状況となっていることが説明された。

5. NSS会議の運営について

NSS議長より、今後の会議の運営に関連して、会議体の名称変更と、次回の開催地についての確認がなされた。

会議体の名称変更については、会計基準設定主体国際フォーラム(the international forum of standard setters)などの提案もあったが、引き続き検討することとされた。

また、次回の会議は、2012年3月にマレーシアのクアラルンプールで開催することが確認された。

6. ベストプラクティス文書

2006年2月に公表された「ベストプラクティス文書(Statement of Best Practice):IASBとその他の会計基準設定主体との協力関係」(*6)では、各国基準設定主体(NSS)とIASBとの関係について記述されている。IFRSの適用やコンバージェンスにあたって、IASBが行うプロジェクトへの関与など、NSSが行うさまざまな活動が示されている。前回の会議では、この文書について、ワーキンググループを設け、内容の有効性を検証し、必要な見直しを検討していくことが合意された。

今回の会議では、このベストプラクティス文書の見直し作業の報告のほか、関連する事項として、オーストラリアAASBから、IASBのアウトリーチ活動がNSSに与える影響とその対処策についての報告も行われた。

(1) IASBのアウトリーチ活動がNSSに与える影響

オーストラリアAASBから、最近のIASBのアウトリーチ活動の急激な増加について、IASBによる提案の再公開といった手続の負担を軽減できる可能性はあるものの、その実施時期や内容等が十分に明らかになっているとはいえないとの懸念が示され、以下のような潜在的な問題点が挙げられた。

  • アウトリーチの対象として選定された企業等が適切に母集団を代表していない可能性がある(サンプリング・リスク)。
  • IASBによる基準等の承認後、NSSで独自に追加のアウトリーチを行う必要が生じる可能性があり、基準の承認(エンドースメントなど)が遅延する可能性がある。

  オーストラリアAASBからは、こうした問題点の解消のため実施主体別に次のような対処策も示された。

  • IASBは、NSSに対し、最大限デュープロセスの可視化に努め、また、アウトリーチの実施に際してはその旨をNSSに知らせること。
  • IASBは、アウトリーチでの質問の内容、収集した証拠、サンプルの母集団を明確に文書化すること。
  • NSSは、アウトリーチをフォローし、各国・地域の状況から、IASBが把握していない重要なサンプリング・エラーのリスクを適時に検討すること。
  • NSSは、必要に応じてアウトリーチをIASBと同時に実施し、結果を共有すること。
  • 規制当局は、IASBのデュープロセスが、NSSの補完的な評価などを通じて、より効果的なものとなり得るという認識を持つこと。
  •   IASB理事からは、アウトリーチはIASBにとって非常に有益であるが、あくまでデュープロセスを補完するものであり、NSSと協力してアウトリーチ活動を調整したいと考えているとの説明があった。
      そのほか、参加者から次のような意見があった。
  • IASBの提案が機能するかどうか理解するのにアウトリーチは必要である。IASBと関係者との直接の対話は大事であり、NSSはこのプロセスを支援すべき。(EFRAG議長)
  • カナダでも基準設定主体がアウトリーチ会議を調整してきた。ただ、国内での基準承認に際しては、IASBが適切なデュープロセスに従っているか証明することが必要である。提案が修正された場合に再公開されなければ、その証明が困難となる。(カナダAcSB)
  • アウトリーチはデュープロセスを補完し、利用者、作成者、基準設定主体の間の関係を支える非常に有用なコミュニケーションツールである。(南アフリカSAICA)
  • 規制上の影響評価が英国では求められている。IASBのデュープロセスに関して国内の規制当局の認識を得ることが解決策の1つであろう。(英国ASB)
  • 同じ論点について相談する頻度には限りがあり、IASBのスタッフと各国のNSSのスタッフとの間の良好なリエゾン関係の構築が必要である。(ドイツGASB)
  • NSSは、各アウトリーチに関連して、その国・地域での適切な母集団を把握しており、また、母集団は変わる可能性もあるので、NSSを有効活用すべきである。(ASBJ)
(2) ベストプラクティスに関する文書の見直し

前述のベストプラクティス文書について、フランスANCから、見直し作業の現状報告が行われた。

前回の会議以降、フランス、ドイツ、イタリア、英国、日本でワーキンググループを組成して作業を行ってきた。今回の会議では、改訂案の提示までは至らず、見直しの必要性等の再確認と、見直しに際して重要となる事項として、IASBとNSSの間のパートナーシップ関係の確立に関する検討が示された。後者については、IASBとの関係を2つのレベル(各国レベルと例えば地域グループといった集合レベル)で整理し、フランスANCからは、地域グループも有益であるが、各国レベルで担う役割の代替とはならず、各国レベルでのIASBとの関係がより重要であるとの認識が示された。

このテーマに関して、ASBJは、ワーキンググループでの検討段階から、論点の把握に努め、積極的に修正を働きかけてきており、本会議でも、特に次の3点について強調して意見を述べた。

  • この文書の位置付け(覚書なのか、強制力のない非公式の文書なのか)を明確にし、文書の冒頭に記述すべきである。
  • 地域グループでしか担えない役割もあり、その重要性により焦点を当てるべきである。
  • IASBと各国が個別に締結する覚書(MoU)は、各国の判断によるものであり、文書ではそのような考慮が含められるべきである。

  他の参加者からは、次のような意見があった。

  • 基準の適用や調査研究に際して、IASBと協力し、IASBのニーズに応えることは重要である。個々の設定主体の関係では困難であっても、地域グループであればこの役割を担える場合もある。(EFRAG議長)
  • IASBとNSSの関係を再検討することは望ましいことであるが、検討されている範囲が狭いことは残念である。各国のNSSとの関係に加え、IASBと地域グループとの関係も重要と考えている。地域グループは、単独では意見発信が困難な国や地域の声も反映できる。(IASB理事)
  • ベストプラクティス文書をよりアクティブな文書と位置付け、IASBとNSSとの間のパートナーシップ関係をより表に出していくべきである。(ドイツGASB)

また、ベストプラクティス文書には、各国レベルでの基準の解釈権限をどう捉えるかという論点も存在する。その点について、IFRS解釈指針委員会の議長から、各国・地域がIFRSを別々に解釈することは望ましくなく、IFRS財団の評議委員会でも共通の解釈の重要性が強調されており、IFRS解釈指針委員会をよりアクティブなものとしたいと考えているとの意見が述べられた。NSS議長からは、IFRS解釈指針委員会は、提出された論点について、NSSの助言を求めていくべきであり、NSS側は、当該委員会をクリアリング機構として使っていくことが適当であるとの意見が示された。

最後に、NSS議長から、各NSSに対し、フランスANCから提示された質問を検討し、後日フィードバックを行うよう依頼がなされ、締めくくられた。

7. 真実かつ公正なる概観

英国ASBより、財務報告における「真実かつ公正なる概観(true and fair view)」の役割についてのプレゼンテーションが行われた。

「真実かつ公正なる概観」とは、財務諸表は真実かつ公正なる概観を示すべきであり、会計基準の遵守は必要条件であっても十分条件ではなく、真実かつ公正なる概観を示すのに必要であれば、稀であるとしても、会計基準からの離脱も必要になる(これをオーバーライドという)、といった考え方である。

英国の会社法で古くから取り入れられている概念であり、1980年代に欧州委員会(EC)第4号指令にも導入されたことを受け、当該指令を介してヨーロッパ諸国にも広がった概念である。英国ASBからは、IFRSにおける「適正な表示(fair presentation)」(IAS第1号15項)の概念も類似のものであるとの説明がなされた。

英国では、2011年7月に財務報告評議会(FRC)が、この概念についての声明を出しており(*7) 、「真実かつ公正」という要件は、英国会計基準とIFRSの双方において、依然重要なものであることが再確認されている。そこでは、専門的な判断の必要性、英国会計基準での「慎重性(prudence)」の役割などが示されている。

今回の英国ASBからの説明内容も、その声明を受けてのものとなっていた。「真実かつ公正」という考え方は、会計基準からの離脱へのライセンスを提供するという反対意見もあるものの、この概念がなければ、財務諸表は会計基準の準拠性だけが判断規準となり、機械作業になるとする意見もあること、ただし、それを担保する手段は各国で異なる可能性があることが説明され、参加者に対し、各国での経験について共有したいとの問いかけがなされた。これに対し、参加者からは次のような意見があった。

  • オーストラリアでは、この概念を用いるため様々な試みがなされてきたが、離脱規定を伴うこの概念について、あまり多くの議論を行いたいとは思わない。(オーストラリアAASB)
  • 判断の重要性は理解できるが、結果が好ましくないという理由から選択的な適用を招かないかは懸念である(例えば、IAS第39号の満期保有目的債券のルールを好まないときにIFRS第9号の考え方を適用するなど)。(ASBJ)
  • カナダでは、自国基準の中でかつて離脱規定を使っていたが、会計基準の適切な適用により確保されるとするため、削除した経緯がある。IFRSの適用に際し、この離脱規定が再び使われる可能性が生じ、規制当局は当惑していた。(カナダAcSB)
  • 離脱規定の使用は、頻繁に起こるものではない。IFRSで表示される結果が好ましくない場合というのは離脱規定を使う理由にならないだろう。(IASBディレクター)
  • 米国証券取引委員会(SEC)は、この問題を検討しており、FASBに対し、最近、財務諸表が投資家が要求する情報を提供しない場合の適切な開示規定を検討すべきと求めてきている。(FASB議長)

8. 各地域グループからの報告

2009年にアジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)が設立されて以降、ラテンアメリカやアフリカなどでも同様のグループの設立が検討され、前回のNSS会議以降、これらの地域でも地域グループが設立された。今回のこのセッションでは、それらのグループも合わせ、次の4つの地域グループから、各地域の活動状況が報告された。

  • アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)
  • 欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)
  • ラテンアメリカ会計基準設定主体グループ(GLASS)
  • 全アフリカ会計士連盟(PAFA)
(1) アジア・オセアニア地域の活動報告

西川委員長(AOSSG議長)より、アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)の活動報告が行われた。2011年6月にAOSSGのこれまでの活動と中長期的な今後の活動を記載したビジョン・ペーパー(戦略文書)を公表したことや、IASBに対するコメントレターの提出状況や地域特有の研究についての紹介が行われ、組織面では、議長の就任期間の見直しを検討中であることなどが紹介された。

また、マレーシア会計基準審議会(MASB)のディレクターより、イスラム金融に関してAOSSGに属する各国に対して行った調査の結果についての報告がなされた。

(2) 欧州地域の活動報告

EFRAG議長から、EFRAGの最近の活動状況のアップデートが行われた。前回の会議以降、IASBの優先プロジェクトへの対応やIASBの公表基準の承認(エンドースメント)の助言プロセスに注力していることが説明された。また、EFRAGで取り組んでいる以下のプロアクティブプロジェクトに関する現状報告も行われた。

  • 共通支配下における企業結合(*8
  • 法人所得税の会計(上記「3.法人所得税」参照)
  • 開示フレームワーク(FASBと共同で検討開始)
  • 事業モデル
  • 財務諸表の利用(新規プロジェクト。利用者の財務諸表の利用状況の理解が目的)
  • IFRSで作成される個別財務諸表(新規プロジェクト。個別財務諸表に関するIFRSの十分性、見直しの必要性の検討が目的)
(3) ラテンアメリカ地域の活動報告

ブラジルとメキシコの関係者が中心となり、2011年6月に、ラテンアメリカ地域の12か国が参加する地域グループとして、新たにラテンアメリカ会計基準設定主体グループ(The Group of Laten-American Accounting Standard Setters:GLASS)が設立された。

このGLASSの理事会の理事を務めるメキシコの参加者から、組織の概要、設立経緯、活動状況について報告された。IASBに対するラテンアメリカ地域の意見形成を図り、できる限り1つの意見(one voice)として意見発信していく予定であり、また、地域におけるIFRSの適用やコンバージェンスを促進する役割を担うための組織であるとの説明がなされた。

(4) アフリカ地域の活動報告

アフリカでも、2011年5月に、南アフリカSAICAが中心となり、全アフリカ会計士連盟(The Pan African Federation of Accountants:PAFA)が設立された。

南アフリカSAICAの参加者から、組織の構成、設立経緯などについて説明が行われた。現在、アフリカ地域の34か国から37の会計団体がメンバーとなっており、目的は他の地域グループと若干異なり、公益に資するため、アフリカの会計専門家の地位を高めることであると説明された。アフリカにおける国際的な基準の導入や基準設定へのデュープロセスへの参加などを促進していく予定であるとの説明がなされた。

9. 会計基準の評価:意欲的なアプローチの必要性

フランスANCより、会計基準の評価の必要性と評価の方法に関するプレゼンテーションが行われた。最近の会計基準の開発では、経済的影響を予測しないまま、必ずしも有効で頑強であるとはいえないような概念に基づき基準開発が行われている傾向があるとの懸念が示され、会計基準の評価(assessment)に関する具体的な提案の策定が必要であると説明された。

一般に、規制や公共政策では、意思決定のプロセスを透明にして説明責任を果たし、その有効性・効率性を確認するための手段として、評価の仕組みが不可欠であり、会計基準の設定も規制の一形態であるとの認識のもと、他の規制等と同様に評価は不可欠であるとの意見が示された(*9)。

具体的な評価については、会計基準の適用前と適用後の双方で品質管理の視点から次の評価を実施する必要があるとされ、特に2点目の影響把握が重要であるとされた。

  • 基準の本源的な品質(intrinsic quality)の評価:基準が正しく読まれ理解され得るか、使用した概念は明確で首尾一貫しているかなどを検証すること。
  • 基準の外部効果(external effects)の評価:経済環境への会計基準の影響を測定すること(基準開発・変更の必要性の把握、基準適用による影響の把握、各経済主体の行動への影響の把握などを含む)。

さらに、評価の導入に際しては、各国の基準設定主体の支援を得ることや、最終的に定性的な検討や定量的な分析を文書化して置くことの重要性が強調された。 

参加者からは次のような意見があった。

  • 各国に規制当局が存在し、こうした評価の仕方は非常に多様なものとなり得るが、この評価のアプローチがそれにどう対処できるのか不明確である。(ドイツGASB)
  • 基準の適用前に外部効果の評価を行うことは困難であり、それに不可欠な調査のインフラがあるとも思えない。学術的な研究は通常、基準の適用後の状況に対してなされる。(FASB理事)

また、参加者の数名から、このフランスANCによる提案と、EFRAGによる討議資料「会計基準の影響に関する検討」(2011年1月公表)との区別が不明確であるとの意見があった。NSS議長からも、フランスANCに対して、有用なフィードバックを得るためにこの区別を明確化することが適当であるとの提案がなされた。

10. 基準設定主体のフレームワーク

オーストラリアAASBは、各国のNSSがグローバルな会計基準の開発に貢献し、効果的な活動を行うのに役立つ基礎を提供するための基準設定主体のフレームワークの開発を行っている。前回の会議ではこのフレームワークの骨格として次の6つの観点から検討した内容が示されていた。

  • 関係する領域又は目的
  • 検討対象となる企業
  • 質的特性(①公益のための行動と中立性、②独立性、③客観性、④能力、⑤効率性、⑥有効性)
  • 開示と説明責任
  • デュープロセス
  • 他の規制フレームワークとの関係

今回の会議では、前回の会議における意見を踏まえ、新たな草案では、NSSのビジョンとして「財務報告の質に貢献し、公益に資する」という点を強調したこと、独立性と説明責任の関係、政府の方針とNSSとの関係を明示したことなどが説明された。

参加者からは、次のような意見があった。

  • 「フレームワーク」という用語は、厳格な印象があり、望ましい性質といったものを伝えづらく、「概念フレームワーク」と区別するためにも使用を避けるべき。(ASBJ)
  • IASBとの関係の範囲内で記述しているが、IASBに対してのみ活動するとは限らず、NSSはより広範な役割を担う可能性があることを明確に示してはどうか。(FASB議長)
  • 財務報告の目的と政府の方針の間にコンフリクトがある場合の、両者の関係とNSSの役割を明確化してはどうか。(インドICAI)
  • 6つの質的特性のうち、3つ(公共の利益のための行動と中立性、独立性、客観性)は、基本的な質的特性と考えられるが、他の3つ(能力、効率性、有効性)は補強的な質的特性と考えられる。また、「開示と説明責任」は、「デュープロセス」のセクションに組み込むことが適切であろう。(FASB理事)

なお、このテーマについては、カナダ、フランス、英国のほか、日本もプロジェクトチームのメンバーとして事前に内容の検討を行ってきた。

会議においても、ASBJから、この文書を公表すべきかどうかという点については現段階では時期尚早と考えられると述べ、また、ベストプラクティス文書の検討とも密接に関連しているため、協調して検討していくことが適切であるとの意見を述べた。これについては、他の参加者からも同様の意見があった。

オーストラリアAASBは、上記のフィードバックを考慮して再度検討し、検討結果をスタッフドラフトとしてNSSに連絡し、意見を求めることとされた。

Ⅲ. おわりに

NSS議長から、次回の会議におけるテーマとして、次のような候補が示され、会議が締めくくられた。

  • 会計単位
  • 法人所得税や共通支配下における企業結合のEFRAGにおける検討状況
  • ベストプラクティス文書の見直し
  • EFRAGの討議資料「会計基準の影響に関する検討」へのコメントの分析結果
  • 各国における時事的な問題(Topical issue)
  • IASBアジェンダ協議のフィードバック
  • 適用後レビューの実施状況のフィードバック
  • 各地域グループからの報告

今回の会議は、テクニカルな議題は比較的少なかったが、IFRS第9号に関連したEFRAGの提案についてのセッションやアジェンダ協議のセッションなど個々には重要性の高いテーマが取り上げられていたといえる。IASBと各国のNSSとの関係を定める「ベストプラクティス文書」の見直しの検討は日本にとっても非常に重要なテーマであり、また、各地域グループからの報告のセッションは、ラテンアメリカやアフリカで新たに設立された地域グループも加わり、地域グループ単位での活動の重要性の高まりを示す象徴的なセッションであった。

以上


  1. IASBは、2011年5月に、IFRS第10号「連結財務諸表」、IFRS第11号「共同支配の取決め」、IFRS第12号「他の企業への関与の開示」、改訂IAS第27号「個別財務諸表」、改訂IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」及びIFRS第13号「公正価値測定」を公表し、6月に、IAS第1号「財務諸表の表示」及びIAS第19号「従業員給付」の改訂を公表している。
  2. なお、2011年11月14日に、IASBから、再公開草案「顧客との契約から生じる収益」が、FASBから、改訂会計基準更新書案「Topic 605 収益認識:顧客との契約から生じる収益」が公表されている。
  3. 会計基準更新書(ASU)案「金融商品に関する会計処理、並びに、デリバティブ金融商品及びヘッジ活動に関する会計処理の改訂」(2010年5月公表)
  4. IAS第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」に関する特有の修正(市場金利よりも低い政府融資について公正価値測定を求める修正)。
  5. この提案については、本会議後、2011年9月のIASB会議でも議題として挙げられ、審議が行われた結果、提案に基づく公開草案の公表が承認され、2011年10月20日には、公開草案「政府融資」(IFRS第1号の修正案)が公表された。
  6. IASBウェブサイトに掲載されている。下記を参照。
    http://www.ifrs.org/Use+around+the+world/Working+relationships+with+local+standard+setters.htm
  7. Financial Reporting Council, FRC Statement on ‘True and fair’ (July 2011)
    http://www.frc.org.uk/about/trueandfair.cfm
  8. このプロジェクトに関連して、2011年10月21日に、EFRAGから討議資料「共通支配下における企業結合の会計処理」(Discussion Paper: Accounting for Business Combinations under Common Control)が公表されている。
    http://www.efrag.org/files/BCUCC/BCUCC_Final_for_Publication_at_28_Oct_final.pdf
  9. 会計基準の評価(assessment)については、「コスト・ベネフィット分析」、「影響調査(effect studies)」、「アウトリーチ」、「フィードバック」など様々な用語が用いられている。