各国基準設定主体(NSS)会議は、世界各国・地域の会計基準設定主体や財務報告関係機関が集まって、各設定主体が取り組んでいる研究プロジェクトに関する議論や国際会計基準審議会(IASB)の基準開発へのインプットやサポートを行うための会議である。年2回、春と秋に定期的に開催されている。
2011年3月の会議から、カナダ会計基準審議会(AcSB)前議長のTricia O’Malley氏が、この会議の議長を務めている(なお、2010年9月の会議までIASBのIan Mackintosh副議長が議長を務めていた)。今回の会議は、2011年9月12日と13日の2日間にわたりオーストリアのウィーンで開催された。日本、オーストリア(ホスト国)、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、ノルウェー、スイス、スウェーデン、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、シンガポール、マレーシア、香港、台湾、サウジアラビア、スーダン、南アフリカ、レバノン、パキスタン、メキシコ、ブラジルの計29か国・地域の会計基準設定主体に加え、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)やIASBからの参加者を合わせ、合計で63名が参加して行われた。過去最多の参加国・地域となり、また、IASBからは、Hans Hoogervorst新議長が初めて参加する会議となった。
企業会計基準委員会(ASBJ)からは、西川委員長、加藤副委員長が参加し、野村委員、小賀坂主席研究員、吉岡研究員がオブザーバーとして参加した。
今回のNSS会議で取り上げられたテーマは次の表のとおりである。
No | 議題 | 担当 |
---|---|---|
9月12日(月) | ||
1 | IASB作業計画 | カナダAcSB |
2 | 各国の時事的な問題(Topical issue) | - |
(1) 金融商品関係 | 米国会計基準審議会(FASB)、香港会計士協会(HKICPA)、EFRAG | |
(2) 概念フレームワーク-会計単位 | カナダAcSB | |
(3) IFRSの修正に関する経過措置 | 韓国会計基準委員会(KASB) | |
(4) 新興経済グループ(EEG) | IASB | |
3 | 法人所得税 | 英国会計基準審議会(ASB)、ドイツ会計基準審議会(GASB)、EFRAG |
4 | IASBアジェンダ協議 | IASB、カナダAcSB、インド勅許会計士協会(ICAI) |
9月13日(火) | ||
5 | NSS会議の運営について | O’Malley議長 |
6 | ベストプラクティス文書 | オーストラリア会計基準審議会(AASB)、フランス会計基準審議会(ANC) |
7 | 真実かつ公正なる概観 | 英国ASB |
8 | 各地域グループからの報告 | ASBJ、EFRAG他 |
9 | 会計基準の評価:意欲的なアプローチの必要性 | フランスANC |
10 | 基準設定主体のフレームワーク | オーストラリアAASB |
カナダAcSB及びIASBのディレクターより、前回のNSS会議(2011年3月)以降現在までのIASBの基準開発等の状況について、新たに公表された会計基準や検討されている優先プロジェクトの現状を中心に説明がなされ、議論が行われた。
IASBは、2011年5月に連結と公正価値測定に関連する一連の基準を公表し、6月には、包括利益の表示と退職後給付に関する基準の修正を公表している(*1)。これらの概要説明が行われた後に、参加者との間で意見交換が行われた。参加者からは主に次のような意見があった。
また、各国におけるIFRS第10号の適用については、EFRAGのほか、オーストラリア、カナダ、香港、ニュージーランド、ブラジルの参加者から、適用の検討を進めているとの意見があった。ASBJからも、日本における現行の連結基準の変更を行うかどうか検討中であるとの説明を行った。
IASB及びFASBは、2011年6月に収益認識の提案の再公開を行うことを決定している。IASBディレクターから、優先プロジェクトの中でも最も進捗しているプロジェクトであるが、あらゆる企業に関連する基準であることから再公開を決定したこと、10月に再公開草案の公表を予定していることなどが説明された(*2)。参加者からは次のような意見があった。
IASBとFASBは、2011年7月にリースに関する提案についても再公開し意見募集を行う意図を発表している。IASBのディレクターから、貸手の会計処理が懸案事項であったが、両者の間で合意に至り、基本的には単一の公開草案として公表できる予定であるとの説明がなされた。参加者からは次のような意見があった。
IASBのディレクターから、保険契約のプロジェクトでは、マージンや短期契約の測定、契約獲得コストの扱いなど、IASBの提案とFASBの提案との間に、依然重要な差異があり、この差異にどう対処していくか検討中であるとの説明がなされた。参加者からは次のような意見があった。
IASBのディレクターから、金融商品プロジェクトについて、減損、ヘッジ、相殺を中心に現在の検討状況について説明がなされた。
減損については、両者で見解を修正し、3つのカテゴリーに基づくモデルとして検討を進めていること、ヘッジについては、一般ヘッジに関して公開草案から考え方を大きくは変えておらず、ほぼ完了段階にあること、相殺については、FASBとの間で意見が分かれ、開示で対処することになったことが説明された。
なお、ASBJから、IASBで直近に開催された金融商品ワーキンググループの減損に関するフィードバックの状況とマクロヘッジの今後の検討の方向性について質問したところ、減損についてはバケット間の移転の方法について、相対的(relative)モデルはオペレーショナルではなく、絶対的(absolute)モデルを支持するとの意見が多かったこと、マクロヘッジについては、一般ヘッジを完了させ次第開始する予定であるとの説明があった。
本セッションは、2010年4月のNSS会議以降、議題として取り上げられている。IFRSの適用に際して、各国で直面している問題や懸念等について参加者間で情報共有を図り、IASBに対して情報のインプットを行うことを目的としたセッションである。
今回の会議では、各国から次の論点が挙げられ、議論が行われた。
FASBの検討状況
IFRS第9号「金融商品」は、金融資産の分類及び測定について、金融資産を管理する事業モデルと契約上のキャッシュ・フローの特性に基づくモデルを採用している。一方、FASBは、金融商品に関する公開草案(*3)の見直しを行ってきており、IFRS第9号のモデルとの類似性も見られるようになってきている。
このような中、FASB議長から、金融商品の分類及び測定に関する現在までの暫定決定の概要とIFRS第9号との比較について説明がなされた。商品特性と企業の事業戦略に基づき、3つのカテゴリーに分類するアプローチとし、基本的な銀行勘定などは公正価値としないモデルに変えたこと、組込デリバティブは現在の分離規定を維持するとしたこと、OCIを通じて公正価値で測定するカテゴリー(FV-OCIカテゴリー)は保険契約との相性も良いことなどが説明された。今後、10月に審議を完了し、再公開を行う予定であるとされた。
参加者との間で次のような意見交換が行われた。
また、参加者からはIASBに対し、FASBの提案モデルにどう対応するかとの質問がなされ、IASB議長からは、それぞれにいい面があり、慎重に取り上げるつもりであるとの回答があった。
EFRAGの提案に関する検討
IFRS第9号では、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」の組込デリバティブの分離規定の複雑性に対処すべく、金融資産について分離規定を削除し、契約全体で償却原価又は公正価値のいずれかで測定するモデルを採用している。
前回の会議(2011年3月)では、EFRAGから、この分離規定の削除により、これまで組込デリバティブを分離したうえで償却原価としていたものが公正価値となる場合が生じるとの懸念が示され、組込デリバティブの分離に関する代替案(IFRS第9号の事業モデルの考え方などを踏まえた原則ベースの分離規定)が示された。
この代替案については、IFRS第9号を既に採用している香港のHKICPAが、追加調査の実施を引き受けており、今回の会議ではその調査結果が報告された。調査結果では、EFRAGの提案を支持する意見(主に、南アフリカ)、支持しない意見(主に、オーストラリア、香港)があることが示され、支持しない意見の主な理由として、IFRS第9号は既に確定した基準であり、早期適用企業もいるなかで、再検討(リオープン)を行うべきでないという点が挙げられた。参加者からは次のような意見があった。
カナダAcSBから、IASBとFASBの概念フレームワーク・プロジェクトにおける「構成要素及び認識」と「測定」のフェーズに密接に関連する「会計単位(unit of account)」の問題について、現在までの検討状況が報告された。
会計単位の問題とは、何を会計処理の単位として考えるかという問題であり、会計上の認識や測定などに際して使用すべき集約(aggregation)又は分解(disaggregation)の水準をどのように決定するかという問題である。これを決定するための原則の開発がこのプロジェクトの目的であり、2010年9月のNSS会議では、「トップダウン」と「ボトムアップ」という2つの視点から検討することとされた。プロジェクトチームも組成され、英国、オーストラリア、カナダ、ブラジル、韓国、シンガポール、南アフリカに加え、日本もメンバーとなっている。
今回の会議では、カナダAcSBから「トップダウン」と「ボトムアップ」の両方の視点からの分析が示された。IFRS第9号の組込デリバティブや事業モデルの例を用い、何が会計単位の決定に影響を及ぼすか、適切な会計単位はどのようなものであるべきかなどについて、例えば、次のような予備的な見解が示された。
ただし、今回はプロジェクトチームでの事前の検討はなされておらず、カナダAcSBによる分析や予備的見解について、今後、チームからのインプットを得て検討していく予定であると説明された。また、米国会計基準も含めたより詳細な分析を行い、利用者の意見も聴取したいとの説明がなされた。
参加者からは次のような意見があった。
2011年から、韓国ではIFRSの適用が強制となる。これに関連して、韓国KASBから、最近の年次改善によるIFRSの修正に伴い生じている問題について説明がなされた。
最近の年次改善による修正では、いくつかの修正項目について、既存のIFRS適用企業に対して遡及適用を求めないとする経過措置を設けている。しかしながら、IFRSの初度適用企業に対して同様の措置が設けられておらず、この点について韓国KASBから問題提起がなされた。特に、一部の修正項目(*4)は遡及適用が初度適用企業にとっても困難であり、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」を修正し、同様の措置を設けるべきであるとの提案がなされた。
IFRS解釈指針委員会の議長からは、解釈指針委員会でもこの提案について議論したが特段反対はなく、審議会で限定的な修正として検討することになるであろうとの説明がなされた(*5)。
会議では、この提案自体への意見は少なかったが、ASBJからは、より全般的な意見として、既存のIFRS適用企業と初度適用企業との間を等しく検討し、取扱いを決定していくことの重要性を述べ、また、NSS議長からも、もう少し明確な規律があるべきでありIFRS第1号の再検討も必要であろうとの意見があった。
IASBディレクターより、2011年7月に設立された新興経済グループ(EEG)についての設立経緯と活動内容の報告がなされた。
新興経済グループは、IFRSの開発に際して、新興経済国の影響を強化し、新興経済国のIFRS導入を促進することを目的とし設立されたものである。IASBのディレクターから、第1回目は中国で開催し、公正価値測定について議論したこと、16個の論点が挙げられ、今後これらにどう対処すべきか検討していること、EEGのメンバーの選定には苦心したものの、まずはG20の新興経済国とマレーシアで構成することとしたことなどが説明された。
参加者からは、公正価値測定については、新興国でなくとも多くの議論があり、EEGのメンバーに限らず、広く意見を求めるべきとの意見があり(南アフリカ勅許会計士協会SAICA)、ASBJからも同様に、日本でも非上場株の問題など、公正価値測定については難しい面があると述べ、EEGでの検討結果の共有を望むとの意見を伝えた。IASBのディレクターからは、管理しやすさの観点から便宜的にG20のメンバーとしたものであって、公正価値に関して把握した論点の中には新興国に限らないものもあり、排他的なものとするつもりはないとの説明があった。
EFRAG、英国ASB、ドイツGASB から、IAS第12号「法人所得税」の見直しに関するプロジェクトの現在までの検討状況について報告がなされた。EFRAGのプロアクティブプロジェクトの1つであり、これまでも何度かNSS会議で議論されているテーマである。今回は、現行基準の限定的な改善と抜本的な改善の2つに分けて、検討結果が報告された。
前者の限定的な改善は、既存のIAS第12号の枠内(一時差異アプローチと包括的な配分方法)で、短期的に対処すべき欠陥を把握し、対応策を検討するものである。利用者のニーズを考慮し、次の2つの領域の対処が必要と考えていると説明された。
後者の抜本的な改善は、現行のIAS第12号で採用されている一時差異アプローチでは、現在の義務を表わさない繰延税金負債の計上を招くなどの概念的な問題があるとの認識のもと、いくつかの代替的なアプローチを検討するものである。フロースルー・アプローチ、部分配分アプローチ、評価アプローチ、発生主義アプローチなど、いくつかのアプローチが提示され比較検討が示された。ただし、いずれも一長一短があり、結論は出ていないと説明された。参加者からは次のような意見があった。
上記の意見を踏まえ、EFRAGは、提案内容を修正し、再度NSSに対して意見を求めることとされた。
IASBディレクターから、2011年7月にIASBから公表された「アジェンダ協議2011-意見募集」(協議文書)について、意見募集の背景と内容の説明が行われ、意見交換が行われた。
この協議文書では、今後3年間のIASBの戦略的な方向性とその作業の全体的なバランスについてのインプットを求めており、戦略的な方向性については、IASBの暫定的な見解として、財務報告の開発と既存のIFRSの維持管理という観点から、次の5つの戦略的分野を提示していることが説明された。
会議では、これらの戦略的分野を中心に、参加者から次のような意見が述べられた。
アジェンダ協議の基準レベルのプロジェクトに関わる論点として、カナダAcSBとインドICAIから、料金規制活動に関するプロジェクトの重要性について報告が行われた。
当該プロジェクトは、ガスや電力等の規制業種において、企業による毎期の一定の支出・収入について、将来期間の料金変更に関する権利・義務に着目し、各期の費用・収益ではなく規制資産・規制負債として認識すべきかどうかを検討するものである。過去にIASBでアジェンダとして取り上げられ、2009年7月には公開草案「料金規制活動」を公表するなど、検討が進められていたが、規制資産・規制負債の定義付けの困難さや、検討当時におけるIASBの資源不足から、2010年7月にプロジェクトの中断が決定されている。
インドICAIからは、インドの電力業界の料金規制をモデルに説明が行われた。料金規制に従う企業では、将来価格の変更の裁量は規制当局が有しており、そうした規制当局の行動に依存した支出・収入は規制資産・規制負債として認識すべきであると説明がなされ、このプロジェクトをアジェンダとして取り上げるべきとの主張がなされた。
カナダAcSBからも、カナダ国内のIFRS適用に際して生じている問題に触れ、同様にアジェンダとして取り上げ、規制資産・負債の問題を検討すべきとの主張がなされた。
カナダでは、2011年1月1日から上場企業にIFRSの適用が強制されているが、IFRSに料金規制活動の基準がないことから、従前の基準で料金規制活動に関する規制資産・規制負債を認識してきた多くのカナダ企業に対し、IFRSの1年適用延期の選択肢や、米国会計基準に準拠した報告を例外的に認める措置を取らざるを得ない状況となっていることが説明された。
NSS議長より、今後の会議の運営に関連して、会議体の名称変更と、次回の開催地についての確認がなされた。
会議体の名称変更については、会計基準設定主体国際フォーラム(the international forum of standard setters)などの提案もあったが、引き続き検討することとされた。
また、次回の会議は、2012年3月にマレーシアのクアラルンプールで開催することが確認された。
2006年2月に公表された「ベストプラクティス文書(Statement of Best Practice):IASBとその他の会計基準設定主体との協力関係」(*6)では、各国基準設定主体(NSS)とIASBとの関係について記述されている。IFRSの適用やコンバージェンスにあたって、IASBが行うプロジェクトへの関与など、NSSが行うさまざまな活動が示されている。前回の会議では、この文書について、ワーキンググループを設け、内容の有効性を検証し、必要な見直しを検討していくことが合意された。
今回の会議では、このベストプラクティス文書の見直し作業の報告のほか、関連する事項として、オーストラリアAASBから、IASBのアウトリーチ活動がNSSに与える影響とその対処策についての報告も行われた。
オーストラリアAASBから、最近のIASBのアウトリーチ活動の急激な増加について、IASBによる提案の再公開といった手続の負担を軽減できる可能性はあるものの、その実施時期や内容等が十分に明らかになっているとはいえないとの懸念が示され、以下のような潜在的な問題点が挙げられた。
オーストラリアAASBからは、こうした問題点の解消のため実施主体別に次のような対処策も示された。
前述のベストプラクティス文書について、フランスANCから、見直し作業の現状報告が行われた。
前回の会議以降、フランス、ドイツ、イタリア、英国、日本でワーキンググループを組成して作業を行ってきた。今回の会議では、改訂案の提示までは至らず、見直しの必要性等の再確認と、見直しに際して重要となる事項として、IASBとNSSの間のパートナーシップ関係の確立に関する検討が示された。後者については、IASBとの関係を2つのレベル(各国レベルと例えば地域グループといった集合レベル)で整理し、フランスANCからは、地域グループも有益であるが、各国レベルで担う役割の代替とはならず、各国レベルでのIASBとの関係がより重要であるとの認識が示された。
このテーマに関して、ASBJは、ワーキンググループでの検討段階から、論点の把握に努め、積極的に修正を働きかけてきており、本会議でも、特に次の3点について強調して意見を述べた。
他の参加者からは、次のような意見があった。
また、ベストプラクティス文書には、各国レベルでの基準の解釈権限をどう捉えるかという論点も存在する。その点について、IFRS解釈指針委員会の議長から、各国・地域がIFRSを別々に解釈することは望ましくなく、IFRS財団の評議委員会でも共通の解釈の重要性が強調されており、IFRS解釈指針委員会をよりアクティブなものとしたいと考えているとの意見が述べられた。NSS議長からは、IFRS解釈指針委員会は、提出された論点について、NSSの助言を求めていくべきであり、NSS側は、当該委員会をクリアリング機構として使っていくことが適当であるとの意見が示された。
最後に、NSS議長から、各NSSに対し、フランスANCから提示された質問を検討し、後日フィードバックを行うよう依頼がなされ、締めくくられた。
英国ASBより、財務報告における「真実かつ公正なる概観(true and fair view)」の役割についてのプレゼンテーションが行われた。
「真実かつ公正なる概観」とは、財務諸表は真実かつ公正なる概観を示すべきであり、会計基準の遵守は必要条件であっても十分条件ではなく、真実かつ公正なる概観を示すのに必要であれば、稀であるとしても、会計基準からの離脱も必要になる(これをオーバーライドという)、といった考え方である。
英国の会社法で古くから取り入れられている概念であり、1980年代に欧州委員会(EC)第4号指令にも導入されたことを受け、当該指令を介してヨーロッパ諸国にも広がった概念である。英国ASBからは、IFRSにおける「適正な表示(fair presentation)」(IAS第1号15項)の概念も類似のものであるとの説明がなされた。
英国では、2011年7月に財務報告評議会(FRC)が、この概念についての声明を出しており(*7) 、「真実かつ公正」という要件は、英国会計基準とIFRSの双方において、依然重要なものであることが再確認されている。そこでは、専門的な判断の必要性、英国会計基準での「慎重性(prudence)」の役割などが示されている。
今回の英国ASBからの説明内容も、その声明を受けてのものとなっていた。「真実かつ公正」という考え方は、会計基準からの離脱へのライセンスを提供するという反対意見もあるものの、この概念がなければ、財務諸表は会計基準の準拠性だけが判断規準となり、機械作業になるとする意見もあること、ただし、それを担保する手段は各国で異なる可能性があることが説明され、参加者に対し、各国での経験について共有したいとの問いかけがなされた。これに対し、参加者からは次のような意見があった。
2009年にアジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)が設立されて以降、ラテンアメリカやアフリカなどでも同様のグループの設立が検討され、前回のNSS会議以降、これらの地域でも地域グループが設立された。今回のこのセッションでは、それらのグループも合わせ、次の4つの地域グループから、各地域の活動状況が報告された。
西川委員長(AOSSG議長)より、アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)の活動報告が行われた。2011年6月にAOSSGのこれまでの活動と中長期的な今後の活動を記載したビジョン・ペーパー(戦略文書)を公表したことや、IASBに対するコメントレターの提出状況や地域特有の研究についての紹介が行われ、組織面では、議長の就任期間の見直しを検討中であることなどが紹介された。
また、マレーシア会計基準審議会(MASB)のディレクターより、イスラム金融に関してAOSSGに属する各国に対して行った調査の結果についての報告がなされた。
EFRAG議長から、EFRAGの最近の活動状況のアップデートが行われた。前回の会議以降、IASBの優先プロジェクトへの対応やIASBの公表基準の承認(エンドースメント)の助言プロセスに注力していることが説明された。また、EFRAGで取り組んでいる以下のプロアクティブプロジェクトに関する現状報告も行われた。
ブラジルとメキシコの関係者が中心となり、2011年6月に、ラテンアメリカ地域の12か国が参加する地域グループとして、新たにラテンアメリカ会計基準設定主体グループ(The Group of Laten-American Accounting Standard Setters:GLASS)が設立された。
このGLASSの理事会の理事を務めるメキシコの参加者から、組織の概要、設立経緯、活動状況について報告された。IASBに対するラテンアメリカ地域の意見形成を図り、できる限り1つの意見(one voice)として意見発信していく予定であり、また、地域におけるIFRSの適用やコンバージェンスを促進する役割を担うための組織であるとの説明がなされた。
アフリカでも、2011年5月に、南アフリカSAICAが中心となり、全アフリカ会計士連盟(The Pan African Federation of Accountants:PAFA)が設立された。
南アフリカSAICAの参加者から、組織の構成、設立経緯などについて説明が行われた。現在、アフリカ地域の34か国から37の会計団体がメンバーとなっており、目的は他の地域グループと若干異なり、公益に資するため、アフリカの会計専門家の地位を高めることであると説明された。アフリカにおける国際的な基準の導入や基準設定へのデュープロセスへの参加などを促進していく予定であるとの説明がなされた。
フランスANCより、会計基準の評価の必要性と評価の方法に関するプレゼンテーションが行われた。最近の会計基準の開発では、経済的影響を予測しないまま、必ずしも有効で頑強であるとはいえないような概念に基づき基準開発が行われている傾向があるとの懸念が示され、会計基準の評価(assessment)に関する具体的な提案の策定が必要であると説明された。
一般に、規制や公共政策では、意思決定のプロセスを透明にして説明責任を果たし、その有効性・効率性を確認するための手段として、評価の仕組みが不可欠であり、会計基準の設定も規制の一形態であるとの認識のもと、他の規制等と同様に評価は不可欠であるとの意見が示された(*9)。
具体的な評価については、会計基準の適用前と適用後の双方で品質管理の視点から次の評価を実施する必要があるとされ、特に2点目の影響把握が重要であるとされた。
さらに、評価の導入に際しては、各国の基準設定主体の支援を得ることや、最終的に定性的な検討や定量的な分析を文書化して置くことの重要性が強調された。
参加者からは次のような意見があった。
また、参加者の数名から、このフランスANCによる提案と、EFRAGによる討議資料「会計基準の影響に関する検討」(2011年1月公表)との区別が不明確であるとの意見があった。NSS議長からも、フランスANCに対して、有用なフィードバックを得るためにこの区別を明確化することが適当であるとの提案がなされた。
オーストラリアAASBは、各国のNSSがグローバルな会計基準の開発に貢献し、効果的な活動を行うのに役立つ基礎を提供するための基準設定主体のフレームワークの開発を行っている。前回の会議ではこのフレームワークの骨格として次の6つの観点から検討した内容が示されていた。
今回の会議では、前回の会議における意見を踏まえ、新たな草案では、NSSのビジョンとして「財務報告の質に貢献し、公益に資する」という点を強調したこと、独立性と説明責任の関係、政府の方針とNSSとの関係を明示したことなどが説明された。
参加者からは、次のような意見があった。
なお、このテーマについては、カナダ、フランス、英国のほか、日本もプロジェクトチームのメンバーとして事前に内容の検討を行ってきた。
会議においても、ASBJから、この文書を公表すべきかどうかという点については現段階では時期尚早と考えられると述べ、また、ベストプラクティス文書の検討とも密接に関連しているため、協調して検討していくことが適切であるとの意見を述べた。これについては、他の参加者からも同様の意見があった。
オーストラリアAASBは、上記のフィードバックを考慮して再度検討し、検討結果をスタッフドラフトとしてNSSに連絡し、意見を求めることとされた。
NSS議長から、次回の会議におけるテーマとして、次のような候補が示され、会議が締めくくられた。
今回の会議は、テクニカルな議題は比較的少なかったが、IFRS第9号に関連したEFRAGの提案についてのセッションやアジェンダ協議のセッションなど個々には重要性の高いテーマが取り上げられていたといえる。IASBと各国のNSSとの関係を定める「ベストプラクティス文書」の見直しの検討は日本にとっても非常に重要なテーマであり、また、各地域グループからの報告のセッションは、ラテンアメリカやアフリカで新たに設立された地域グループも加わり、地域グループ単位での活動の重要性の高まりを示す象徴的なセッションであった。
以上