ASBJ 企業会計基準委員会

2012年 世界会計基準設定主体(WSS)会議報告

Ⅰ はじめに

 国際会計基準審議会(IASB)は、世界各国の会計基準設定主体との意見交換のための世界会計基準設定主体会議(World Standard-Setters Conference:  以下、「WSS会議」という。)を、2002年11月から毎年1回、ロンドンで開催している。今年は、2012年10月25日および10月26日の2日間、ロンドン市内のホテルを会場として開催され、世界中から68カ国(法域)の会計基準設定主体および地域グループまたは関連組織から118名の代表者が一堂に会した。会議の議事進行は、アマロ・ゴメスIASB理事が務め、各議題については、IFRS財団およびIASBからフーガーホーストIASB議長を含む多数の理事およびスタッフが参加し、プレゼンテーションおよび進行を担当した。

 企業会計基準委員会(ASBJ)からは、加藤副委員長、井坂シニア・プロジェクト・マネージャー及び関口専門研究員が出席した。以下に、会議の概要を報告する。

Ⅱ 2012年WSS会議

1.概要

今回のWSS会議の議題は以下の通りである。なお、会議の資料および一部のセッションの録音音声は、IASBウェブサイト上で公表されている (*1)。

日時 議題
10月25日 フーガーホーストIASB議長による挨拶
IASBの将来のアジェンダ
選択1:中小企業(SME)向けIFRSの包括的レビュー
選択2:教育セッション (一般ヘッジ、リース)
IASBと基準設定主体の協同
IFRS解釈指針委員会のアップデート
IFRS諮問会議のアップデート
10月26日 (早朝セッション)
XBRLのアップデート
適用後レビュー
選択1:新基準およびスタッフ・ドラフトのアップデート
  • IFRS第9号「金融商品」
  • IFRS第10号「連結財務諸表」
  • IFRS第11号「共同支配の取り決め」
  • IFRS第12号「他の企業への関与の開示」
  • IFRS第13号「公正価値測定」
  • 投資企業
選択2:小グループに分かれての議論
  • 保険契約
  • リース
  • 収益認識
  • 開示フレームワーク
  • 概念フレームワーク

2.フーガーホーストIASB議長による挨拶

会議の冒頭、ハンス・フーガーホーストIASB議長から、主催者による開会の挨拶があった。毎年、IFRSの適用法域が拡大するにつれて、WSS会議への参加者も増え続けている中で、IASBは、IFRS財団トラスティーによる「戦略レビュー」に基づき今後の方向性を定めている。WSS会議参加者とIASBの、特にIFRS基準設定プロセス上の関係に関わる重要な項目として、フーガーホースト議長は以下の3点を挙げた。  

  • 会計基準フォーラム(Accounting Standards Forum)(*2)の設立―限られた数の相手先とIASBとの相対(バイラテラル)関係から多国間(マルチラテラル)関係への移行に伴う新たな試み
  • 基準設定プロセスにおける各関係者の役割と責任の明確化
  • より強力な基準設定主体等とIASBの協力関係―特にリサーチにおける協力関係

新たに設置が提案されている会計基準フォーラムは、2013年から活動を開始し、各法域および地域からのIFRSに関するテクニカルな助言とフィードバックをIASBの基準設定プロセスに提供する会議体として機能することを想定している。このフォーラムの設置目的を達成するためには、規模をコンパクトに保ちつつ同時に必要十分な数のグローバルな代表者をメンバーとして含めることが重要であり、熟慮の結果、フォーラムのメンバー数が極めて限定的であることを強調した。また同時に、過度にフォーマルな関係にすることを意図していないと説明した。フーガーホースト議長は、当該フォーラムの設置により、IASBと複数の基準設定主体等との多国間の強力な協同関係が構築され、新たな財務報告の時代が到来する、と力強く開会の辞を締めくくった。

3.IASBの将来のアジェンダ

イアン・マッキントッシュIASB副議長の背景説明に引き続き、アラン・テキセイラIASBシニア・ディレクターからIASBの今後のアジェンダについて次のような具体的説明があった。

 IASBでは、3年毎のアジェンダ・コンサルテーションによりIASBの戦略的方向性を見直し、取り上げるべきアジェンダを決定することとしている。今回は、2011年7月に公表し2011年11月を期日としてコメントを募集したアジェンダ・コンサルテーション結果や、世界各地で実施した円卓会議等のアウトリーチ結果を参考に、優先的な将来のアジェンダを設定したことが説明された。従前は、もっぱら米国財務会計基準審議会(FASB)とのMoUプロジェクトに焦点を絞ってきたが、それらが終息に近づくにつれて、新たなIASBとしてのアジェンダを設定する必要性が高まったという。しかしながら、以前として現時点での最優先はMoUプロジェクトの最終化であり、その次が概念フレームワークであるとしている。

概念フレームワーク

従前は、FASBとの共同プロジェクトとして取り組んでいたが、今後はそれぞれが単独のプロジェクトとして取り組む。WSS会議直前の数週間で、IASBのスタッフは、報告企業、表示(OCIを含む)、開示(期中財務報告を含む)、構成要素、測定の5項目をフェーズ毎ではなく同時に開発する方向性を決めた。具体的には、財務諸表の表示プロジェクトで蓄積された表示に関する経験と情報も活用するなど、既存の作業も無駄にしない。会計基準設定主体やその他の組織からの協力を積極的に活用する計画である。また、例えばIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」における非金融負債の認識や測定の諸問題など、個別基準に関する実務上の懸念や問題点も概念フレームワークのプロジェクトに反映できるようにしたい。スケジュールとしては、2013年6月までに討議資料(DP)を公表したいとIASBは考えている、としている。

リサーチ活動等

IASBは、リサーチの会計基準設定における機能を改めて見直した。リサーチでまずIFRSの問題点を明確化する。リサーチには実証研究が含まれ、成果物は、DPであり、DPに対する一般からのコメントに基づき、IASBが重点的に取り組むべき焦点を見直し、さらに費用対効果を検討する。リサーチ結果に基づき、IFRS基準レベルのプロジェクトを立ち上げるかどうかを判断し、IASBの取り組みの根拠を提供する。リサーチの実施に当たっては、基準設定主体等とのネットワーク内での委託もある。

優先度の高いリサーチプロジェクトとして、排出権取引および共通支配下の企業結合が挙げられている。これらは、IFRSには存在しない規定もしくは規定が不明瞭であるため開発が必要なものである。

また、今後徐々に開始する分析段階のリサーチ案件として、割引率、持分法会計、採掘活動、無形資産、研究開発費、資本の特徴をもつ金融商品、外貨建取引、負債(IAS第37号の改訂)、超インフレーション会計と高インフレーション会計が挙げられている。

基準レベルのプログラム

優先的な基準レベルのプロジェクトとしては、いずれも対象範囲が限定されているが、農業(IAS第41号「農業」の修正)、料金規制事業および個別財務諸表(持分法)が挙げられた。一方、優先度の低い基準レベルのプロジェクトとして、法人所得税(IAS第12号)、退職後給付(IAS第19号)および株式報酬制度(IFRS第2号)が挙げられ、これらについては長期的なプロジェクトとして検討を進めるとしている。

なお、IASBは、既存の基準の維持も重要であり、首尾一貫した基準の適用を助ける必要性があると考えている。主要なプロジェクトはリサーチの結果から、範囲の狭い改訂はIFRS解釈指針委員会からの提案によりIASBで取り上げ、より焦点を絞り込んだ基準の開発を目指す。さらに、新基準や主要な改訂については、適用後レビューも重要であると考えている。

その他の活動

IASBは、2013年1月下旬に公開開示フォーラムを開催することにより、関係者(規制当局、利用者、作成者、監査人等)からの意見を収集し、開示の質の改善を目指すとしている。適用コミッティによるレビュー、影響度分析に関するコンサルテーション・グループ、IFRSネットワークの正式化等、様々な手段を活用することによりリサーチ能力の開発を目指す。また、IFRS財団のデュープロセスハンドブックの最終化を今年中に完成したい、としている。

優先度の高い基準レベルのプロジェクトはあるものの、今後、リサーチ活動と概念フレームワークにある程度対象を絞ることにより、少しは平穏な期間(Period of Calm)を提供することができる、と説明した。

上記説明に引き続き質疑応答となり、ある参加者からは、概念フレームワークのスケジュールが野心的ではないか、概念フレームワークのDPを来年の6月までに完成することを目標としているが、IASBが十分に討議し関係者の意見を収集する時間が確保できるのか、との質問があった。これに対して、テキセイラIASBシニア・ディレクターは、11月のIASB会議から概念フレームワークに関するペーパーを提示し、その後、毎月、IASBが議論することを考えているため、討議の時間は十分に見込んでいるとの回答があった。

4.中小企業(SME)向けIFRS

中小企業向け国際財務報告基準(IFRS for SMEs)(以下、IFRS(SME)とする)は、2009年7月に公表されて以来、80カ国を超える国・法域で使用されている。IFRS財団トラスティーにより、2010年には、SME適用グループ(SMEIG)が設置され、22名のメンバーと1名の議長(IASB理事のポール・パクター氏)により、適用上のガイダンスの提供や3年毎の見直しによるIFRS(SME)の改訂をIASBに提案する役割を担ってきた。今回、2012年6月に公表されたIFRS(SME)に関する情報提供要請(Request for Information, IFRS for SMEs)」に関連して、広くWSS会議参加者からの意見を収集するべく、当セッションが催された。IFRS(SME)は、中南米、アフリカ、アジア、欧州の各国で使用されており、WSS会議参加者を対象とした情報収集は効果的であると考えられる。

IASB理事のダリル・スコット氏による、当該情報提供要請の内容説明の後、以下の各トピックについて、参加者代表による賛成・反対各3分間のプレゼンテーションに引き続き参加者全員によるディスカッションを行った。これらのトピックは、いずれもIFRS(SME)見直しの中で浮上した潜在的改訂項目であり、簡便的な会計方針のIFRS(SME)をフルバージョンのIFRSに近づける方向の内容となっている。

  • 公開企業がIFRS(SME)を使用することの是非
  • 金融機関がIFRS(SME)を使用することの是非
  • 有形固定資産の測定に「再評価モデル」をIFRS(SME)に導入することの是非
  • 開発費の資産計上をIFRS(SME)に導入することの是非
  • のれんおよびその他の無形資産の償却期間(10年間)撤廃の是非
  • 適格資産の借入費用の資産化の是非
  • 繰延税金会計導入の是非
  • 追加のQ&Aの必要性

たとえば、上記の開発費の資産計上について、IAS第38号「無形資産」では技術上の実行可能性、企業の意図、使用・売却できる能力、将来の経済的便益の蓋然性が高いこと等、6つの要件をすべて立証できる場合に限り無形資産として認識することが要求されているが、改訂を支持する参加者からは、IFRS(SME)により費用処理のみしかできない現状から資産計上ができるように改訂されることはより簡便的な会計処理となり中小企業にとって望ましいという理由が説明され、別の参加者から、資産計上の要否を検討する方が複雑で立証が困難であると反論された。その他の上記会計処理の変更是非についても、全般的に改訂を支持する参加者は、現在IFRS(SME)を使用している法域からの参加者が多く、フルバージョンのIFRSに合わせる複雑性に対する懸念というよりは、現行の会計方針に選択肢を導入することに対する支持や期待感が強いと見受けられた。

元来、IFRS(SME)は、非公開の中小企業が簡便的な会計処理ができることを意図したものであり、開示全般についてもフルバージョンのIFRSと比較して極めて限定的である。そのような差異がある中で、小規模の公開企業や金融機関へのIFRS(SME)適用を支持する意見が主にアフリカや南米からの参加者から聞かれた。これらの支持者の主張は、金融機関等は各法域において規制された業種であることから一定レベルの監督が行き届いており各法域の規制当局が承認すればIFRS(SME)の使用が妨げられるべきではないというものである。また、これらの法域では、クレジット・ユニオン等、極めて小規模の金融機関が多いとの説明であった。そのような発言に対して、SMEよりも、さらに規模の小さいマイクロ企業の会計処理の検討が必要であるとする意見も別の参加者からあった。

今後の予定は、2012年11月30日に情報提供要請に対するコメントを締め切り、2013年2月のSMEIG会議においてコメント分析結果を議論し、IASBへの提案を討議することとなっている。その後、2013年第2四半期にIFRS(SME)改訂の公開草案を公表し、改訂基準を2013年第4四半期あるいは2014年上期中に公表し、適用日は早くても2015年となる見通しとのことであった。

5.IASBと基準設定主体の協同―IASBの適用状況について

このセッションでは、WSS会議に先立ちIFRS財団により実施された各国におけるIFRS適用状況に関する調査の暫定結果がIFRS財団のエグゼクティブ・ディレクターであるヤエル・アルモグ氏の進行によりIASBスタッフにより説明された。現在、世界中の100カ国以上がIFRSを使用しているといっても、その方法には、様々の手法がある。各法域のIFRSに関する適用状況を正確に把握することは、今後のIASBと各法域の基準設定主体との関係を検討する上でも重要であると考え、IFRS財団による調査が8月から9月にかけて実施されたが、現時点では、未回答や不明瞭な回答の追跡調査が未実施であるため、引き続き作業を行い、最終的な調査結果および各法域のIFRS適用に関する情報をいずれIFRS財団のウェブサイト上で公表することを計画しているとのことであった。なお、ASBJも当該調査には回答をしている。

具体的な調査は、大きく3つのパートについての質問から成り立つ。①IFRSに対する各法域のコミットメントについて、②実際のIFRS適用状況、③エンドースメントのメカニズムについて、である。その他、IFRSの翻訳やIFRS(SME)の適用状況に関する質問も含まれていた。暫定的な調査結果によると、多くの法域はIFRSにコミットしておりそのコミットメントを公表している。しかしながら、その適用方法やエンドースメントの手法は様々であるということであった。暫定的な調査結果の概要説明に引き続き、各国における会計基準適用の現状について、次のような各代表者による発表があった。

複数の会計基準を適用する法域

まず、日本、米国およびスイスの代表者から各3分間の発表があった。これらの国々は、複数の会計基準の適用を公開企業に対して認めている。その複雑性や比較可能性の観点から、一般的には、単一の会計基準の適用が望ましいのではないか、という疑問が生じる。その疑問に対する回答を引き出すことがこのセッションの趣旨である。

日本の状況については、加藤ASBJ副委員長により、なぜ3つの異なる会計基準(日本基準、米国基準、IFRS)に基づき作成された連結財務諸表が上場企業に認められているのか、どのようにして利用者が異なる会計基準間の調整を行っているのか等についての説明がされた。約3,600社の上場企業の中で、米国基準又はIFRSにより連結財務諸表を作成している企業は数の点からは圧倒的に少数であること、主要な基準間差異が利用者や作成者、監査人に十分に識別されていること、さらに、いくつかの基準については差異がない点について説明された。

次に、米国FASB代表者からは、SEC登録外国企業(FPI)についてIASBが公表しているIFRSによる財務諸表作成者は、様式20-F において米国基準との調整表作成が免除されることの背景が説明された。米国基準とIFRSに差異があるとはいえ、外国企業が自国の会計基準で財務諸表を作成し米国基準との調整表を開示していた状況と比較すると、IFRSの適用により格段に比較可能性が高まったと考えていると説明した。

スイスでも、米国基準、スイス基準、IFRSの3つの基準が認められている。国際的な大規模上場企業は、米国基準やIFRSを採用している企業が多いが、中小上場企業にとっては、米国企業やIFRSは複雑すぎ適切ではないかもしれないので、そのような企業を対象とした会計基準をスイス基準として認めている、という説明だった。

公開企業以外にもIFRSを適用している法域

多くの国では、IFRSを上場企業のみに強制している一方で、ブラジルやカナダは、非上場企業にもIFRSの適用を拡大している。ブラジルの代表者は、連結財務諸表だけでなく個別財務諸表にもIFRSを適用している背景として、異なる基準を適用するコストの削減が理由であると説明した。

IFRSを、非営利団体を含む上場企業以外にも拡大して適用しているカナダの代表者からは、公的説明責任を有する企業(Publicly Accountable Entities)等に対してIFRSを取り込んだカナダ基準を適用するに至った経緯が説明された。

エンドースメントの有無

さらに、エンドースメントのメカニズムがない国の代表として、メキシコからは、国内企業が外国企業との比較可能性を確保するためにエンドースメントなしにIFRSを取り入れる方法が最も適切であると判断したことが説明された。
  また、何らかの方法でエンドースメントを導入している国として、ロシア(EUと同様の方法、主に国内法規制体系に組み込むためのエンドースメント)、ニュージーランド(ネガティブ・クリアランス方式)、韓国等の事例が紹介された。

IFRS(SME)の適用

WSS会議参加国の中には、IFRS(SME)を適用している法域が多い。ボツワナやタンザニアでは、各企業の純資産(あるいは総資産)、第三者からの借入金残高、売上高、従業員数等に一定の閾値を設定し、このうち少なくとも2項目が閾値を超過するとフルIFRSを適用しIFRS(SME)が適用できないような仕組みを導入していることが説明された。

IFRSの適用・コンバージェンス過渡期の法域

IFRSの適用あるいはコンバージェンス過渡期の法域代表として、インド、マレーシア、インドネシアの各国から現状報告の発表があった。

6.IFRS解釈指針委員会のアップデート

IFRS解釈指針委員会のウェイン・アプトン委員長により、最近のIFRS解釈指針委員会に寄せられた以下の懸念事項の説明に引き続き、同委員会の役割と手順の説明があった。

  • IFRIC第15号における「継続的な支配の移転」の不動産取引上の解釈
  • IFRIC第6号の賦課金と税金
  • 「事業」の定義-単一資産とプロセスを取得する場合の取扱い
  • 共同支配事業に対する持分の取得(IFRS第11号の修正案)
  • 有形固定資産および無形資産の偶発的価格の取り決め―変動対価の取扱い

上記以外にも、最近の話題としては、拠出ベース約定の従業員給付、借地権、通信事業における鉄塔が投資不動産に該当するかどうか、ソブリン債の問題、非支配持分の売建プット・オプション(公開草案公表)、マイナスの利回りとなる金融商品、事業の定義を満たさない場合の逆取得、果実生成型生物資産の評価(測定)、等があることが紹介された。

また、IFRS解釈指針委員会が目指す方向性として、IFRSを適用する法域が世界各国・各地域に拡大するにつれて、2つの簡単なルールに基づいていること、すなわち、①IFRS解釈指針委員会は「求められた時にだけ」動くこと、そして、②IFRS解釈指針委員会で議論するには問題・懸念の「アジェンダが必要」であること、が説明された。また、IFRS解釈指針委員会は、各法域の基準設定主体およびその関係者と次の3項目、すなわち、①特定のIFRSに関する問題および懸念を理解すること、②これらの問題・懸念の解決に協力すること、または、③それらから学んだことをIASBにフィードバックすること、について協働することを強調していた。

7.IFRS諮問会議のアップデート

ポール・チェリー諮問会議議長からは、今後の諮問会議メンバーの交代予定、2012年の主なトピックおよび今後の課題についての報告があった。このうち、今後の課題としては、FASBとIASBとの共同プロジェクトの残りを完成すること、IFRSの一貫した適用と解釈、基準開発プロセスにおける会計基準設定主体とIASBの協同、デュープロセス監視委員会との協働、開示の増加と複雑性への対処、中小企業向けIFRSの見直し、基準レベルのプロジェクトの提案、が挙げられた。

8.XBRLのアップデート

当該セッションは任意の早朝セッションであり参加者は少人数に限定されていた。

IASBおよびIFRS財団におけるXBRLに関するアップデートが、XBRL活動ディレクターのオリヴィエ・サーベス氏から説明された。2001年にトラスティーにより設置されて以来、IFRS XBRL部門では、毎年、新IFRS基準の公表や公開草案、既存IFRSの年次改善等により、IFRSタクソノミを更新しており、年々、タクソノミの項目数が増加している。世界でのXBRL活用事例として、米国SECによる事例、日本のEDINET等が紹介されていた。IFRS XBRL部門では、IFRSタクソノミの翻訳支援、タクソノミの理解を深めるための各種の教育文書や補助資料、その他のサポートを提供しているとの説明に引き続き、会計基準設定主体としてIFRSタクソノミの普及に協力するよう要請があった。

9.適用後レビュー

フーガーホーストIASB議長によりIFRS第8号「事業セグメント」にかかる適用後レビューの実施状況が説明された。IFRS第8号の適用後レビューについては、2012年7月に意見募集が公表され、2012年11月16日までコメントが募集されている。今後の予定として、2013年第1四半期中にコメント分析を実施し、その後、2013年の早い時期にIASBでの議論を行う予定とのことである。

当該IFRS第8号の適用後レビューに際しては、セグメント情報の開示に係る日本基準が概ねIFRS第8号とコンバージしているということで、ASBJにおいても日本国内関係者から意見を収集した上で、IASBが意見募集草案を作成する段階で協力したこと、また、コメントを取りまとめる段階においては、アジア・オセアニア会計基準設定主体グループ(AOSSG)の一員として国内関係者の意見を収集し情報を提供したこと等を、加藤ASBJ副委員長から発表した。

10.収益認識

 小グループに分かれてのセッションのひとつが収益認識のセッションであった。IASB理事のパトリシア・マッコーネル氏とスタッフのグレン・ブラディ氏により、2011年公開草案公表後のIASBおよびFASB(以下「両審議会」という。)による暫定合意事項について解説があった。主な質疑応答は、以下のとおりである。

契約の存在

収益認識のステップ1における契約の識別については、2012年9月の両審議会における回収可能性の議論の中で、そもそも顧客が契約当初において企業に対価を支払う意図がないような場合は、契約当事者双方によるコミットメント(確約)が存在しないと見なされ、収益基準における「契約は存在しない」と判断される結果になる可能性がある。その場合は、どの基準を参照して会計処理をするのか、との質問に対して、IASBスタッフからは以下の回答を得た。

この点は、両審議会でも議論された。その他のどの基準でもカバーされない取引の場合、おそらくは、実際に対価が回収できた時点で企業は収益を認識することになるだろう(現金ベース)が、それぞれの取引を詳しく検討しなければならない。最終の収益基準では、そのような点も明らかにしなければならないと考えている。 

回収可能性(信用リスク)の表示

2010年公開草案(*3)では、顧客の信用リスクを控除した額を取引価格とすることが提案されていたが、利用者は、それに反対し、より透明性を高めるために、回収可能性に係る信用リスクは別途表示することを支持していた。

そこで、2011年再公開草案(*4)では、提案内容を変更し減損損失を収益に隣接表示することを提案した、というIASBスタッフの説明に対して、ある参加者からは、回収可能性について、契約当初の減損は、収益の控除とすることが適切かもしれないが、減損の事後変動は、受取債権の減損であり売り上げの調整とすべきではなくその他の営業費用とすべき、という強い意見があった。

これに対して、IASB理事は、現行の収益基準では、IFRSでも米国基準でも一定の回収可能性の閾値を満たさなければ収益が認識できない。しかし、2011年再公開草案では、回収可能性は収益認識の要件ではなく、収益の測定に反映されることになっている。その結果、収益のトップラインが過大になるのではないかと何人かの両審議会の理事は懸念を示している、と説明した。

その他のトピック
  • コストについてのガイダンスは収益基準では取り扱わない
  • 開示については、議論が多い。追加のワークショップを開催する予定としている。
  • 経過措置についても遡及適用を懸念する作成者は多い。

コストについてのガイダンスは収益基準では取り扱わない

→ 開示については、議論が多い。追加のワークショップを開催する予定としている。
→ 経過措置についても遡及適用を懸念する作成者は多い。

11. 開示フレームワーク

この小グループに分かれてのセッションでは、IASB理事であるスティーブ・クーパー氏とテキセイラIASBシニア・ディレクターが担当し、主に、IASBが取り組む概念フレームワークの中の一部を構成する開示フレームワークについて、各参加者からの意見を収集する場となった。第1のセッションにおける議論の中心は、開示における「重要性」についての考え方であった。財務諸表本表の重要性と注記の重要性の違い、開示における重要性をどのように定義付けるか、重要性が報告期間によって変動する場合の比較情報の開示の考え方について等、参加者が様々な意見を述べた。また、当セッション参加者が知るところの利用者の意見として、情報の内容によっては、有用な情報が財務諸表の注記に開示されていようが、非財務情報としてMD&Aにおいて開示されていようが、どちらでも良いという意見もある、という発言もあった。

また、参加者を入れ替えての第2のセッションでは、重要性に加えて以下のような発言があった。

  • IAS第1号「財務諸表の表示」には、表示と開示の双方が含まれているが、開示の部分についてIAS第1号から切り離すとともに、開示に関する基準を開発することが考えられる。
  • 2013年1月28日に主要関係者を集めて公開フォーラムを開催する予定であり、これは、即効薬的解決を達成できるものがないかについて模索することを目的としたものである。
  • 新会計方針として詳しく書かれた記載がそのまま次年度以降に引き継がれることがある。この点、不要な開示の削減という意味では、新たな会計方針や経営者が判断を行使しうる会計方針に焦点を当てるとともに、それ以外については、企業のウェブサイトに記載するとか、別添にするといった方法が考えられるのではないか。

12.概念フレームワーク

当セッションでは、概念フレームワークに関する最近の動向について、マッコーネルIASB理事及びIASBスタッフのピーター・クラーク氏より、「IASBの概念フレームワークに関する誤解」の資料とともに、現在の進め方に関する考え方について以下の説明がなされた。

  • 目的と質的特性のセクションは、基本的には、2010年度版を変更しない。また、(OCIのリサイクリングの取扱いを含め)現行の規定をすべて説明するようなアプローチは考えていない。
  • 財務報告全般でなく、財務諸表に焦点を当てて、プロジェクトを進めていくことを考えている。
  • 基準開発において、概念フレームワークを遵守しない場合には、この理由を明らかにしなければならない。但し、概念フレームワークが改訂された後、それ以前に開発された基準について、同様の説明を行う必要があるか否かは別の話である。
  • 概念フレームワーク・プロジェクトのボード・アドバイザーは、フーガーホースト議長、マッキントッシュ副議長、IASB理事のクーパー氏および張為国氏の4名である。

また、報告企業、表示、開示、構成要素、測定等についても現時点でのIASBスタッフの考え方が説明され、参加者との積極的な意見交換がなされた。

III. おわりに

WSS会議の参加者は、世界各地の様々な基準設定主体から集まっており、これに先立ちスイスのチューリッヒで開催された基準設定主体国際フォーラム(IFASS)会議と比較しても、その多様性が一段と際立っている。その結果、IASBスタッフによるIFRS各プロジェクトの動向解説も、多様な参加者のニーズに合わせるために、必ずしも最先端の情報が盛りだくさんというわけではなく、基本的な理解の確認と周知徹底が目的であるような印象を受けた。しかしながら、68カ国(法域)からの会計基準設定主体等の代表者が一堂に会する国際会議は、このWSS会議の他には見当たらず、広く100カ国超の法域で使用されている国際的な会計基準の開発や適用に係る諸問題を理解する上で、直接、関係者から説明を受け、同時に、日本の状況を海外に知ってもらう絶好の機会であろう。


  1. WSS会議の配布資料および一部の音声は、以下を参照。
    http://www.ifrs.org/Meetings/Pages/World-Standard-setters-Meeting.aspx
  2. 2012年11月1日にIFRS財団が公表した「会計基準アドバイザリー・フォーラム設置の提案」では、名称が、Accounting Standards Advisory Forum となっているが、WSS会議での仮称には、アドバイザリーという言葉は含まれていなかった。
  3. http://www.ifrs.org/Current-Projects/IASB-Projects/Revenue-Recognition/ed0610/Pages/Exposure-draft.aspx
  4. http://www.ifrs.org/Current-Projects/IASB-Projects/Revenue-Recognition/EDNov11/Pages/ED.aspx