第45回会議

IASB(国際会計基準審議会)の第45回会議が、2005年4月19日にロンドンのIASB本部で開催された。また、20日にはリエゾン国の関係者との会議が、さらに、21日及び22日にはFASB(米国財務会計基準審議会)との合同会議が行われた。IASB会議では、1. IAS第39号(金融商品:認識及び測定)の改訂(公正価値オプション)、2. IAS(国際会計基準)第39号の改訂(金融保証と信用保険に関する改訂公開草案)、3. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税)、4. IFRS(国際財務報告基準)第6号(鉱物資源の探査と評価)によるIFRS第1号(IFRSの初度適用)の改訂(誤謬の訂正)及び5.解釈指針案(IFRIC)の検討が行われた。このほか教育セッションでは、採掘産業に関するリサーチプロジェクトの現状の報告及び損害保険会計に関連してオーストラリアとカナダの実務の紹介が行われた。FASBとの合同会議では、6. 業績報告、7. 米国会計基準との短期統合化(法人所得税)、8. 金融商品会計基準の今後のあり方及び9. 概念フレームワーク(財務諸表の目的)について議論が行われた。IASB会議には理事14名全員が参加した。また、合同会議には、FASBのボードメンバー7名を加え21名が参加した。本稿では、5.を除くIASB会議及びIASB・FASBの合同会議での議論の概要を紹介する(リエゾン国会議については触れない)。なお、IASBのテクニカル・ディレクターのKevin Stevenson氏は2005年4月末をもって退任し、新たにElizabeth Hickey氏が5月からテクニカル・ディレクターに就任している。

IASB会議

1.IAS第39号の改訂(公正価値オプション)

今回は、公正価値オプションに関する改訂IAS第39号の発効日及び経過措置についての議論が行われた。また、今回ですべての議論が終了したため、ボードメンバーに対して改訂内容に関する賛否が問われ、11対3(バース氏、ガーネット氏及びウィッティントン氏)で改訂内容が承認された。これを受け、最終基準を2005年6月に公表する方向で作業を進めることがスタッフに指示された。なお、参考までに公正価値オプションの改訂新アプローチの概要を(2)で示している。

(1)発効日と経過措置

今回の会議では、先月に引続き発効日と経過措置に関する議論が行われた。議論の結果、次の点が暫定的に合意された。

(a)改訂新アプローチに基づく公正価値オプションは、2006年1月1日を発効日とし、早期適用を奨励する。

(b) 改訂新アプローチに基づく公正価値オプションに関する経過措置は、下表に示す内容が暫定的に合意された。下表では、IFRSを既に適用している企業と初めて適用する企業とに分けて若干異なる表現で経過措置が記述されている。これは、前者は改訂IAS第39号で規定され、後者はIFRS第1号で規定されているための記述の差異である。しかし、その規定内容は同一である。

 

適用時期 IAS第39号の既適用企業 IAS第39号の初適用企業

A.2006年1月前に開始する事業年度から改訂新アプローチを適用する場合

(a) 公正価値の3つの規準に該当すれば、初めて改訂新アプローチの公正価値オプションを適用する時点(事業年度の開始時点又は2005年9月1日のいずれか遅い方)で、公正価値オプションの指定を行える(注1)。

(b) 事業年度が2005年9月1日以前に開始される場合には、9月1日までに指定を行えばよい(事業年度の開始時点である必要はない)(注2)。また、事業年度の開始時点と9月1日までの間に認識された金融資産・金融負債についても同様に9月1日までに指定を行えばよい。
(c) 従前公正価値オプションを適用していたが、改訂新アプローチの公正価値オプションの条件を満たさない金融資産・金融負債は、公正価値オプションの指定からはずさなければならない。

(d) 従前公正価値ヘッジのヘッジ対象となっていた金融資産・金融負債は、公正価値オプションの対象として指定できる(その場合は、ヘッジ対象の指定は取り消される)。指定のタイミングは、初めて改訂新アプローチの公正価値オプションを適用する時点(事業年度の開始時点又は2005年9月1日のいずれか遅い方)となる。

(a) 2006年1月1日前に開始する事業年度にIFRSに基づく初めての財務諸表を公表する企業は、当該財務諸表の対象事業年度の期首において、改訂新アプローチの公正価値オプションの指定を行える。ただし、初年度の期首が2005年9月1日以前の場合には、9月1日までに指定を行えばよい(この中には、初年度の期首以降2005年9月1日までに認識された金融資産・金融負債を含む)(注2)。

(b) もしIAS第39号に関する比較情報を遡及修正する場合には、IFRSへの移行日(移行日以降に取得されたものについては当初認識時点)において、改訂新アプローチの3つの規準を満たしている金融資産・金融負債については、比較財務諸表を遡及修正しなければならない(注1)。

B.2006年1月以降に開始する事業年度から改訂新アプローチを適用する場合

(a) 従前公正価値オプションを適用していたが、改訂新アプローチの公正価値オプションの条件を満たさない金融資産・金融負債は、公正価値オプションの指定からはずさなければならない。

(b) 従前に認識されていた金融資産・金融負債には、改訂新アプローチの公正価値オプションを適用してはならない。

(a) 2006年9月1日以降に開始する事業年度のIFRSに基づく初めての財務諸表を公表する企業は、公正価値の3つの規準に該当すれば、IFRSへの移行日(表示される比較財務諸表の期首)において、改訂新アプローチの公正価値オプションの指定を行える。

(b) 2006年1月1日以降2006年9月1日までの間に開始する事業年度にIFRSに基づく初めての財務諸表を公表する企業は、IFRSへの移行日(表示される比較財務諸表の期首)において、改訂新アプローチの公正価値オプションの指定を行える。ただし、IFRSへの移行日が2005年9月1日以前の場合には、9月1日までに指定を行えばよい(この中には、移行日以降2005年9月1日までに認識された金融資産・金融負債を含む)。

C.比較財務諸表への遡及適用

上記A及びB のいずれにおいても、比較財務諸表の期首(期首以降に取得されたものについては当初認識時点)において、改訂新アプローチの3つの規準を満たしている金融資産・金融負債については、比較財務諸表を遡及修正しなければならない。

比較財務諸表に関する取扱いは、A(b)及びB(a),(b)を参照。

D.ヘッジ会計との関係

ヘッジ会計との関係は、A(d)を参照。

2006年9月1日前に開始する事業年度にIFRSに基づく初めての財務諸表を公表する企業は、従前公正価値ヘッジのヘッジ対象となっていた金融資産・金融負債を、上記A(a)及びB(b)に従って公正価値オプションの対象として指定できる(その場合は、ヘッジ対象の指定は取り消される)。

(注)1.3つの規準とは、「ミスマッチ解消規準」、「リスク管理規準」及び「組込みデリバティブ規準」(下記(2)参照)を指す。

2.改訂IAS第39号が2005年6月に公表されることを前提に、公正価値オプションの指定に3ヶ月(2005年9月1日まで)の余裕を持たせるという実務への配慮規定が置かれている。

(2)改訂新アプローチ

今回合意された改訂新アプローチは、おおよそ次の通りで、公正価値オプションが適用できる場合を次の3つの場合に限定している。

  1. 公正価値オプションを採用することによって、「測定のミスマッチ」の解消が図られる場合。ここでいう測定のミスマッチは、いわゆる会計上のミスマッチ(測定のミスマッチ及び損益の認識のミスマッチ)を対象とするものである。すなわち、例えば、金融資産が公正価値で測定されているが、これに対応する金融負債が公正価値では測定されていないために生じる差異を金融負債に公正価値オプションを適用することで解消できるという場合に採用することができる(ミスマッチ解消規準)。
  2. 金融資産・金融負債のグループが、文書化されたリスク管理又は投資方針に準拠して管理され、そのパフォーマンスが公正価値に基づいて評価され、かつ、企業の鍵となる経営者に内部的に報告されている情報の基礎となっている場合(リスク管理規準)。なお、公正価値オプションの採用が、企業の文書化されたリスク管理又は投資方針とどのように整合しているかに関する記述情報の開示が求められる。
  3. 組込みデリバティブを内包する複合金融商品全体を公正価値で測定する場合(組込みデリバティブ規準)。現行規定では、組込みデリバティブはホスト契約から分離することが原則とされ、分離して測定することが不可能な場合にのみ複合金融商品全体を公正価値で測定することが求められているが、これを改訂し、組込みデリバティブはホスト契約から分離することができる場合であっても、複合金融商品全体を公正価値で測定することができるようにしている。

2.IAS第39号の改訂(金融保証と信用保険に関する改訂公開草案)

今回の会議で金融保証契約と信用保険の取扱いに関する議論が終了した。スタッフからは、本プロジェクトを中止し、現行基準(ほとんどの金融保証契約及び信用保険はIFRS第4号(保険契約)で会計処理する)を維持すべきであるとの提案がなされたが、IASBは、この分野の改善のための会計基準の改訂が必要であるとの結論を下した。最終的な取扱いは、金融保証契約に対しては、原則としてIAS第39号を適用するが、従来から金融保証契約を保険契約として取扱い保険として会計処理を行ってきている場合には、IAS第39号又はIFRS第4号のいずれかの適用を選択できるというものである。

(1) 金融保証契約に関する議論の経緯

現行のIFRSの下では、ほとんどの金融保証契約が保険契約の定義を満たすため、重要な保険リスクを移転する金融保証契約は、IFRS第4号に従って会計処理されている。このため、一般事業会社が金融保証契約の会計処理を行うには、保険契約に関するIFRS第4号を参照しなければならないという事態になっている。このような事態を解消するため、2004年7月に公表された公開草案(金融保証契約及び信用保険)では、新たにIAS第39号に金融保証契約の定義(「特定の債務者が、支払期日に負債金融商品の当初又は改訂後の条件に従った履行を行わないために契約者に生じた損失に対して保証人(契約の発行者)に特定の支払いを求める契約」)を設けた上で、その定義に該当する信用保険は、保険契約に該当していてもIAS第39号の対象とした上で(すなわち、信用保険はIFRS第4号の対象外とする)、次のような測定を行うことを提案していた。これによって、金融保証契約の会計処理は、保険契約の形式を取っていてもIAS第39号で一律に規定しようというのが公開草案の狙いであった。

  1. 当初認識時の測定は、公正価値で行う。
  2. 当初認識後の測定は、1. IAS第37号(引当金、偶発債務及び偶発資産)によって認識された金額、又は、2. 当初認識額からIAS第18号(収益)に基づいて認識された償却額累計を控除した額のいずれか高い方で行う。
(2)今回の議論

公開草案のアプローチに対しては、金融商品としての特徴以外の保険契約特有の特徴を持つ信用保険もあるとされ、このような場合にはIAS第39号に保険契約特有の特徴に関する規定が整備されていないため、公開草案のアプローチでは、十分対応できないとの指摘があった。そのため、金融保証契約の定義に合致するものをIAS第39号の適用対象にするという公開草案の提案を基本とするものの、例外的に一部の金融保証契約にはIFRS第4号を適用するという改訂案が2005年1月以降連続して議論されてきた。
しかし、ボードメンバーが納得するような改訂案が見つからず、議論が継続してきていた。今回の会議では、「ビジネスモデル・アプローチ」という新たな提案が検討され、結論として、この案に基づいて、最終基準を作成することが合意された(賛成8反対6)。
今回採用された改訂案は次の通りである。
「金融保証契約の定義に該当するものは、原則としてIAS第39号の範囲とするが、

  1. 従来から金融保証契約を保険契約として取扱い保険契約として会計処理を行ってきている場合には、公開草案でのアプローチ(すなわちIAS第39号を適用する)又はIFRS第4号の適用のいずれかを選択することを認める。
  2. それ以外の場合には、公開草案でのアプローチを適用する(すなわち、IAS第39号を適用する)。」
    なお、上記(a)におけるIAS第39号かIFRS第4号かの選択は、契約ごとに選択できることとするが、一旦選択した後の変更は認めないという取扱いとなる。
    今後、今回の合意に基づき最終基準案のドラフト作りに着手することになり、最終基準の公表は、2005年7月が予定されている。

 

3.米国会計基準との短期統合化(法人所得税)

米国財務会計基準書(SFAS)第109号(法人所得税の会計処理)とIAS第12号(法人所得税)との間の統合化を図るための議論が続いている。今回の会議では、1. FASBが最近決定した内容が報告されるとともに、2. FASBとの合同会議を前にそこでの議題であるSFAS第109号に含まれているがIAS第12号にはない税金の期間内配分に関する取扱いについての議論が行われた。

(1) FASBの決定

1. 未分配税率又は分配税率の使用

企業が稼得した留保利益に対して適用される税率が、株主に配当を行うかどうかで異なる国がある。このような場合において、企業が一時差異に対して繰延税金資産又は負債を認識する際に、配当を行う場合に適用される税率(ここでは「分配税率」という)と配当を行わない場合に適用される税率(ここでは「未分配税率」という)のどちらを用いるかがここでの論点である。IAS第12号では、繰延税金資産又は負債を認識に際し未分配税率を用いることとされている(第52A項)。ただし、留保利益を配分しなければならないという義務が生じた場合には、その部分に関連する繰延税金負債は分配税率を用いて計算される。一方、SFAS第109号には、この問題についての明確な規定が置かれていない。 FASBは、最近開催した会議で、この問題に対して、IAS第12号の取扱いへ統合する内容の決定を行った。すなわち、

  1. 繰延税金資産又は負債は、未分配税率を用いて測定する。
  2. 留保利益を配分しなければならないという義務が生じている範囲で、その部分に関連する繰延税金負債は未分配税率と分配税率の差異に基づいて認識する。

2. 法定税率又は実質的法定税率

IAS第12号第47項では「繰延税金資産及び繰延税金負債は、資産が実現するか負債が決済される期に適用されると予想される、貸借対照表日現在で立法化されている法定税率又は実質的に立法化されている法定税率を用いて計算しなければならない」とされているが、SFAS第109号では「立法化されている法定税率」のみを用いることとされている。このように、繰延税金資産及び繰延税金負債を修正すべき税法又は税率の変更とはどのような状況を指すと理解すべきかに関して、IAS第12号とSFAS第109号との間に差異がある。
FASBは、最近の会議で、この問題に対して、IAS第12号との統合を目指して次のような決定を行った。

  1. 米国内の事業については、SFAS第109号のアプローチ(法定税率の変更は立法化された期で認識する)を採用する。米国では、大統領が署名した時点で立法化されたとみなされる。
  2. 米国以外の地域での事業については、IAS第12号と整合的なアプローチ(法定税率の変更は立法化された期又は実質的に立法化された期で認識する)を採用する。

この決定は、IAS第12号と同一内容ではないため、FASBは、IASBに対して、IAS第12号を改訂して上記と同様な内容に変更することを要請した。
今回の議論の結果、基本的にFASBの決定と同様な内容をIAS第12号を改訂して取り込むことが暫定的に合意された。また、これまでの議論の中で、「実質的に立法化されている」状態とは、主要国においてどのような状況を指すのかを具体的にまとめた一覧表が作成されているが、これをIAS第12号の中にガイダンスとして織り込むかどうかが議論され、そのような一覧表は含めないことが暫定的に合意された。

(2) 税金の期間内配分

税金の期間内配分とは、当期に発生した税金費用を損益計算書上で当期利益を構成する各段階に配分することをいい、SFAS第109号では次の各段階に税金費用を配分することを求めている(第35及び36項)。

  1. 継続事業からの損益
  2. 非継続事業からの損益
  3. 異常項目
  4. 資本の部に直接賦課される項目(会計方針の変更や誤謬による未処分利益剰余金の調整、為替換算調整勘定・売却可能有価証券の公正価値の変動額等)

また、「継続事業からの損益」に含められる税金費用は、1. 当期中の継続事業から生じる税引前損益に対する税効果に、2. 次の4つの事項から生じる税効果を加減したものとされている(第35項)。

  1. 繰延税金資産の将来の実現に関する判断の変動に繋がる状況の変動
  2. 税法又は税率の変更
  3. 税務上のステータスの変更
  4. 株主に支払われた損金算入可能配当

一方、IAS第12号では、当期税金及び繰延税金は、直接資本の部で認識される取引又は項目に関連するもの等を除き、収益又は費用として認識しなければならないとされている(第58項)。さらに、IAS第12号では、経常的活動から生じる損益に関連する税金費用は損益計算書上で区分表示することとされているが(第77項)、その具体的な方法は示されていない。

また、今回の合同会議で問題となった直接資本の部で認識される項目に係る当期税金及び繰延税金の取扱い(特に税法又は税率の変更に起因するもの)に関しては、SFAS第109号とIAS第12号との間には、当初認識時以降の会計処理に関して次のような差異がある。IAS第12号では、直接資本の部で認識される項目に係る当期税金及び繰延税金は、それが異なる期に関連するものであっても、すべて資本の部で認識することとされている(第61項)。すなわち、直接資本の部で認識される項目に係る当期税金及び繰延税金は、当初認識時に生じる当期税金及び繰延税金のみならず、当初認識以降に生じる当期税金及び繰延税金の変動も資本の部で認識することとされている。したがって、もし税率の変更があった場合には、その変更の影響(当初認識以降に生じる当期税金及び繰延税金の変動)は、IAS第12号では、資本の部で認識される。一方、SFAS第109号では、直接資本の部で認識される項目に係る当期税金及び繰延税金は、当初認識時には、資本の部で認識することとされているが、それ以降の変動(例えば税率の変動による変動)は、「継続事業からの損益」に含めることとされており、両者の会計処理に差異が生じている。

今回のIASB会議では、上記に関連して、1. 期間内配分に関するFASBのガイダンスをIAS第12号に取り入れるかどうか及び2. 直接資本の部で認識される項目に係るSFAS第109号とIAS第12号との差異をどのように解消するかという問題点があることが認識され、FASBとの合同会議でこの問題の解決を図ることとされた(下記6参照)。

4.IFRS第6号によるIFRS第1号の改訂(誤謬の改訂)

IFRS第6号は、2004年12月に公表され、2006年1月1日から発効することとなっている。IFRS第6号では、IFRSを初めて適用する企業に対するIFRS第6号の規定の取扱いを定めるため、IFRS第1号を改訂して新たに第36B項を追加する改訂を行っている。第36B項では、IFRSを2006年1月1日前に初めて適用し、同時にIFRS第6号を早期適用する企業は、IFRS第6号が求める開示を比較財務諸表においては行う必要がないという内容となっている。しかし、IFRS第6号の結論の背景等からIASBの意図は、開示のみならず、IFRS第6号が求める認識と測定に関しても比較財務諸表では適用除外とするというものであり、現行第36B項はこれを適切に反映していないため、このままでは、誤解を招くことになるという点がオーストラリアの会計基準設定主体から指摘された。

議論の結果、現行第36B項はIASBの意図を的確に反映していないため、その誤謬を急いで改訂することが合意された。既に2005年1月からIFRSを採用している企業があること及びその誤謬の内容が明確であることから、改訂基準を2005年6月末までに公表することを目指し(2005年6月のIASB会議で改訂を承認する予定)、2005年6月上旬をコメントの締切り期日とする改訂のための公開草案を、ホームページを通じて早急に公表することが予定されている。

IASBとFASBの合同会議

5.業績報告

今回の会議では、業績報告(これまでは「包括利益の報告」と呼んでいた)プロジェクトの今後の進め方についてセグメントA及びセグメントBに分けて議論が行われた。

なお、2004年4月に、このプロジェクトを2つのステップに分けて進める決定がされた時点では、それぞれ次に示す項目がセグメントA及びBで検討することとされている。

セグメントA

  1. 「継続事業からの当期利益(net income from continuing operations)」又は「当期利益(profit or loss)」を含む一計算書方式による包括利益計算書の導入。
  2. 要求される主要財務諸表の特定。
  3. 要求される比較財務諸表及び関連する注記による開示において要求される年数。
  4. キャッシュ・フロー計算書の表示には、直接法が要求されるべきかどうかの検討。

セグメントB

  1. 当期利益とその他包括利益の間でのリサイクリングという概念に価値があるかを検討する。価値があると判断された場合には、リサイクルすべき取引と事象の種類の根拠及びいつリサイクルすべきかを検討する。
  2. それぞれの財務諸表で区分して情報を表示するための首尾一貫した原則を構築する。
  3. それぞれの財務諸表で報告すべき合計及び小計を定義する(例えば、事業とか財務といった区分)。
(1)セグメントA

ここでは、スタッフが用意した質問に基づいて、次の点について両ボードの合意が形成された。

(a)「1組の財務諸表(full set of financial statements)」には、次の5つの財務諸表を含める。

  • 期首財政状況表(beginning of the period statement of financial position)
  • 期末財政状況表(end of the period statement of financial position)
  • 当期利益及び包括利益計算書(statement of earnings and comprehensive income)
  • 資本変動計算書(statement of changes in equity)
  • キャッシュ・フロー計算書(statement of cash flow)

新たに主要財務諸表の1つとなる「期首財政状況表」を1組の財務諸表に含めることについてはいろいろな意見が出たが、その導入が賛成18反対3で合意された(FASB7名及びIASB14名で合計21名が採決に参加した)。当初スタッフからは、「期首財政状況表」を除く4つの財務諸表を「1組の財務諸表」として要求し、「期首財政状況表」の作成は推奨するという提案がなされたが、結果として期首財政状況表も「1組の財務諸表」の1つとすることとされた。1期のみを考えた場合、2時点の財政状況表を示すことで、フローを示す3つの計算書(当期利益及び包括利益、資本変動及びキャッシュ・フロー)をよりよく理解できると考えるボードメンバーが多数を占めた。なお、比較財務諸表が示されるときには、比較財務諸表の一番古い期の「期首財政状況表」のみが示されることになる。

(b)「1組の財務諸表」を構成する5つの財務諸表は、いずれかを目立たせるということをせず、同じような顕著さをもって表示すべきである。

(c)「当期利益及び包括利益計算書」は、小計として当期利益を含み、末尾を包括利益とする単一の計算書とする(修正単一計算書アプローチ)。スタッフからは、このほか、当期利益を小計として設けず末尾を包括利益とする方式(純粋単一計算書アプローチ)及び伝統的な損益計算書とその他の包括利益計算書の2つに分ける方式(2計算書アプローチ)も示されたが、大多数(19名)が修正単一計算書アプローチを支持した。

(d)比較財務諸表は、2年間を示すことを最低限の表示として求める(賛成17反対4)。具体的には、3つの財政状況表(前期首、前期末及び当期末)及び2つ(前期及び当期)のフロー計算書(当期利益及び包括利益、資本変動及びキャッシュ・フロー)が示されることになる。なお、現行IFRSでは、2期の財務諸表の開示が求められており、米国では、2期の貸借対照表と3期の損益計算書及びキャッシュ・フロー計算書の開示が求められている。2年間の最低限の比較財務諸表の表示に加えて、企業は、任意にさらに追加して比較財務諸表を表示することができる。ただし、その場合にどのように表示すべきかに関するガイダンスは示さない。

(e)FASBの業績報告プロジェクトでは、当初中間財務諸表及び財務諸表の注記についても取扱うこととしていたが、IASBのプロジェクトでは、この点は明確にされていなかった。この点が議論され、中間財務諸表については、IASBはプロジェクトの対象外とするが、FASBは業績報告プロジェクトの結果が中間財務諸表に及ぼす影響を別途検討する。また、財務諸表の注記については、リサーチプロジェクトとして、別途カナダの会計基準設定主体が開示フレームワークに関するプロジェクトを、さらにニュージーランドの会計基準設定主体が経営者による説明(Management Commentary)プロジェクトを進めており、これらとの関係があることから、業績報告プロジェクトの対象外とする。

(f)セグメントAで取扱う内容は、次の3点に絞る。また、キャッシュ・フロー計算書における直接法の導入に関する議論は、業績報告プロジェクトに関するワーキンググループとしてIASB及びFASBの関係者を含めて組成された「合同国際グループ(Joint International Group)」で直ちに取上げることに関する懐疑的意見が多かったことも踏まえて、セグメントBで議論する。

  • 「1組の財務諸表」の定義
  • 「当期利益及び包括利益計算書」の導入
  • 比較財務諸表の表示年数の明確化(最低限2年間の1組の財務諸表)

(g)セグメントAに関する公表物は、その内容がIASBとFASBの基準の短期統合化プロジェクトと同じように位置づけられることから、ディスカッション・ペーパーとして公表するのではなく、公開草案として公表する。公開草案は、両者で同一のものとするが、IASBではIAS第1号(財務諸表の表示)の改訂という体裁をとり、FASBでは新たな財務会計基準書の設定という形を取る(FASBには、IAS第1号のように財務諸表の表示に関する基準書がないため)。また、公開草案の公開期間は、120日とする。

(2)セグメントB

セグメントBでは、当期利益とその他包括利益の間でのリサイクリングという概念に価値があるかどうかの検討等より根本的な問題を検討することとなっている。今回、スタッフが用意した質問に基づいて、次の点について両ボードの合意が形成された。

(a)セグメントA及びBを通じて、すべての企業に適用される単一の基準を作成する。ただし、FASBの基準では、非営利組織は対象範囲外とする(FASBは、非営利組織に対する会計基準を設定する権限を有してない)。

(b)当初は、金融機関を除くすべての営利企業向けの財務諸表の表示に関する基準を開発し、その後で当該基準の金融機関への適用問題を検討する。

(c)JIGの中に金融機関の業績報告のあり方を検討するサブグループを組織する(当該グループは、金融商品及び保険会計の議論のために設けられているワーキンググループ等のメンバーを中心に構成される見通し)。

(d)2004年4月に暫定的に決定したセグメントBの検討事項に、キャッシュ・フロー計算書における直接法の導入に関する議論(当初セグメントAとされていた事項)を追加する。

6.米国会計基準との短期統合化(法人所得税)

今回、合同会議で議論されたのは、法人税の期間内配分に関する論点であった。具体的には、1. 期間内配分に関するFASBのガイダンスをIAS第12号に取り入れるかどうか及び2. 直接資本の部で認識される項目に係るSFAS第109号とIAS第12号との差異をどのように解消するかが議論された。

(1)期間内配分に関するガイダンスの導入

IAS第12号には、経常的活動から生じる損益に関連する税金費用を損益計算書上で区分表示することを求める規定(第77項)があるが、その具体的な方法は示されていない。一方、SFAS第109号には、法人税の期間内配分に関する規定及びガイダンス(第35項から第38項及び第273項から第278項)がある。議論の結果、SFAS第109号の規定と同様な規定をIAS第12号に導入することが暫定的に合意された。

(2)直接資本の部で認識される項目に係る当期税金及び繰延税金の取扱い

直接資本の部で認識される項目に係る当期税金及び繰延税金は、1. IAS第12号では、当初認識時に生じる当期税金及び繰延税金のみならず、当初認識以降に生じる当期税金及び繰延税金の変動も資本の部で認識することとされている。一方、2. SFAS第109号では、当初認識時には資本の部で認識することとされているが、それ以降の変動は、「継続事業からの損益」に含めることとされている。このように、当初認識以降の当期税金及び繰延税金の変動の取扱いが両者で異なっている。ここでの議論の焦点は、この差異をどのように解消するかであった。

議論の結果、IAS第12号第61項等の取扱いを改訂し、SFAS第109号の取扱いに統合することが暫定的に合意された。すなわち、IAS第12号では、直接資本の部で認識される項目に係る当期税金及び繰延税金は、それが異なる期に関連するものであっても、すべて資本の部で認識することとされているが、これを改訂して、直接資本の部で認識される項目に係る当期税金及び繰延税金は、当初認識時には資本の部で認識するが、それ以降の変動は「継続事業からの損益」に含めるという会計処理を採用することが暫定的に合意された。

(3)業績報告書での表示

法人税を業績報告書上においてどのように表示するか(法人税の期間内配分)に関しては、業績報告プロジェクトのセグメントBで検討することが暫定的に合意された。

7.金融商品会計基準の今後のあり方

IASBとFASBの金融商品に関する会計基準の短期的及び中長期的な統合化のため、どのような方向で統合化を進めていくべきかについて議論が行われた。ここでの議論では、今後金融商品に関するプロジェクトを共同プロジェクトとして進めていくという前提が置かれている。また、このような議論が行われる背景には、現行の金融商品会計基準は大変複雑であり、多くのルールが設定されていて、会計基準を貫く原則をより明確化することで、これらを改善・簡素化する必要があるという認識がある。さらに、短期的な統合化を取り進めるとしても、中長期的にどのような方向で議論を行うかが明確でなければ、短期統合化プロジェクトで取上げる項目も決定できないという認識がある。また、多くのボードメンバーは、混合測定属性モデル(mixed attribute model)を採用し続ける以上会計基準の複雑さを大きく低減することは困難であると考えている(混合測定属性モデルとは、償却原価や公正価値等複数の測定属性による測定が認められている現在の金融商品会計基準のあり方を指している)。

(1)4つの提案

今回の議論に当たって、スタッフから次の4つの代替案の提示があり、このうち最初の2つの代替案の可能性を今後検討していくことが暫定的に合意された。

  1. 金融商品会計基準の根本的な見直しを行う。この代替案の下では、金融商品のすべてを公正価値で測定する(全面公正価値測定)方向での検討が行われる。
  2. 包括的な測定フレームワーク(ただし全面公正価値測定ではない)を持つモデルを用いることによって、金融商品の測定に関する混合測定属性モデルの改善を図る。
  3. 認識の中止といったような金融商品会計基準の独立した重要な分野を識別し、その分野の改善と簡素化を図る。
  4. 金融商品会計基準の簡素化と改善を図ることを主眼とし、その副産物の1つとして統合化を達成する。ここで取上げるべき項目としては、満期保有目的投資区分の廃止、金融資産の減損に関する基準の改善等が考えられる。

議論の中では、多くのメンバーが、公正価値を用いた単一の測定属性モデル(上記(a)の代替案)の方が、混合測定属性モデルに比べて、財務報告を改善し、金融商品会計基準を大幅に簡素化することになるという見解を表明したが、近い将来そのような基準を作ることができるかどうかに関しては意見が分かれた。また、混合測定属性モデルの下で、現在の両者の会計基準の間の差異の統合化を図ることは、努力と費やす資源に比べて得られる改善が見合わないという点についても多くのメンバーが同意した。

(2)今後の対応

これらの議論の結果、当面次のように取り進めることが暫定的に合意された。

  1. 公正価値で測定されている金融商品に関連する次の2つの未解決な問題についての分析を行う。
    • 公正価値の変動の損益計算書での表示(公正価値で測定しその変動を損益計算書で認識する金融商品に係る金利、為替レートの変動等をどのように表示するか)
    • 金融商品の範囲と測定に関する問題(金融商品とそれに類似する契約との区分及び当該区分が異なる会計処理を適用することの適切性を担保しているかどうかの検討)
  2. 金融資産の認識の中止に関するリサーチプロジェクトを開始する。このプロジェクトには、最終的には、金融資産のみならず、資産全般の認識の中止まで拡大することが可能かどうかの検討も含まれる。

8.概念フレームワーク

今回は、概念フレームワークの内容に関する議論が行われた。対象とされたのは、財務報告の目的であった。本プロジェクトでは、IASB及びFASBの両者に共通の概念フレームワークを構築することを目的に、各基準に影響を与える「横断的な問題(cross-cutting issues)」に絞って議論が行われることとなっている。

(1)7つの論点

今回スタッフから検討すべき論点として示されたのは、次の7つであった。なお、今回の議論では、下記(d)及び(g)については議論が行われていない。

  1. 財務報告の目的は、現在の普通株主に限定して情報を提供することにあるのか、それよりも範囲の広い利用者を対象とするのか。
  2. 財務報告の役割は、意思決定を支援するのか、過去の取引をまとめることにあるのか。
  3. 会計責任(accountability)又は受託責任(stewardship)の役割は何か。
  4. 財務報告と経営者の視点との間の相互関係とはどのようなものか。
  5. 貸借対照表(又はその他のそれぞれの財務諸表)の目的とは何か、特に、貸借対照表は、支払能力(solvency)の評価に用いられるべきか。
  6. XBRLは一般目的の財務諸表を時代遅れなものとするか。1組の一般目的のパッケージに代えて、異なる利用者に対して異なる財務報告パッケージが提供されるべきか。
  7. 財務報告には、環境又は社会に関する情報を含むべきか。
(2)暫定合意

上記論点について自由に議論が行われた結果、次の点が暫定的に合意された。

  1. 財務報告は、企業の経営者の観点から作成され、現在の普通株主の情報ニーズにのみ対応するのではなく、それよりも範囲の広い利用者に情報を提供することを目的とすべきである。財務報告の主たる利用者は、現在及び将来の投資家及び債権者(及び彼らへのアドバイザー)とすべきである。また、本プロジェクトの後の段階で、財務報告は、特定の利用者(例えば異なるタイプの資本参加者)の情報ニーズに沿う情報を提供すべきかどうかについて検討を行う。
  2. 財務報告の目的は、自らが必要とする情報を入手する権限を持たず、それ故企業の経営者から提供される情報に依拠する以外に手段を持たない外部利用者に対して、企業に関する情報を提供することである。そのため、自らが必要とする情報を入手する権限を持つ経営者や外部の格付機関や金融機関等の特定の外部利用者の情報ニーズは、概念フレームワークの対象範囲には含まれない。
  3. 財務諸表が企業の流動性及び支払能力に関する評価を利用者が行う際に役立つ情報を提供する役割を担うことは、両者の概念フレームワークでも触れられているが、このような評価のための情報提供は、財務報告の主たる目的ではない。外部利用者が経済的な意思決定を行う際に利用できる情報の提供が主たる目的であり、これと整合する範囲で流動性及び支払能力の判断に関する情報は提供される。
  4. 現行の概念フレームワークと同様、一般目的の財務諸表を対象として概念フレームワークの統合を図ることとする。したがって、外部利用者に対する企業に関する一般目的の情報提供が議論の中心となる。しかし、このことは、基準レベルで、異なる利用者の情報ニーズに対して異なる情報を提供することを否定するものではない。

上記のほか、会計責任又は受託責任の役割について議論が行われた。財務報告の目的は、利用者が経済的な意思決定を行う際に利用できる情報の提供(意思決定有用性)であるが、経営者の会計責任又は受託責任を評価することに資するための情報を提供するという目的は、この意思決定有用性目的の中に包含されるサブ概念と考えられる。このため、議論の中では、会計責任又は受託責任に関する言及を削除してもよいのではないかとの意見が出た。そこで、会計責任又は受託責任の意味を明確にし、会計責任又は受託責任を概念フレームワークの中で財務報告の目的として明示することの意義を明確にすることがスタッフに指示された。スタッフの検討結果を待って、会計責任又は受託責任に関する言及を削除するかどうかが今後検討される。

以上
(国際会計基準審議会理事 山田辰己)

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