国際会計基準審議会(IASB)の第15回基準諮問会議(SAC)が、2006年2月27日と28日の両日にわたり、ロンドンで開催された。日本からは、SACメンバーである八木良樹日立製作所株式会社取締役会議長・監査委員長、辻山栄子早稲田大学商学部教授、オブザーバーとして金融庁より式部 透審議官が出席し、金融庁より水谷 剛課長補佐、企業会計基準委員会(ASBJ)より又邊 崇専門研究員が同席した。以下、会議の概要を報告する。
IASBの6つの基準設定過程のうち、議題の設定について説明が行われた。IASBが議題の追加を判断する際、財務報告と規制の環境、緊急性、普遍性、結果を考慮に入れて、各国の利用者のニーズが取り扱われているか否かを検討する。IASBは7月会議で議題の追加を決議する前に、6月のSAC会議でSACと協議を行う。潜在的な議題を新プロジェクトとして採用する議論と決議はIASBの公開会議で行われ、優先順位とともに多数決によって議題が承認される。
中国財政部の王部長助理から、2006年2月15日に中国会計基準はIFRSと統合化したことが説明された。
山田IASB理事から、ASBJとIASBが2005年3月に統合化計画を開始し、2度の会議を経て、第1フェーズがほぼ完了する状況となっており、第3回の会議(2006年3月1日及び2日開催)においては、日本基準とIFRSとの統合化を今後どのように進めるかについて話合いが行われることが説明された(*1)。
【SACメンバーのコメント】
山田IASB理事の説明の後、日本からは以下の意見が述べられた。
何度もこの会議で強調しているように、日本は世界第2位の資本市場を擁しており、非常に高品質な会計基準を既に持ち、順調に機能させている。しかし世界の会計基準のコンバージェンスが達成されていくことは非常に歓迎すべきことであり、ASBJもIASBとのコンバージェンス・プロジェクトをより一層加速させて、世界の潮流に遅れないよう努力を重ねることで意見が一致している。ただし、我々はコンバージェンスそのものを目的としているわけではない。市場が納得するより良い基準へのコンバージェンスでなければ意味がないと考えている。会計基準のコンバージェンスの必要性に対する世界の意見は一致しているのだから、これからは、コンバージェンスに関する意思確認だけではなく、基準の中身に関する議論がますます重要になってくると思う。(辻山SAC委員)
SEC登録企業であるカナダの公開企業は、カナダ会計基準の代わりに、米国会計基準を用いることが既に認められている。
O’Malley IASB理事から、2006年1月の会議で、カナダ会計基準審議会(AcSB)が、2005年3月に公表したディスカッション・ペーパー「戦略計画案」(*2)に対するコメントを検討した結果、公開企業はIFRSを適用し、カナダ会計基準は公開企業の財務報告の基礎としては廃止される結論となったことが説明された。2006年6月末までに包括的計画が完成された後、2011年からの適用が開始される。
Engstrom IASB理事から、メキシコではIFRSを採用する(adopt)のではなく、IFRSに適応する(adapt)こと、チリでは今後3年間でのIFRSの採用が推奨されていることが説明された。さらに、アルゼンチンの状況については、SACメンバーのEstruga氏から、2005年末に国内における1つのセットの会計基準に統合する過程を完了することでIFRSに適応させており、公開企業については、IFRSを採用するための過程が開始されていることが説明された。
Tweedie IASB議長から、IASBとFASBとの統合化について説明が行われた。なお、SAC会議の開催された当日(2006年2月27日)に、両審議会は、世界の資本市場で用いられる高品質で共通の会計基準を開発する目的を再確認したMOU (Memorandum of Understanding) を公表している。MOUは、IFRSを用いて米国SECに登録している米国以外の企業について差異調整表の廃止のための「ロードマップ」(*3)と、欧州証券規制当局委員会(CESR)が会計基準を改善する分野を識別するために着手した作業を反映している。
基準の統合化がIFRSの適用(adoption)と適応(adaptation)のいずれを意味するかが問題とされ、「統合化の意味によってはIFRSが毀損する可能性がある。」とのSACメンバー(英国会計士)の指摘に対し、Tweedie IASB議長は、「例えばメキシコのようにIFRSに適応した基準は、国際会計基準ではない。」と述べた。
中国の発言を受けて、Tweedie IASB議長は、中国が主要な原則をIFRSと統合し、適用指針が基準を補足すること、未解決の分野が関連当事者取引であることを説明した。
IASB及びFASBは、企業結合フェーズ2プロジェクトとして、「企業結合」公開草案、「連結財務諸表(子会社における非支配持分の会計処理及び報告を含む)」公開草案(FASB)及びIAS第27号「連結及び個別財務諸表」修正案(IASB)を公表した。コメント期限は2005年10月28日に終了し、「企業結合」公開草案について282通、FASBの「連結財務諸表」公開草案について49通、IASBのIAS第27号修正案について95通のコメント・レターが寄せられた。その後、両審議会は、ノーウォークとロンドンで5回の円卓会議を開催し、コメント回答者のうち約50名が参加した。両審議会による再審議は約1年を予定しており、2007年の前半までは企業結合及び非支配持分の最終基準を公表する予定はないとされている。
赤・黄・青グループに分かれてブレークアウト・セッションが行われた。
このグループの参加者は、アジェンダ・ペーパーが明確でないため困惑し、全部のれん方式、段階取得の問題は別にして議論したところ、明確な回答を出すことができなかったことが報告された。
のれんを除いた物的資産については、公正価値で測定されることが同意された。しかし、大多数のSACメンバーは、主として支配プレミアムを算定することが困難であるという理由で全部のれん方式に反対しており、IASBメンバーからのれんとその他の資産との取扱いが整合しないと反論されたものの、現行のIFRS第3号(購入のれん方式)を支持していることが報告された。1人のSACメンバー(米国アナリスト)からは、既存の普通株主の観点から全部のれん方式を支持しており、公開草案の提案によって利用者に有用な情報が提供されるとの意見が述べられた。また、のれんの減損テストの際、のれんの75%のみが計上されている場合に、100%のキャッシュ・フローによってのれんをどのように減損するのか、このグループに参加したIASBメンバーから購入のれん方式に対する疑問が呈されたことも報告された。
取得関連コストを取得原価に含めるか否かについて、企業結合と企業結合以外で整合的(consistent)に取り扱われるべきか否かが議論された。取得関連コストの会計処理に関する基準間での整合性が必要であるとされ、大多数のSACメンバーは、取得関連コストを取得原価に含めれば恣意性を排除できる等の理由によって、現行の規定を保持することに賛成したことが報告された。
各グループからの報告の後、SACメンバーから、「SACメンバーは、企業結合の提案の重要な懸念がどこにあるのかを理解する必要があり、コメント分析は経済界の考えを概観する上で役立つものと考えるが、今回のスタッフによるプレゼンテーションでは、コメントレター数の分析のみが報告され、やや期待はずれであった。」(ドイツ会計士)、「SACメンバーとして議論する上で、親会社説と経済的単一体説に関するボードの立場を知ることは重要である。ボードではどのようにして合意が得られたのか。」(インド作成者)との意見が述べられた。これに対して、IASBボードメンバーからは、「ボードが親会社説と経済的単一体説に関して議論するには、親会社説が何を意味するのかをよく理解したいと考えている。古い親会社説では、資産と負債の親会社持分だけを反映させて少数株主持分を認識しないため問題があった。一方、新しい親会社説は実務の集約であるように思われるが、それは同じものではない。コメントレターはすべて同じ親会社説を支持しているわけではない。」、「企業結合フェーズ2における全部のれん方式には反対しており、のれんは資産ではなく、残存額である。」と様々な意見が述べられた。
IASBと米国財務会計基準基準審議会(FASB)の基本的な結論は、資産が概念上最重要であり、その次が負債であるいうものである。私がこれを貸借対照表アプローチであると言ったことがないのは、自明の理であると考えるからである。概念上優先されるのは、資産・負債という現実のもの(real thing)である。損益計算書アプローチがあり得るのかという質問に対する明確な回答は「NO」である。資産・負債を参照せずに収益・費用・利得・損失を定義付けない限り、損益計算書アプローチなどあり得ない。純資産の変動により純利益を測定することは、困難な会計上の問題を解決するためのアンカーを提供する。原則主義による基準に関する米国証券取引委員会(SEC)の研究によると、損益計算書アプローチは不適切であり、FASBは貸借対照表アプローチを維持すべきとされている。
山SAC委員から、「収益・費用が配分の結果であるという見解には同意するが、同時に資産・負債の変動は評価の結果である。資産・負債の定義が収益・費用の認識の十分条件になり得るのだろうか。概念フレームワークの機能とは一体何だろうか。定義と認識・測定の規準は全く別に決まるというなら、定義は認識・測定の必要条件を示しているに過ぎないのではないか。それなのに、定義に即して認識・測定が決まるという主張が後から現れる懸念がある。」と発言があったのに対して、Leisenring氏は、「今回のプレゼンテーションは、測定の問題ではなく構成要素に焦点を当てている。資産の変動が利益かどうかは部分的な問題であると考える。また、概念フレームワークの機能の第1段階は構成要素であり、順番に測定、開示が議論される。」と説明した。
また他のSACメンバー(フランスAMF(金融市場機構))から、「フレームワークにおいて資産が最重要でその次が負債であるという点に関して困惑しており、なぜ資産と負債との間に違いがあるのか理解できない。」と発言があったのに対して、Leisenring氏は、「負債は収益・費用を作り出すが、負債は、資産の流出という観点から定義されているため、資産が最重要とされる。」と説明した。
IASBとFASBは、財務諸表の構成要素、認識、測定属性の検討を含むフェーズの議論を開始しており、資産の定義を検討している。資産の定義を満たすものが必ずしも財務諸表上も認識されることを意味しないとされる。
両審議会は、作業中の資産の定義(*4)を議論している。
企業の資産とは、
である。
資産の定義に関する質問についてブレークアウト・セッションが行われた。
(1)各グループからの報告
質問1について、黄グループでは、「特権」が何を意味するのか、「特権」と「権利」に相違があるのか、「特権」から経済的便益を得られるのかについて議論された。「支配」の概念の方が扱いやすく慣れ親しんでいるため、「特権」によって良い説明が行えるとは考えられないとの意見が述べられた。青グループでは、「資源」は有用な用語であること、「支配」については見解が分かれたとされた。赤グループでは、大多数が新しい定義には満足しているが、「特権」は広い概念であり、将来の売上を含むかもしれないことを懸念し、定義を厳格にする必要があると考える者もいたとされた。
質問2に対する黄グループの回答は「NO」であり、資産の定義には、経済的便益の蓋然性の概念を含めるべきであると報告された。土地だけを保有している場合を例に挙げて、「probable」よりも「capable」の方がより広い概念であり、注意が必要であるとの意見が述べられた。一方、青グループ・赤グループでは、蓋然性の概念が不要であることが同意された。
黄グループの報告者(フランス作成者)の発言に関して、このグループの議論に参加していたIASBボードメンバーから、「このグループの質問2への回答は「YES」であり、現在の権利及び特権が求められることを前提として、probableを含める必要がない。」との意見が述べられた。また、このグループに参加していたIASBスタッフも、「結論はcapableという用語が好ましいことである。」と述べた。
質問3について、いずれのグループも「過去の事象」の概念は冗長であるとした。ただし、この概念を削除する場合には混乱を避ける必要があるとされ、将来の売上に対する特権は、「過去の事象」がなければ排除されないため、広い範囲の資産を持つというリスクがあることが懸念された。また、自己創設のれんは「過去の事象」を特定しないかもしれないが、資産の特徴を有していることから、「過去の事象」が必要であるという意見もあったとされた。
黄グループでは、質問4について、「特権」という用語を用いることが改善にはならないとされた。青グループでは、質問4については限定的「YES」であり、特権については厳しくする必要があるとされた。赤グループでは、質問4と5について、「資源」を資産の定義に含めるとのれんを除外することになること、将来の売上に対する特権は資産ではないという意見が紹介された。さらに、赤グループの多数が今回の資産の定義にのれんが含まれると考えていることが報告された。
(2)全体での議論
各グループからの報告の後、SACメンバー(ドイツ会計士)から「提案されている資産の定義において、のれんをとらえるには問題がある。のれんは現在の権利や資源なのか疑問である。」と発言されたのに対して、IASBボードメンバーは「100百万で子会社を買う場合、識別可能資産が90百万であればのれんは10百万で計上され、子会社は100百万で計上される。」と回答した。「のれんを独立した資産としては言及せずに子会社との関連で説明したことは興味深い。」とのSACメンバーの発言に対して、IASBボードメンバーは「FASB基準書141号と142号の議論では、のれんが明確に資産の定義を満たすとされている。」と説明した。
資産の定義に関するコメント
上記の意見に対してIASBボードメンバーは「認識の問題は別途扱うので、定義の問題と混同すべきではない。」と回答した。
上記に対してIASBボードメンバーは「定義は必要条件を示しているが、ひとたび認識要件が決まれば、この定義自体が十分条件も示していることになる。」と回答した。
以上