第20回会議

国際会計基準審議会(IASB)の第20回基準諮問会議(SAC)が、2007年11月8日と9日の両日にわたり、ロンドンで開催された。日本からは、SACメンバーである八木良樹株式会社日立製作所取締役・監査委員長、辻山栄子早稲田大学商学部教授、オブザーバーとして金融庁より今西恭子企業会計専門官が出席し、企業会計基準委員会(ASBJ)より堀本敏博専門研究員が同席した。以下、会議の概要を報告する。

Ⅰ.評議員会の動向

SAC会議の開催に当たり、国際会計基準委員会財団(IASC財団)の評議員会議長のPhil Laskawy氏から最近の評議員会の動向等について、以下の説明があった。

  • 評議員会の目標は、IASBの監視機能を最も効率よく成し遂げるとともに、高品質な会計基準の開発に向けて、IASBを最も効率の良い組織にすること、SACに関してはIASBに助言するという重要な役割を担ってもらうことである。
  • IASC財団が2007年10月18日にプレス発表を行ったように、2008年1月から3年の任期でオランダ元財務大臣・副首相のGerrit Zalm氏を次期評議員会議長に選出した。
  • 2007年10月31日及び11月1日にニューヨークで開催した評議員会の会合において、2008年以降の定款の見直しに備えて、ガバナンスの強化及び一般への説明責任の強化に関し、以下の提案を行うことを決定した。
    1. 証券規制当局を含む公的機関(*1)への正式な報告システムを確立する。この公的機関は、評議員の指名、予算及び毎年の資金調達の適切性も含めた評議員会によるIASBの監視活動のレビューを行う。
    2. 評議員会は主要な利害関係者との関係を強化し、正式なルートとは別に多くの意見を吸い上げる仕組みを開発する。この仕組みには、公的機関、政策立案者、民間セクターの代表との会合のみならず、IASC財団やIASBの政策、方針、手続等に関心のある利害関係者からのインプットの仕組みも含むものとする。
    3. 資金調達の基盤は既にかなり拡充してきたが、評議員会は更にこの基盤を拡大する努力を継続する。

SACメンバーからのコメント

  • 評議員会に規制当局を含むモニタリング機関が設置されると、IASBの独立性は今までどおり保つことができるのか懸念する。(独会計士)
  • IASBの独立性と政治的見解は二律背反するのではないか。高品質の会計基準を開発するためには、透明性を確保するとともに政治的圧力に屈することのないよう、定款見直しに当たっては細心の注意を払っていただきたい。(イスラエル会計士)
  • 評議員会とモニタリング・グループの役割であるが、実務としてモニタリング・グループはどのように評議員会によるIASBの監視活動をレビューするのか疑問である。(伊会計士)
  • 今回のアジェンダ・ペーパーの至るところに明確に示されているように、IASBは当期純利益の廃止を長期的な目標にしている。このような方向性には合理性もニーズも認められない。したがって、このようなIASBの挑戦を同じように受け入れるわけにはいかない。(辻山SAC委員)

Ⅱ.IASBの作業計画

Jones IASB副議長及びIASBディレクターから、IASBの戦略的目標、作業計画等について説明が行われた。

  • IASBでは現在以下の3点を戦略的目標としている。
    1.更に多くの国が各国の会計基準から国際財務報告基準(IFRS)へ切り替えることの奨励
    2.IFRSと米国会計基準とのコンバージェンス
    3.中小企業向け会計基準の完成
  • 1.について、2006年以降多くの国がIFRSの採用に動いている。カナダは2011年にIFRSに移行することを表明し、ブラジルは2010年までに、インド、韓国及び日本は2011年までにはコンバージェンスを図る予定である。2008年にはイスラエルが、2009年には中国がIFRSに移行する予定である。現在108の国でIFRSの使用が許容又は要求されているが、今後5年間でこの数は150か国に達すると予測する。
  • 2.について、外国登録企業(FPI)のIFRSに基づく財務報告に対して、差異調整表の作成を廃止することがIASBにとっての大きな目標であったが、2007年7月上旬に米国SECはFPIがIASBの作成した完全版IFRSを用いる場合、差異調整表を廃止する規制改正案を公(*2)、また同年8月上旬にSECは米国内の登録企業がIFRSに基づく財務諸表の作成を認めるかを問うコンセプト・リリースを公表した。
  • 3.について、IASBは2007年2月中旬に公開草案を公表し、同年11月30日を期限にコメントを募集した。この間に約100社の中小企業がフィールド・テストに参加しており、2008年にフィールド・テストの結果及び公開草案に対するコメントを検討し、2008年末までに中小企業向け会計基準を公表することを目標としている。

SACメンバーからのコメント

  • 日本の会計基準設定主体であるASBJは、会計基準の国際的なコンバージェンスに注力しているが、2007年8月、ASBJはIASBとの協議に基づき、いわゆる「東京合意」、すなわち会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意を公表した。(八木SAC委員)
    • - この合意の1つ目の目標はASBJ及びIASB双方において認識されている日本基準とIFRSとの既存の差異の解消の加速化である。具体的には短期コンバージェンス・プロジェクトとして、2008年完了を目標に、2005年7月に欧州証券規制当局委員会(CESR)が、日本基準に基づく財務諸表に対して補正措置を提案している項目について、差異を解消するか会計基準が代替可能となるような結論を得るとしている。
    • - 2つ目の目標は、この短期コンバージェンス・プロジェクトに含まれない残りの既存の差異については2011年6月30日までにコンバージェンスを達成することである。3つ目としては、現在、IASBと米国財務会計基準審議会(FASB)との間でコンバージェンスが進められつつある、MOU(覚書)に示されている11項目のような新たな会計基準については、2011年6月30日以後に適用となる場合には、その適用時期までに日本において当該会計基準が受け入れられるようにASBJとIASBは緊密に作業を行うこととしている。
    • -「東京合意」は、会計基準の国際的なコンバージェンスに大きく貢献すると認識し、日本経団連企業会計部会として東京合意への強い支持を公式表明した。日本におけるコンバージェンスの加速化についてのご理解をいただきたい。

Ⅲ.財務諸表の表示

IASBスタッフから、2008年6月のディスカッション・ペーパーの公表に向け、IASBとFASBの共同プロジェクトとして現在検討している財務諸表の表示様式(予備的見解モデル)、及び包括利益計算書の表示形式に係る当面の取扱いと長期的な目標の代替案等について説明が行われた。

(1) 予備的見解モデルの概要

IASBとFASBの両審議会は作業原則のうち一体性の原則を支配原則とすることに合意しているが、これらの原則に基づき、現在スタッフが検討している作業様式は次のとおり(事業、廃止事業、財務、法人所得税、所有者持分のセクションを設け、事業セクション・財務セクションを更に複数のカテゴリーに分類)。

財政状態計算書 包括利益計算書 キャッシュ・フロー計算書
事業
営業資産及び負債
投資資産及び負債
事業
営業収益及び費用
投資収益及び費用
事業
営業キャッシュ・フロー
投資キャッシュ・フロー
廃止事業 廃止事業 廃止事業
財務
財務資産
財務負債
財務
財務収益
財務費用
財務
財務資産キャッシュ・フロー
財務負債キャッシュ・フロー
法人所得税 法人所得税 法人所得税
所有者持分 所有者持分変動計算書 所有者持分

(注)両審議会は、2007年11月のSAC会議開催時点では、セクション又はカテゴリーの表示順序をまだ検討していないほか、セクション又はカテゴリーの名称も最終的なものではない。

  • 両審議会は、財務諸表の表示・区分の選択においてマネジメント・アプローチを採用することを支持しており、企業は、経営者が自らの事業をどのように見ているかを踏まえて、資産及び負債を営業、投資及び財務の各カテゴリーに区分する。

(2) 包括利益計算書の表示形式に係る代替案

[当面の取扱い(代替案1及び2)]

(代替案1)

  • その他の包括利益(OCI)項目を当該事象又は取引が関連する機能別のセクション又はカテゴリーの中に表示し、当該セクション又はカテゴリーの中で必要に応じてリサイクリングを行う。OCI項目が含まれる各セクション又はカテゴリーでは、OCI項目を表示するサブ・カテゴリーを設けて、OCI項目とOCI以外の項目を区別する。

(代替案2)

  • OCI項目を独立したセクションとして表示する(すなわち、事業、財務、法人所得税、廃止事業の各セクションと同じレベルで表示する)。リサイクリングされるOCI項目は、セクション及びカテゴリーをまたぐ形でリサイクリングされる。OCIセクションには、営業、投資、財務の各カテゴリーが設けられる。
[長期的な目標(代替案3及び4)]

(代替案3)

  • 包括利益計算書は、機能別の活動(事業や財務)に基づくセクションではなく、短期と長期(又はトレーディングと非トレーディングなど)という、項目の性質に応じた2つのセクションにまず区分される。その上で、短期及び長期セクションは、それぞれ、他の代替案と同様に機能別のセクション及びカテゴリー(営業、投資、財務など)に区分される。短期資産・負債の変動は短期セクションに、長期資産・負債の変動は長期セクションに区分される。この場合、多くのOCI項目(売却可能金融資産の公正価値変動、退職年金の数理計算上の差異、有形固定資産の再評価損益など)は、長期セクションに区分されると考えられている。

(代替案4)

  • 代替案1と似ているが、(両審議会の長期的な目標と整合的な形で)リサイクリングの概念はなく、すべての変動は1つの機能別のカテゴリーに区分される(従来のOCI項目に係るサブ・カテゴリーは設けられない)。

SACメンバーのコメント

  • 財務諸表にどのような情報を表示するかを決定するに当たり、一体性を支配原則とすることには、必ずしも反対しない。ただし、財務諸表の表示形式を決定するに当たり、最優先されるべき原則は、投資家の意思決定にとっての有用性であるということに留意する必要がある。そのために役立つ限りにおいて一体性が重視されるのは問題ないが、一体性を重視するあまり、意思決定有用性が犠牲になる結果を招くことは避けなければならない。(辻山SAC委員)
  • 損益計算書の表示の抜本的な変更には反対である。仮に当面の取扱いを選ぶにしても、少なくとも作成者は安定的な運用を望むのは明らかであり、長く運用すべきである。当面の取扱いと長期的な目標で分けて考えるのではなく、変更は1度だけにすべきと考える。また、仮に当面の取扱いを決定しても、これがベストではなく真に望ましい表示形式はほかにあるという話になると、IASBの評判の問題にもつながるのではないか。(伊会計士)
  • 包括利益計算書の表示形式において、当面の取扱いで代替案1又は2を選ぶというのは非常に危険だと思う。現時点で代替案1又は2を選ぶというのは、長期的な目標として代替案3又は4が望ましい場合であり、長期的な目標が現行のものより望ましいとは思えないので、当面の取扱い、長期的な目標のいずれについても代替案を選ぶことはできない。(仏財務諸表作成者)
  • 2005年に設けられたJIG(Joint International Group)における、当期純利益を存続すべしという多くの声をIASBが十分に汲み取っていない懸念がある。これは日本の関係者のみならず欧州の関係者にも共通の強い懸念である。また、2000年9月に開催されたJIG及びFIAG(Financial Institutions Advisory Group)の会議においても、いくつもの懸念が表明されている。また、テスト財務諸表の作成を行った企業から、基本財務諸表やセグメント情報の開示が詳細すぎ、財務諸表作成者の負担が大きいといった意見があったと聞いている。今回のアジェンダ・ペーパーには、テスト財務諸表を作成したことは記載されているが、作成企業からのこのようなフィードバックの内容には触れていない。しかし、このような情報は、重要であり、是非次回のSAC会議においてその分析結果を報告していただきたい。(八木SAC委員)
  • 当面の取扱いに関しては、どちらかというと代替案2を支持する。ただし、法人所得税については、当期純利益項目とOCI項目に配分して、現行どおりの税引後当期純利益を表示する必要があると考える。アジェンダ・ペーパーによると包括利益計算書については、長期的にはリサイクリングをなくして、現行の当期純利益も表示しないことが既に所与とされているようであるが、それはおかしいと思う。アメリカにおける現行の米国財務会計基準書(SFAS)第130号の設定段階における議論、また改訂IAS第1号の設定過程における議論、そして世界のCFOからの反対意見、更に評議員会の会合でも、当期純利益の有用性が繰り返し指摘されている。(辻山SAC委員)

Ⅳ.IASBアジェンダの提案

IASBは毎年新たにアジェンダに追加する項目を検討するが、IASBのボード会議で決定する前に、IASBは提案されたアジェンダと優先順位に関してSACメンバーと協議を行うことになっている。今回は2007年6月のSAC会議に引き続き、(1) 経営者による説明(Management Commentary)、(2)無形資産、(3)共通支配下の取引、及び新たに(4)排出権取引の4つのプロジェクトについて説明があり、優先順位等につきSACメンバーからコメントが述べられた。最後にSACメンバーで議決を取ったところ、新たなアジェンダを追加することへの反対は出席者31名のうち9名、アジェンダを追加する場合の優先順位は1.共通支配下の取引、2.排出権取引、3.経営者による説明、4.無形資産の順番となった。

SACメンバーからのコメント

  • 企業結合プロジェクトが間もなく終了することから、新たなアジェンダを追加すべきである。環境問題が世界中で非常に重要性を増してくるとともに、排出権取引が拡大していることから、排出権取引につき対象範囲を拡大して取り扱うべきと考える。(インド会計士)
  • IASBの資源を考慮するなら、ある特定のプロジェクトにフォーカスして、現行のアジェンダをいったん取り下げることも検討してはどうか。4つの中でどれを取り上げるかについては、企業の財務報告に将来何が重要になるかを考えると、経営者による説明(MC)が最も重要な項目と考える。無形資産については、概念的問題が数多くあり、概念フレームワークの議論が終わるまで待ってはどうか。(独会計士)
  • 排出権取引が重要なのは分かるが、これはすべての企業を対象にはしていない。より多くの企業に影響を与える問題として共通支配下の取引が重要と考える。なぜなら、共通支配下の取引は、現行の会計基準や概念フレームワークでは参考にはならず、基準が設定されないと、各国で多様な処理が行われてしまうからである。(伊会計士)
  • 共通支配下の取引については、米国企業には非常に多くの関係取引があるが、米国の会計基準ではガイダンスは断片的に多くの基準に散在する状況なので、改善する必要が高いと考える。(米国SEC代表)
  • 対価を支払って獲得した無形資産の測定を精緻化することを検討するのであれば、アジェンダに加えることに同意する。ただしこのプロジェクトは、対価を支払わない無形資産、つまり自己創設のれんをオンバランスすることをも検討対象にしているのではないという点について、再確認させてほしい。もしそうであるなら、会計上の大パラダイムシフトを招くことになるからだ。(辻山SAC委員)
    → 対価を支払わない無形資産については対象とはしていない。(IASBディレクター)

Ⅴ.公正価値測定

公正価値測定に関するディスカッション・ペーパーは、2006年11月に公表され、2007年5月にコメントが締め切られたが、この間136通のコメントがIASBに寄せられた。事前にアジェンダ・ペーパーとしてコメント・レターの要約がSACメンバーに提示されるとともに、議論を活性化するために下記3つの「誤解(Myth)」が提示された。この3つの「誤解」を題材として、SACメンバーを3つのグループに分け議論を行った上で、各グループの代表者により各グループの議論の内容について発表が行われた。

3つの誤解 - ブレークアウト・セッションの題材

  • 誤解1:
    公正価値測定プロジェクトは、概念フレームワーク・プロジェクトの測定フェーズの結果を予断して、完全な公正価値会計へ向けて次のステップに進んでしまっている。
  • 誤解2:
    「公正価値」は資産又は負債に関する活発かつ流動性のある市場が存在する場合のみに有効となる仮定の値である。
  • 誤解3:
    市場が存在せず、企業が資産を売却又は負債を移転する意図を有していない場合には、「公正価値」は目的適合的ではない。

SACメンバーからのコメント

  • 審議会が第1の見解と第3の見解は共に誤解だと主張しているのは、それ自体が矛盾している。なぜなら、「公正価値測定の議論は、公正価値測定を広めようとしている」という第1の見解は誤解で、それはあくまでも「公正価値測定の技法を明確にしようとしているにすぎない」という理解が正しいとされている一方で、「企業はその保有目的によって公正価値測定の有用性を判断すべきだ」という第3の見解は誤解で、「保有目的にかかわらず、公正価値測定はより有用な情報を提供する」という理解が正しいと主張しているからだ。つまり審議会が「保有目的にかかわらず、公正価値測定はより有用な情報を提供する」と思っている以上、第1の見解は誤解だとは言えないということになる。(辻山SAC委員)
[グループA]
  • この誤解は多くのコメント・レターで懸念が表明されていることによるが、結論としては、「完全な公正価値会計へ向けて次のステップに進んでいる」というのは、誤った考えである。このプロジェクトの目的は、現行の基準の中で異なった意味で使用されている公正価値の用語の定義を明確化することであり、測定方法を決定するものではない。このプロジェクトで公正価値の定義が決定した後に、概念フレームワーク・プロジェクトで、測定の1つの属性として公正価値が使用されることになるであろう。
[グループB]
  • 実際に誤解であるのは、活発かつ流動性のある市場が存在しない場合、公正価値に意味がないということである。十分に流動性のある市場が存在しなくとも、公正価値は財務諸表の利用者の意思決定に有用な情報を提供できる。重要なのは、質の高いデータを企業が利用できることであり、その公正価値はどのような判断がなされたのか、またどのような前提が置かれているのかについて開示することであり、公正価値は取得原価や再調達原価より、有用な情報を提供するということである。
[グループC]
  • 公正価値の概念は、市場が存在しない場合にも存在し、企業が資産を売却又は負債を移転する意図を有していない場合にも存在することから、この誤解は誤りである。公正価値は、市場参加者が行う仮定に依存するとともに、企業の戦略は市場参加者の考える戦略とは必ずしも一致しないことから、企業が自社の資産及び負債をどのように取り扱うのか(保有するのか売却するのか)開示して説明することが重要となってくる。

Ⅵ.収益認識

IASBスタッフから、2008年第1四半期にデュー・プロセス文書の公表を目指して進めている収益認識プロジェクトにおいて、現在検討中の2つのモデルについて説明が行われた(SACメンバーからのインプットは次回のSAC会議で求める予定)。

2つのモデルの概要

(1)2つのモデルに共通する特徴
  • いずれのモデルにおいても、収益は、ある期間において履行がどれだけ発生したかという個別の評価からというよりも、特定の資産の増加、特定の負債の減少の認識から生じる。換言すれば、認識されるべき収益の金額は、その期間にどれだけ資産と負債が変動したかを考慮することで決定される。
  • いずれのモデルにおいても特定の資産及び負債は、顧客との法的強制力を持つ契約から直接生じる。契約は、残存する未履行の契約上の権利・義務次第で、企業にとっての資産又は負債のどちらにもなり得る。契約において、残存する未履行の権利が残存する未履行の義務を超過する場合、企業にとっての資産(「契約資産」)となる。契約において、残存する未履行の義務が残存する未履行の権利を超過する場合、企業にとっての負債(「契約負債」)となる。
(2) 測定モデル(measurement model)の概要
  • 契約から生じた資産及び負債を評価するために、契約において引き受けられた未履行の権利及び義務は現在出口価格(current exit price)で測定される。これは、市場参加者が、契約上残存する未履行の権利・義務を得る(引き受ける)ために支払う(要求する)であろう価格である。契約は、当初及びそれ以降にこの方法で測定される。
  • このモデルは契約資産・負債に焦点を当てるため、収益は契約資産の増加又は契約負債の減少として定義される。したがって、収益は次の時点で認識される。
    1. 引き受ける権利が引き受ける義務を超えるような契約を企業が得たとき(新たな契約資産をもたらすこととなるため)。
    2. その後に企業が商品又はサービスを顧客に提供することで、契約上の義務を果たすとき(契約資産の増加又は契約負債の減少をもたらすため)。
  • 認識される収益の金額は、契約資産の出口価格の増加又は契約負債の出口価格の減少から算出される。
  • このモデルは資産及び負債の明確な測定に基礎を置くため、測定モデルとして表現される。
(3) 顧客対価モデル(customer consideration model)の概要
  • このモデルにおいて、契約上引き受けられた権利は、顧客によって当初約定された金額(顧客対価と呼ばれる)で測定される。この金額は、契約の中で識別された個々の履行義務に対して、それぞれの履行義務を引き受ける商品又はサービスの販売価格に基づいて配分される。識別された履行義務の金額の全体は、常に当初の顧客対価と等しい。
  • 顧客対価の金額は識別された履行義務に配分されるため、これら履行義務の合計と権利の大きさは当初は等しい。したがって、当初の契約の大きさは通常ゼロである-契約の開始時点では資産も負債も生じない。
  • 契約上の義務の中にある個々の履行義務は、それらの消滅の時期と性質に基づき、当初の時点で認識される。契約上で認識されたそれぞれの履行義務が果たされるに従い、その結果として生じる契約負債の減少や契約資産の増加は、収益の認識をもたらす。
  • このモデルでは、収益は契約負債の減少又は契約資産の増加であり、企業が履行義務を果たすことによってもたらされる。

SACメンバーからのコメント

  • この2つのモデルを決定するに当たって、どちらのモデルの方が将来キャッシュ・フローや収益を予想するのに有用であるか、また費用対効果を考えた場合、どちらの方がより望ましいかという観点から検討してはどうか。(米国投資銀行)
  • 新たなアジェンダを追加することに反対したのは、この収益認識プロジェクトを早く進めていただきたいからである。このプロジェクトは保険等他のプロジェクトにとっても非常に重要であり、進展が遅いことを懸念する。次回の2008年2月のSAC会議では再度アジェンダとして取り上げてほしい。(IAIS代表)
  • 今回の説明にある顧客対価モデルは、2007年7月にPAAinE(*3)から公表されたモデルと非常に似ている。IASBのスタッフは、PAAinEのスタッフとコミュニケーションを続けているのか。(辻山SAC委員)
    → FASBとの共同会議の前に、欧州の基準設定主体と収益認識について議論を行った。

Ⅶ.保険契約

IASBスタッフから、2007年5月に公表されたディスカッション・ペーパー(コメント期限は同年11月16日)に関する論点の説明が行われるとともに、これら論点に関し事前にSACメンバーへ提示した質問を基にSACメンバーからコメントが述べられた。

SACメンバーへの主な質問事項

  1. ディスカッション・ペーパーで提案されている基本的な測定モデルの中の3つのビルディング・ブロック(*4)に関して何かコメントはあるか。
  2. 「現在出口価値(current exit value)」は、これらの3つのビルディング・ブロックを用いる測定において最も良い表現であるか。
  3. 次の事項に関して何かコメントはあるか。
    • 将来保険料と保険契約者の行動
    • 保険契約者有配当権
    • 保険負債の変動の表示
  4. 保険契約者がIFRSの下で自身の保有する保険契約をどのように会計処理するのか(保険契約者の会計)に関して懸念があるか。

SACメンバーからのコメント

  • 3つのビルディング・ブロックの中で議論を呼ぶのはリスク・マージンではないか。リスク・マージンは保険契約のプライシング中でも非明示的な(implicit)ものであり、リスク・マージンについて十分信頼性をもって測定するのは難しいのではないか。(英会計士)
  • 以下の点についてコメントしたい。(IAIS代表)
    1. すべての保険契約を金融商品と同様に会計処理するのは間違いであると思う。例えば、ディスカッション・ペーパーの最初に、保険契約の認識要件は金融商品と整合すべきかという質問があるが、これが大きな問題をもたらしていると思う。
    2. 3つの重要な課題については、保険監督者国際機構としても非常に重要であるが、このほかに、当初認識時の利益(Day-one Gain)認識、及び自己の信用リスクの悪化による負債の評価の切下げは、問題があると考える。特に後者については、負債は受益者に対する法的義務を反映すべきであるのに、自己の信用リスクが悪化したことにより、安く負債を第三者が引き受けることは実際のビジネスの世界ではあり得ないと考える。SACはIASBに対してこのような考えを排除するよう助言することを希望する。
    3. 保険契約の会計基準の開発に苦しんでいるのは出口価値の問題、当初認識時の利益認識の問題等の先陣をきって取り組んでいるからであるが、他の関連するプロジェクトが先に進展することを希望する。
  • バーゼル委員会としてもディスカッション・ペーパーにコメントを準備しているが、保険負債の測定に自己の信用リスクの変動を反映させることには反対である。また、3つのビルディング・ブロックによる現在出口価値の測定アプローチは、現在進行している他の公正価値測定プロジェクトや収益認識プロジェクトと併せて検討すべきと考える。(バーゼル委員会代表)
  • 測定属性として現在出口価値が用いられているが、保険契約から生じる負債が、通常のビジネスにおいて他社へ移転することはほとんどなく、全くの仮定上の取引に基づいており、測定属性として望ましくないのではないか。(独会計士)
  • 保険契約の会計については、大きな論点として、1.保険契約から発生する資産及び負債は完全な金融商品か、2.保険会社の資産及び負債を、リスクをより的確に表すために公正価値で評価した場合に、その期間差額をすべて業績に含めるべきか、という2つの点に少なくとも留意する必要があると思う。(辻山SAC委員)

以上


  1. 本件は、2007年11月7日付けで、日本の金融庁、欧州委員会(EC)、証券監督者国際機構(IOSCO)、米国証券取引委員会(SEC)により、IASC財団の組織の枠組みを強化するための改革として、以下の役割を担う「モニタリング・ボディー」の設立(規制当局で構成)が共同提案された。IASC財団の評議員と定期的に会合を持ち、IASBの作業計画について議論や、レビューをして、コメントする。IASC財団及びIASB議長は、関連当局と対話を持つことが期待される。
    IASC財団の評議員等とともに、IASC財団の評議員候補の選定作業に参画する。さらに評議員候補の最終承認を行う。
    IASBの基準設定プロセスの監督及び資金調達のための評議員による手続をレビューする。
    IASC財団とともに、IASBによる影響度評価(又は費用対効果分析)を更に向上させ客観的な手続を確立するよう取り組んでいく。
  2. 本規制改正案は、2007年11月15日にSECにより承認され、同年11月16日以後終了する事業年度の財務諸表に対して、本件公表の60日後から発効となる。
  3. 欧州における事前の会計活動(Pro-active Accounting Activities in Europe)のことで、欧州財務報告アドバイザリー・グループ(EFRAG)と欧州各国の会計基準設定主体が、会計に関する世界的な論議に、より効率的に意見発信するために、協同で作業することに合意して開始した活動のこと。
  4. 審議会は、保険会社が保険負債を測定するために次の3つのビルディング・ブロックを使用すべきであるという予備的見解に至っている。
    1. 現在の、バイアスのない、確率加重された、将来キャッシュ・フローの見積り
    2. 貨幣の時間価値について将来キャッシュ・フローの見積りを調整する、現在の市場における割引率
    3. 市場参加者がリスク負担に対して要求するマージン(リスク・マージン)及び(もしあれば)その他のサービスに対して要求するマージン(サービス・マージン)の明示的でバイアスのない見積り

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