第21回会議

国際会計基準審議会(IASB)の第21回基準諮問会議(SAC)が、2008年2月14日と15日の両日にわたり、ロンドンで開催された。日本からは、SACメンバーである八木良樹(株)日立製作所取締役・監査委員長、辻山栄子早稲田大学商学学術院教授、オブザーバーとして金融庁より黒澤利武参事官が出席し、金融庁より原寛之課長補佐、企業会計基準委員会(ASBJ)より堀本敏博専門研究員が同席した。以下、会議の概要を報告する。

Ⅰ.評議員会セッション

SAC会議の開催に当たり、国際会計基準委員会財団(IASC財団)の評議員及びIASC財団ディレクターから、今後のIASC財団の取組みについて、「グローバル・スタンダードへの道筋-IASC財団及びIASBの将来像の策定-」と題するプレゼンテーションが行われた。

プレゼンテーションの概要

(1) 戦略レビュー
  • IASC財団の評議員会では、1.10年先を見据えた組織の将来像の策定、2.国際財務報告基準(IFRS)とIASBを取り巻く環境変化の評価、3.2008年7月以降開始する定款見直し討議の更なる活性化の3点を目的とする戦略レビューの作業を2006年末より開始した。
  • IFRSの将来像としては、1.財務報告に関し全世界で承認されるグローバル・スタンダード、2.明瞭かつ明確な原則主義をベースとした基準、3.投資家の効率的な資本配分に資するための財務報告の透明性・比較可能性・首尾一貫性の確保を目指す。
  • これら将来像を達成するための具体的な目標としては、1.独立性の維持及び外部への説明責任の遂行、2.IFRSの真にグローバルな普及、3.IFRSブランドの保護、4.非官僚的・専門的環境の下での効率的な運営の4つを掲げる。
(2)定款の見直し
  • 定款の見直しは遅くとも2008年7月に開始し、2年をかけて行う予定であるが、2008年の後半には関係者のコメントを求める予定である。ただし、モニタリング・グループ(*1)の設置とボード・メンバーの増員の2つの課題については、関係者と、2008年第2四半期に議論を開始し、2008年中に結論を出す予定である。
  • モニタリング・グループは、真にグローバルな利害関係者から構成されるべきであると考える。
  • ボード・メンバーについては、現在の14名を16名に拡大することを検討している。地理的な分布を反映し、例えば、欧州、北米、アジア・オセアニアから各4名ずつ、その他地域に関係なく4名の16名としてはどうか。
(3)IFRSブランド
  • IASBのボード・メンバーから、各国の上場企業が作成する財務諸表がIFRSを参照している旨記載する場合、これまでに生じた
  • IFRSブランドの問題で投資家に誤解を与えないようIASBと証券監督者国際機構(IOSCO)間で最近協議を行った点、その中で、
  • IASBは今後IFRSブランドの問題が生じないようIAS第1号を改訂するよう提案した点、また、IOSCOは投資家に明瞭かつ正確な財務情報の提供を上場企業に要請する文書を最近公表した点について説明があった。

SACメンバーからのコメント

  • IFRSを世界の75%の人間が使用することになれば、もはや独立性を維持するという点に力点を置くのではなく、しっかりとしたガバナンスが必要である。(欧州産業連盟)
  • 戦略レビューについては、多くの論点があり、時間をかける必要があるのではないか。(欧州委員会)
  • モニタリング・グループのメンバー構成はどのようになるのか、また、メンバーの加盟・離脱などについては、明確な規定が必要ではないか。また、政治的な圧力を受けないように配慮することが必要である。(独会計士)

Ⅱ.IASBの議長報告

David Tweedie IASB議長から最近のプロジェクト動向及びコンバージェンスに関する欧米の動向等について以下の説明が行われた。

  • IASBと米国財務会計基準審議会(FASB)間で2006年2月に合意した覚書(MOU)における長期11項目のプロジェクトについては、2008年1月に企業結合に関する基準が公表されたこと、また、無形資産については2008年度のアクティブ・アジェンダ項目に追加しないことに決定したため、今年度は9項目(連結、公正価値測定、財務諸表の表示、収益認識、退職後給付、リース、認識の中止、金融商品、負債と資本の区分)に取り組むこととなった。
  • 連結プロジェクトの関連であるが、最近のサブプライム問題については、証券化商品の関与者(オリジネーターと販売者)のインセンティブ構造の問題、不正、リスク評価、デュー・デリジェンス、商品の複雑性、信用格付機関、透明性等さまざまな要因が指摘されているが、証券化ビークルの連結の問題とも絡むことから優先的に取り組みたい。
  • 公正価値測定プロジェクトについては、公正価値が測定属性の中では適切な情報を提供するものと考える。一方、公正価値に反対する経営者の中には経営者自身が評価する価値を採用してはどうかという意見もあるが、論外である。
  • 米国証券取引委員会(SEC)は、米国企業にIFRSの採用を選択肢として認めることに関する今後の作業計画について、早ければ5月にも3か月単位のスケジュールを提示する見込みである。なお、IASBとFASBはコンバージェンスの作業をどう加速させるかについて、現在検討中である。
  • ヨーロッパでは、IFRSの一部を適用除外(カーブアウト)して使用しているEU版IFRSを見直す方向で検討中であるが、これはSECによる決定が大きな要因と考える。IFRSに複数のバージョンが不要であることは明らかである。

SACメンバーからのコメント

  • IFRSのカーブアウトについては、欧州議会でも議論がなされているが、カーブアウトは欧州委員会では範囲と時期を限定すべきと考える。サブプライム問題については、規制当局やさまざまな機関で議論されているが、サブプライム問題で会計上指摘されている論点について、今後、いつどこで議論が行われるのかIASBに公表してもらえれば有り難い。(欧州委員会)
  • 作成者の立場からのコメントであるが、サブプライム問題において鍵となる情報は、集中リスクについての情報と考える。したがってIFRS第7号の集中リスクの開示は、非常に重要である。情報の有用性の視点からは、会計の観点よりも経営者の視点からみたリスクの観点の方が優れているのではないか。また、会計情報の拡充よりも、コーポレート・ガバナンスの方が重要であると考える。(スイス金融機関)
  • IASBがFASBとの協調関係を強固にしながら、これまで、かなりの実績を上げてきていることについて、改めて敬意を表する。ただし今後は、コンバージェンスの前提となる基準の中身に関する議論が一層重要になってくる。その際、懸念されるのは、一部の人が会計基準を発明してトップダウン式に世界の実務を従わせるようなアプローチである。今後は、フィードバック文書が非常に重要な意味を持ってくると思う。(辻山SAC委員)
  • 公正価値測定のディスカッション・ペーパーに対する関係者の反応について確認したい。(IMF)
    • 多くのコメントが寄せられているが、最も懸念しているのは既存の基準への波及が大きいのではないかという点、出口価値と入口価値の問題、ノン・パフォーマンス・リスクに関するものが重要な論点として挙がっている。(IASBディレクター)

Ⅲ.中小企業向けIFRS

IASBディレクターから現在進めている中小企業向けIFRSのプロジェクトに関して、アジェンダ・ペーパーに基づき、プロジェクトの概要及び今後の予定、公開草案に寄せられたコメント等について説明があり、その後SACメンバーとの間で質疑応答が行われた。

IASBスタッフからの説明

(1)プロジェクトの概要及び今後の予定
  • IASBは、国際的に活動する企業を対象とする会計基準以外に、中小企業向け会計基準を開発することもその活動目的としており、2007年2月に中小企業向けIFRSの公開草案を公表した。コメントの期限は、2007年11月末であり、161のコメントが寄せられた。また、これまで世界20か国115社の中小企業が、フィールド・テストに参加した。
  • 今後、これら寄せられたコメントやテスト結果を分析し、スタッフの提案を2008年4月のボード会議に提示し、最終的には2008年12月末までの基準公表を目指す。
(2)主なコメント・レターの内容
  • 寄せられたコメント・レターの主な内容は以下のとおり。
    1. 完全版IFRSとのクロス・レファレンス(相互参照)を排除し、中小企業向けIFRSは単独の(stand-alone)基準とすべきである。(コメント・レター提出者の約7割)
    2. 完全版IFRSのすべて又は大部分のオプションは中小企業向けIFRSで利用できるようにすべきである。(賛成:反対=2:1)
    3. 連結財務諸表及びキャッシュ・フロー計算書は、より小規模な企業は作成を免除するか、作成すべきかどうかは各国が決定する事項としてはどうか。
    4. のれんやその他無形資産については一定期間内の償却を認めるべき。
    5. 完全版IFRSを使用する企業の子会社が中小企業向けIFRSを適用すべきかにつき明確にすべきである。
    6. 減損については、(ア)使用価値(value in use)を認め、(イ)公正価値や使用価値を算出するに当たって、将来の使用を考慮し、(ウ)のれんの減損テストを簡素化すべきである。
    7. 基準の名称を中小企業(SME)よりもより良い略称に変更すべきである。
    8. 公正価値の使用は、市場の相場価格がある場合、又は不当な費用や煩雑な作業なしに決定できる場合、及びデリバティブ取引のみに制限すべきである。

SACメンバーのコメント

  • IFRSの基準開発に当たって、対象とする企業を上場企業向け、中小企業向け、零細企業向けの3つに分けて基準を開発し、どの規模の企業がどの基準を使用するかは各国の判断に任せてはどうか。(イスラエル会計士)
  • 相互参照には反対である。完全版IFRSを参照するということは、完全版IFRSをすべて読む必要が生じるのではないか。また、コメント・レターの内容を聞いていると、簡素化するのに賛成ということではなく、自分たちが容易にできるよう会計処理をさせてくれといっているように思われる。(伊会計士)
  • フィールド・テストの結果で、ほとんどの企業で中小企業向けIFRS案を実際に適用して問題がなかったとのことだが、ドイツではフィールド・テストにおいて会計士等多くのサポートによって問題がなかったということを理解していただきたい。(独会計士)

Ⅳ.負債と資本の区分

IASBスタッフからプロジェクトの背景及び2008年第1四半期に公表予定(筆者注:2008年2月28日にIASBから公表済み)のディスカッション・ペーパーについて説明があり、その後SACメンバーとの間で質疑応答が行われた。

IASBスタッフからの説明

(1) プロジェクトの背景
  • IASBとFASBはコンバージェンスの約束を確認するMOUを2006年2月に公表したが、2008年に向けての目標の1つとして、IASBは負債と資本の区分に関するデュー・プロセス文書(ディスカッション・ペーパー)を公表することとなっている。
  • 本プロジェクトは修正共同プロジェクトであることから、IASBのディスカッション・ペーパーには、2007年11月にFASBが公表した予備的見解文書「資本の特徴を有する金融商品」にIASBのコメント募集を加えて公表する予定である。
(2)ディスカッション・ペーパーの概要

IASBが公表するコメント募集の主な内容は以下のとおりである。

[関係するIFRSの規定の要約]

IAS第32号「金融商品:表示」は、金融資産、金融負債及び資本性金融商品の区分に関する主なガイダンスを提示している。IAS第32号は、資本性金融商品を、企業の資産からすべての負債を除いた後の残余持分を示す何らかの契約と定義している。そのため、金融商品が資本性金融商品として分類されるか否かは、金融資産と金融負債の定義に依存することになる。

[IAS第32号に関する問題]

IAS第32号に示されている負債と資本の区分から生じる問題には、大きく分けると以下2つがある。

  • IAS第32号の原則をどのように適用すべきか。
  • これら原則の適用は、金融負債と資本性金融商品の特徴を忠実に表現するかどうか。

[FASB予備的見解文書でのアプローチ]

FASBの予備的見解文書は資本と負債を区分するための3つのアプローチ、すなわち、基本的所有アプローチ、所有決済アプローチ、期待結果再評価(REO)アプローチについて詳述している。

[IAS第32号との比較の要約]

IAS第32号の資本性金融商品の定義は、それ自身では成り立たない。すなわち、その定義は、金融資産と金融負債の定義に完全に依存している。言い換えれば、IAS第32号は、金融資産でも金融負債でもない金融商品として資本性金融商品を定義している。対照的に、3つのアプローチはすべて、基本的所有商品の定義を利用する。その定義それ自体で成立し、金融資産と金融負債の定義に依存しない。

SACメンバーからのコメント

  • IASBのディスカッション・ペーパーでは、FASBの予備的見解文書を出発点としてコメント募集を行うとのことだが、FASBの予備的見解文書のコンセプトは米国の法的環境の影響を受けており、注意深く検討する必要があると思う。(独会計士)
  • 資本と負債の区分は、アカデミックな色彩が強く、非常に難しい問題であり、短期間で結論を出すべきではない。アカデミックな裏付けがあることの重要性は否定しないが、理論的に正しいかではなく、実務において理にかなっているかという観点で、時間をかけて再検討することを提案したい。(スイス金融機関)
  • 参考までに日本の現行基準について紹介する。日本の現行基準は、提案されているアプローチの中の基本的所有アプローチに類似している。つまり、資本を直接的に定義する方式を採用している。また、その意味で、FASBの予備的見解文書における見解、特に、負債と資本の区分は、貸借対照表の貸方の区分の問題ではなく、むしろ資本と利益の問題であるという問題意識に全面的に賛成する。ただし、負債に分類された項目は公正価値で評価されることが必然的なことだとは思わない。資産と負債の区分の問題と、負債の評価の問題は区別して検討されるべきである。(辻山SAC委員)

Ⅴ.金融商品

IASBスタッフからプロジェクトの背景及び2008年第1四半期に公表予定(筆者注:2008年3月19日にIASBから公表済み)のディスカッション・ペーパー「金融商品の財務報告における複雑性の低減」について説明があり、その後SACメンバーとの間で質疑応答が行われた。

IASBスタッフからの説明

(1) プロジェクトの背景
  • 2006年4月の共同会議において、IASBとFASBは2008年に金融商品に関するデュー・プロセス文書(ディスカッション・ペーパー)を公表する目標に合意した。
  • ディスカッション・ペーパーの目的は、金融商品の財務報告を改善し単純化するという要求に両ボードはいかに対応すべきかについて関係者に尋ねることである。多くの関係者が、両ボードに原則ベースかつ現行の規定よりあまり複雑でない基準を開発することを要請した。
  • 今回の見直しは、金融商品自体が複雑であることのほかに以下について困難であることから検討されている。
    1. 財務諸表作成者と監査人が、現在の規定を理解し適用すること。
    2. 財務諸表の利用者が、財務諸表の情報を理解し利用すること。
(2)ディスカッション・ペーパーの概要

[セクション1]

  • 主として測定(ヘッジ会計を含む)とそれに関連する問題に取り組んでいるが、表示と開示の重要性についてもいたるところで強調している。
  • 金融商品の測定や関連問題を解決する長期的な解決策として、すべての金融商品に適切な1つの測定手法を使用することを提案している。

[セクション2]

  • 金融商品に関する現行の測定や関連規定が、1つの測定手法を用いるアプローチよりも、より早く改善し単純化することができる実行可能な以下3つの中間的アプローチについて説明している。
    1. 現行の測定規定の改訂(現在の分類カテゴリーの撤廃又は変更)
    2. 現在の測定規定を公正価値測定原則に置き換える。ただし、選択的な特例を認める。
    3. ヘッジ会計の単純化(現在の公正価値ヘッジ会計を他の方法に置き換え、かつ、又は収益報告に関し規律を保ちながら、ヘッジ会計規定を単純化する。)

[セクション3]

  • 金融商品に関する基準の適用範囲となるすべての金融商品に適切となる1つの測定手法を用いる長期的な解決策を説明している。本セクションでは、なぜ公正価値がすべての異なる種類の金融商品に(認識の観点から)適切な情報を提供する唯一の測定属性であると思われるかについて要約している。
  • また、公正価値測定の全般的な規定が長期の目的であることを認めるとともに、公正価値及び公正価値の変動についての表示に関連した懸念や問題点を説明している。
  • 金融商品に公正価値測定が一般的な規定となる前に両ボードが取り組まなければならない論点についても要約している。これらは次のとおりである。
    1. 公正価値変動の影響の表示(分解表示を含む)
    2. 情報の開示
    3. 公正価値の定義及び特定の金融商品の公正価値をいかに測定すべきかについて
    4. 適用範囲と関連論点(金融商品の適切な定義も含む)

SACメンバーからのコメント

  • IASBは代替案を提示してはいるが、長期的解決策を選好しており、既に結論ありきで進めているのではないかと懸念する。(豪金融機関)
  • 公正価値評価の方向性には賛成する。しかし、公正価値評価に当たっては、例えば、流動性リスクなどより広範なリスク要因を考慮しなければならない。仮に公正価値評価により軸足を移すのであれば、より収益に対する影響が大きくなり、その結果、資本への負荷がかかるようになる点にも留意しなければならない。(バーゼル委員会)
  • IASBのミッションは国際的に高品質の会計基準を開発することであるが、今の動きは高品質な方向に向かっていないことを懸念する。また、作成者は安定性を望んでいる。(伊会計士)
  • 「長期的な解決策として『公正価値による単一測定モデル』を想定したような質問は、結論を先取りした誘導的な質問である。もっと中立的な質問に改めるべきだ。」という意見に全面的に賛成である。(辻山SAC委員)

Ⅵ.退職後給付会計

IASBスタッフから2008年第1四半期に公表予定(筆者注:2008年3月27日にIASBから公表済み)の本プロジェクト第1フェーズのディスカッション・ペーパーについて説明があり、その後SACメンバーとの間で質疑応答が行われた。

IASBスタッフからの説明

(1)プロジェクトの背景
  • 本プロジェクトは、2つのフェーズからなり、最終的に年金会計の根本的見直しを図る包括的長期プロジェクトとされている。プロジェクトの第1フェーズは、合理的に短い時間軸の下で、IAS第19号「従業員給付」の限定的な改善を行うことを目的としている。この第1フェーズにおける主要な改善項目は、次のとおりである。
    1. 確定給付制度における保険数理差損益の遅延認識に係る選択肢の削除及び確定給付約定のコストの表示。
    2. 給付約定の新たな分類(拠出ベース約定と確定給付約定)及び拠出ベース約定の新たな測定属性。
  • 第2フェーズは、退職後給付に係る会計の包括的な見直しとなり、FASBと共同で行われる予定である。
(2)ディスカッション・ペーパーの概要

[遅延認識]

  • IAS第19号では、事業主は保険数理差損益を遅延認識するかどうかを選択できる。このことは例えば、企業は年金が積立不足の場合であっても、財政状態計算書において年金資産を認識できるということを意味する。
  • IASBは、保険数理差損益を、それらが発生した期に直ちに認識することを提案する。このことは、財政状態計算書において、積立剰余金は資産、積立不足額は負債としてそれぞれ表示されることを意味する。

[確定給付約定に係るコストの表示]

  • 保険数理差損益を即時認識するという決定を前提として、IASBは確定給付約定に係る費用の構成要素をどのように表示するかについて検討した。
  • IAS第19号では、勤務費用、利息費用及び年金資産の期待運用収益額を当期純損益の中で認識することを求めている。保険数理差計算上の損益は繰り延べられ、償却によって徐々に当期純損益処理されるか、あるいは認識収益費用計算書(包括利益計算書)において直ちに認識されることになる。
  • ディスカッション・ペーパーでは、確定給付約定に係るコストの表示方法について、次の3つのアプローチを中立的に議論する。
    1. アプローチ1
      確定給付債務及び制度資産の価値のすべての変動を、当期純損益の中で認識する。
    2. アプローチ2
      勤務費用及び関連する保険数理差損益のみ当期純損益の中で認識する。その他のすべての保険数理差損益は、支払いを繰り延べることによる結果ととらえ、その他の包括利益として認識する。
    3. アプローチ3
      勤務費用及び関連する保険数理差損益、利息費用、利息収入は当期純損益の中で認識し、その他のすべての変動(すなわち再測定)は当期純損益の外側で認識する。

[給付約定の新たな分類]

  • IAS第19号では、約定は給付建てあるいは拠出建てに分類されるが、給付建て、拠出建てのいずれの特徴も持たない約定や、両方の特徴を併せ持つ約定の取扱いをめぐって、混乱や見解の相違が起こり得る状態であった。
  • ディスカッション・ペーパーでは、拠出金に資産又は指標にリンクしたリターンを加える新たなカテゴリーの約定を創出する。このようなタイプの約定は、「拠出ベース約定」という用語で呼ぶこととし、現在確定拠出約定とされているものすべてを含むとともに、現在は確定給付約定とされているものの一部をも含む。

[拠出ベース約定の測定]

  • IAS第19号の現在の測定方法である予測単位積増方式(PUC)は、拠出ベース約定に対しては適用されない。保証付きの約定については、PUCを用いると、保証の価値が無視されることによって、負債が著しく過少計上されることが起こり得る。株式からのリターンに依拠する約定については、PUCを適用すると、株式に係る期待リターンで予測し、それよりも低い高格付の社債利回りで割り引くことによって、負債が過大計上される結果になる。
  • ディスカッション・ペーパーでは、拠出ベース約定の測定について(保険プロジェクトで用いられているものと似ている)ビルディング・ブロック・アプローチを用いることによって新たな測定属性にたどり着いた。IASBの予備的見解では、企業の拠出ベース約定に係る負債の測定は、以下の特性を織り込むべきであるとしている。
    1. 明示された、バイアスのかかっていない、マーケットと整合的で、加重平均された契約上のキャッシュ・フローの現時点における見積り
    2. 時間価値に関して、見積将来キャッシュ・フローを調整する現時点におけるマーケットの割引率
    3. 負債の不履行リスク以外のリスクの影響。言い換えれば、企業は、給付約定は変更されないと想定する。
  • IASBは、給付約定が変更されないという想定を置いた公正価値というその測定属性が、上記の特性を最もうまく伝えると考えている。

[拠出ベース約定の表示]

  • IASBの予備的見解は、拠出ベース約定に係る負債の変動は、勤務費用とその他の価値変動の2つに分解されるべきであるというものである。IASBは、拠出ベース約定と確定給付約定の表示との間で可能な限り整合性が保たれるべきであるという意見があることに留意した。したがって、コメント募集においては、拠出ベース約定に係る負債の分解及び表示が、確定給付約定に係る負債の変動の分解及び表示に関する規定に似たものとなっているべきかどうかを問いかけている。

SACメンバーからのコメント

  • 拠出ベース約定の測定において、ビルディング・ブロック・アプローチを用いることは正しいように思われるが、給付約定において拠出ベース約定のような新たな定義を導入するには、もう少し時間をかけて検討すべきである。(独会計士)
  • 現行の基準では、開示の要件が不十分と思われるが、この点を再検討していただきたい。(英金融機関)
    • 最終基準において、開示は非常に重要な項目であるので、公開草案の段階で検討したい。(IASBスタッフ)

Ⅶ.IASC財団 新議長のスピーチ

2008年1月よりIASC財団の議長となったGerrit Zalm氏(オランダ元副首相・元財務大臣)よりスピーチが行われ、その内容に関しSACメンバーから質問及びコメントが述べられた。

スピーチの内容

(1)はじめに
  • SACは世界中のさまざまな国・機関から多様な考えを持つ人々の集まりであり、非常に複雑な組織であるが、非常に重要な組織でもある。
  • SACは、IASBのボード・メンバー、評議員、IFRICメンバーにとって居心地のいい場所ではないが、定期的にこのような会合を開くことはIASBにとって利点である。
(2)評議員会の取組事項(2008年-2009年)
  • 定款の見直しに当たっては、ガバナンスの向上、資金調達モデルの改善等を主眼に検討すべきである。
  • SACの役割と立場の見直しを行うとともに、IASBの組織としての有効性と効率の改善を検討していきたい。
  • IFRSのブランド問題については、IFRSの権威と完全性を保つためにIFRSのブランドを維持することが重要である。
(3)IFRSのグローバルなアドプションについて
  • IFRSはEUにおいて2005年最初に義務化となったが、その後急速にIFRSを使用する国が増加し、現在では100か国を超えている。
  • 米国は、外国登録企業につき当初の目標である2009年より早くIFRSの差異調整表を廃止したが、米国は細則主義から原則主義へ切り替えるべきと考える。
(4)欧州における問題
  • 欧州ではIAS第39号(金融商品)においてカーブアウト(適用除外)項目があるが、これを廃止することに力を注ぎたい。
  • 欧州議会との関係は良くなかったが、評議員会、IASBボード・メンバー等の努力により、非常に良好な関係を築きつつある。

SACメンバーからのコメント

  • 欧州では、完全版IFRSの導入につき、いろいろな議論があるが、議論を重ねることによりこの問題をできるだけ早く解決していきたい。また、ガバナンスの改善についても議論を加速化する必要があると考えるが、SACは非常に重要な組織であり、協力して建設的な提言を行いたい。(欧州委員会)
  • 議長から示されたIFRSの将来ビジョンについては、全面的に賛成だ。しかし、このビジョンを実効あるものにするためには、デュー・プロセスが今後ますます重要になってくると思う。市場関係者の声を十分に汲み上げて作られる基準でなければ、長く市場で生き残ることはできないだろう。一部の人が会計基準を発明するトップダウン方式の基準設定は望ましくない。その意味で、IASBのガバナンス、モニタリング、デュー・プロセス遵守等の側面における今後のIASC財団の活動に期待している。(辻山SAC委員)

以上


  1. 2007年11月、日本の金融庁、欧州委員会、証券監督者国際機構(IOSCO)、米国証券取引委員会(SEC)により、IASC財団の組織の枠組みを強化するための改革として、モニタリング・ボディーの設立が共同提案された。

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