ASBJ 企業会計基準委員会

第23回会議

国際会計基準審議会(IASB)の第23回基準諮問会議(SAC)が、2008年11月13日と14日の両日にわたり、ロンドンで開催された。日本からはSAC委員である八木良樹㈱日立製作所名誉顧問、辻山栄子早稲田大学商学学術院教授、オブザーバーとして金融庁より原 寛之課長補佐が出席し、企業会計基準委員会(ASBJ)より又邊 崇専門研究員が同席した。八木SAC委員のコメント及び社団法人日本経済団体連合会から2008年10月14日に公表された「会計基準の国際的な統一化へのわが国の対応」の要旨(*1)が、当日、席上配布されている。なお、今回でSAC委員の任期は終了し、八木委員及び辻山委員にとって最後のSAC会議となった。SAC議長もNelson Carvalho 氏に代わってPaul Cherry氏が2009年1月1日から3年間務めることとなり、SAC新メンバーが近々発表されることが公表されている。以下、会議の主な概要を報告する。

Ⅰ.議題の提案

「金融商品の認識及び測定」と「料金規制産業」を活動中の議題に追加する提案について、SACメンバーの見解が求められた。

1.金融商品の認識と測定 

2008年3月、IASBはディスカッション・ペーパー「金融商品の財務報告における複雑性の低減」(金融商品)を公表している。金融商品DPでは、金融商品の会計処理の改善と簡素化に関するいくつかの可能性のあるアプローチが示され、測定とヘッジ会計に焦点が置かれている。また、米国財務会計基準審議会(FASB)もIASBの金融商品DPを含めたコメント募集を公表している。2008年10月のIASBとFASBの共同会議では、受け取ったコメント・レター(監査人27通、作成者82通、利用者9通、その他39通、合計157通)の要約が紹介された。当該内容が今回のSAC会議用のアジェンダ・ペーパーに記載されており、「金融商品の認識及び測定」を活動中の議題とする提案について、SACメンバーの見解が求められた。

2.料金規制の影響に関する会計 

本プロジェクトの目的は、料金規制者の行為の結果として認識される資産及び負債に関する指針を提供するために、IFRS第4号「保険契約」やIFRS第6号「鉱物資源の探査及び評価」と同様に、特定業種の基準を開発することである。
2008年1月、国際財務報告基準解釈指針委員会(IFRIC)は、規制機関又は政府による料金規制の結果として負債(又は資産)を認識することが可能か、あるいは認識すべきかを検討することを求められ、2008年5月のIFRIC会議では、プロジェクト計画が承認された。
スタッフの分析と提案は、2008年11月のIFRIC会議資料に示されており、料金規制の影響に関する会計のプロジェクトをIASBの議題に追加するようにIFRICが提案すべきであるとスタッフは結論付けている。

議論の内容

金融商品の認識と測定

議題とすること自体は賛成されたものの、全面公正価値会計の方向性に対する懸念(辻山SAC委員、独会計士)、公正価値の支持について全員一致していない点に驚いているとの意見(英アナリスト)、金融商品の再分類に対する要望(欧州委員会)等、さまざまな見解が述べられた。

金融商品DPに対するコメント分析において、コメント回答157通のほとんどを占める作成者と監査人が例外を伴う公正価値測定への移行を支持していない一方、公正価値測定への移行に賛成している利用者からは9通しか受け取っていないとの指摘(豪金融機関)に対して、「コメント分析はまだ要約の段階である」(IASBディレクター)、「コメント・レターの数だけを数えるのは危険であり、利用者団体からの1通には数千人の個人の意見が集約されている」(IASBボードメンバー)との意見が述べられた。また、「最近の金融危機の影響で、経営者の視点と、利用者の観点による公正価値との間のバランスをどのように考えるか」(スイス金融機関)との質問に対し、IASBディレクターからは「今回のアジェンダ・ペーパーは、議題の追加を提案しているものであり、選好するアプローチに関して強い意見はあるが、特定のアプローチを提案しているわけではない」との説明が行われた。
 Tweedie IASB議長からは、金融商品の複雑性の低減の方向性について「基本的に、我々は何も決議していない。ディスカッション・ペーパーに選択肢が記載されている」との説明が行われた。

料金規制の影響に関する会計

正式な議題とすることについては、概ね支持された(イスラエル会計士、英会計士、伊会計士、カメルーン会計士)ものの、概念フレームワークプロジェクトとの横断的論点であり、資産及び負債の定義を見直す必要があるとの意見(英会計士、伊会計士)、議題追加によるIASBの負担や2011年という時期の制限を懸念する意見(独会計士、英アナリスト)が述べられた。これに対し、Tweedie IASB議長からは「本プロジェクトでは、本格的な(full-fledged)基準を意図しておらず、一時的な(holding)基準であり、IFRICスタッフにより作業される。一定の実務慣行が廃止されることになる。」と説明された。

SAC会議参加者のコメント

  • 金融商品会計基準を全面公正価値会計モデルに変更しようという試みは、1980年代から延々と続けられてきた。IASC時代の数次の公開草案、1997年のディスカッション・ペーパー、2000年のJWG提案と続いた全面公正価値による基準の改定の試みは、これまで世界のコンセンサスを得ることができなかった。今回が最後のSAC出席になるが、2001年の会議の時も、JWG 提案に関して同じような議論がこの場であったことを思い出す。今回も、アジェンダ・ペーパー にあるように、長期的な解決策としてすべての金融商品を公正価値で報告するアプローチについては、多くの作成者、監査人が反対している。
     金融商品会計基準の簡素化と、世界的なコンバージェンスを遅らせている理由は、一部のボードメンバーやスタッフが、全面公正価値モデルによる基準開発にこだわるあまり、その他のアプローチによる基準の簡素化や工夫に乗り気ではなかったことにあるといっても過言ではない。
    IAS第39号の複雑性は低減されるべきだが、それは全面公正価値モデルによるべきではない。現在の混合属性モデルにおける貸借対照表評価額は、業績測定との関連でふさわしい属性という観点から選ばれた属性である。その結果として、貸借対照表の評価額が1つではなくなっている。つまり貸借対照表の評価額は業績測定の結果であって、貸借対照表の評価額だけによって業績が決まるとは考えられていない。すべてを公正価値で評価すれば、評価の複雑性は低減されるかもしれないが、その結果としての期間評価差額が、業績を適切に示すことにはならない。貸借対照表の評価額を一本化したいから業績の見方も変えてしまうというのは、本末転倒である。(辻山SAC委員)
  • 公正価値の支持について全員一致していない点に驚いている。私の属するアナリスト会議では、提案されている中間的アプローチに熱心ではないが、多くが基礎的な論点のレビューを要求している。利用者は金融商品の複雑性の低減を要求しており、議題に追加することにはもちろん賛成する。(英アナリスト)
  • このプロジェクトと概念フレームワークの測定プロジェクトはどのように関係するのか。重要な横断的論点である。また、ボードによると、結論はまだであるとしながらも、複雑性の低減のディスカッション・ペーパーではボードの目指す方向性は明らかである。しかし、公正価値の長期目標は所与ではなく、未解決の議論である。(独会計士)
  • 金融商品のプロジェクトを歓迎しており、金融商品の会計基準を理解し、適用するために簡素化は重要である。数多くのカテゴリーは複雑であり、再分類についてボードは検討すべきである。ボードにとって、公正価値アプローチによってどのような結果となるのかを詳細に検討する機会である。(欧州委員会)
  • 我々の基本スタンスは、会計基準設定主体は、独立の判断に基づき、技術・経験及びデュー・プロセスに従い、過度な政治的圧力がない場合に高品質な基準づくりが可能というものである。ヘッジ会計の簡素化には賛成するが、公正価値会計の長期目標については、2008年12月に正式なアジェンダとしてしまうと、市場が不安定である中、選択肢であってもそれ自体がメッセージ化され、政治や市場からの過剰な反応を招くおそれがある。むしろ、最近のIASBの基準変更の影響や、測定の議論を見極める必要がある。ただし、正式な議題とせずに議論すること自体は歓迎であり、むしろ、円卓会議やSACで議論してはどうか。(金融庁)

Ⅱ.信用危機

改訂IAS第39号「金融資産の再分類」の公表の経緯(*2)に関して、Tweedie IASB議長から、金融商品の会計処理について、米国よりも不利と感じている欧州の政治的圧力があり、最大の利用者である欧州がカーヴアウト(carve-out)する絶体絶命の状況に陥り、変更せざるを得なかったことが説明された。

議論の内容

デュー・プロセスの回避により、改訂IAS第39号が公表されたことを懸念する意見(八木SAC委員、金融庁)や、政治的圧力は排除すべきとの意見(アルゼンチン会計士)が表明されたのに対し、カーヴアウトの危機を背景とするとやむを得ないとの意見(Carvalho議長)も述べられた。IASBボードメンバーからは、「カーヴアウトを回避した結果、投資家に有用な情報を提供していない。投資家に有用な情報が提供されなければ、将来、誰もその会計基準を使うことはないであろう」との意見や、「デュー・プロセスの停止は二度と起こってほしくない。デュー・プロセスの停止は我々の信頼を損なうものである」(山田IASB理事)との意見が述べられた。

SAC会議参加者のコメント 

  • デュー・プロセスの停止や、遡及適用を認めたことを懸念。基準設定主体の信頼は公正なデュー・プロセスに準拠しており、そのプロセスを止めれば、信頼は損なわれるおそれがある。政治的な圧力についても、これ自体を否定するのではなく、政治的な圧力を受け止めつつ、これに対して適切に対処することが必要。また、今回のデュー・プロセスを欠如した基準がどの程度市場に影響を与えたのかに関する調査も求めたい。(金融庁) 
  • 今日の世界的な信用危機の中、会計基準が市場の安定化に果たす役割は少なからずあると考える。会計基準が今回の信用危機の直接的な要因ではないにしても、公正価値会計に過度に傾倒し、保守的な会計慣行が軽視されていたことについて反省されるべきである。債券の保有目的区分の変更が、恣意的な会計処理につながるのではないかとの懸念があるが、今回の信用危機に対して世界の市場が協調し、迅速な対応を採ることが最も重要だと考える。
     しかしながら、今回の信用危機に対するIASBの対応につき、若干懸念を有する。今回、緊急だったとはいえ、IASBは(2008年)10月13日、協議や公開草案の公表など必要なデュー・プロセスを経ずに金融商品の区分変更に関する修正を公表した。このことが、世界中で使用されるIFRSの策定主体としてふさわしいのか、疑問を持たざるを得ないが、今後の悪い例とならないでほしい。(八木SAC委員)
  • デュー・プロセスの問題を別にすれば、金融商品会計との関連で、少し述べておかなければならないことがある。この問題は、単なる米国会計基準とのイコール・フッティング(対等な競争)のためという理由だけで片付く問題ではなく、米国会計基準自体に合理性があるか否かが問題である。債券に関わる部分については、IFRSの規定より、米国会計基準の方がより合理性があると思う。つまり、債券の時価が満期償還額より下がった場合、保有者が満期まで保有できる蓋然性が高く、かつ、債券発行者が償還に応じられる能力があるのであれば、時価で換金せずに満期保有に目的変更することは、むしろ合理的な判断であり、その場合の最大損失は、満期保有償還額をベースにした償却原価を基礎に計算されるというのは、合理的な考え方だ。
    この問題は、金融商品の合理的な評価額は、経営者の意図を抜きには決まらないということを示す典型例であり、会計基準のコンバージェンスを進める上でも、この問題は重要な示唆に富んでいると思う。会計基準というのは、危機の時代に有効に機能してこそ、質の高い基準だといえる。(辻山SAC委員)
  • アルゼンチン危機において、銀行規制当局が圧力をかけて原価主義を維持したのは誤った解決策であった。この教訓は、政治的な圧力は排除し、会計基準のフレームワークに基づき解決策を図るべきということである。(アルゼンチン会計士)
  • 今回のデュー・プロセスの停止は、欧州連合(EU)のカーヴアウトが実際の最も大きな危機であったことが背景にある。SAC議長ではなく、ブラジルのメンバーとして今回の改訂はやむをえなかったものと理解している。(Carvalho SAC議長)
  • 企業会計基準委員会(ASBJ)は、(2008年)11月13日、保有目的区分の変更に関する審議を行い、公開草案を公表することを決定した。我々(IASB)と異なり、デュー・プロセスを実施し、しかも、2010年3月31日の時限条項を設けているという点で、我々よりも賢いといえるだろう。今回のデュー・プロセスの停止の経験は、私の人生で最も厳しいものだった。デュー・プロセスの停止は二度と起こってほしくない。デュー・プロセスの停止は我々の信頼を損なうものである。欧州委員会は、(2008年)10月27日付けのレターにより、IAS第39号の改訂を再度求めているが、デュー・プロセスの回避を再度求めることで、IASBを破壊しようとしているのか。(山田IASB理事)

Ⅲ.概念フレームワーク

1.どのようにフレームワークを発効させるべきか(アジェンダ・ペーパー 6A) 

本プロジェクトは、IASBとFASBによる共通の概念フレームワークを開発するための共同プロジェクトであり、8つのフェーズに分けられ、検討されている。
目的及び質的特性に関する公開草案、報告企業に関するディスカッション・ペーパーに対する回答者の大半は、IASBがフレームワークの各章を完成させるごとに公表する(発効させる)ことを提案したことに懸念を示した。多くの回答者は、関係者が改訂後フレームワーク全体に対してレビューとコメントができるよう、プロジェクトのすべての章が完成した後に、IASBが単一の公開草案を公表すべきであると主張している。

また、両審議会と関係者がそれぞれ異なるフレームワークを適用することができるかどうか、つまり、両審議会は新たなフレームワークの新たな章を含めたアップデートされたフレームワークを適用し、関係者は既存の「フレームワーク」を適用することも検討された。しかしながら、IASBのフレームワークの複数のバージョンが存在することは、誰にとっても分かりにくいことになるため、この選択肢は却下された。

2.資産と負債の定義案 

両審議会は、既に識別されている欠陥や提案されている変更に基づいて、資産及び負債の定義案を開発している。検討された従来の定義案と比較すると、この1組の資産と負債の定義案は、並列構造となっており、対応する用語を用いている。両審議会が2008年10月に検討した定義案は以下のとおりである。

  • 企業の「資産」とは、他者が保有していない権利又はその他のアクセスのいずれかを企業が保有している現在の経済的資源をいう。
  • 企業の「負債」とは、企業が債務者である現在の経済的義務をいう。

今回のSAC会議では、ある項目が資産及び負債の定義案を満たすかどうかを確認するために、「売掛金、空気、買掛金、訴訟、汚染されたハンバーガー(法律により、売主は汚染されたハンバーガーを購入した各顧客に補償することを前提に、財務諸表日に売主はハンバーガー1個を販売した場合)」等の項目に対する資産及び負債の定義案の適用について議論することとされた。

議論の内容

プロジェクトの進め方について

ドイツの基準設定主体から、IASBとFASBは新たなフレームワークの新たな章を含めたアップデートされたフレームワークを適用し、作成者は新たなフレームワークが完成するまで既存のフレームワークを適用するとの提案がされていたところ、アジェンダ・ペーパーの記載によると、分かりにくいという理由で却下された点に関して、「簡単に却下されたことに驚いており、少なくとも私には分かりにくくない」(独会計士)との意見が述べられた。これに対してIASBボードメンバーからは「2つのフレームワークを持つことは理解できない。ピース・ミール・アプローチをとる場合、新しいフレームワークが古いフレームワークと置き換わる」「ヒエラルキーのための古いフレームワークと基準設定主体のための新しいフレームワークを持つ考えは魅力的である」と賛否両論の意見が述べられた。

また、「フレームワークが改善される場合、最新のフレームワークで基準が書き換えられることは、理解しがたいことではない」(豪金融機関)、「ピース・ミール・ベースでも、完成後に見直すならば問題ないが、見直さなければ問題となる」(欧州産業連盟)、「ピース・ミール・アプローチとすべきではない。概念フレームワークの開発には長い年月がかかることも否めない。したがって、一部ずつを承認しながら進めたいということであれば、その承認はあくまでも暫定的な承認という位置付けにし、後の概念フレームワークの進捗に合わせて、随時改訂していくべきである」(辻山SAC委員)との意見が述べられた。

資産及び負債の定義案について

SACメンバー及びIASBボードメンバーが3つのグループに分けられ、各グループで資産及び負債の定義案の議論を行った後、各グループの代表が議論の内容を報告した。

資産の定義を検討したグループからは、自己創設のれんが資産の定義案に適合するかどうかが主に議論され、認識と測定を扱わずに資産を定義付けることは困難であり、自己創設のれんは、資産の定義を満たさないとのグループの意見が報告された。この報告を補足して、辻山SAC委員からは「自己創設のれんは会計上の資産には含められるべきではないという意見が多数派だったが、そのような議論がないまま、定義だけを提案して、これで良いかどうかを問うのは、議論の順序が逆である」との意見が述べられた。

負債の定義を検討したグループからは、①債務者の法律的な定義では、経済的な負債を捉えるには狭すぎること、②各国における特有の法律の有無によって、負債を認識するかどうかが左右されるため、比較可能性に問題があること、③ビジネスリスクと負債との境界は負債の定義で解決されないこと等が報告された。

負債の定義を検討した他のグループからは、①ハンバーガーが年間10億個生産される場合には汚染されている可能性が高くなること、②完璧なハンバーガーを生産することを顧客と契約する場合と完璧なハンバーガーを生産する法律の場合とではどのように異なるか、③資産の定義との対称性から、負債の定義で「債務者」が本当に必要なのか等が議論されたことが報告された。しかし、定義案についてグループでは明確な結論は得られず、定義案は十分な支持が得られなかったことが報告された。

SACメンバーのコメント 

  • アジェンダ・ペーパーに記載されているように、両審議会が新たなフレームワークの新たな章を含めたアップデートされたフレームワークを適用し、関係者は既存のフレームワークを適用するというドイツの基準設定主体の提案が、分かりにくいとの理由で簡単に却下されたことに驚いている。この提案は、私にとっては分かりにくくない。この提案には、フレームワークが完成するまで、用語を整合させるためにすべての会計基準を変更する必要がないという利点があるので、再考をお願いする。(独会計士)
  • 前のSAC会議でも同じことを述べたが、概念フレームワーク(FW)のような非常に抽象度の高い議論においては、章ごとに確定していくピース・ミール・アプローチは非常に危険だ。第1章と第2章において合意されたことが、今後の認識と測定フェーズにどのように影響するのかということをきちんと吟味しないで、ここだけ切り放して是非を議論することはできない。
    その意味で、「アジェンダ・ペーパー 6A」に示されている多くの回答者のコメントは当然のことであると思う。ボードは是非この意見を尊重してほしい。
    例えば、このフレームワークの中では自己創設のれんは資産の定義に含まれるのか。もし含まれるとしたら、それは認識測定されるべきだろうか。もし定義に含まれていても認識測定されるべきではないとしたら、それはFWのどのようなメカニズムを通じて認識測定から外されることになるのか。「会計上」の資産の適切な定義は、認識測定と完全に切り放して判断することはできない。
    とはいえ、概念フレームワークの開発には長い年月がかかることも否めない。したがって、一部ずつを承認しながら進めたいということであれば、その承認はあくまでも暫定的な承認という位置付けにし、後の概念フレームワークの進捗に合わせて、随時改訂していくべきである。(辻山SAC委員)
  • 提案されている定義が適切なものであるのか否かを議論する前に、まず会計上の資産にはどのようなものが含められるべきかということに関するコンセンサスを形成するのが先決である。そのコンセンサスがないまま、定義の適切性を論じることはできない。例えば、我々の議論グループでは、自己創設のれんは会計上の資産には含められるべきではないという意見が多数派だったが、そのような議論がないまま、定義だけを提案して、これで良いかどうかを問うのは、議論の順序が逆である。
    会計上の資産の定義を論じる場合には、まず「定義」の役割、つまり、会計上の認識測定と定義との境界に関する理解を共有しておく必要がある。会計上の資産の定義は、世の中に無数に存在する資産の中でどこまでを会計情報の対象にすべきかということを問題にしているのであって、資産一般を定義しようとしているのではない。(辻山SAC委員)

Ⅴ.評議会とのセッション

Zalm評議会議長から、「最近の取り組みとして、プルーデンス当局であるバーゼル委員会とともに、規制当局の問題と会計の問題の相互関係から生じるプロシクリカリティ等に関する検討を進めているが、会計基準は、基準設定プロセスにおいて政治問題化すべきではないと考えている」との説明があった。また、2008年10月に開催された北京の評議会会議において、金融商品の再分類の改訂に係るデュー・プロセスの停止に合意した点に関して、評議員から、「10月にEUからカーヴアウトをするとの強い圧力を受けたことを踏まえ、特に第3四半期における財務報告において欧米間のレベル・プレイング・フィールドを至急構築する必要があるとのIASB議長からの要請を受け、本来望ましくなかったが、デュー・プロセスを停止した。これは、実利を踏まえた判断だったと考えている」との補足の説明が行われた。

また、2008年7月、国際会計基準委員会財団(IASC財団)は、定款を見直すため、公開草案「公的な説明責任及びIASBの構成:変更に関する提案」を公表しており、公的な説明責任に関して、公的機関との直接的な関係を作り出すため、モニタリング・グループの創設を提案している。

議論の内容

モニタリング・グループの役割が明確でなく、評議会とモニタリング・グループとの間の覚書(MoU)で明確に規定されることを期待するとの意見(八木SAC委員)に対して、Zalm評議会議長から「MoUの問題は、定款の最終化と同時に取り扱おうとしており、その際に明確にする」との説明が行われた。

また、IASBからSACに対するフィードバックを求める意見(独会計士)や、デュー・プロセスの停止が二度と起こらないことを望む意見(英アナリスト)が示された。

SACメンバーのコメント

  • 定款見直しについては、前回のSACでも意見を述べた。日本経団連も2007年9月にIASC財団にコメントを提出している。今の定款案では、誰が誰に対してどの程度の監視機能を持ち、誰が会計基準設定プロセスに対する監督能力を有するのかが不明確である。これらの点が評議会とモニタリング・グループとの間の覚書(MoU)で明確に規定されることを期待する。(八木SAC委員) 
  • 最近のIASC財団のガバナンス改革や金融危機対応を評価。会計基準には、2つの公正性、すなわち会計基準は、企業実態の公正な表現に資するものでなければならず、これを担保するための公正なデュー・プロセスが必要。我が国は2011年までのコンバージェンスの作業を加速させており、かつ、IFRSの利用に関する公式な議論も開始している中で、モニタリング・ボードの1候補として貢献したい。(金融庁)
  • SACの効率性に関して、SACメンバーはボードに対してどれだけの影響を与えているのかわからない。ボードからSACに対するフィードバックを正式化しないのか。(独会計士)
  • デュー・プロセスの停止が二度と起こらないことを望む。IAS第39号と米国会計基準に相違があるため、政治家がレベル・プレイング・フィールドをスローガンとしているが、レベル・プレイング・フィールドは、適切なコンバージェンスによって保つことができるものである。(英アナリスト)

Ⅵ.プライベート企業のためのIFRS

公開草案の再審議でのIASBの主な決議が報告され、IASBが検討すべき残りの論点が確認された。SACメンバーに対する質問は以下のとおりである。

  • 質問1 プライベート企業のためのIFRSは、完全版IFRSから簡略な選択肢だけを認めるべきか、完全版IFRSでのすべての選択肢を認めるべきか。
  • (質問2~4 省略)
  • 質問5 あなたの国で採用をする見通しについて教えてほしい。

議論の内容

質問1については、簡略な選択肢だけを認めるべきとの意見が多く表明された(八木SAC委員、伊会計士等)。

SACメンバーのコメント

  • (質問1について)多くのプライベート企業が完全なIFRSを適用できるとは考えにくい。簡略な選択肢だけを認めるのが適当ではないか。
    (質問5について)日本では、現在、IFRSの採用に向けて検討が進められているが、法人税との調整などの課題もあり、IFRSの適用は、上場企業の連結財務諸表のみに止める方向で検討される予定である。日本の経済界の考え方は、配布した日本経団連の提言を参照願いたい。(八木SAC委員) 
  • 完全版IFRSを参照せず、また完全版IFRSへ復帰しない、簡略な1つの選択肢を支持する。質問5については、イタリア及びEU諸国で当該基準が採用される条件は、基準の質が低下しないこと、法律であるEU指令に完全に一致することである。(伊会計士)

Ⅶ.オーストラリアのIFRS実施調査 

SACメンバーであるオーストラリアのJudith Downes氏から、「グループ100」(G100)に所属する企業のIFRS実施に関するアンケート結果について紹介された。調査は、G100メンバーのうち85社に質問状が送られ、36社から回答された。

主な調査結果は以下のとおりである。

  • 回答者は、米国会計基準と比較してIFRSのプリンシプル・ベースのアプローチに好意的であり、コンバージェンスにおいてこの点は保持されるべきであると指摘した。
  • 大多数の回答者は、IFRSの少なくとも1つの分野が企業に対してネガティブな影響を与えたと指摘した。最も多い回答はIAS第32号及び第39号のヘッジの規定であった。
  • すべての回答者がIFRSによって費用の増加を計上したが、このほとんどは最初の移行の結果としてであった。より小さなレベルでの継続的な費用及び遅延は、基準の複雑性の増加及び外部アドバイザーが世界的に相談する必要性から、まだ発生している。
  • 40%を超える回答者はIFRS適用の結果、事業(主にヘッジの有効性、リスク管理、企業結合によるリターン)がより良く理解できるようになったと指摘した。
  • 大多数の回答者は、IFRSが財務諸表の利用者にとって役立たないような不当で複雑な開示につながっていると指摘した。
  • 解釈や改訂を取扱うIASBのプロセスは効果的であると大多数の回答者は考えている。
  • すべての回答者はIFRSの適用は費用がかかったと指摘しているが、大多数は移行による便益も指摘している。

議論の内容

89%の回答者が金融商品(IAS第32号「金融商品:表示」及びIAS第39号)、IFRS第7号「金融商品:開示」、退職後給付会計の給付建制度の開示について、IFRSが財務諸表利用者に役立たないような不当で複雑な開示を求めていると指摘している点に関して、IASBボードメンバーから詳細な説明が求められたところ、Downes氏は「調査では詳細を質問しておらず、総じて我々が聞いたことであり、これはIFRS第7号の最初の適用に対する反応である。市場リスクや信用リスクの開示は新規のものであり、非金融企業にとっては、場合によって非常に困難である」と説明した。また、他のIASBボードメンバーから「開示に関して、基準設定主体としては、できるだけ多くの開示を提供し、洗練された利用者に必要な情報を選択してもらうべきか」との質問に対して、Downes氏は「容易ではないが、継続的に見直すことが必要」と回答した。

以上


  1. “Future Directions of Accounting Standards in Japan- The Next Step Towards a Single Set of Accounting Standards Executive Summary”(社団法人日本経済団体連合会ホームページ参照 http://www.keidanren.or.jp/english/policy/2008/071.html)
  2. 金融商品の再分類に関して米国会計基準と同様の取扱いになるようにIAS第39号の改訂が達成されない場合、EUはIAS第39号の振替禁止の規定をカーヴアウトする用意があると表明した。これに対し、IASBは、IASC財団の評議会の承認を得て、デュー・プロセスで求められる公開草案の公開を経ずにIAS第39号の改訂を行った(2008年10月)。