第24回会議

 国際会計基準審議会(IASB)の第24回基準諮問会議(SAC)が、2009年2月23日と24日の両日にわたり、ロンドンで開催された。日本からは、SACメンバーである金子誠一 社団法人日本証券アナリスト協会理事、米家正三 伊藤忠商事株式会社常勤監査役、オブザーバーとして金融庁より原寛之課長補佐が出席した。

なお、社団法人日本証券アナリスト協会による金融危機と会計基準のアンケート集計結果とそのプレスリリース(*1)及び金融庁による「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」を紹介する英文ホームページ(*2)と中間報告の英文要約版が、それぞれ当日、席上配布された。以下、会議の主な概要を報告する。

Ⅰ.オリエンテーション及びSACの使命

2008年にSACメンバーの改選が行われ、多くのメンバーにとって、今回の会議が初めての参加となることから、国際会計基準委員会財団(IASC財団)の概要に関するオリエンテーションが行われた。

SACの使命について、Cherry SAC議長からは、「SACはIASBのアジェンダに関してコンサルテーションを提供しなければならない。また、SACメンバーは重要な団体の代表であり、IASBとのリエゾンの役割を果たしてもらいたい」との説明があった。また、Marteau SAC副議長から、以前のSACの反省点等として、「①時間が限られているため、明確に意見だけを述べること、②問題は、テクニカルな論点を取扱うことではなく、SAC用のペーパーが適切に要約されている必要があること、③SACはアドバイスを行い、IASBが決議するのであり、SACが有益な意見をIASBに与えるためには、良い質問が必要となること、④議事録が質問に対する明確なメッセージとなること、⑤2008年11月のSACのプライベート企業のためのIFRSのセッションは不可欠な質問に焦点が置かれ、積極的な議論が行われた良い例であった」との説明が行われた。

「SACの議論がIASBにとって有用であったのか、IASBの見解を変えたのか等のフィードバックが必要である」(豪グループ100)、「アドバイザリー・グループとして、ディスカッション・ペーパーの段階に焦点を置くことがIASBの方向性を形成する際に役立つ」(国際会計士連盟(IFAC))との意見が述べられた。また、SACにおける投票に関する質問(IFAC)に対し、Cherry SAC議長からは、「投票は適切ではないが、フィードバックは必要である」とのコメントがあった。

Ⅱ.IASBの作業計画

IASBディレクターから、2009年2月時点における作業計画表に基づき、主要プロジェクトの進捗状況に関する説明が行われた。また、SACメンバーに対する質問は以下のとおりである(アジェンダ・ペーパー3第6項)。

  1. アクティブ・アジェンダに載っているプロジェクトのうち、どれが最も重要と考えるか。
  2. アクティブ・アジェンダに載っているプロジェクトのうち、一時中断すべきものはあるか。
  3. IASBが対処すべき問題でアジェンダに載っていないものはあるか。
  4. 関係者が大量のアウトプットに対処することに役立つように、IASBができることはあるか。新しい規定の発効日、早期適用を認めるかどうか、及びコメント期間などについて検討することも可能である。

議論の内容

多くのSACメンバーは優先順位の高い項目として、「G20首脳宣言で示された項目(金融商品の時価、連結等)」、「米国とのコンバージェンスを達成するためのMoU項目」を挙げた。それ以外では、「概念フレームワーク」を挙げる意見も多かった。

「アジェンダの優先順位を決める規準は何か」(Ernst & Young会計士)との質問に対して、Tweedie IASB議長からは、「新プロジェクトを選択する一定の規準は、1つはコンバージェンスで、その他は実務でのばらつき(diversity)であり、新規又は主要な取引についてガイダンスがない場合である。また、ボードがプロジェクトを選択する際、特にSACの意見を聞いている」と回答された。

退職後給付について、「退職後給付債務の変動を純利益に含めるIASBの議論により、退職後給付債務の変動が業績の一部となっている。財務諸表の表示プロジェクトで純利益の概念を決める前に業績の中身を決めることは意味がない」(欧州産業連盟(ACTEO))、「給付建約定の積立状況のすべての変動について、遅延認識をせずに、即時に純利益で認識すること、及び保険数理差損益をその他の包括利益で認識し、その後リサイクルを行わないことには同意できない」(米家SAC委員)との意見が述べられた。

さらに、「退職後給付会計の結論は、財務諸表の表示の結論が出るまで待つべき」(Deloitte会計士)との意見に対して、IASBボードメンバーからは、「当初、退職後給付費用と財務諸表の表示とを一緒に議論していたところ、異なるものを混ぜているとして批判されたという経緯があるため、退職後給付プロジェクトでは財務諸表の表示プロジェクトとは別に分解表示を取り扱っている」と説明された。

概念フレームワークを優先すべきとの多くの意見に対して、IASBボードメンバーからは、「概念フレームワークは重要であるが、MoUに比べると優先されないと思っていたため少し驚いている」、「重要な誤解があり、概念フレームワークは基本的な疑問に対してそれほど役立たない」、「重要なのは概念フレームワークのどのフェーズが優先されるのかということであり、個人的には測定フェーズが最も重要と考える」と様々なコメントが述べられた。

金子SAC委員から質問(d)に対する回答として「ディスカッション・ペーパー(以下DP)は全て文章であるため、現状と提案を簡潔に対照した表を掲載すべきである。DPでは一般的な質問を10個以内に限定すべきである。また、国際財務報告基準(IFRS)へのアクセスについて、「結論の根拠」と「適用ガイダンス(Guidance on Implementing)」は有料であるため、IFRSの無料アクセスに向けた寛大な措置を取るべきである」との意見が述べられた。

これに対して、Tweedie IASB議長からは、「DPについての意見は理解した。IFRSについては、IASC財団の財政基盤が整い次第、無料化を進めていきたい」との回答があった。

SAC会議参加者のコメント

  • 財務諸表の表示プロジェクトに関して、純利益には触れないとしているが、IASBは十分に業績の概念を定義できるのか。退職後給付の変動を純利益に含める議論をしているが、退職後給付の変動が企業の業績の一部となる。業績を定義する純利益の概念を決める前に何が業績であるのかを決めることは意味がない。(欧州産業連盟(ACTEO))
  • 給付建約定の積立状況のすべての変動について、遅延認識をせずに、即時に純利益で認識すること、及び保険数理差損益をその他の包括利益で認識し、その後リサイクルを行わないことには同意できない。このような処理は、多くの企業に対して深刻かつ不利な影響を与えることになる。反対する理由は、①長期的な性質のコストを即時認識することは妥当ではなく、②その他の包括利益で認識された項目はクリーン・サープラス関係を維持するためにリサイクリングが必要であり、③積立状況の変動のすべてを即時認識することで純利益は極端に不安定となるため、スムージィングのメカニズムが必要であるからである。また、財務諸表の表示プロジェクトの方向性が明確となるまでは結論付けるのは尚早である。退職後給付費用を3つに区分して表示すべきではなく、同じ性質のものとして営業カテゴリーとすべきであり、仮に分解表示するとしても注記で足りる。(米家SAC委員)
  • 金融危機対応である連結及び公正価値測定以外で重要と考えるのは、概念フレームワークと財務諸表の表示である。反対に、重要でないと考えるのは年金会計であり、年金会計の結論を出す前に、財務諸表の表示を解決すべきである。企業にとって大きな問題は、年金の変動を純利益で認識することにより、ボラティリティが生じることであり、利益の質を調整することが重要となる。ボードのアジェンダが一杯であることを前提とすると、リースや収益認識のようにIFRSと米国会計基準にすでに存在している基準よりも、根本的な論点に焦点を当てるべきである。(Deloitte会計士)
  • アジェンダ・ペーパー3の第6項(d)、「IASBから大量に出る資料について利用者の助けとなることはあるか」について2点発言したい。第1点はDPである。「財務諸表の表示」と「収益認識」のDPを持ってきたが、各167頁と118頁と長くまた難しい。短気で結論を早く知りたいアナリストにとっては読みがたい代物だ。2つの改善を提案したい。最初はサマリーで、各6頁と7頁の要約があるが全て文章である。現状と提案を簡潔に対照した表を掲載すべきである。次は質問で、「財務諸表の表示」には27の極めてテクニカルな質問がある。正気の人ならこの質問を見たとたんにDPを投げ出すだろう。公開草案ならテクニカルな質問も許されるが、DPでは一般的な質問10個以内に限定すべきである。次に、IFRSへの廉価なアクセスについてコメントしたい。ASBJがIFRSを翻訳し、約260米ドルで販売した。高すぎるとASBJに苦情を言ったら、260ドルのうち200ドルはIASC財団へ支払われるとのことだった。260ドルのうちの200ドルは搾取と言うべきだ。関連して、今年の1月からIFRS本体はネットから無料で見られるようになった。大きな進歩として歓迎したい。ただし、いまだに「結論の根拠」と「適用ガイダンス」は有料である。「結論の根拠」なくしてIFRSを理解するのは素人にとっては不可能である。日本も米国に次いでIFRS採用の工程表案を公開し、我々は会計基準が一つしか存在しない世界に向けて歩みだした。夢の時代が早く来るようにIASC財団とIASBは幅広い心をもってIFRSの無料アクセスにむけた寛大な措置を取るべきである。(金子SAC委員)

Ⅲ.財務諸表の表示

2008年10月、IASBと米国財務会計基準審議会(FASB)は、財務諸表の表示に関するディスカッション・ペーパー(DP)を公表した(コメント期限は2009年4月14日)。本DPでは、①財務諸表の表示に関する3つの目的(一体性の目的、分解の目的、流動性及び財務的弾力性の目的)が掲げられており、財政状態計算書、包括利益計算書、キャッシュ・フロー計算書の行項目等が連携されること、②包括利益計算書は単一の計算書とされ、当該計算書において包括利益及び当期純利益が表示されること、③キャッシュ・フロー計算書は直接法で作成されなければならないこと、④新たな注記として、キャッシュ・フロー計算書から包括利益計算書への調整表が求められることが提案されている。

議論の内容

本プロジェクトについて、「提案されているモデルは革命的であり、基準が適用される前に、インパクト分析に重点を置く必要がある」(国際企業ガバナンスネットワーク/APGインベストメント)、「この時期に会計基準を変更することを優先する理由を説明することは困難である。特定の項目についてこのまま進めることには納得していない」(国際金融協会/UBS)との意見が述べられた。

セクション及びカテゴリーの区分については、「投資と財務の区分には困惑している」(カメルーン会計士)、「金融機関にとっては、営業・投資・財務に区分することはほとんど意味がなく、ほとんどのビジネスは営業である」(国際金融協会/UBS)との意見が述べられた。

また、セクション及びカテゴリーに区分する際のマネジメント・アプローチについては、「比較可能性に問題がある」(カメルーン会計士、英国保険協会/投資マネジメント協会(IMA))、「意思決定において日和見的な考えが先行するため満足していない」(国際企業ガバナンスネットワーク/APGインベストメント)との懸念が示され、作成者の立場からマネジメント・アプローチに賛同しているSACメンバーより、「アナリストは選好しておらず、根本的に考え方が一致していない」(国際金融協会/UBS)との指摘がなされた。

直接法によるキャッシュ・フロー計算書については、「オーストラリアで採用されており、基準の変更に当たり大きな問題ではない」(豪グループ100)、「間接法による情報から直接法に再加工するのは困難であり、時には不可能となっている」(米CFAアナリスト)、「コストの問題があることを認識しているものの、直接法を好む」(英国保険協会/ IMA)という賛成する意見に対し、「IASBとFASBは、間接法ではどのような重要な情報が欠けているのかを示す必要がある」(韓国基準設定主体)、「キャッシュ・フロー計算書と調整表には大きな懸念がある」(国際保険監督機構)、「直接法によるキャッシュ・フロー計算書と調整表は無用のコストをかける。連結ベースでキャッシュ・フロー計算書を作成するには子会社から詳細な情報を入手しなければならず、統合会計システムの導入が必要とされる」(米家SAC委員)との懸念を示す意見が述べられた。

金子SAC委員からは、「アナリストの見方には地域的なバイアスがあり、北米のアナリスト、特にCFA協会は直接法を強く提唱しているのに対し、欧州のアナリストはキャッシュ・フロー計算書と貸借対照表、損益計算書との調整が情報不足で出来ないことに不満を持っているが、直接法自体を強く要求しているわけではない。これに対し、日本のアナリストからキャッシュ・フロー計算書についての不満を聞かないのは、日本の財務諸表の開示勘定科目は政府によって決められており、米国や欧州の財務諸表よりも勘定科目が多いので調整に困らないからである」との見解が述べられた。

SAC会議参加者のコメント

  • 提案されているモデルは革命的であり、基準が適用される前に、インパクト分析に重点を置く必要がある。意思決定において、日和見的な考えが先行するため、マネジメント・アプローチを参照することには満足していない。しかし、マネジメントにそれほど柔軟性が認められていないことは理解している。区分方法を変更する場合、会計方針の注記で開示することから、会計方針と注記の中身が充実していれば、マネジメント・アプローチを排除することができる。(国際企業ガバナンスネットワーク/APGインベストメント)
  • まず、この時期に会計基準を変更することを優先する理由を説明することは困難である。次に、金融機関にとっては、営業・投資・財務に区分することはほとんど意味がない。ほとんどのビジネスは営業である。また、私が唯一賛同しているマネジメント・アプローチの考え方に対して、財務諸表利用者、アナリストは選好しておらず、根本的に考え方が一致していない。最後に、調整表は私の意見では意味がない。特定の項目についてこのまま進めることには納得していない。(国際金融協会/UBS)
  • CFAペーパーでは、直接法によるキャッシュ・フロー計算書、性質別による表示、期首と期末の貸借対照表間の調整表を主張している。直接法によるキャッシュ・フロー計算書は、間接法よりもずっと有用であり、間接法による情報では直接法を再加工するのは困難であり、時には不可能となっている。(米CFAアナリスト)
  • 韓国では、どれだけの企業が直接法によるキャッシュ・フロー計算書を用いているのかわからないが、韓国企業からは、直接法のキャッシュ・フロー計算書はコストがかかるが、それに見合うだけのベネフィットがなく、また、連結キャッシュ・フロー計算書を作成する場合、子会社からすべての情報を入手しなければならないと言われている。直接法に価値があるならば、実務では間接法ではなく直接法を用いていたはずである。したがって、IASBとFASBは、間接法を用いることでどのような重要な情報が欠けているのかを示す必要がある。XBRLが浸透する中でも、アナリストが直接法による情報を入手できないことを示し、直接法が重要であることを説得する必要がある。(韓国基準設定主体)
  • 日本の作成者の間には次のような不満がある。直接法によるキャッシュ・フロー計算書と調整表は無用のコストをかける。連結ベースでキャッシュ・フロー計算書を作成するには子会社から詳細な情報を入手しなければならず、統合会計システムの導入が必要とされる。(米家SAC委員)
  • キャッシュ・フロー計算書についてのアナリストの見方には地域的バイアスがある。北米のアナリスト、特にCFA協会は以前から直接法を強く提唱している。ヨーロッパのアナリストはキャッシュ・フロー計算書と貸借対照表、損益計算書との調整が情報不足で出来ないことに不満を持っているが、直接法自体を強く要求しているわけではない。これに対し、日本のアナリストからキャッシュ・フロー計算書についての不満を聞いたことはあまりない。この理由は、日本の財務諸表の開示勘定科目は政府によって決められており、米国や欧州の財務諸表よりずっと勘定科目が多いので調整に困らないからである。4月にアナリスト協会の全会員を対象にした意見調査をするので、6月のSAC会議で調査結果をお知らせできればと思っている。(金子SAC委員)

Ⅳ.世界的金融危機

1.IASBの金融危機対応 

IASBは、世界的な金融危機への対応の一環として、2008年11月のG20首脳によるサミットで提言された事項(*3)を取り扱うために一連の決定を行った。世界的金融危機を受けてのIASBの活動の概要が説明され、それらの活動及びIASBが提案している活動の適切性についてSACメンバーの見解を求められた。

  1. IASBは金融危機に対し、適時かつ的確な方法で対応しているか。
  2. IASBの金融危機への対応には透明性があったか。
  3. 金融危機への対応において、IASBはどのようにすればその役割をより良く伝えることができたか。

議論の内容

IASBの金融危機対応

最初にTweedie IASB議長から、「IASBが、金融危機に対処する際に、公正価値が今回の危機を増幅する原因である等、既存の金融商品会計基準について攻撃を受けている。公正価値は完全ではないが、評価モデルも完全ではない。取得原価を代替的方法とするならば、金融危機が本当に生じた後にも危機には気付かなかったであろう。1990年代の日本の経験が参考となる。昨年、渡辺金融担当大臣(当時)は、貸出債権の損失をもっと早く認識していれば、当時の危機に迅速に対応できたであろうと述べた。我々は、資産が適切に評価されなければならないことを強く感じた」と述べられた。この発言を受けて、金融庁からは、「日本における不良債権問題の教訓においては開示が重要であった。IFRSはグローバルな基準となるために、今後はグローバル基準設定主体としての説明責任を果たす必要がある」と指摘された。

透明性と安定性の問題について、Tweedie IASB議長からは、「我々の仕事はできるだけ経済実態を示すことであり、金融安定化は規制当局の仕事である」とコメントされた。これに対して、「金融制度を安定させるためには透明性の向上が不可欠である」(金融庁)、「金融安定化は会計基準の開発において考慮されなければならないが、数字を犠牲にしてまで重視するものではなく、数字はありのままでなければならない」(北米保険会社グループ)、「会計基準は金融危機の原因ではないと考えるが、いくらか寄与する面があるため、我々には関係なく規制当局の問題であるとするならば批判されることになる」(国際金融協会/UBS)との意見が述べられた。

また、「金融商品の再分類に関するIAS第39号「金融商品:認識及び測定」の改訂は、現実をよりよく忠実に表現することになるのか、あるいは米国会計基準との調整のための政治的な決定であるのか」(カメルーン会計士)との質問に対し、Tweedie IASB議長から「我々は、2つの基準の間で規制当局の裁定につかまった。カーヴ・アウトの手法に訴えれば、欧州の金融機関は、開示規定もなく、いかなる項目であっても、いかなる価額でも振り替えることが可能となり、欧州の会計は制御できないこととなる。したがって、振り替える場合、影響額を開示させることとした。こうしたことが二度と起こらないことを望んでいる」との説明が行われた。

金子SAC委員からは、日本証券アナリスト協会によるIASBの金融危機対応に関するアンケート結果の紹介が行われ、「財務諸表ユーザーは会計基準設定の独立性を守るために少なくともIASBに心理的サポートを提供する用意があることを理解して欲しい」とコメントされた。

2.金融商品会計基準の簡素化に関する投票 

Tweedie IASB議長から、今後の金融商品の評価方法について次のどれが良いかとの質問があった。

  1. すべての金融商品について公正価値評価
  2. 売却可能(AFS)及び満期保有目的を削除し、公正価値又は償却原価による混合属性モデル
    1. 区分は経営者の保有目的による(主観的規準)
    2. 区分は次のいずれかの客観的規準による
      1. 市場で取引されている(traded)場合、公正価値(例えば、国債はAFS又は満期保有目的に分類することは認められず、公正価値で測定される)で、減損の規定はない。その他は償却原価(減損の規定あり)。
      2. 契約で将来キャッシュ・フローが決められている場合(債券、融資)、償却原価で、その他は公正価値。

挙手によりSACメンバー個人の意見が確認されたところ、(1)の支持者はわずか2名(1名は米国の会計アナリスト、もう1名は同じく格付アナリスト)であり、(2)については、18名が(ⅰ)、14名が(ⅱ)を支持した。さらに、仮に(2)(ⅱ)を取った場合にはという質問には過半数(26名)がa.を支持した。

SAC会議参加者のコメント

  • 我が国における不良債権問題の教訓においては開示が重要であった。不良債権の定義を拡大させ、正確な開示に対して市場から信頼を得られたことが安定性回復につながった。IFRSはグローバルな基準となるために、今後はグローバル基準設定主体としての説明責任を果たす必要がある。日本もIFRS採用に向けての工程表案を公表したところであり、各国と手を携えて危機の克服に向けて歩んでいきたい。(金融庁)
  • アセット・バック証券のように不安定な証券に対する評価方法の適用の問題は、将来の審議にとって非常に重要であると考える。規制当局が何をしようとも、一般目的の財務諸表である限り、Dynamic provisioning(*4)の適用は大きな懸念である。第一に取り上げるべきなのは評価の問題であり、減損はその次である。最後に、金融安定化は会計基準の開発において考慮されなければならないが、数字を犠牲にしてまで重視するものではなく、数字はありのままでなければならない。(北米保険会社グループ)
  • アジェンダ・ペーパー5の質問に対しては、IASBの対応は少し遅く、もう少し積極的なコミュニケーションを主催できたであろうと考える。改善のためにはフィードバックと多くの情報が必要である。会計基準は金融危機の原因ではないと考えるが、いくらか寄与する面があるため、我々には関係なく規制当局の問題であるとするならば批判されることになる。我々は、貸倒費用の会計処理について2ステップアプローチを主張している。第一段階では、現行のフレームワークにおいて追加的な議論に携わるとともに、第二段階では、現行のフレームワークを修正・改善することに関与しなければならない。金融安定化及びDynamic provisioningに
  • ついて率直に議論して関係者にフィードバックする必要がある。(国際金融協会/UBS)
    昨年11月に当協会が行った会員アンケートによれば、結論は最初の3行(アナリストは時価評価を支持:危機対応の会計基準変更には警戒的)に明らかである。また、アンケート回答の趣旨に基づいてIASBの金融危機対応に関する3つの質問(「IASBの金融危機対応」のSACメンバーに対する質問参照)について回答したい。第1に対しては、適時はイエス、的確はノー。日本のアナリストは債券の保有目的変更を容認したIASBの姿勢は軟弱で、もっと強いIASBを見たかったと思っている。第2に対しては、答えはノー。IASBはデュープロセス(関係者の意見聴取)を無視し、アナリストはこれを嫌っている。第3は最も重要で面白い質問。私は昨年11月のARG会議に出席し事態を理解できたが、こうした背景情報はIASBのHPではほとんど伝えられなかった。しかし、もう少し率直に困難な状況を伝えることは可能だっただろう。財務諸表ユーザーは会計基準設定の独立性を守るためにIASBを支援する、少なくとも心理的サポートを提供する用意があることを理解して欲しい。(金子SAC委員)

Ⅴ.定款変更

IASC財団の定款見直しは2つのフェーズに分けて行われている。第1部(主要国の証券規制当局により構成されるモニタリング・ボードの創設とIASBボードメンバーの拡充)については、2008年7月に公開草案が公表され、2009年1月の評議員会にて決議が諮られた。

第2部(①IASC財団の目的、②IASC財団(IASB)のガバナンス、③評議員会の構成、責務と権限及び資金調達、④IASBのアジェンダ設定プロセス及びデュー・プロセス、⑤SACの構成、手続き及び権限)については、2008年12月に公開草案が公表されている(コメント期限は2009年3月31日)。

今回の会議では、定款見直しの第2部の論点について、SACメンバーに対して以下の質問が行われた(アジェンダ・ペーパー6)。

  1. 審議会は、IFRSの適用範囲を非営利団体や公共部門にまで広げることを検討すべきか。
  2. 基準開発において、原則主義のアプローチをとる旨を定款で明確に言及すべきか。
  3. IASBは、(緊急性の高い案件に対処するため)ファスト・トラック手続を公式に備えるべきか。
  4. 2つ以上の言語で文書を公表するような場合、IASBは、IFRSの翻訳にあたってより強力な役割を果たすべきか。

SACメンバーによる議論を受けて、Cherry SAC議長は、各質問について「(a)ほとんどのメンバーは、範囲の拡大に反対している。(b)会計基準は原則主義でなければならないが、これを定款に追加することが本当に前進となるのかには多くのメンバーは懐疑的である。(c)ファスト・トラックについては、最低限のデュー・プロセスにより、評議会に柔軟性が認められることになる。しかし、基準開発においては、すべての関係者がコメントするための合理的な機会を認める必要がある。(d)翻訳を行うこと自体はIASB及びIASC財団の役割ではないが、翻訳の品質管理について一定の役割を果たすべきである」と要約した。

議論の内容

その他、「モニタリング・ボードについて屋上屋を重ねるもの」(韓国基準設定主体)との批判があったことに対し、金融庁からは、「屋根ではなく、説明責任を果たすツール。将来の適用の広がりを考えれば、これでも十分ではなく、他にも多くの対応が必要。」と回答された。

SAC会議参加者のコメント

  • 定款の見直しは5年に1回。5年後には、多くの国でIFRSが使用され、何十億人の経済に影響を与えうる見通しであり、今回の定款の見直しは非常に重要である。世界の関係者によるIASCFやIASBの見方を劇的に変える必要がある。将来を想像しながら何が必要かを検討すべきである。(金融庁)
  • アジェンダ・ペーパー6の質問(b)~(d)についてコメントしたい。(b)「原則主義の基準」による基準開発には賛成だが、この文言を定款に書き込む案には反対。理由の第1は定款に書くには技術的すぎると思えるため。第2は定款に書かれると、将来、市場の要求に柔軟かつ適切に対応しない言い訳に用いられる懸念があるため。(c)緊急案件のための「ファスト・トラック」手続設定にも反対。濫用されて、何でもファスト・トラックになる懸念があるため。(d)日本では会計基準は一般に受け入れられている必要がある。このためには日本語でなくてはならず、翻訳は極めて重要な問題。ただし、ここにIASBが介入するのはコストの点で問題。なぜならば、世界中の百数十カ国に翻訳ニーズがありIASBの手に余る。翻訳は信頼できる地元のパートナー、例えば会計基準設定主体に権限委譲するべきである。(金子SAC委員)

  1. 008年12月2日のプレスリリースと添付資料である「金融危機と会計基準アンケート」集計結果「金融危機に対する会計基準の対応」(アンケート回答者向け解説資料)の英文(社団法人日本アナリスト協会ホームページ参照http://www.saa.or.jp/english/research/SAAJNEWSRELEASE081202.pdf
  2. 中間報告(案)は、企業会計審議会企画調査部会により取りまとめられ、金融庁ホームページで2009年2月4日よりパブリックコメントに付された(コメント期限は4月6日)。また、英文ホームページについては、http://www.fsa.go.jp/en/news/2009/20090213-3.html参照。
  3. 透明性と説明責任を強化するため、2009年3月末を期限として、①市場混乱時における、複雑で流動性のない商品の価格評価も考慮に入れた証券の価格評価ガイダンスの強化、②非連結特別目的会社の会計及び開示に関する脆弱性への対処、③金融安定の促進の観点から、透明性、説明責任及び国際会計基準設定主体と関係当局との適切な関係を確保するための当該基準設定主体のガバナンスの一層の強化等が提言されている。
  4. 貸付金の引当金の方法として、長期間の統計データを基礎として、引当金の計上額が経済状況の変動を受けにくい方法が提案されている。これは発生損失モデルを採用しているIAS第39号と相容れない考え方とされる。

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